君のいた夏
喧しい蝉の声が四方八方から降り注ぐ。天上から落下してきた陽光を反射するアスファルトはじりじりと炙るように不快で、犬飼澄晴は「あっちい」と、今日何度目かの不平を漏らした。
「あついねえ」
隣で答える鳩原未来も貼り付いた笑顔にげんなりとした疲れを滲ませながら、制服の胸元をぱたぱたと煽る。
「もう無理。おれ、今すぐクーラーの効いた室内に入るか川とかに入るかしないと死ぬ」
「アイスも食べたい」
「最強じゃん」
「ところでさ」
そう言って、鳩原が横断歩道の向こう側にあるコンビニを指差す。鳩原の指を辿るように緑のその建物を見て、そのあともう一度鳩原をみて。
目と目を合わせて頷いて、左右をしっかり確認をして。
押しボタン式の横断歩道を、押さないままに駆け出した。
「うっわもうこれ最強じゃん!」
「最高」
「最大幸福」
「なんかちがう」
河川敷につづく階段にふたり並んで座りながら、コンビニで買った棒アイスを咀嚼する。飲み下したソーダ味のかたまりが喉を伝って、胃に落ちていくまでがありありとわかる冷たさが心地良い。
蒸し焼きにするようなアスファルトの道とちがって、川沿いの風は爽やかだ。耳に触れる水音が誘うので、アイスを手早く噛み砕くと靴下を投げ捨てて、スラックスの裾を最大限に折って川へと駆け出す。
「鳩原ちゃん、はやくおいでよ!」
後ろを向いて大きく手を伸ばして見せてから、前を向いて勢いよく飛び込んだ。ばしゃ、とあがった水飛沫はシャツの裾まで飛んできて、程良く冷たい水の感触。
仕方ないなあという顔で微笑んだ鳩原の腕を引くと、思った以上にバランスを崩した鳩原がつんのめって川へと落ちた。大笑いしながら指差すと、珍しく目の据わった鳩原に思いきり水を浴びせられた。
終わることなどないと思っていた、とある日々の話だ。
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