君という名の記憶の亡霊


 鳩原未来って誰だっけ。そんなクラスメイトの言葉に「しらない」と返した嘘はひどく白々しく、そして遠く耳に響いた。

 二宮隊はなかったことになった。だれもかれもがわすれてしまった。わすれられて、あの日々はもうなくなってしまった。跡形もなく。日々を過ごした本人たちでさえ、もうにおいすらもかんじとれないほどに。
 忘れたいとだれよりも強く願っていた犬飼だけを、遠い日々のただなかにおいて。

 おぼえている。なにもかも。いや、何もかもは言い過ぎで、ただ犬飼の知る鳩原について、忘れたことなんてひとつもなかった。彼女が喜んだ雨の日にけぶる夜の道、土と緑の雨の匂い、甘すぎない芋けんぴ、梨ののど飴。一歩踏み出すごとに雨の沁みたスニーカーから滲む水に似た、なんてことない記憶の漏出。
 己の記憶の中にだけ存在する彼女と、ふたりぼっちで生きているような気がした。


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