侑
「……」「な、なに」先程まで隣にいた人がトイレに行くと立ってすぐにそこへと座った侑くん。顔を見るに酔っぱらっていることが窺えるが、何か話しかけてくるわけでもなくじっとこちらを見ている。いやこれは睨まれているのだろうか。「……彼氏おるんか」開口一発目がそれかい。「いや、いないけど」「好きな奴は」「特には」「なら俺を付き合うてや」「はぁ……え!?」思わず大きい声が出てしまった。反対側に座ってる友達がどうしたの、なんて覗き込む。何でもないと押し戻し、改めて侑くんの方へ向き直ればその真剣な顔はどうやら冗談ではなさそうだ。「あの、何で急に私?」「急にやない」急にじゃないと言われても心当たりなんて全くなかった。確かにクラスの中で話す方ではあったけれど、そんなきっかけあったっけ……やばい、思い出せない。「心当たりないんやろ」「う……ごめん」「昔のことはもうええから。……これからそういう対象で俺を見てもらうから覚悟しや」顔を近付けそう口にする侑くんに心臓が跳ねた。
孤爪
「久しぶりだね」「そうだね」人の移動が始まると、端っこである私の隣に腰をおろしたのはあの有名になった孤爪くんだ。「配信優先でこういう場には来ないと思ってた」「おれを何だと思ってるの……でもまぁ、見てくれてるんだ」「好きなゲームはね」「昨日のは好きそうだよね」「めっちゃ好き」「ふっ、やったかいがある」そう言って小さく笑みをこぼす彼にどきりとする。学生の頃から密かに好意を抱いていたが伝える勇気はなくここまで来て、正直心臓がもつかどうか危うい。でもそれを今伝えるにはあまりにも存在が遠くなりすぎた。「なんかネットで見ると別世界の人って感じがしたよ」……そんな下手な防衛線を張ってみたりして。「変なの。おれはおれだけど」「そうだね、今は私の知ってる孤爪くんだ」「うん」彼は少しの間目を逸らし、何かを考えるような仕草をしてから改めてこちらへと向き直る。「じゃあおれの一番近い人になってほしいって言ったらなってくれる?」「え?」「今日はきみに会うために参加したんだけど」そう目を細めて笑う彼の言葉があまりにも自分に都合がよすぎて、夢ではないかとさえ思えた。
及川
『及川くん来ないね』「うん、来れなくなったんじゃないかな」同窓会の案内があった時、突然及川から電話が来た。それがまさかの告白で言葉にならなかったのを覚えている。「返事は同窓会で会った時に教えて欲しい」そう言われ今日を迎えたのに。『じゃあここで一次会は終わりです』……タイムリミットだ。海外にいるから仕方ないと自分に言い聞かせ入口へと向かう。ドアに手をかけようとすれば、それと同時にガラリと開いた。「わ……及川?」「うわびっくりした!え、もう解散?」「うん」走ってきたのかその額にはじんわりと汗が滲んでいる。相変わらずの高い身長に、少し短くなった髪。でも話し方は私もよく知っている及川だった。「ごめんこの子連れてくね」「え」『ごゆっくり』及川の大きな手で手首を掴まれそのままお店を後にした。* * *「ここなら静かかな。……ごめん、返事も聞かず連れ出して」「大丈夫」「遅くなってごめ」「ほんとに!……今日来ないかと思った」「……うん、ごめんね」彼は酷く優しい声色で私の髪を柔らかく梳く。「返事、聞かせてくれる?」「そんなの決まってるじゃん……」震える声で及川の胸に飛び込めば、背中に手を回し抱きとめてくれた。
国見
「国見くん更にかっこよくなってるね!」「そりゃどーも」相変わらずツンとしているけどそこもいい。『口が悪いのに優しいところも好き。だから付き合って!』『意味わかんない』なんてずっとやり取りしていたものだから、真剣には取り合ってもらえなかった。好きな気持ちは本当だけど、ノリのせいで真面目に伝える方法がわからなくなりなぁなぁのまま卒業した。その後は特に連絡を取るような間柄でもなかったので、今日が久しぶりの再会。髪型も大人っぽくなっていて、お酒を飲む姿もかっこよすぎる。期間が空いてもやっぱり好きだなぁなんて再確認した。今日来てよかった、なんかもう心が満たされたよ。「相変わらず塩対応なところも好き……ってごめん、彼女いたりする?」「いない」「よかった、いたらほんと失礼だからねこれ」「ふはっ、あんたでもそういうこと気にするんだ」待って、国見くんが笑った。いや今すごく失礼なこと言われた気がしたけど、そんなの気にならないくらい可愛い。「国見くんの笑顔、めっちゃささる。好き」「学生の頃から変わんないんだな」「うん、そうかも」「じゃあさ、本当に彼女になってみる?」「……へ」予想を遥かに超えた国見くんの発言に、暫く思考が停止した。