治
『ちょっと飲み直そ言うてるだけやん』「ほんまやめてもらえますか……」『そこのカフェでもええから』「行かん言うてますよね」どうやらこの人は街コンの会場を出て追いかけて来ていたらしい。進展することはない片想いの他に出会いがないからって、こんなとこ来るんじゃなかったと後悔しても遅い。「ちょっと、この子嫌がってはりますよね?」「……宮さん」『こちとら街コンでの新しい出会いを深めようとしとんのや』「でも彼女はそう思ってなさそうやけど」拒む気持ちが伝わらないため、申し訳ないと思ったが宮さんの後ろに隠れた。「彼女は同意しとらんみたいやので、そこの警察官呼んでもええですけど」そう言われ言葉に詰まった名も知らない彼はこの場から立ち去った。「ごめんなさい、巻き込んでしもて」「いや、知っとる人絡まれとったら気になりますやん」「本当にありがとう」私が少なくとも週一でお世話になってるおにぎり宮の宮さん。進展することはない私の片想いの相手はこの人だ。ただのお店の人とお客さんという関係。「……あの、さっきの人の言葉」「え?」「街コンて」「……っわ、忘れてください」あいつ……立つ鳥跡を濁しすぎやろ。「いや、その、嘘つきました」「え?」「気になる女性が絡まれとったんで助けた、が正解です」「……っ」予想外の言葉に脳がフリーズする。「俺のこと、○○さんのこと、知ってもらいたいし知りたいのでよかったら教えてもらえますか?」進展する片想い、だった。
黒尾
「もう帰るんで」『出会い喫茶は女性は無料だから、ね?』「ほんと間に合ってるんで」『またまたぁ、街コン会場から出てくるの見たよ?』なんだよ出会い喫茶って、しかも女性無料って怪しすぎでしょ。「あれー?この子に何か用ですかオニイサン」すっと私とキャッチの前に現れたのは密かに想いを寄せていた彼だった。学生の頃はいい雰囲気では?と思ったものの何も進展がなくそのまま社会人になってしまい、久しぶりの再会が今というタイミングの悪さ。「……この人しつこい、助けて」「どうしてもっていうなら俺も行きますけど」「え、いや、失礼しました」黒尾くんの圧に耐えられなかったであろう彼はすぐにこの場を後にした。「会ったの久しぶりなのにありがとね、黒尾くん」「そりゃきみが目の前で絡まれてたらほっとけないでしょ」なんかもう、非の打ち所がないスマートさだ。「……で、何街コンて」「あ、聞いてた?誘われて行ってみただけなんだけど」「ふーん……」黒尾くんにはできれば聞かれたくなかった……。「で、いい男いた?」「いないね」「そっか」「……っ、な、に」黒尾くんの指先で寄せられる前髪に心臓の音が大きくなる。「きみにとっていい男になるから、俺で手を打ちませんか?」思いもよらない告白に頭が真っ白になった。
赤葦
『今日は楽しい時間をありがとうございました』「こちらこそ、ありがとうございました」『今度よかったら食事でも』「時間が合えばぜひ」当たり障りのない人と連絡先を交換して別れた。が、特に楽しくもなく、逆に気を遣って疲れたまである。好きな人はいるものの暫く進展はなく、時間が合う時一緒にご飯を食べに行ったり飲みに行くだけ。いい感じだと思っているのは私の勘違いなんだろうか。なんてモヤモヤしていたそんな時、友達から街コンの誘いがあり新しい出会いも気分転換になるのではと言われそれにのっかった。……結果的に不発だったけれど。「○○さん」「……赤葦くん?」突然後ろから声をかけられ、それがまさかの好きな人だった。思わぬことに心臓が駆け足で動く。「さっきの男性、お仕事とか?」「あ、ううん違うの。えと……街コンで会った人」そう言うとすっと目を逸らす彼。え、もしかして引かれた?「……○○さん」「なに?」「新しい出会い、とか探してるの?」「いや、友達に気分転換にって誘われて。気が合う人いたらラッキーくらいで行ってみたけど……」「けど?」「疲れただけだった」はは、と苦笑いすると彼は顎に手を当て、少し考えるような仕草をする。「……その対象に俺は入ってる?」「え」「異性と二人でご飯に行くのも、飲みに行くのも、きみだけなんだけど」それって、もしかして。距離を詰められ心臓の音が彼に聞こえてしまいそうだ。「ね、俺の気持ち本当に気付いてなかったの」勘違いではなかったようだ。
二口
来なきゃよかった、考えてたのと違ったなんて思ったら失礼だけど。作り笑顔をし続けることに疲れて逃亡してきた。『何事も経験!』なんてウッキウキで誘ってきた友達ですら笑顔が引きつっていたほどには合わなかった。話が途切れた隙にお手洗い行ってきますと会場を抜け出し、外のベンチに腰を下ろして一休み。疲れた、という感想しか出てこない。「あれ、○○じゃん」「……あ、二口だ。この間振り、どしたのこんなとこで」不意に話しかけられ、顔を上げると高校の同級生だった二口の姿。ちょうど先日の飲み会で再会して、学生のころ淡い恋心なんか抱いてたりしたのをその時思い出したばかりだ。だからと言ってどうもしないけれど。「俺はバレーの練習帰り。お前は?」「あー……友達と街コン来たけど疲れて逃亡中」たはは、と笑うと彼は眉を顰めこちらをじっと見る。「憐みの目はやめろ二口」「いや、そんな急いで結婚したいのかと思って」「そうでもない。友達が何事も経験とかいうから」「行ってみたけどまともな奴いなかったってとこだろ」図星すぎてぐうの音も出ない。「そんな博打しなくてもよくね?」「まぁ、いい人がいたらラッキーくらいだったけど、疲れただけだしもう行かないかな」「……ならさ」そう言って私のすぐ隣に彼は腰をおろした。途端に近くなる距離に心臓が跳ねた。「俺でいいじゃん」「……え?」「俺よりいい男なんていないと思うけど?」意地悪く笑う彼にどきりとしたのは内緒だ。