影山
やばい。思ったより部活の時間が延びて試合に来るのが遅くなってしまった。慌ててこの前聞いていた応援席へ走ったが、もうチェンジコートをして彼らは向こう側だ。コートを覗けば丁度飛雄がサーブを打つために構えようとしている。どうしよう、気付いてくれるかなと烏野のベンチへ向けて大きく手を振ると菅さんと目が合った。親指を立てて笑う菅さんを見て、前に教えてもらった合図に合わせすぅっと息を吸い烏野のベンチの人と一緒にあのポーズを構えた。「―……飛雄くん、ナイッサー!」
* * *
視界の端に手を振る影山の彼女が映り、気付いたよと親指を立てて掛け声の合図を送った。「やっと来たか」「どうしたんですか菅さん」「ん?影山の力強い応援が来たんだよ」「……?」
* * *
……1本、目の前のボールに集中する。「飛雄くん、ナイッサー!」「っ!?」いつもの掛け声に、聞こえる筈のない声が混ざって思わず影山は顔を上げた。声がした方へ視線を向ければ、烏野のサーブ時の応援と同じポーズをしている彼女に驚いて目を見開く。一瞬動揺するがすぐに集中力を取り戻し、見事サービスエースを取った。表情には一切出ないが、彼女が応援に来てくれて心底嬉しい。
孤爪
部活が早めに終わり初めて見る彼の試合に胸を弾ませ、制服のまま急いで会場に来た。よかった、まだ試合は始まってない。辺りを見回し、音駒の応援らしき人たちの近くに鞄を置いて待機している研磨に手を振ってみた。でも来ることは秘密にしていたのでこちらには気付かない。まあいっか、と椅子に座ろうとすれば「もしかして音駒の応援ですか?」とツインテールの可愛い制服の子から話しかけられた。「そうです、初めて来て……」と言うとその子は「音駒の方に手を振ってたので、知り合いの応援かなって。こっちで一緒に応援しましょ!」と嬉しそうに笑った。応援席の一番前まで手を引かれ行くと、モデルみたいな美しいお姉様もいる。そして音駒の応援に紛れて研磨に届くように声を送った。「研磨ー!頑張ってね!」
* * *
「あれ、お前の妹誰かに話しかけてねぇ?」「……すね、女子高の制服じゃないっすか?」「あ、でもほら音駒の応援席に来たから誰かの知り合いだろ」ざわついてはいるが、応援席は人が多いし誰が来ようが研磨は特に興味もないので見ない。そこに「研磨ー!頑張ってね!」と間違えようのない聞き慣れた声が耳に入る。一気に研磨へ注がれる視線を振り切り、慌てて応援席を見ると何故かこちらに手を振ってる彼女の姿があった。この状況でも振り返さないわけにいかず、研磨が小さく手を振ると嬉しそうに彼女は笑う。……その反面、研磨に注がれる視線は痛い。「研磨くぅん?誰かなぁあの女性は?」「とら煩い」「あぁん?」「……カノジョ」それを聞いた瞬間、ばたりと山本の倒れる音がした。
侑
自分の部活が終わって制服のまま急いで駆けつけた○○。応援に来ることを侑には秘密にしていた。小さい大会とはいえど、応援に来ている人が多くしかも可愛い子が沢山いてちょっと複雑な気持ちになる。でも今日は皆の応援に来たんだしと侑たちのすぐ上、稲荷崎高校の人の近くに座り鞄からうちわを出して侑に見えるように持った。「侑ーみんなー気張りや!」
* * *
自分のすぐ上から○○の声が聞こえてきた。「…?サム、○○の声聞こえた気したけど気のせ…「「ぶふっ」」声の方へ目を向け、治と二人で思わず噴き出した。○○が"あつむ"と"おさむ"と書いたうちわを一人で二枚持っていたせいで。初めての応援なのにツッコミどころが多すぎる○○に侑も混乱する。「なん…っなんでお前の分まであるんや!俺の彼女やぞ!」「知らんわアホ」「うちわ二枚しか持てへんけど、みんな応援しとるで!チームやからな!」「だったら俺の名前と稲荷崎にしとけや」「…せやな、でも稲荷崎画数多いから無理や」むっとしながらも、貴重な制服姿は試合前にしっかりとガン見する侑。
治
私服に着替える間もなく駆け付けた○○。もうすぐで試合が始まりそうな雰囲気なのに、出る場所を間違い稲荷崎とは反対側の応援席へ。でも応援に来たことを試合前に気付いて欲しくて、すぅっと息を吸いこむ。「おさむーがんばれー!」驚いた顔で○○の方を見た治に、手を大きく振る。「……?お腹が何したんやろ。うんこかな」お腹をトントンと叩いてる治に疑問を持ちつつ、頑張れの意味でガッツポーズを送った○○。
* * *
「おさむーがんばれー!」アップ前の準備をしていたところに響いた聞きなれた声。「サム、○○来とるやん。しかも制服」「…っくりしたわ、部活と被ったから来る言うてなかったけど」治が○○の方を見ると、ブンブンと大きく手を振る。「ちょ、アホか腹見えてんで。なんであんな制服丈短いんや。女子高やからか」「ほんまやなー」「おいツム見んな」慌ててお腹をトントンして合図を送るが全く気付いていない。謎にガッツポーズをする○○に試合前から頭を抱える治。