角名
部活で少し打ち合わせが入ったから待っててと言われ、教室で本を読みながら待つことにした。もともと部活がない日のため、いつもある程度人がいる教室も今日は少しがらんとしていて静かだ。丁度気になっているところで止まっていたから今のうちにといそいそと本を開く。 * 「……え、っわ!」読み始めていくらか時間が経ったころ、突然視界がぐるりと上を向いた。……いや、向けられたと言ったほうが正しいだろう。そしておでこにリップ音と、私の視界には逆さまになった倫太郎の顔。「隙あり」なんて笑っている彼を見て我に返った。「り、んたろ……もー普通に声かけてよ!」「やーなんか夢中だったからつい」心臓が駆け足で動くと同時に先程のことを思い出してじわりと顔に熱が集まる。「はーびっくりした」「じゃあびっくりさせなければもう一回いい?」「……なにそれ」「否定しないなら肯定として受け取るよ」そう言って倫太郎は私の横にしゃがみ、今度は唇を重ねた。
孤爪
『さっきの古典寝そうだった』「わかる、体育の後は余計眠くなるよね」次は移動教室のため友達と二階へとおりる。二年生の教室があるから研磨がいたら手を振りたいな。……まあきっとスルーされるだろうからしないけど。話しながら階段をおりれば少し先に研磨の姿が見えた。話しかけたいけどきっと塩対応だろうな……やめておこう。そう思いながら彼の隣を通り抜ければ、手を掴まれくっと後ろへと引っ張られた。「え」『仕方ないなあ先行ってるよ』そんなこと思っていないであろうにやけ顔で友達は行ってしまった。研磨は階段の影に隠れるように私を壁側に立たせ、彼の大きな手が頬へと添えられる。さらりと私の前髪を寄せ近付く距離に思わず目を瞑った。その瞬間おでこに当たる柔らかいものに驚いて彼を見上げれば「俺だって嫉妬しないわけじゃないから。……安易に他の人に触らせないで」と研磨は少しむっとしていた。何のことだ、と記憶を辿れば体育の時間ゴミか虫かわからず男子に髪を払ってもらったことを思い出した。結果的にはゴミだったけど。でもまさか、それが原因でこんなレアな研磨が見れるなんて。「……研磨可愛い!」そう言って抱き付けば「かわいくないし」なんて口を尖らせていた。
リエーフ
身長が小さいから届かないーなんてあざといと思われるようなことはしたくない。できるだけ高いところにあるものも道具を使って取れる範囲なら自分でなんとかする。今回もいけると思ったのに。「あと一センチくらい……」使いたい参考資料がよりによって一番高いところにあって、踏み台に乗ってもあと僅かに届かない。あいにく知ってる人も図書室には見当たらない。「もーさいあく……っ」「この本?」横から声がしていとも簡単にその本は私の手に渡される。「え?あ、ありがとうリエーフ」「どういたしまして。俺のこと呼んでくれればいいのに」「いけると思って」「ふーん」本棚に手をついた彼が不意に近付いて頬に触れた柔らかな感触に驚いて後ずさった。「わっ」「あぶな……っセーフ」「ご、ごめん。いきなりだからびっくりして」踏み台から落ちそうなところを彼に支えられ、尚も近い距離にじわじわと熱をもつ。「照れてる?かわいいな」「だってリエーフがいきなりするから」「近いなーと思ったらしたくなって。もっかいしていい?」なんて笑う彼を拒否できるはずがなかった。
及川
「もーらい」傘で隠す