思わせぶりなきみに片想い?

白布
ひときわ静かな空き教室の端っこでひとりのんびりと勉強していた。そこへ教室のドアが開き入ってきたのは片想い中である白布くんだった。「いたんだ。一緒でもいい?」「あ、うん。どうぞ」離れたところに座るかと思いきや、私の斜め前に腰をおろしノートを開くものだから一気に胸の音がうるさくなる。それを無視し、なんとか平静を装って自分のノートへと視線を落とした。 * ……わからない、どう解くんだっけ。「なに悩んでるの」「え、あ、ここなんだけど」声をかけられるほど難しい顔をしていたのだろうかと思うと少し恥ずかしい。「これは……話しにくいから隣に行くよ」白布くんは今座っていたところから立ち上がり、私の隣へと席を移す。想像よりも近い距離に横を向くことができず、教科書をなぞる彼のきれいな指先を追った。「それでこの数式が……ちょっとごめん」白布くんはそう口にすると、私の顔の横に流れている髪をそっと耳にかける。「〜〜っ!?」ふわりと香ったシトラスとその指先に驚き椅子がガタリと音を立てた。「髪、邪魔かなと思って」「なっ、白布くん……その、みんなにそんなことしたら」「するわけないでしょ」「えっ、それはそれで勘違いするから私で遊ばないでほしく……」きっと、今は誤魔化しようのないくらい真っ赤になってるはずだから。「勘違いしたらいいんじゃない」「え」「……察し悪すぎ」そう言って視線を逸らした彼の頬がほんのりと赤いのは、多分気のせいじゃない。



木葉
今は学校行事の打ち上げでカラオケに来ている。歌うのは勇気がいるため、目の前にある食べ物を摘まみながら友達と話したり合いの手に乗っかったりしていた。なによりこうして紛れていればこっそり木葉くんを眺めていてもバレない。歌は上手いし盛り上げるのも上手いし、よく木兎くんをわっしょいしている賜物だろうか。まあそんなこと関係なくかっこいいんですけど。『ちょっとトイレ行ってくるね』「はーい」友達が戻ってくるまで暇になってしまったのでスマホを見ていると、少しして誰かが隣に座り「ねえ」と口にした。「ん〜?」なんて横へと視線を移せば思わぬ人物に「で、え、木葉くん……」なんて変な声がもれる。「スマホ見てないでさ、一緒に歌わない? これとか」画面に映っているのは夏定番である花火を題材にしたデュエット曲だった。きっとそんな意図はないのに都合の良いように考えてしまう自分がいる。「や、でも木葉くんみたいに上手くないし」「別そうでもないよ。こんなガヤガヤしてて気にする奴いないし、な?」そう言ってこちらを覗き込む彼にじわりと顔が熱くなる。……ここが薄暗くてよかった。「わかった、わかったから……ちょっと近すぎ」「わざとだし」「え」「……きみも俺のこと好きだと思ってたんだけど、違った?」瞬間、ドッと心臓が大きく脈打つのがわかる。「俺は、好きだけど」そう告げられた言葉を理解するまで、あと数秒。




孤爪
『ねぇ、黒尾先輩かっこいい〜』「そうね」なんて相槌を打ちながら、私が見ているのは孤爪くんだった。友達の付き添いなんて体のいい理由を並べ、バイトのない日はこうしてバレー部の練習を見に来ていた。彼とはあるゲームをきっかけに少しずつ話すようになり、私が一方的に好意を寄せているだけなんだけど。休憩の声と共に部員が散らばり、孤爪くんは玄関の方へと姿を消してしまった。残念。友達は差し入れを渡すと先輩の方へ走っていったので、シャトルドアのところにある段差へ腰をおろしスマホを手に取った。「わっ」「……っ!!」「そんなに驚くと思わなかった」全然大きな声とかじゃなかったけど、話しかけられる想定をしていなければ誰だって驚く。「ごめん?」孤爪くんは私の正面にしゃがんで小首を傾げた。私よりずっと長身でかっこいい彼の可愛い仕草に胸を押さえたくなったが、変な人と思われたくないためぐっと我慢する。「こ、孤爪くんは休憩しなくて大丈夫?」「今、してる」「飲み物飲んだ?」「飲んだ」話すとわかっていたらもう少し話題を考えていたのに、不意打ちで何も出てこない。「えっと……何か用あったりした?」「きみと話したいから来た、じゃ理由にならない?」彼のその言葉にフリーズする。「そ、それってどういう……」そう言いかければあっという間に集合の声がかかり、彼はすぐに立ち上がった。「どういう意味か、次の休憩まで考えてみてよ」そう言い残した孤爪くんの唇は薄く孤を描いていて。あぁあれは確信犯だと、時間差で顔に熱が集まった。



及川
「ちょっと髪切ったよね?」「うん、短めボブにしてみた」「超似合ってる、かわいい」そんな朝のやり取りを思い出した。例えば髪型だとか、体調だとか、小物だとか。及川くんは細かいところまでよく気が付いてくれる。でもきっとそれは彼の中では特別の範疇ではなくて。わかっているけどまんまと好きになってしまったのは私がちょろいだけ。みんなの共通認識の通り彼はまあモテる。同じクラスになったのをきっかけに及川くんの人となりを知ったのだけど、その意味がわかった。普段の軽い部分と、試合中に見せる真剣な顔のギャップに落ちた人が多いのだろう。もれなく私もそのうちの一人ではあるけれど。そんなことを考えながら教室の外へと視線を移せば、女子と楽しそうに話している彼の姿があった。笑っているその横顔はかっこよくて、目が離せない。……なんて眺めていたら振り向いた及川くんとぱちりと視線が合う。小さく手を振ったと思ったら、こちらへと近づいてきて私の机で手を組みそこへ顎を乗せた。なんてあざといポーズなんだ。「なになに〜及川さんがかっこよすぎて見とれちゃった?」「いや、そんなことは……」あるけどさ、言えるわけない。そんな私を他所に「ないの!?」なんて彼は口を尖らせた。「なんだ残念。きみの熱烈な視線を感じたと思ったんだけど」「な、え?」「あはは、動揺してる」見とれていたのがバレていたと、焦る私を見て及川くんは目を細めて小さく呟いた。「……そういうところがいいんだよね」なんて含みのある言葉に、心臓をきゅっと掴まれた。