及川
予定のない休み前、久しぶりに電話で聞く徹の声。『仕事は落ち着いた?』「うん、ようやく」忙しければあっという間に時間は過ぎるけれど、落ち着いている今いつも以上に彼が恋しくなる。普段我慢している上に声を聞いたから尚更。「……とーる」『どうしたの?』「なんか、会いたくなった」『それは俺も』「徹に触れたいし、抱き締めてほしいし、キスもしたいし……」『他には?』その声色から電話の向こうで意地の悪い顔で笑っているのが容易に想像できる。でも言ったところでそれは叶わない。「……したい、な」『今日は素直じゃん』「別に、どうせ会えないし」『ごめんちょっと一回切るね』そう言うと唐突に電話が切れ、無機質な音が耳に響く。どうせとか言ったから面倒くさい奴って思われたのかもと少しの不安が過る。折り返しがないまま十五分ほど経った頃、不意に鳴ったのはインターフォンの方だった。「こんな時間に誰……っ」画面を覗き、私はすぐ玄関に向かった。急いでドアを開ければこちらへ足を踏み入れる彼。「やっほーさっき振り」「徹、なん」「サプライズで日本に来たら、誰かさんが素直に会いたいえっちもしたいって言ってくれたし?」「……っばか」「ふふ、なんとでも」彼の腕の中にすっぽりと収まれば、鼻腔をくすぐる彼の香り。「言い出したのはおまえだからね」そう口角を上げる彼を直視できず、胸に顔を埋めた。
孤爪
彼の配信がそろそろ終わりそうだなんて、画面とにらめっこをしている。どうしてかと聞かれれば、無性にそういう気分になってしまったからだ。普段はお互い何となく雰囲気に呑まれるか、研磨の方から寄ってくるかのどちらかで。私からシラフの時に誘ったことなんてもしかしたらないに等しいかもしれない。研磨の配信が終わるまでどう伝えるか考えていたけれど、一向に思いつかない。配信が終わってそのまますぐ寝てしまうことも少なくはないから、その前になんとか言わなければ。そう思いながら配信を見ていたらもうスパチャを読んでいる。『じゃあまた次の配信で』もう少し考える時間を……なんて願いも届かず配信は切れた。もうなるようになれと研磨の配信部屋にノックして入る。「……研磨?」「珍しいね、どうしたの」研磨はゲーミングチェアをくるりと回転させこちらを向いた。その彼の腿へと跨るように座り、ヘッドフォンを外して啄むように唇を重ねる。たったそれだけなのに、あまりにも恥ずかしくて唇を離した後は研磨を抱き締め首筋に顔を埋めた。「ねぇ、何かあっ」「し、したくて、誘いに来た……」羞恥心から今にも消え入りそうな声で呟けば静まり返るその空気。だめだったかと肩を落とした直後、視界がぐらりと揺れた。「え、なに」「なにって、誘ったのはそっちでしょ」ふわりと宙に浮く感覚、研磨は私を抱いたまま立ち上がった。どこにそんな力がと困惑する私に彼は続ける。「おれシャワーまだだし、お風呂場でするのもいいよね」そう楽しそうな声色で呟いた。
昼神
ショートパンツの部屋着に、上のパーカーのチャックは谷間が見えるくらいまで下げた。彼に色仕掛けが通じるとも思えないし、なんなら鼻で笑われるかもしれない。けど、さり気なく誘うにはこれしかないと思い立った。正面から「えっちしよう!」なんて言える性格でもない。でも今日は彼としたい、そんな気分だったから。部屋を出て彼のいるリビングへと行き、ソファーで本を読む幸郎の隣に座る。軽くもたれかかるも反応はなし。ここまではよかったけどどう声をかけようか考えていなかった。「ねぇ幸郎」「んー?」聞いてるのか聞いていないのかわからない声で本を見たまま返事をする彼。こっちを見ないと気づいてもらえないのに。少しむすっとしながら彼の腕へ体を寄せる「なに、甘えん坊だね」そう言って私の頭を撫でるも相変わらずその視線は本へと向けたまま。「そんなにその本面白いの」「んーまぁまぁかな」……だったらこっち見てよ!という言葉を飲み込み耳元で彼の名前を呼ぶ。「どうし……」ようやくこちらを見た幸郎と視線が絡み合う。「……なーに」彼は本を閉じてテーブルに置き、私の髪を一束掬って口角を上げた。そうだ、幸郎はそういう人だ。毛先を指でくるくる弄び、言葉に詰まる私を楽しそうに眺めている。「はっきり言わないとわからないなぁ?」そう意地の悪い笑みを浮かべる彼の胸に頭突きをし、そのまま頭を預けた。「……したい、です」「なにを?」「……えっち、したい……です」「よく言えました」幸郎の手が私の頬を包み、柔らかく唇が重なった。
影山
「じゃあ先に寝室行ってるね」「おう、すぐ行く」「わかった」今日はそそくさとリビングを後にした。どうしてかと言えば、明日は飛雄のオフ日で私も休み。……今日こそえっちしたい。というわけで先に寝室に行って待っていることにした。いつもは先に寝室に行ったとしても電気を明々と点けて待っているが、今日は常夜灯にセット。前のボタンは半分ほど外してからベッドに入った。こんなことをして待つのは初めてで、心臓がどくどくと大きな音を立てている。どんな反応するんだろう、拒否されたらどうしよう。準備してからそんな不安や恥ずかしさに駆られる。そわそわする私をよそにガチャリとドアノブが動き、彼が寝室へと足を踏み入れる。「珍しいな、今日はオレンジの電気で寝るのか?」「ううん、違うよ」「?そうなのか」なんの疑いもなく飛雄が布団を捲れば、私の胸元が目に入ったようでぴたりと固まった。「……ボタン、外れてんぞ」「わ、わざとだし」「は?なん……っ」少しばかり動揺が見える彼の腕を引っ張り、手の平を胸の膨らみへと当てる。「な、お前っ」「なんでここまでしてるのに気づかないのバカ!」本当はここまでする予定じゃなかったのに、しぬほど恥ずかしい。「あー、っざけんな」「え」ガシガシと頭を掻いたかと思えば、私に覆い被さるように跨る飛雄。その頬は分かりやすく赤に染まっていた。「誘ったのはお前だからな、覚悟しろコラァ」「ふ、ふはっ、なにそれ……そんなの望むところ……っ」そう言い終わる前に、噛みつくようなキスが落ちてきた。