オタク女子と侑の話12

「だってツムのことめっちゃ好きやん。なんか悩む必要ある?」
「いや、こんなオタクが恋人として侑くんの隣に並ぶなんて烏滸がましいというか……」
「今更なに言うてるん、ツムがええ言うたらええやろ。まぁ逆にあんなんと並んで歩きたたない気持ちはわかんねんけど」
「そんな、それはない」
「ならもう答えは決まりやな」

食い気味に否定した私を見て治くんは笑みをこぼした。ちょっと恥ずかしい。
めっちゃ好きやん、というその言葉を否定することはできなかった。自分が彼に似合うのかどうかは別にして、好きだということを自覚してしまったから誤魔化しようもない。

「言うとくけど、あんなに人のこと考えるツム見たの初めてやからな」
「え?」
「ツムに『お前嫌われとる』言うても『で?』で済ますくらい他人はどうでもええと思ってたこともあったんやからな」
「め……メンタルどうなってんの」
「せやろ。でもそんなツムの一面見たことある?」
「……ないかも。逆に私に合わせてくれるから、申し訳ないと思うことはある」
「そんなん俺からしたらツム頭でも打ったんか!って思うくらい一大事やもん」

確かに、元々そうなのであれば治くんの言うことも頷ける。ただそんな侑くんを見たことがないため、上手く想像ができない。
イケメンだから冷たくても見た目はかっこいいだろうなぁ。と、妄想力を総動員している私の横で治くんは噴き出し「あんたにはそんな姿見られたないってことやろ」と笑っていた。
そして「さっき言っとった不安も好きも全部そのままぶつけたらええ」と、そう励ましてくれる。

「ありがとね、治くん」
「ほんまにあいつ毎日毎日苔でも生えるんちゃうかってくらい辛気臭い顔してんねん」
「ふ……っ、ご、ごめん笑うところじゃないのに」
「でももう苔生えとるかもしれん。やから、あそこ」
「……え」
「早よツムの苔とってきてや」
「……〇〇ちゃん」

駅に着いて、治くんが指をさしたその先。
そこにいたのは私の脳内にこびりついて離れない彼の姿だった。治くんの声を聞いて物陰からおずおずと出て来たのか、いつもの元気はないように思える。
トン、と治くんから背中を押され侑くんの方へ一歩踏み出した。治くんは小声でよろしくな、と言いながら手をひらりと振って踵を返す。
そして心の準備が出来ないまま、今この場に私と侑くんの二人きりになってしまった。

どうしよう、まだどう伝えるか何も考えてなかったのに。あそこまで話してくれたなら教えてくれたっていいじゃんか。ちらりと後ろを見れば、振り向くことなく遠ざかる治くんの姿。

私に一体どうしろと。考える暇もなく二人きりにさせられ、どう切り出したらいいのだろう。

「……とりあえず、そこに座らん?」
「あ、うん、そうだね」

悩んでいると先に口を開いたのは侑くんの方で。彼に促され駅の構内にある椅子に並んで腰をかけた。
あれからそんなに時間は経っていないのに、顔を合わせて話すのはなんだか久しぶりのように感じた。

座るところまではよかったが、お互い口を開けずにいる。隣を覗くと、侑くんもこの先はどう話したらいいのか考えあぐねているように見えた。
考えがまとまらないのは私も同じだが、これ以上沈黙に堪えられないと先に口を開いた。