オタク女子と侑の話10

「あんな、俺〇〇ちゃんのこと好きや」
「……え」
「付き合うて欲しい方の、好き」

そう彼の口から紡がれた言葉は、じんと耳の奥に響いて。私はすぐに答えることができなかった。それよりも今何を言われたのか、どういう意味なのか理解するだけでも脳がパンクしそう。

「え……と、ちょっと理解が」
「俺のかっこええとこ見てもらったら、告白するって決めててん」
「や、あの、だから……」
「好きやから付き合うて、彼女になってほしい」

自分へと向けられる好意にどうしたらいいのかわからない。ゲームだったら選択肢が出てくるけれど、これは現実だから。答えかねている間も、彼の視線は一直線に私へ注がれる。待ちきれず「あかん?」なんて小首をかしげて言うものだから、大型犬みたいなイケメンめ……!と心の中でつっこんだ。

じわじわと熱が侵食し焦る一方で、二次元は好きだけど三次元では免疫がなく正直なんと言えばいいのか。本当に自分でいいのか、次々と湧き出る気持ちを上手く言葉にできない。

「あつむ、くん」
「ん?」

期待の眼差しを向けられることに耐え切れず立ち上がる。今の私を漫画で表現すれば、目が回っているような状態だろう。混乱している私には、どう足掻いても今ここで冷静に考え答えることができない。

「ごめん」
「……え、あかんてこと?」
「違……っ、少し考える時間を、ください」
「少しって……」
「また連絡するね」

侑くんの言葉を遮り、その場から逃げるように帰路へついた。

帰宅してからも頭が回らず、ご飯もお風呂も済ませたがいまいち記憶がはっきりしない。あきくんに会いに行っても集中できなくて、今日は最低限のデイリーだけこなし断念した。
時間が経てば経つほど、告白してくれた侑くんに最低なことをしてしまったと罪悪感が募る。狼狽えていたとはいえ、もう少しマシな立ち去り方があっただろうにと。ぼんやりと天井を眺めるも、頭を過るのは彼のことばかり。

『付き合うて欲しい方の、好き』

耳に残るその声と表情を思い出し、恥ずかしさからひっくり返って枕に顔を埋める。
正直なところ侑くんがそういう意味で好意を抱いてくれていたことが、驚いた反面すごく嬉しかった。なんとなく侑くんのことが好きかもしれないと心の隅で思っていたけれど、自惚れだったら恥ずかしいと今の今まで気付かない振りをして。
そしていざ自覚をすればするほど、恋人として自分が彼に釣り合うとは到底思えなかった。

沢山の人に人気があって有名な、強豪のバレーボールチームにいる侑くん。かたやただのオタクでこれといった特技もない自分。
今日応援しに来ていた可愛いファンの子たちを目の当たりにし、自分よりもっと理解のある相応しい人がいるのではないだろうか。侑くんが頑張ってきた姿をずっと見て来た人の方がいいのではないだろうかと、そう考えてしまう。

……それなのに、侑くんが他の女の子と付き合うのを見たくはないという矛盾した感情が思考の邪魔をする。恐らく今日感じた複雑な気持ちは他の何物でもない、嫉妬。私の知らない侑くんをあの子たちは沢山知っていて羨ましいという。
私では侑くんに釣り合わないと思う一方で、他の子と付き合うのは嫌だなんて自分勝手にも程がある。

「……全然気持ちの整理がつかない」

今週もまたバイト先に侑くんが来るかもしれない。それまでには答えを出さないとなんて、焦るばかりでこの夜考えがまとまることはなかった。