オタク女子と侑の話8

「こっちこっち」
「ご、ごめん、走って来たんだけど…はぁ、体力が…」
「一緒に体力づくりでもするか?」
「だが断る」
「なんでやねん!」

急いで階段を下りたものの、広い体育館のため階段も長いし廊下も広い。若干の息切れをおこし、肩を上下に動かし新しい空気を取り込む。
侑くんはユニフォームにジャージを羽織っていて、馴染みのある姿になっていた。

「侑くんも治くんも、チームの人もみんなかっこよかったね」
「そこは俺だけでええやろ」
「えーなんかぐいんってスパイク打つ人もすごかった」
「角名やなく俺のプレーも見てや!」

あまりにも主張が激しくて。ちゃんと見てたよと笑えば「それならええけど……」なんて顔を逸らす。見ろと言ったのは自分なのに、いざ見てたと言えば照れるから侑くんはわかりやすくて可愛い。
そういえば、と抱えていた紙袋を彼へ渡す。

「ほんまに作ってきてくれたん?」
「食べ物の気配を察知」
「サム!?どっから現れてん!」
「治くんの分もあるよ、みんなで食べて。口に合わなかったらごめんだけど」
「へーこの子があつ……」
「角名は余計なこと言いなや!」

何処から現れたのか、チームの人たちがぞろぞろと出てきて。その身長の高さと圧に、思わず五歩くらい引いてしまった。侑くんに渡した紙袋の中を覗き込み、容赦なく手を伸ばす治くん。何かを言おうとして口を塞がれた……恐らくこの人が角名さん。まぁまぁ、なんて侑くんを宥める短髪の優し気な雰囲気の人。
わかってる、バレーの選手だから身長高い人が多いって。だけどちょっと私のような身長の低いオタクには圧が強すぎる。

「…っ、ごめんなさい」
「ええよ」

更にその場から五歩下がると、人にぶつかってしまった。すぐに振り向いて謝れば、同じジャージを着た人が立っていて。確か主将の人だったような…?

「いつも侑が世話になっとるんやろ。騒がしくてすまんな」
「いえ…こちらこそいつもお世話になってます」

そう深々とお辞儀をすると「ふ…っ、ええ子やな」なんて目尻を下げ優しく笑った。なんだか侑くんたちとは雰囲気が違って落ち着いて見える。身長は同じく高いのに、あまり圧も感じなくて。優しい人柄が滲み出ている。

「あの…クッキーと蜂蜜レモンのマドレーヌですが、みなさんの分もあるのでよかったら」
「わざわざ気遣わせてすまんな。甘いもん好きな連中やから喜ぶわ」

先程侑くんたちのところで感じた雰囲気から、チームの人は全員元気爆発しているのかと思いきや主将は真逆。逆にあの人たちをどうやって落ち着かせているのか見てみたいところではある。

「侑は誤解されがちやけど、ええ奴やから。よろしくしたってな」
「……元気すぎるところはありますが、可愛い人ですよね」

そういうとまん丸い目を見開いて私を見る主将。あれ、変な事言ったかななんて心配になるも次の瞬間「ははっ」と笑みをこぼした。

「そうか、あんたにそう見えとんなら侑はよっぽど」
「北さん!何か話しました……?」
「……ん?侑は人でなしやっちゅー話をしとっただけや」

先程の騒ぎの中からおずおずとこちらへ歩いて来た侑くん。今まで話していたことと真逆のことを主将から言われ、眉を下げわかりやすく落ち込んでいる。侑くんでも主将には頭が上がらないんだと、これもまた初めてみる彼の姿だった。
「先にご飯食べとるからな」と、そう言って主将の北さんは他のメンバーとこの場を後にした。

「侑くんも行かないといけないでしょ?」
「おん、でもまだお礼言うてへん。今日来てくれて、お菓子も作って来てくれてありがとう」
「いいよ、私こそお礼って言いながら楽しませてもらってるし。あとこれ」
「……え、これ俺に?もらってええの?」
「これは侑くんだけなので内緒ね。次も頑張ってね」

先程まで下がっていた眉が元気を取り戻し、嬉しいと言わんばかりに目を輝かせた。……気のせいか、尻尾をぶんぶんと振っている幻覚が見えた気がする。「作ってもろたお菓子食べて次も頑張るわ」なんて、私の頭をぐしゃぐしゃに撫で回しみんなの後を追って行った。

……急に頭撫でるとか、今まであった?
じわりと顔に熱が集まるのは、一瞬近付いたその距離のせいなのか、鼻腔をくすぐる侑くんの香りのせいなのだろうか。

(……あっつい)

すぐに答えが見つからない私は、顔の赤みを誤魔化すように髪を整えた。