オタク女子と侑の話7

よく迷わず来れたと自分を褒めてあげたい。上履きに履き替え、大きな体育館の玄関へと足を踏み入れた。
反響する声援に選手の声、シューズの子気味いいい音、ボールが床に叩きつけられる音、大会の独特な雰囲気。まだアリーナには入っていないというのに、何もかもが久しぶりで胸が高鳴る。ちょっとした大会と言えどそれなりに人はいるわけで、座るところはあるだろうかと少し不安が過る。

侑くんに言われた通りの入口を入って階段を上ったドアの先。熱気に包まれたアリーナの雰囲気に呑み込まれそうだ。応援席の階段を下り、下を覗き込めば練習している侑くんたちが見えて。すぐ近くに座り公式練習を眺める。

侑くんセッターって言ってたよね確か。治くんはウイングスパイカーだったっけ…小学生までの知識しかないからポジションの名称すら曖昧だ。セッターはそのままだけど、スパイカーはレフトとかライトって呼んでたし…ちゃんと調べてきたらよかったな。それにしても、

「すっごく楽しそう」

いつもの彼も楽しそうに笑っているが、今はそれと少し違って。全身でバレーが好き、と言っているように感じる。

「侑ー!」
「治ー!」

横から聞こえた彼らを呼ぶ声に驚いた。目の前の練習に夢中で気がつかなかったけれど、ちらりと横目で見ればうちわを持った女の子がちらほらいて。アイドルのファンさながらの姿だった。
いや、アイドルだけではない。自分にも覚えがあるこれは…応援上映?あつむ、おさむ、とそれぞれ書かれた可愛いうちわを胸の前に携え、黄色い声援を送っていた。

……え、侑くんと治くんって近所で有名ってレベルじゃなくて男バレ界のアイドルだったの?下を向けばうちわを持っている子たちへ向かって手を振っている二人。心なしかいつもより落ち着いて見えて。……これは私の知らない侑くんだ。

それはそう、侑くんのことはバレーで知ったわけでもないし、私が知り合ったのはここ数ヶ月のこと。この様子から見ればきっともっと長く応援している子たちなのだろう。名前のつかない複雑な気持ちがじわりと心を侵食する。

「あ、〇〇ちゃ……いでっ!」
「アホ、お前のせいで注目浴びたらどうするん」
「殴ることないやろ!」

私に気付いてくれた侑くんが笑顔で大きく手を振った瞬間、治くんが止めてくれた。でもごめん、せっかく止めてくれたけど一歩遅かった。それに気付いた何人かがこちらへと視線を向けているのを感じ、そっと反対側へと顔を逸らした。

でもそれも選手がコートへ並ぶと同時に、何事もなかったかのように全員の視線がそちらへと向けられる。試合開始のホイッスルの音で幕を開けた。

「……すご」

私が体験してきたバレーボールとは似て非なるもので。当時は真剣そのものだったが、言わば私が知っていたのは遊びに近い。今目の前のバレーとどう違うのか明確に言葉にはできないけれど。少なくとも遊びではない、真剣勝負だ。
そしてプレーを観れば次に何をするのかわからない、稲荷崎高校にはそんなわくわくが秘められていた。

彼らの試合に惹き込まれ、周りと一緒に夢中で応援していて。気が付けばあっという間に試合が終わってしまった。観客席への挨拶も終わり、その場で受付からもらったトーナメント表を確認する。
十五分程経った頃、バイブが振動しカバンからスマホを取り出した。画面を確認すれば一言"下におりてきて"と侑くんからのメッセージ。

あ、今が渡すチャンスかもしれない。そう思いカバンと別に持ってきた紙袋を抱え、彼の元へ向かった。