「おぉ……圧巻やな」
予約の時間よりも少し余裕をもって着くことができた。こういう場所は初めてであろう侑くんは、コラボカフェを見て思っていたよりも世界観が造られていると感嘆の声を漏らしている。
入り口で待っている間に『めっちゃイケメンいる……』『こんなイケメンがイケメンのコラボカフェに……?』なんて周りで囁く声が聞こえてきてなんだか私がいたたまれない。当の本人は全く気にしていないようで安心した。……もしかして慣れているのだろうか。
席についてからはネットで学んだ通り注文し、目の前にキャラがイメージされたスイーツとドリンクが並ぶ。スイーツは種類も多くなくどれも美味しそうで殆ど注文してしまったけれど、今日は侑くんもいるから心強い。
「あ、見て!あきくんのランダムコースターきた」
「引き強いやん」
「多分無欲な侑くんのお陰だ……だって侑くんのについてきたし」
「そんな喜んでもらえんなら当てたかいあるな」
本当に運が良く推しがきたので侑くんからもらったあきくんのぬいぐるみを取り出し並べた。あまりにも可愛い。コラボ商品と数枚写真を撮っていると、何故か侑くんもスマホを構える。
「……侑くん、カメラこっち向いてない?」
「ん?どうせならぬいぐるみと一緒に撮りたいやろ」
「撮りたいけど待って、私のスマホ渡す……」
「ええやん後で送ったるし」
「いやいや侑くんのカメラロールに私の写真なんか……」
侑くんも負けじとごねたが、渋々私のスマホを受け取って写真を撮ってくれた。侑くんは撮らなくていいの?と聞けばノリノリでぬいを持ってくれて、治くんに見せる用と言って写真を撮った。
手短に一通り済ませ、目の前の多種多様なコラボスイーツに口をつける。見た目も華やかで味も美味しくてスプーンが止まらない。めっちゃ美味しい……推しもゲットできてスイーツも食べられて幸せだ。そんな私を何故かにこにこ顔で見つめる侑くんに気付いてしまい、一旦手を止める。
「口の周りについてる?」
「ん−ん、ついてへんよ」
「……なんか見られてる気がして」
「美味しそうにに食べとるな思て」
「あ、これ食べたくて?」
全部違う種類のものを注文したから、もしかしてこっちも気になったのかもしれない。「どうぞ」と自分のものを差し出すと、彼は驚いたように目を見開いた。
「あ、ごめん。食べたいってことかと思って……まだ口付けてないところあるから」
「でもスプーン今使っとるのしかないけど平気なん」
「え?全然大丈夫だよ」
「……じゃあ遠慮なく」
なんだろう今の間は。もしかして食べたい訳じゃなかったのだろうかとも思ったけれど「うま!」と声を出していたので取り越し苦労のようだ。そして「俺のもええよ」と言ってくれたのでありがたく一口もらった。全部一口食べてみたかったからその心遣いが嬉しくて思わず頬が緩んだ。
「うまい?」
「全部美味しい」
「そらよかったわ」
*
「美味しかったし推し手に入ったし最高だったあ」
「ずっとにこにこしとったもんな」
「だってランダムグッズも自引きできたし……侑くんのおかげだよ」
多幸感で満たされお店から出ようとした時あきくんの等身大パネルが目に入った。撮りたいけどどうしようかとじっと見つめれば、侑くんが「撮ろうか」と申し出てくれ二つ返事でお願いした。あきくんの隣に並んで二枚ほど撮ってもらうと、侑くんの後ろから同担であろう綺麗なお姉さまがひょっこりと顔を出した。
「せっかくなんで彼氏さんも一緒に撮りますよ」
「え?そんなちが……」
「ありがとうございます!」
「侑くん!?」
「ふふっ、せっかくの推し色でシミラールックですもんね」
すかさずスマホを渡す侑くんを止めることもできなくて、既に声をかけてくれたお姉さまの手の中にある。
そして改めて指摘されれば二人で推し色を着ているから周りからそう見えても不思議ではない。あきくんに意識が向いていて全然気がつかなかったが、気づいてしまうとほんの少しだけ意識してしまう。
そんなことはお構いなしに彼はいそいそと私の隣に並んだ。ちらりと見上げれば侑くんは嬉しそうに笑っていて、ここから断るのは流石に心が痛い。……まぁ侑くんが当てなければ来られなかったし喜んでいるからいいか。そう自分に言い聞かせ、お姉さまのご厚意に甘え数枚撮ってもらった。そして丁寧にお礼を伝えその場を後にした。
*
先ほどの出来事から"彼氏"や"シミラールック"の言葉が胸に引っ掛かりながらも侑くんと並んで歩く。話題に出ないということは、恐らく彼は言われ慣れているのだろうとも予測できた。……でもなんだか釈然としない。意識しているのは私だけかもしれないと思いながら、それを心の奥に押し込めた。
「侑くん本当にありがとう」
「何が?」
「今日全部、侑くんがいなければあきくんと友達の推しと縁がなかったから」
「気にせんでええよ、俺が一緒に来たかっただけやし」
「優しいなあ。よかったら何かお礼したいんだけど……私のできる範囲で」
「せやな……」
侑くんは宙を見上げどうしようか悩んでいるようだ。私みたいなオタクにできることなんて限られているから困っているのかもしれない。いっそのこと侑くんもオタクだったら分かりやすかったのに、なんて思いながら彼を見つめていると「あ」と突然大きな声を出した。
「今度ちょっとしたバレーの大会あるんやけど、応援に来てくれへん?」
「え、寧ろそれでいいの?」
「おん、○○ちゃんに来て欲しい」
「……わかった、何か応援行くとき必要なものってある?」
「じゃあ……」
お礼なのにこんなことでいいのだろうかと疑問に思いながらも、大のバレーボール好きだという彼の試合を初めて見れることに少しわくわくしていた。