とうとう迎えた当日、楽しみ過ぎて夜しか眠れなかった。
今日は推し色のワンピースをおろして、普段は結っている肩までの髪も内巻きにして、派手なメイクは似合わないからナチュラルに仕上げた。あきくんに会っても恥ずかしくないようにしようと気合いを入れて準備をする。
侑くんが一緒だから普段使いの鞄にあの時もらったぬいぐるみを入れ、あきくんのイメージチャームをつけた。
遅延なども怖いので少し早い電車に乗り、待ち合わせの駅に着いたのは予定より二十分ほど早かった。流石にまだ来ていないだろうなと思いながらも目印にしている場所へと向かうことにした。
「……え」
待ち合わせの場所を思わず二度見した。侑くんが既に待っていたのは別にいいけれど……所謂逆ナン、というものだろうか。綺麗なお姉さまが二人で正面と横から侑くんを囲うように立って話していた。いやでも友達という線もまだ捨てきれない。
ただどちらにせよ、この場面で私が侑くんに話しかけるというのは非常にレベルが高くできるなら避けたい。触らぬ神に祟りなしと私は待ち合わせ場所が確認できる範囲にあるベンチに腰をおろし、少しの間様子を伺うことにした。
……と考えたけれど、そんな余裕はなさそうだ。座って様子を見始めた時には既に侑くんの顔に苛立ちが見えていて、早急に話しかけた方がいいのかと悩む。ただあの中に「侑くんお待たせ」なんて入っていく勇気は申し訳ないけれど微塵もない。
「そうだ」
私は鞄からスマホを取り出し、侑くんへとメッセージを送ることにした。
"左のベンチ、見て"
急いでそれだけ送ると、彼がポケットからスマホを取り出し画面を確認する様子が窺える。そして私と視線が交差したその瞬間、そこにいるお姉さまを無視してブンブンと手を振り笑顔で駆け寄って来た。……本当に大型犬みたい。
「来てんなら言うてやぁ」
「や、流石にあの中に入る勇気は持ち合わせてない……」
「それでええんか、チケットは俺の手の中やで?」
「すみません!次はサッと、サッとメッセージ送りますんで」
「俺のとこまでは来ないんかい!」
会ってすぐそんなやり取りをできるようになるなんて、友達と話すのと同じ位素を出せるようになったなと自分でも思う。最初はあんなに警戒していたのも今となっては懐かしい。段々と侑くんが人懐っこい大型犬に見えるようになったからなのか、それとも彼の性格がそうさせたのかはわからないけれど。今は彼と話すのが楽しみだとさえ思う。
「今日いつもと雰囲気ちゃうな」
「髪おろしたからかな?推し色に包まれてきた」
「おん、めっちゃかわええ」
「……っ」
そう目を細めて優しく笑うものだから、思わず心臓がはねた。こんな平凡な人にもさらっと可愛いとか言っちゃうし、そんな表情もするんだ。イケメンってすごい。
「ありがとう。ところでなんだけど」
「ん?」
「侑くんも私の推し色入れてきてくれてるよね?」
「流石よう気付いたな!持ってる服で一番近い色選んだんやけど」
「へへ、嬉しいありがとう。侑くんもいつも制服とかジャージだからなんか新鮮」
「かっこええ?」
「うん、いつもかっこいいけど今日もかっこいいよ」
「……っ、ずるいわぁ」
そう言って侑くんは手で顔を覆った。こんなこと言われ慣れているだろうに、意外と照れ屋なところもあるのかもしれない。
恥ずかしがることなんてない、なんたって侑くんと治くんはみんなが認めているイケメンなのだから。さっきのお姉さまだってそんなイケメンだから逆ナンしていたんだろうし。
「あ、もう時間なりそうや」
「ど、ドキドキしてきた……」
「早すぎやて。さ、行こか?」
「うん!」
そう言って歩き出す彼の横に並び、推しへの気持ちを膨らませた。