帰宅したその夜、律儀にも"よろしく"と書いた可愛いキツネのスタンプと、ちゃんと家に着いたかというメッセージが入っていた。そこから何となくやり取りが始まって、他愛のない話をするようになり気が付けば三ヶ月が過ぎていた。
だからといってこれと言って変わったことは何もなかったけれど。お弁当を引き取りに来るのがたまに宮さんではなく侑くんと治くんが来るようになったり、バイトが終わる時間が近ければ駅まで送ってもらったりする程度だった。
最初は気を張っていたが、今では敬語を使わなくても話せるほどには落ち着いた。
そんなあるバイト帰り、思わぬサプライズを受けるとは夢にも思っていなかった。
「じゃん、これ何やと思う」
「……っ、ど、どこでこれを」
彼のスマホに映っていたのは、この前"ご用意することができませんでした"で全滅して泣いたコラボカフェの当選チケットだった。今回はあきくんがいたからどうしても行きたくて頑張ったが、全てはずれて咽び泣いていたのに。どうしてあんなに競争率が高いものを彼が持っているのだろうか。
「た、たまたまクラスの女子が話しててん。競争率高い言うてたから、〇〇ちゃんどやろな思て」
「はずれた、はずれて泣いてた。侑くんすご……無欲の勝利ってやつ?」
「……無欲ではあらへんけど」
「?」
「何でもない!で、どや、一緒行く?」
「行く!ぜひ行かせてください!」
「言うと思っとった。日付は……」
目の前に神がいた。友達も全滅してどうにもならないと思っていたところに救いの神が。推しを自引きできるかわからないけれど、侑くんバレーやってるし沢山食べれるよね?自分と友達が食べれる分だけだとたかが知れてるとは思っていたが、侑くんが一緒なら話は別だ。
よし、当日まで徳と金を積もう。やばい、現地に行けるってわかったら自然と口角が上がる。
「ご、ごめん、嬉しくてにやけちゃう」
「頬は素直やなぁ、今までで一番嬉しそうやわ」
「ちょ、笑わないで!」
当日のことを話していたらあっという間に駅についた。タイミングが合う時だけとはいえ、いつも送ってもらうだけなのは申し訳ない。そう思ってこっそりお礼に買っていた海鮮丼を手渡すと、侑くんはわかりやすく喜んでくれた。おばあちゃんにお願いしてトロも入れてもらったから、帰ってから更に驚いてくれるといいなとほくそ笑む。
「あと、これなんやけど」
「……侑くんは天才ですか」
侑くんが取り出して渡してくれたのは、この前UFOキャッチャーであえなく撃沈したあきくんの小さなぬいぐるみだった。あきくんと名の付くものなら何でも嬉しい私もちょろいんだけど、これは流石に……。
「嬉しすぎる」
「サムとゲーセン行った時見つけて、パッと○○ちゃんの顔浮かんでん」
「あきくんから連想してもらえるなんて、推し冥利に尽きる」
「大袈裟やん」
「大袈裟じゃない!取れなくてプライズ恨んでたから。本当にもらってもいいの?」
「俺が持っててもしゃーないやろ」
そう彼は笑うけれど、自分では手に入れることができなかったから本当に嬉しい。かかった分のお金払うからと言っても、そんなんいらんと受け取ってはもらえなかった。
「もう電車来るんやない?」
「えっほんとだ」
侑くんの言葉で時計を見るともう自分が乗る電車の時間が近付いている。お礼を伝え、コラボカフェともらったぬいぐるみに浮足立った気持ちで改札へ向かった。
あきくんのぬいぐるみを胸に抱いて改札を抜け姿が見えなくなる前に振り向いて大きく手を振ると、彼もまた同じく振り返してくれた。
*
お風呂に入って、部屋に戻るとあきくんのぬいぐるみがちょこんとベッドサイドに座っている。すごく可愛い。フリマサイトで買うしかないかなと諦めていた矢先だったので本当に嬉しかった。推しぬいの可愛さに頬ずりをすれば、ふわりと香る匂いにどきりとする。
……恐らくこれは、侑くんのお部屋の匂い。それがさっきまで侑くんの手元にあったことを証明している。
それだけ、それだけなのに……なんだか心臓がぎゅっと掴まれたような気分になった。
*
その後スマホを見ると、メッセージで『トロ――――――!!』と言う文字と、はしゃぎ回るキツネのスタンプが届いていたのには思わず笑ってしまった。