オタク女子と侑の話1

あと一時間で大型アップデートのためのメンテナンスが始まる。今を逃せばあきくんに二週間も会えなくなるというのに、私のスマホは目の前に落ちて画面がバキバキになっていた。そして隣にいるのは声も身長も大きい男の子。この状況、とは。

我に返り慌てて拾ったものの、あきくんが表示されたままうんともすんとも言わない画面に焦りが募る。
引継ぎはしてる、バックアップはいつしたっけ?このままショップ行っても交換して起動まで一時間はゆうに超えてしまう。メンテナンスまでは絶対に間に合わない。しかもこの乙女ゲームの画面のまま店員さんに持ってくの?……終わった。

「ほんまにすんません!」
「……や、えっと」

ぶつかった彼から謝られ、私の手におさまるスマホを見て弁償するなんて言い出した。補償サービスに入ってるから大丈夫だと丁重に断ったが、それでもと半ば強引に押し切られる形になってしまった。
男性が苦手で何を話していいのかわからない。だから断ったのに。宮侑と名乗る彼に連れられショップへ向かうことになってしまった。



待ち時間の間、さっきのはゲーム?推しっちゅーやつか?標準語やけど地元どこなん?なんて彼は喋り続ける。会話の中で同い年ということが発覚したが、陽キャっぽいってだけで胃がキリキリするのになんだこの質問責めは。もう早く帰りたい。

「さっきの毎日やっとるん?」
「はい、推しなので。まぁ今さっき長期メンテ入ったんですけどね……」

そう言えば、宮侑はすんませんと大きい図体でしゅんとする。なんだかこっちが悪い事した気持ちになるからやめてほしい。……あれ、もしかして結構落ち込んでる?なんて少し静かになった彼をちらりと横目で見るとぱちりと目が合った。

「あっは、やっと顔見てくれた」
「……失礼しました」
「なんで謝るん」

意外と可愛い。笑った顔を見た第一印象がそれだった。最初は身長も声も大きくてしりごみしていたが、この人を見ているとほんの少しだけれど男性も案外怖くないのかもしれない……なんて思わされる。そうしているとようやく自分の番を知らせるコールが鳴った。



「遅くまで付き合ってくれてありがとうございました」
「俺がよそ見して立っとるあんたにぶつかったのが悪いやん」

最寄り駅まで送ると言われ、断ろうとも思ったがまた押し切られるとかもしれないと受け入れた。
無事駅に着きピカピカになったスマホを両手にお礼を伝える。もう会うことはないだろうと思い「では」と背を向けようとした時、彼に呼び止められ身体をぴたりと止めた。

「なぁ、連絡先交換せぇへん?」
「……遠慮しときます」
「今のはええよって言う流れやろ!」

いや今の流れでなんでいいよって言ってもらえると思ったのか。
断られても諦めない宮侑は、一回だけでええからなんて駄々をこねてなかなか帰してくれない。一回だけってなんやねん、これでも今日初対面なんだけども。また折れるしかないのか……と諦めようとした矢先、いい事を思いついた。

「じゃあ、次ばったり会えたら交換しましょ。約束します」
「……言うたな、絶対やで!」
「約束は守ります。では、宮さん本当にありがとうございました」
「……ややこしいから侑でええ」
「ややこしくないですけど……まぁ、はい」
「綾ちゃん、遅なったから気ぃ付けて帰りや」

約束すると笑って返せば、やっと納得してくれたようで別れることができた。正直眼鏡をかけているこの地味な顔は、特徴もないためすれ違っても気づかれないだろうという自信がある。だからこれは言いくるめることができた私の勝ち。
しかも今日あそこにいたのは推しのくじのためであって、普段は滅多に行かない。だから今後はそう簡単に会うことはないと踏んだ。
……それにしても最後の最後に名前呼ばれたのは驚いた、さすが陽キャといったところだろうか。

でも何だかんだ暇しなかったし、少し癖はあるけど悪い人ではなかったように思える。そんなことを考えながら帰路についた。