「○○、こっちの方がコスパ良くない?」
「あーそうかも」
「残りは?」
「ちょっと待って。今メモ見るから」
今日は角名くんと文化祭で使う食材の最後の買い出し。何度か学校を往復しているけど、荷物の多さときたら。そりゃ誰だってやりたくないよねこんなこと…。
「あ、チョコレートソース忘れてた」
「りょーかい。先レジ並んでて、取ってくるから」
「わかった、ありがとう」
時間がかかるかと思いきや、予想よりも買い出しはすんなり済みそうだ。重い物も多かったから二日に分けたけれど。レジで会計してもらっている途中で角名くんが戻ってきて、一緒に袋詰めをしてスーパーを後にした。
ずっしりとした買い物袋を両手に下げ、学校までの道を歩く。いつもならそうかからない道のりも、この買い物袋のお陰で遠く感じる。指にめり込む袋の持ち手を移動させ、痛みを分散させる。絶対赤くなるやつだよこれ…。
「貸して」
「え」
重い買い物袋を持っていた方の手が途端に軽くなった。既に三つの袋を持っているというのに、私から買い物袋を取り上げた角名くんは表情ひとつ変えずに歩く。
「いや悪いよ、私ひとつで角名くん四つも持つなんて」
「別に、そんな重くないし」
「でも」
「じゃあこれ持って」
そう言って渡された袋は先程のものよりも比較的軽くて。「これでいいの?」なんて聞けば「それなら持てそうでしょ。渡すまで引かなそうだし」と返される。……そういうとこだよ角名くん、嫌いになれないのは。さり気なく気付いて汲み取ってくれるその気持ちが嬉しくて。勘違いしそうになるけど、いつもあの場面を思い出し踏みとどまる。……全然、自分は特別なんかじゃないと。
「つらぁ」
「え、何が?まだ重い?」
「違うよ鈍感」
「意味わかんないんだけど…」
頭の上に疑問符を浮かべる角名くんを横目に少し軽くなった買い物袋を揺らして歩いた。
―――――…
「パンケーキとワッフル二つずつ追加で!」
「さっきのテーブルの分できたよー」
「ありがとう!」
映えを意識した盛付をみんなで研究したからか、当日は想像以上の大盛況で。ホールも厨房も慌ただしく動いている。ホールの人たちの衣装が可愛い、なんて友達同士で話していたのも束の間で。お客さんの対応や注文の品を作ることに追われていた。
厨房の作業にはみんな慣れ少し余裕が出てきたところで、バタバタとホールの子が入って来る。
「ごめん〇〇、ホールの手伝い回ってもらってええ?」
「え、でも衣装ないよ」
「あるある、予備も何着か買っとったから。犬好きやったよね?」
「好き!じゃあちょっと抜けるねー」
シンプルなウエイトレスのワンピースに白いエプロン。そして犬耳と首輪という名のチョーカー、しっぽをつける。ふふっ、文化祭ならではって感じでもう楽しい!
できた?と迎えに来た友達と一緒にホールの手伝いへ向かった。改めて表側に出ると、うちの学生だけでなく他校の人や老若男女問わず沢山のお客さんが来ていることも窺える。確かにこれは厨房と違い、対応に慣れるまで時間がかかりそうだ。ワッフルと飲み物に至っては持ち帰りもあるから尚更。
「いらっしゃいませご注文はお決まりですか?」
「わんわん!」
「はーい、わんわんだよ」
「んてできう?」
「んて?」
「ご、ごめんなさい!お手のことで…お姉さんはおうちのわんわんとちゃうよ」
「ふふ、娘ちゃん可愛いですね」
小さい子も喜んでくれるから、アニマルカフェは大成功かもしれない。チョコソース抜きのパンケーキとジュースの注文を受け、厨房にいる角名くんへ紙を渡す。じっと見てくるから「なに?」と聞けば「なんでもない」と目を逸らされた。出来上がったものを順番に配膳し、たまに厨房に戻ったりもして。慌ただしく時間が過ぎていった。
隅のテーブルに注文待ちのお客さんいるよと他の人から声をかけられ、バタバタとそこへ向かう。もう少しで休憩だからここが踏ん張り時だ。
「お待たせしました、ご注文は…」
「えー可愛えやん犬耳」
「首輪もしっぽもあるで」
頭を下げるとつけている耳を触ってくる他校の制服の男子。もう一人は尻尾の方を覗き込んでケラケラと笑っている。順調だったのに苦手な客層に当たってしまった。この手を振り払えたらいいんだろうけど、せっかくの空気を悪くするわけにもいかない…。何かあった時のマニュアルを一通り聞いておけばよかったと今更ながら後悔した。
「あの…」
「すみませんが、お触り禁止なので」
犬耳を触っていた手が頭上から降る声と共に離された。声の方を見上げれば、珍しく少し怒ったような表情の角名くんがいて。彼が相手の腕を掴み、引き離してくれたらしい。いつの間にホールの服を着たのだろうか、ウエイターの服にキツネの耳と尻尾をつけていた。あまりにも似合っている上、そのきれいな顔が近くにあるものだからこんな場面なのに心臓が駆け足で動く。
「別に少しくらいええやろ、身体触っとるわけやないし」
「今は犬耳も体の一部ですので」
「屁理屈やん。キツネのお兄さんこのわんちゃんの彼氏なん?」
「そうですね。だからどちらかと言えば個人的にやめてほしいです」
はっきりとそう言い切った角名くんに驚いて思わず目を見開いた。すぐ近くにいた数人もこちらを振り向いたのが見えて。……びっくりしたよね、私もびっくりした。
先ほどまで少しかがんでいた彼がスッと背筋を伸ばし「注文、承ります」と言えば、その大きさに圧倒されたのか強気で出ていた二人も静かになった。
「かしこまりました、少々お待ちください。…行くよ」
「う、うん」
厨房のカウンターまで戻れば、大丈夫!?と駆けて来てくれた友達。
「災難やったな。早めに交代の人来たから休憩してええよ」
そう言われたため別室に行き着替えたが、まさかの友達は交代時間がずれそうとのことで。角名くんと一緒回ってき、なんて肘でつつかれる。そういうのじゃないと言っても、全然聞く耳を持ってくれずにやにやしていた。
「角名くん、私休憩ずれそうやからこの子と行ったって」
「いや、だから」
「……いいけど」
「え」
「ほら、こう言っとるしええやん」
不意に背中を押され、彼の方へとよろける。体勢を整えて振り向けば友達はひらひらを手を振っていて。角名くんは拒否してくれたらいいものを「じゃあ行こうか」なんて口にする。助けてもらった手前、こちらから拒否するわけにもいかず隣に並んだ。