「もう一本!」
「‥はい、」
研磨がクロにあげたふわりと柔らかな弧を描いたトスは、その力強い腕によって直線に変わり相手のコートへ打ち落とされた。こうして音駒バレー部の練習を見るのはなんだか新鮮。私も美術部に入っているため、なかなか練習を見ることができない。(見に来なくていいよってもいわれるし‥)
時間が合えば試合を覗きに行くくらいで、実を言うと練習は殆ど見たことがない。いつもは美術室から体育館外でバレー部の応援してる女の子が見えるくらいで、その場に行くことはない。
今日はたまたま部活が休みで気紛れに練習を見にきた。私に気付いたクロはいつもの意地の悪い笑顔でこちらを見て、研磨はふいっと顔を逸らした。(そんなに見られたくないのか研磨‥)ギャラリーがいるのはいつもの事だからか、こちらの事は気にせずに練習が始まった。
そして冒頭に至る。
「すご‥」
そうとしか言葉にならない。バレーは小さい頃にかじる程度にやったことはあるけど、なんていうか次元が違う。こんなにも力強くて、テクニックが必要で‥。
レシーブでボールがきれいに研磨の元へ戻り、研磨は状況を見てスパイカーへと的確にトスをあげる。それを力いっぱい打ったりフェイントをかましたりする、もう目で追いかけるのが精一杯で頭では考えることができない。これは動きがしなやか、とでもいうのだろうか‥。まるでネコみたい。
「黒尾先輩ー!がんばってくださーい!」
「スパイク打つところほんとかっこいい‥!」
近くにいるファンであろう女の子はクロに声援を送っているようだ。クロね‥黙ってればほんとにかっこいいと思うよ‥。(あれこそリアルにしゃべらなければイケメン、だよね)
でも、
「研磨ナイスー!」
研磨もかっこいい、と思うよ。みんなの視界にはもしかしたら入っていないかもしれないけど。みんなに負けないくらい、研磨もかっこいい。そんなこと、本人には面と向かってなんか言えないけど。
「ラスト一本!」
どうやらこれが最後らしい。いつの間にそんなに時間が経っていたのだろう。見ているだけでも楽しくて、気が付けばあたりも薄暗くなり部活の終わる時間になっていた。
「よぉ、どうだった」
練習を終えたクロと研磨がこちらに歩いてきた。
「どうって‥すごいね、やばいね!語彙力なくてすごいとしか‥!」
「面白かっただろ?」
「すっごく!」
「##name_1##が面白かったなら‥よかった」
「研磨もすごいね!あんなにピンポイントでトスあげるんだもん」
「みんなが‥きれいに返してくれるから」
「##name_1##が褒めてくれてんだ、謙遜すんなって!」
「ちょ、クロやめ‥髪わしゃわしゃしないで‥!」
普段こんなんだから、ギャップが大きい。試合は近くで見れないからあまりわからなかったけど、練習を間近でみたら音駒のチームがどれだけすごいかってビシビシ伝わってきた。
「##name_1##、もう少し待ってて、片づけてくるから」
「大丈夫、ゆっくりでいいよ研磨」
パタパタと体育館の真ん中へ研磨は戻っていった。研磨にかっこいい、って言いたかったけど、言えなかった。クロがいたっていうのもあるけど‥いや、きっとクロがいなくても言えなかっただろうな。
なんだろう、もどかしい‥この気持ち。
そんなことをぼんやりと思いながら、私は星がちらつき始めた夜空を仰いだ。
(これじゃきっと、今までとなにも変わらない)