『びっくりしちゃっ…

『びっくりしちゃった、樋宮くんがいると思わなくて。新しいホスクラのオープニングに友達の付き添いで行った時なんだけどね』

ホストクラブ?
思いもよらない言葉に指先が冷たくなるのを感じた。
そんな私を余所に『姫のネックレスに指かけてさ、距離の詰め方も……』なんて、良かれと思って友達は続ける。その話を聞きながら、私は下手な相槌しか打てなかった。
――というのも、私は明星がしている仕事の内容を詳しくは知らない。兄弟や家族、恋人役としてお仕事を受けるというざっくりとしたことだけは知っているけれど。どこまでどんなことをやるのか、なんてことは突っ込んで聞いたことがない。
彼と付き合うことになった時、代行の仕事を許す範囲で教えてくれようとしたこともあったけど断った。イメージが固まってしまうと絶対に嫉妬してしまうことがわかってて、それなら最初から聞かない方がいいと思ったから。
そんな私の気も知らず、友達は楽しそうに言葉を重ねてくる。

『あれだけ女性を沼らせるって天職じゃない? そんな樋宮くんの彼女なんて羨ましい〜』
「あはは、ありがと……」

褒められているはずのその言葉に、私は愛想笑いを貼り付けるのが精一杯だった。
ホスト、か。――不特定多数の人を姫と呼び、特別な時間を過ごして。仮にお客さんだとしても疑似恋愛みたいなものだから、明星に本気になる人だっているということが安易に想像できてしまう。
……すごく、嫌だ。
彼の前では嫌な部分を見せたくなくて、だから未知の世界である代行の仕事を知ろうとしなかったのに。ホストもやっていたと知ってしまった今、嫌な想像ばかりが膨らんでいく。
『飯に行ったくらいで嫉妬してんじゃねーよ。あーうざ』
――元彼の時みたいに、そう思われたくはないのに。



「……したん、なあ、」
「え? あ、ごめん」
「どっか体調でも悪いん、家まで送ろか?」
「や、ううん、大丈夫だよ」
「ぼーっとしとるから、熱は……なさそやけど」

子供体温みたいな彼の手が私のおでこへと当てられる。でも別に体調が悪いわけではない。
この前聞いたことが頭から離れず勝手に私がモヤモヤしているだけ。いっそのこと聞いてしまった方が楽になるのかもしれないと思ったが、腹を括ることもできず今に至る。

「大丈夫だよ、体調悪かったら今日来てないし」
「ならええんやけど。何かあったん?」
「ううん、なんでもないよ」

こんな下手な誤魔化し方でも、明星は気づかない振りをしてくれる。私はずるいから、彼の優しさにつけ込んでそのまま言葉を濁した。

「……じゃあ、またね」
「送らせてくれへんの?」
「大丈夫だよ。だって明星昨日も遅かったって言ってたじゃん」
「俺がもう少し一緒にいたいー」
「はいはい、それは私も同じ。でも明日は早いんでしょ、無理しないで」
「……はあい」

こんなに身長は大きいのに、置いて行かれる子犬のように見えるのは何故だろう。
本当は私だってもっと一緒にいたいし、もっと甘えたい。名残惜しさを消すように明星に抱きつけば、私の前髪を寄せぱちりと視線が合った。

「えーかわいい。また明日も頑張れそうやわー」
「うん」

別れ際その大きな手を私の頬に添えて、触れるだけのキスをする。
……本当は、頑張ってほしくない。もしかしたらこの手は他の女の子の頭を撫でてるかもしれないし、こんな風に触れ合ってるのかもしれない。仕事内容を知らない私の勝手な妄想にすぎないけれど。
代行のお仕事は、恋人の代わりは……という淀んだ感情をバレないように押し込んで「がんばってね」と笑って口にした。





すぐ家に帰ってシャワーを浴び、洗濯なども終わらせてベッドへ寝ころんだ。適当な番組をつけて抱き枕を抱えながらそれを眺めるも、内容はちっとも入ってこない。
そんな中スマホの通知が鳴って、画面を見れば明星の名前が表示されていた。メッセージを表示すると、シフトが変更になったから泊まりに行ってもいいかとの連絡で。特に断る理由も見つからないので、待ってるねとだけ返信した。

先ほどの連絡からそう経たないうちにインターホンが鳴って、またねと言ったばかりだった彼が顔を見せる。ラフな格好の明星を「さっき振りー」と迎えれば「別れた後、シフトが夕方から変更になってん。今日は一緒におれるなぁ」と私の前髪を寄せて梳くように撫でた。

「手あったかい」
「お風呂入ったばかりやからね」
「じゃあ何か飲む?」
「うーん、まだええかな」

彼はいつものように私のベッドへと深く腰掛ければ「それよりも」と口にして、自分の膝をぽんぽん叩く。「ぎゅーさせてほしいわ」と私を呼ぶその柔らかい声に引き寄せられ、明星の膝の上へ跨るように座った。
言葉の通り、その大きな腕が背中に回され「充電ー」なんて包み込まれる。その温かさに安心する一方で、心のどこかはざわざわしたままだ。
少ししてから顔を見合わせれば、彼の両手が私の頬を挟む。

「俺は笑っててほしいなーって思うてるんやけど。……なにかあったん?」

明星は目を細めて、少し寂しそうにそう呟いた。そこに問い詰めるような響きはなく、少しだけ下がった眉尻に彼の気持ちがにじんでいるような気がした。
勝手に彼の仕事のことを知って、嫉妬して……そんな独りよがりな理由で落ち込んでる私が心配される資格なんてないのに。その思いから私はつい目を逸らしてしまった。

「言えんことなら無理に言わんでええよ」

多分、言ってしまえば明星を困らせることになる。だってそれは遊びでもなんでもない、仕事だから。
『――そういうところ、重いとか思わないわけ?』
ちくりと、昔の嫌な記憶がまた脳裏をよぎった。最悪嫌われるなんてことになってしまったら。そう思えば、うるさいくらいに心臓の音が耳に響いて不安が込み上げる。かといって、この気持ちを隠し通したまま彼と付き合い続ける自信もない。……明星はこんな私を受け入れてくれるだろうか。

「でも、悩んでるなら一人で抱え込まんでほしいっていうのも本当やから」
「――ね、明星」
「ん、なあに」
「嫌いに、ならないでほしいんだけど……。いやでも、無理って思ったら逆にスパーンと振ってほしいかも」
「えー俺そんなに酷い男やと思われてるん?」
「思ってない! そうじゃなくて……私のことうざいとは思うかもなって」
「言うてみてよ」

私の悩みを見透かすような彼の優しいまなざしに気持ちが揺らぐ。明星と離れたくない。……でも、せっかく彼が言いやすい環境を整えてくれたのだから。
私はゆっくり呼吸をして、意を決し彼を見上げた。

「私さ、明星の仕事は代行ってことしか知らないじゃん」
「そうやね」
「……この前友達から、明星がホストのオープニングにいたよって聞いて。――結構、動揺しちゃってた」

なんとなく嫉妬、なんて直接的な言葉を口にするのを避けてしまい……動揺したと濁したけれど。……いっそのこと、ちゃんと全部言ってしまった方が楽になるのかもしれない。
それで鬱陶しいと思われても、距離を置きたいと思われても仕方のないことだ。そう言い聞かせてもう一度口を開いた。

「……動揺っていうか嫉妬、だね。ホストとして接客してるの想像したら、嫌だなって思って」
「うん」
「だからって、明星の仕事を変えてほしいなんて思ってないよ。これは私の気持ちの問題だし。……代行もだけど聞かなければ嫉妬もしないから、」

耳に入れないようにしてた。と、語尾にかけてどんどん掠れる言葉は喉の奥に引っ込むように消えていった。口にすれば、なんて面倒くさい女なんだろうと再認識させられて。いたたまれなさから熱を帯びていく顔を隠すように俯いた。

「――なのに、今回は不可抗力で耳に入っちゃって。そんな風にしてる明星を想像したら、わけわかんないくらい嫌で。明星は私の彼氏なのにって、そう思う自分も嫌で……ごめん」

恥ずかしさから、矢継ぎ早に気持ちを零すも明星の反応はなんにもなくて。下を向いてしまった今、表情を確認することもかなわない。
元々来るもの拒まず去る者追わず、みたいなところがあるからこんな女は願い下げなのかも。……なんて、良くない方へと思考が引っ張られる。まだ彼は何も言っていないのに。
かといって、今自分から顔を上げることもできず、落ちた沈黙が少し苦しかった。

「……なあに、それぇ」

しんとした中、こぼれた彼の言葉は思いがけないほど柔らかく甘く滲んでいて。引き寄せられるように顔を上げれば、熱を孕んだ彼と視線が絡み合う。予想外の空気に呆けていると、彼は私の腰へぴたりと大きな手を添えた。

「そんな風に一人で抱えとったん?」
「抱えてたとかそんなんじゃ……」
「なんやそんなん、もっと早く言うてくれたらよかったのに」

そう言ってもう片方の指先で私の頬を優しくなぞると、指の腹を唇に押し当てた。
……呆れられる覚悟をしていたけれど、彼は隠す気すらない様子で頬を緩めている。

「やって、ずぅーっと俺のこと考えてくれてたんやろ?」
「そう……だけど、鬱陶しいかなって」

バツの悪さから目を逸らす私とは裏腹に、彼はただ柔らかく笑って、垂れていた私の髪を耳にかけた。ゆっくりと輪郭をなぞりながら首筋へ手を這わせ、逃げることもできないまま視線が重なった。
うっとりと私だけを映す柔らかいその瞳に、気づけば引き寄せられていて。彼の触れ方はどこまでも優しいのに、その手から伝わる熱と底抜けに甘い眼差しに捉えられ思考が上手く働かない。

「なんで? こーんなかわええのに、そんなこと思うわけないやん」
「明星は……嫌じゃないの?」
「ぜーんぜん。逆にもっと言うてほしいわ」
「だって、めっちゃ嫉妬しいだよ。自分のことだけ特別甘やかしてってわがまま言うかもよ」
「そんなん言うてくれたら――」

その言葉は全部口にすることなく、彼と私の隙間で掠れるように消えた。

「――っん、」

不意打ちで深く重ねられた唇は無抵抗で彼を受け入れる。腰を抱く手にぎゅっと力が入り、いつの間にか後頭部へと回された手は髪を梳きながらも身じろぐ隙さえ与えてくれない。角度を変えて繰り返される砂糖のような口付けに、思考が溶けてしまいそう。
満足に酸素を吸うこともできなくて、彼のシャツを掴んでいる指先からも力が抜けていった。

「ふっ――、は、ぁ、」

触れるだけの短い口付けを最後に、彼の顔が遠のいて。私は酸素を求めて肩を上下させるも、すっかり力が抜け明星の胸へと頭を預けた。
彼は私の髪の中へ優しく指を滑らせ「こんな風に、俺のこと以外考えられんくらい甘やかすよ」と、全身で抱きしめられる。その言葉と体温を真正面から受け止めたせいで、彼への愛おしさが溢れんばかりに滲んできた。
――あの人と彼は全然違うのだと、先ほどまでの不安が嘘みたいに溶けていく。

「……好き、明星すき」
「えーなになに、もっと言うて」
「や、ちが……くないけど、ちょ、恥ず……っ」

その安心からか、意図せず零れた本音に一気に恥ずかしさが込み上げた。普段からストレートに言うことはあまりないから、余計にだ。それを隠すように胸元へと顔を埋めれば、私の頭に彼の頬がぐりぐりと擦りつけられる。やっぱり、犬みたいだ。

「照れた顔も隠さんと見せて?」

彼はお構いなしに私を胸元から剥がし、意地悪くも甘い笑みを浮かべる。無抵抗のまま彼に委ねれば、親指で赤くなった頬を撫でまわし、ふっと喉を鳴らした。

「ひとりで抱えて落ち込んで、ほんまに手ぇかかるお嬢さんやわ」
「う、それは……ご迷惑をおかけしました」
「迷惑だなんて一ミリも思うてないよ。ホストのお陰で本音が聞けたから、逆にお友達さんには感謝せなあかんね」
「……ホストも、始めたの?」
「んーん、してへんよ。あれもAporiaの仕事やったから、オープニングのときだけー」
「――そうなんだ」

ホストも彼の職場からの仕事だったことに安堵し、小さく息がこぼれた。
恋人みたいに甘く囁いて、特別だと思わせて、恋をしてもらう。家に帰ってもお客さんにまめに連絡したりして。……それには終わりがないと勝手に思ってるから。ホストが明星の本職じゃないと知れただけで、胸のつかえが少しだけほどけていった。

「もし他にも俺の仕事で心配なことあったら全部言うて? なーんでも答えたるよ」
「あはは、ありがとう。でも大丈夫、知ったらまた困らせちゃうから」

多分、ばったり遭遇しない限りはこれからも明星の仕事の顔は知らないままだと思うし、進んで知ろうとは思わない。……でも、それでいい。今だって、明星の仕事を勝手に想像しては嫉妬している日もあるから。これくらいでいい。

「えーもっと困らしてくれてもええのに。きみのワガママなら大歓迎」
「……じゃあ。もし明星の仕事に遭遇する日があったら、有無を言わず甘やかしてよ」
「そんなんお安い御用ー。ていうか、そういうのなくてもずーっと甘やかすけど?」
「あはは、でも普段から優しすぎるくら……っ」

言葉を遮るように、私の視界は彼の服で埋め尽くされた。背中に回された腕にぎゅうっと包み込むように抱きしめられる。

「俺の恋人やから優しくするし大事にするよ。明星がいないと息できへんー言うくらい、好きになってほしいやん」
「もうこんなに好きなのに?」
「やって、好きな気持ちに上限なんかないやんか」

……確かに。でも今だって十分すぎるくらい明星のことで頭がいっぱいで。これ以上大事にされたら、もう二度と後戻りはできない気さえする。
でも、それは私だけじゃなくて、同じくらい明星にもそう思ってほしい。……難しいかもしれないけれど。
私は胸元からゆっくり顔を上げ、明星のふわふわな頭を両手で撫でまわした。彼は動じることなく「どうしたん?」と目を細める。

「明星も、もっと甘えて。私がいないと生きていけへんーって言うくらい好きになってよ」

そう口にすると彼は一瞬だけ目をまんまるくして、ふっと喉の奥で柔らかく笑った。

「あは。そんなん、とっくになっとるけど」
「ほんと?」
「むしろ、きみよりずーっと重いかもしれんよ」
「え? ……わっ」

冗談めかして笑う彼に首を傾げた瞬間、視界が反転して私の体はベッドへと沈んだ。突然のことに息を吞む間もなく、ふわりと彼の香りに包み込まれる。その大きな手が重ねられ、満足げに口元をほころばせた彼と視線が絡んだ。

「びっ……くりしたあ、急にどうしたの」
「嬉しすぎて我慢できなかっただけー」
「なにが?」
「きみがもっと好きなってーなんて言うから。そんなん言うてくれたの初めてやし、舞い上がるやろ」
「そんなに?」
「そんなにー」

へらりと笑って明星が覆いかぶさってくるものだから、頬を掠める髪がくすぐったい。そのまま隣へ体を倒すと、私の頭の下へするりと腕を差し込んできた。

「……ありがとね」
「なにが?」
「明星がさ、私を受け入れてくれてほんとに安心した。――元カレには重いって言われたから」
「えーそうなん? じゃあ俺はラッキーやわ」

ラッキーってどういうこと? と、彼の言葉の意図が汲み取れず脳内には疑問符が浮かんでいる。そんな私を見て、彼は目を細め私の頭を自分の方へと引き寄せた。
すぐにでもキスができそうな距離まで近付いて、私は心臓がぎゅっと掴まれたような気さえするのに。彼は相も変わらず余裕の笑みを浮かべていた。

「なにが?」
「やって元カレが別れてくれたから、こうやってきみを独り占めできとるし」
「……っ、またさらっとそんなこと」
「本当のことやもん」

彼は酷く愛おしそうな目で、私の頬をなぞるように撫でた。彼の言葉とともに指先から熱が伝わってきて、じわじわと頬を染める。

「――明星って、結構私のこと好きだよね」
「うん、めーっちゃ好きー」




「え? ……わっ」

冗談めかして笑う彼に首を傾げた瞬間、視界が反転して、私の体はベッドへと沈んだ。突然のことに息を吞めば、彼は覆い被さるように距離を詰めて、逃げ道を塞ぐように私の手へ指を絡める。

「……明星?」
「なあに?」
「なんか、今日の明星ちょっと変」
「あはは、そう?」

そう言いながらも、彼は楽しそうに目を細める。

「だって、きみがそんなこと言うから」
「そんなことって?」
「俺がいないと生きていけへんくらい好きになって、って言うたん、きみやん」

言われてみれば確かにそうだけれど、それだけでこんなに嬉しそうにする理由がよくわからない。

「俺、欲しいものとかあんまりないねん」
「……うん」
「けど、きみのことは別やわ」

絡めた指に、ほんの少しだけ力がこもる。

「もう十分好きやし、これ以上どうこうしたいとか思ってへんかったんやけど……」

そこで一度言葉を切って、彼は困ったように笑った。

「きみが俺のこと、もっと好きになってくれるんやったら。……それは、ちょっと嬉しいかも」




ころころと笑う彼は、いつもと変わらないように見える。けれど、重ねられた手は離されないまま、指先が私の指をひとつずつ絡め取っていく。

「……明星って、私が思ってるより私のこと好き?」
「うん。たぶん思ってるよりずっと」

あまりにも迷いなく返されて、思わず瞬きをする。

「じゃあ、私がもっと好きになったら?」
「嬉しい」
「それだけ?」
「んー……」

彼は少しだけ考えるように目を細めて、それから楽しそうに笑った。

「もっと俺のことばっかり考えてくれるようになったら、嬉しいなぁ」

「……それ、明星がさっき言ってたことじゃん」
「そうやっけ?」

とぼけたように笑う彼に、思わず私も笑ってしまう。

「でも、俺も一緒やから」
「え?」
「きみが思ってるより、俺もきみのこと考えてるよ」

そう言って、絡めた指にもう一度だけ力がこもった。

「やから、これからもいっぱい好きになってな」

甘えるような声なのに、逃がすつもりなんて少しもなさそうで。
それなのに私は、そんなことには気づかないふりをして、ただ「うん」と頷いた。




ころころと笑う彼は、いつもと変わらないように見える。けれど、重ねられた手は離されないまま、指先が私の指をひとつずつ絡め取っていく。

「きみが俺のこと、もっと好きになってくれるんやったら。……それは、ちょっと嬉しいかも」

「……ちょっと?」

思わず聞き返せば、彼はくすくすと笑った。

「うん。ちょっとだけ」
「絶対うそ」
「あは、ばれた?」

そう言って目を細める彼の顔があまりにも嬉しそうで、私までつられて笑ってしまう。

「ほんまは、めっちゃ嬉しい。きみが俺のこと好きって言うてくれるん」

何でもないことみたいに言われたその言葉が、胸の奥へゆっくり染み込んでいく。

「……じゃあ、いっぱい言おうかな」
「うん。いっぱい言うて」
「調子乗るよ?」
「ええよ。きみになら、なんぼでも甘やかされたいわ」

そう言って、絡めた指をぎゅっと握り直す。

その仕草が妙に嬉しくて、私はもう一度だけ笑った。

――たぶん私は、思っていたよりずっと前から、この人の特別だったのだ。






そう言って、絡めた指をぎゅっと握り直す。

その手を振りほどこうなんて、少しも思わなかった。
むしろ、このままずっと捕まっていたいと思う。

――そんなことを思ってしまうくらいには、私ももう、明星に甘やかされていた。