視界に入るきみの姿

「どーも、彼氏のあけほしです」
『こっちは私の同僚の子、一番仲いいんだよ』
「どうも……同僚の〇〇です」
「ご丁寧にありがとう。時間も遅なったから迎えに来てん」

最初に会ったのは仲のいい同僚から彼氏だと紹介されたときだった。職場の飲み会が終わるころに迎えに来ていて、関西弁の長身イケメンだなとありふれた感想をもっただけ。ほんの少しどこかで見たことがあるけれどその記憶を引っ張り出すことができず、それで終わりだと思っていたのに。

「……あれ?」

紹介から二週間経たずして街中で見かけたのは同僚の彼氏の姿だった。周りから頭一つ抜けているのでよく目立つ。そこから視線を下に移せば隣にいたのは全く知らない女性で思わず二度見した。
え、別れた? それとも浮気?
そんな余計なことを勘ぐったりもしたが、姉か妹かもしれないと思い直し興味もないのでそれ以上考えるのをやめた。
……が、それからものの数ヵ月の間で度々彼の姿を街中で見かけるようになった。今までもすれ違っていたのかもしれないが、同僚の彼氏だと認識したことで視界に入るようになったのだろう。
ただ問題はそこではない。男性やご年配の方と歩いているときもあったが、なにより女性と二人で歩いていることが多かった。あまり人の顔を覚えるのは得意ではないが、恐らく毎回別の人で。
もしかしてとんでもない人に引っかかったのではないかと、何ヵ月か経った頃思い切って二人になった休憩時間に話をしてみた。

「……へ、彼氏の振り?」
『そー、別れたもなにも彼氏じゃないんだよね。騙してごめーん。実は隣の部署に人にしつっこく言い寄られてて……この前の飲みのときにもいたんだよ』
「うわー……それは災難すぎる」
『んで一芝居打ってもらった。年下だけど顔はいいし、身長も高いでしょ? ショックだったのか、あの日からもう声かけられることもなくて安心したわ』

あっけらかんとそう言い放つ彼女に内心ほっとした。よかった遊ばれているわけじゃなくて。ただそれと同時にますますその人の正体が謎に思えた。



「……やばい」

マスクの紐に髪が挟まっていたから、マスクを取って直そうとした弾みでピアスが外れてしまった。下がコンクリートだったらどんなによかったことか。
あろうことか道から少し避けて芝のところに立っていたため弾かれたそれがどこにあるのかすぐに見つけられない。