「由鶴くんって、もしかして煙草吸ってたことある?」
「えっ」
#brmyプラス
「由鶴くん、何か飲む?」
「あ、じゃあコーヒーいいかな。ガムがなくなりそうで」
「わかった。もう少しで終わりそう?」
「ん、あと一時間くらい」
珍しく仕事を持ち帰ってきた彼は、もう二十一時を過ぎたというのにまだパソコンとにらめっこをしていた。フレーバーの抜けたガムを紙に包んで、最後の一粒を口の中に放り込んだ。淹れたコーヒーを机におけば、彼は一度ぐっと背中を伸ばし「ありがとう」と、また画面に向き合う。
私は仕事の邪魔をしないようにと、傍にあるソファーへ腰をおろし紅茶を飲みながら本を開いて待つことにした。
…
「はあ、終わった」
「お疲れさま」
彼はソファーへ深く腰掛け、私の肩へ頭を預けた。微かなコーヒーとミントの香りが鼻腔をくすぐる。
「ガム、あとで買ってこようか」
「ううん、今日はもう大丈夫。いつでも寄れるから」
「そっか。……ね、由鶴くんって、もしかして煙草吸ってたことある?」
私の突飛な質問に、彼は顔を上げ驚いたように「えっ」と口にした。
「……どうして?」
「いやほら、昔煙草吸ってた人は口寂しくてガム噛んだりするって聞くし」
家での由鶴くんしか知らないけれど、前々から仕事をしている時に噛んでいることが多いような気がしていて。「ただガムが好きな人もいるから、全員に当てはまる訳じゃないけどね」と付け加えれば、彼は眉を下げて小さく笑った。
「あはは……気になる?」
「気になるけど、言いたくないなら言わなくてもいいよ」
「別に隠しているわけではないから」
彼は答えを口にしないまま、ゆっくりこちらとの距離を縮める。伸びてきた彼の手が私を囲うように後ろのソファーへと置かれ、由鶴くんの柔らかな前髪が掠めるほどに近づいた。今にも唇が触れてしまいそうなその気配に、一瞬思考が停止する。
「ちょ、え、由鶴くん……?」
「吸ってたよ」
「え、」
「煙草。かなり前にやめたけど」
「そうだったんだ。なんか意外だったかも」
自分から聞いておきながら、今は煙草よりもこの体勢の方が気になって落ち着かない。「どうしたの、」なんて動揺する私とは裏腹に、彼は柔らかく笑って頬へと手を滑らせた。
「いえ、あなたとキスをする口実ができたなと思って。……なんて、ずるいかな」
「え……、んっ」
私がその言葉を理解する前に、啄むように唇が触れて。頬が一気に熱を帯びるのを感じ、行き場のない視線を泳がせていると、彼は小さく笑った。
「口寂しいから、もう少し。……ね?」
「そんなの――だめって言うわけないじゃん」
「あはは、……かわい」
そう呟くと同時に腰を抱き寄せられ、私の体はあっけなくソファーへと沈む。
彼の腕の中に包まれ、もう一度深くキスをして。ゆっくり角度を変えて何度も重ねられる唇に、思考も絡めとられる。
舌の先で微かに感じるコーヒーとミントの香りに絆されて、私は彼のシャツの裾をぎゅっと握りしめた。