研磨が告白されてるところを見てしまった

バレー部の孤爪先輩、周りとの付き合いが苦手なようでリエーフくんを通じて何度かお話させてもらったことがある。私の好きな人。

私も人見知りの類なのでリエーフくんがいないと話せなかったけれど、それでも共通のゲームなどの話題について話せることが嬉しくて。時間をかけて、孤爪先輩も少しだけ笑って話してくれるようになった…気がする。(表情のふり幅が小さいから、あくまで気がする、だけど)でもそれだけで私の心は満たされ、それと同時に孤爪先輩へ対する想いは日に日に強くなった。


昼休み、珍しく中庭のベンチに座ってゲームをしている孤爪先輩を見て。一人で話したことはなかったけれど、こんなチャンスはないと思い話しかけようか悩んだ。暫くその場をうろうろして決心したその時、たたっと女の子が走ってきてその子が着くと孤爪先輩も立ち上がった。

どくん、と心臓が大きくはねたのがわかる。覗き見するつもりはないのに、その場から足が動かなかった。何を話しているのかなんて聞こえない、聞きたくもない。でも、雰囲気でわかる。あの女の子は、孤爪先輩が好きなんだ。

見ちゃだめ、どこか行かなきゃ。

そう思った瞬間、女の子が孤爪先輩に抱き着いた。

あ、そういうこと、か。


がさっ、


「…っ、」


一歩後退ると、何やらゴミが落ちていたようで運悪く踏んで音を出してしまった。それと同時に孤爪先輩が此方に気が付き、目を見開いている。あぁ、こんなベターな展開なんていらなかったのに。どうしてこうも踏んだり蹴ったりなのだろう。

私はすぐにその場から走って逃げた。

その日を境に、リエーフくんから誘われても孤爪先輩のところに行くことはなかった。
リエーフくんは優しいから、どうしたの、喧嘩でもしたのなんて心配してくれるけど、大丈夫の一点張りで押し通した。

私が孤爪先輩に会いに行ってしまったら、彼女である女の子に申し訳ないし。そう思ってあの日から孤爪先輩には全く会っていない。学年も違うし、私は部活に入っていないからリエーフくん伝いでなければ共通点がないのでまず普通に生活して会うことはない。
外で体育の授業でもやっていれば、遠目で姿を確認するくらいのもの。…諦めるのだからそれくらいが丁度いい、そう自分に言い聞かせた。


―――――…


「はー、もうこんな時間…」

先生に頼まれたお手伝い、もとい雑用を終わらせたら既に外は薄暗くなってしまっていた。真っ暗になる前に帰ろうと、足早に校舎を後にした。

「あ、課題。……忘れた」

急いで帰るのはいいけれど、明日提出の課題を机の中に忘れてしまった。こういう時に限ってやるんだよなぁ…。自分のあほさ加減に頭を抱えた。
いや頭を抱えている暇はない、そろそろ全部の部活も終わっている頃だろうしそうなると玄関に鍵を掛けられてしまう。こうしてはいられないと、私は急いで来た道を引き返した。

「…っご、ごめんなさ…」
「大丈…」
「す、すみませんでした!」
「…あ、」
「研磨、今のって」

驚いた、部活帰りの孤爪先輩と黒尾先輩に出くわすなんて。急いでいたからよく前も見ないで曲がったら、孤爪先輩にぶつかった。何日か振りに先輩を近くで見ることができて嬉しいような辛いような、複雑な気持ちになる。
ただそれどころではなかったため、謝ってすぐ逃げるようにその場から立ち去った。

「はー、はー、間に合った…」

校舎に戻ると鍵を掛けられる寸前で、なんとか先生に頼んで滑り込みセーフ。日頃の運動不足がたたり、呼吸が整うまで時間がかかる。
無事課題を鞄にしまい、再度帰路についた。暗くなる前に急いで帰ろうと思ったけれど、引き返したことですでに空は星がちらついているし速足で帰る体力も残っていない。
諦めて星を見ながらゆっくりと帰ることにした。

「…っ、孤爪先輩、」
「ちょっと、いいかな」
「…はい、」
「歩きながら、ね」

さっきの出会いは幸か不幸か、ぶつかった場所で孤爪先輩が塀に寄りかかっていた。どうやら私のことを待っていたようで呼び止められる。その場で話すのではなく、歩きながら話すから行こう、と促された。

「…最近、リエーフと来ないね」
「そうですね…」

少し前を歩く孤爪先輩は、リエーフくんと私が来なくなったのを気にしているようでポツリポツリと話し始めた。

「もしかしてこの前の」
「あの!私と帰ってたら彼女さんに誤解されてしまいますよ」

この前のって中庭のことでしょ?もう正直行かなくなった理由くらい察して欲しい、そう思い孤爪先輩との話を早く終わらせたくて言葉を遮った。
彼女さんに誤解される、そう言えばすぐに話は終わると思っていたから。

「…違う」

…違う…?
私の予想とは、まるでかけ離れていたセリフで。

「おれは君が」

振り向きざまに孤爪先輩が私の手をぎゅっと握る。突然のことに、頭の中が真っ白になった。取り乱している孤爪先輩なんて見たことがなくて。ただただ目を見開いて、目の前の先輩を見つめた。

「君のことが、気になってる…」

孤爪先輩はそう言うと、ごめん、と手を離し目を逸らす。先輩の言った言葉の意味を理解するまでそう時間はかからなかった。でも、そうなるとこの前の女の子は一体…?

「あの、この前の女の子は…」
「あれは好きって言われて…急に抱きつかれて、」

勿論、断ったよ。と孤爪先輩は呟いた。

もやもやしていた気持ちが、すっと晴れていくようなそんな感覚。そっか、あの女の子は孤爪先輩の彼女じゃなかったんだ。私の勝手な勘違い。そうわかると心が軽くなったような気がした。

「誤解してたみたいだったから、解いておきたくて」
「…じゃあ、またリエーフくんと一緒に孤爪先輩のところに行ってもいいですか?」
「うん、いつでも。あと…敬語も先輩もいらないから」
「それはもう少しお時間をいただきたく…」
「ふっ、わかった」

そう言って、孤爪先輩は柔らかく笑った。さっきから初めてみる表情ばかりで、駆け足で動く心臓。これからもこんな表情を間近で見れるなんて、果たして平常心でいられるだろうか。