私の秘密をみんなに見つけられてしまったような気がした。黒尾くんがかっこいいのなんて、今も、この間の試合のずっと前だって何も変わらないのに。私だけが、ううん、本当はもっといたかもしれないけど。黒尾くんがかっこよくて、優しくて、そんなのずっと前から知ってるよ。
「……ごめん。私、もう笑えない。…別れて」
「…え?」
鳩が豆鉄砲を食らったような顔ってこういうことを言うんだと、目の前の彼を見て実感する。その表情を見ても先程の言葉を撤回するという選択肢は私の中にはなかった。こんな事、冗談で言えるわけがない。
「……ごめん」
何も言わない黒尾くんと、この重い空気に耐えられずその場から走りだした。
―――――…
「…っうわ」
「うぉ、なんだ○○かよ、ってどうした?」
「夜久くん…」
「わー泣くな泣くな」
「あ、夜久さん女の子泣かせてる!」
「うるせぇぞリエーフ!悪いけど先行ってろ」
「うぃっす、行こうぜ芝山」
ぶつかった上に後輩との時間を邪魔してしまい。ごめんと呟けば「放っておけるわけねーだろ」なんて笑う夜久くん。その優しさがじんわりと胸に染み込んだ。
「――…で、どうしたんだよ」
人の少ない場所を選んでくれ、並んでベンチに座る。夜久くんが買ってきてくれた飲み物を握りしめ、呟くように声に出した。
「黒尾くんに、別れてって言った」
「…そっか」
夜久くんは驚きもせず冷静に取り出したハンカチでじわりと出てきた涙を拭ってくれる。いっそのこと夜久くんのことが好きだったらよかったのにと思ってしまう私は、なんて身勝手なんだろう。
「でもさ、その顔は本気で別れたいって思う人がする顔じゃないだろ?」
「……」
「言える範囲で話してみろよな、言いたくなければいいから」
「…話していい?」
全国大会が終わった後から、急に周りの黒尾くんを見る目が変わった気がして。私に見えるところで実習で作ったお菓子を渡してたり、ベタベタしてたり、そういうのを見るのがどんどん辛くなった。黒尾くんは優しいからみんなの目があるところでお菓子をもらっても断ったりはしない。わかっているんだけど、モヤモヤしてしまうのが抑えられなくて。
"ごめんな"って毎回謝られると、笑って大丈夫だよって言うしかないじゃん。でももう作り笑いもできなくて。こんなに嫉妬してる自分なんか知られたらきっと幻滅されるから知られたくない。
「……だから、それしか方法がなかったんだ」
「自分の彼氏に女がくっついてたら嫉妬くらいするだろ」
「え?」
「なーんにも変なことじゃねぇよ」
「それは…夜久くんだから」
「アイツなんかそれ聞いたら逆に喜ぶと思うけど。なぁ?」
「……デスネ」
「!?」
聞きなれた声に振り向けば、そこには黒尾くんの姿があって。不意の出来事に心臓が大きく動き出す。どこから聞かれていた?まさか全部?混乱と動揺で上手く頭が回らない。
「ごめ…っ」
立ち上がろうとしたら、黒尾くんに押さえられそのままベンチに押し戻される。夜久くんは「そういうことだから。ちゃんと話すんだぞ」と言って、あっさりと踵を返し歩いていってしまった。残された私と黒尾くんの間には重い空気が流れ、どう切り出したらいいのかもわからない。しかしそれを破ったのは黒尾くんの方だった。
「……ごめん!」
突然の謝罪に驚いて、何も言葉が出なかった。黒尾くんが謝るようなことに心当たりもない、何のことについてなのかさっぱりわからない。
「…○○がそこまで嫌な思いしてることに気付かなかった」
そう言って、彼は続ける。噂で○○が告白されたことや、他の男子と仲良くしてる話を聞いて勝手に嫉妬して…。だから逆に少しくらい嫉妬してくれたら嬉しいのにって思ってた、いつも笑って大丈夫なんて言うから。……ガキみたいだよな、そこまで追い詰めてることに気付きもしないなんて本当にごめん。
「黒尾くん、嫉妬なんてするんだ……」
「そりゃ俺だって○○の前ではかっこよくありたいけど?一般的な男子高生なので彼女が言い寄られてたらコノヤロウくらいは思いますね」
なんて口を尖らせて言うものだから、思わず笑ってしまった。その後すぐに"…幻滅した?"なんておずおずと顔を覗き込んでくる彼が可愛くて。
こんなモヤモヤを抱えていたのは私だけじゃなかったとわかり酷く安心した。
「…でなんだけど。別れるって話…」
「私もごめん…なかったことにしてほしい」
「よ!よかった…」
「でも他の子からお菓子もらったり、距離が近いのはやめてほしいかも…」
「もう絶対にもらわない。○○が嫉妬してくれるってわかったし?」
「……やめてよ」
「照れんなって」
顔を背けた私の頬を両手で包み、強制的に彼の方へと向かされる。黒尾くんは目を細め、"かーわいい"と呟き柔らかく唇を重ねた。