一歩前に進むために


「神代って…本当に大丈夫なのか?」
昼休み、購買でお昼を調達し昼食を取るところを探そうとしていたところにクラスメイトに話しかけられた。こいつらは確か応援団の人だよな、と思い出す。
そう言えば応援団の演出を手伝うことになったんだっけ?と思い出す。不安そうなクラスメイトを見て、普段の類の奇行を見てるとそりゃあ不安になるよな、だからいつも隣にいる自分にどうなのか聞いたのか。緋透はめんどくさそうな顔をしながら類の事を思い出しては答える。
「確かに普段がアレだから不安になるよなぁ…わかる。俺もたまに斜め上の事するからびっくりするわ」
「だよな…ほら、千月とかは慣れてるけど俺達は…」
少しだけ困った顔をしている。不安なんだろうと、そりゃあそうだ、類に親しい人間は『神代類』を理解しているからどんな人物かはわかっている。だが、そうではない人間は彼の内面をよく知らない。それは本人も充分に理解してるし、壁を作ってるのも緋透は知っていた。
そんなんじゃ彼の良さなんて親しい者しかわからないのは心苦しい。だけどクラスメイトはそれでも類の事を知ろうとしている、なら自分が今できる事があるならもう少しだけでもいいから類の事を知ってほしい。
「まあ、あいつ、他から見たら危ないって思う事もさちゃんと安全を確保は絶対にするんだよな。誰かを悲しませるために演出してるわけではないし、俺らキャストも客席も笑顔にする演出を付けるのが類だから」
「そうなのか…?」
それでも不安そうに聞き返すが真剣な目で頷くと「千月に聞いて少しはよかった」と言われ、少しだけ歩み寄ってくれるかなと安堵する。
「まーさ、一緒に練習してみなよ、お前らが思ってる以上にあいつ周りを見てるし、丁寧に教えてくれるって、それでも不安だったら俺にまたなんか言ってきていいよ」
そう言うとクラスメイトも「わかった、ありがとう」と言って教室に戻って言った。これで彼の事を理解してくれる人が増えたらいいなと思いながら緋透もお昼を食べる所を探してぶらりと歩いた。

食べる所に迷ったら屋上に来るのが当たり前になる。ガチャリとドアノブを回し、扉を押す。フェンス近くに人影が見える、おそらく知り合いだろうと近づき「よっ」と挨拶をして隣に座る。
「おや、今日はここでお昼かい?」
「そんな所、類もか?」
「そんなところだよ」といい類は手に持っていた分厚い紙を緋透に渡した。それを貰い軽く目を通すと応援団の演出が事細かく書かれたものだ。それを目を通しながら緋透は先程購買で買ったお昼を食べ始める。
団員全員に振り当てられたと思われる演出、一人一人違い類がどれだけの時間と思いが込められてるのがわかる。
やっぱり類が考える演出好きだな、と思いつつ一通り読み終え類に返す。受け取った彼は少し心配そうにこちらを見る。あぁ、そういうことか、と納得しながら類の目を見て笑う。
「いいと思うよ、類らしい演出だし、それにこれが成功したら皆が笑顔になるって」
「随分と高く評価してくれるね」
「そりゃあ俺らが誇る演出家だもん」
そう言うと目をぱちくりと目を見開いて驚く類の顔が見える。まさかそんな事を言われるとは思ってもいなかったように、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていると、なんだかおかしく見えてクスクスと笑う緋透。
「さっきさ、クラスの応援団が俺に話しかけてくれたんだ。類って大丈夫なのかって」
「まあ、普段の僕を見てたらそうなるね」
そこは自覚してるんだ、と思いつつも話は続ける。
「それでも類は誰かを悲しませる演出はつけない、キャストも客席も笑顔にさせる演出を付けるのが類だって言ってやったよ」
いかにも言ってやったぞとドヤ顔をする緋透。その言葉は緋透が類と一緒に今からこそ説得がある言葉だ。
こてんと類の肩に頭を乗せ、ぎゅっと類の手を優しく握る。まるでそれは彼を安心させるように包み込むように握ると類もそれを絡ませるように握り返してくれた。
「大丈夫、なんてさ…簡単には俺は言えないけどさ…類が一歩進むのが怖いなら俺が隣でこうやって支えるし、一緒に歩くからさ」
「緋透くん…」
「案外怖くないかもしれないからさ…一歩こっちに歩み寄ったら理解してくれるかもよ?俺達がそうだったから」
怖くないよ、だって自分がいるからと緋透は言う。それを聞いた類は少しだけだが肩が軽くなった気がするのがわかった。
過去に拒まれた事がまだ心のどこかで引っかかってると思う。だけどそれでも理解する人が増えているのもまだ彼は感じ取れてない。だから緋透は彼の演出を理解する人が一人でも増えてくれるのを心の底から願う、否願うだけじゃ何も解決しない、自分も伝えなきゃいけない。
「まー不安になったら俺も手伝うからさ。最高の演出つけてさ、皆を笑顔にしてハッピーエンドを迎えようよ」
「そうだね。……ありがとう緋透くん、団長や団員達にがっかりさせるような事はさせたくないからね」
「そうなると俺も手伝うからさ。一緒にいいもの作ろうな」
「それじゃあ早速手伝ってもらおうか」と類の顔が優しくなりながら先程の演出の案を二人でまとめるように意見を出し合いながら午後の授業の始業前のチャイムが聞こえるまで没頭していた。

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