一番最初に伝えたくて


 カチリ、カチリと秒針が時を刻む、なんだか自分らしくないと思いながら早く日付が変わらないかと待っている自分がいる。普段はそうは感じないが一分一秒が長い、まるで一生来ないかと思うぐらい時間が経つのが遅い気がする。
 何度も確認するようにスマホで時刻を見る。一分、また一分と進む。落ち着かない我ながらおかしいなと一人で呆れたりしている。
 六月二十三日、二十三時五十五分。もういいだろうと思い、彼に電話をかけた。どうせ次の演目の演出内容を考えてると思うから起きてるだろう。
 彼の電話番号にかける。電話なんて滅多にしないし、連絡なんてメッセージのやりとりが基本な二人だ。突然電話なんてしたらどんな反応をしてくれるんだろうと少しだけ楽しみだ。
『もしもし、緋透くん?』
「あっ、やっぱり出たわ、どもー夜遅くに電話して悪いな」
『うんん、大丈夫だよ。ちょうど次の演目の演出について少し詰めてたから。それにしても珍しいね、電話をかけてくるなんて』
「まーね、そんな日もあるって」
 電話をかけた理由は類はまだ知らない。今気づいてもこっちが恥ずかしくなるから後数分、たった数分だけでいいから珍しく電話をした理由を気づかないで欲しくてたわいのない会話をする。
 向こうからは何か作業をしている音が聞こえる。ロボやドローンのメンテかそれとも次に使う装置か何かだろう。緋透はその音が好きだからそれすらも聞いていた。カチャリと聞こえる工具を使う音すらも緋透にとっては心地いい、もう少しだけ聞いていたいけどそろそろ時間だと思い腕時計で時間を確認する。全ての針が十二を指した瞬間、緋透は口を開いた。
「類、あのさ…」
『…?どうしたんだい?』
「誕生日、おめでとう」
 飾らない言葉、むしろシンプル伝えたかった。電話越しに「あ…えっ?」と類の驚いた声が聞こえた。おそらく時間を確認していてるんだろうなとか、だから急に電話を寄越したんだと一人で納得してるんだろうなって思うと電話してよかったと思う。
「一番?」
『そうだね、一番最初にお祝いの言葉をくれたのは緋透くんだよ。普段電話なんてしないのに…そう言うことだったんだね』
「まーね、ちょっとだけ欲を出しちゃったけどな」
「らしくないけどさぁ…」と少しだけ困ったような笑うと類は「そんなことないよ、凄く嬉しい」と心の底から嬉しそうな声で言う。優しい声、その声が緋透の心をくすぐりもう少しだけ欲を出したいと思ってしまう。
 けどこれ以上出してしまって受け止めてくれなかったらどうしようと考え込んでしまう、後少しだけ、もう少しだけと我儘になってしまう。口に出したらどうなるのかと、ぐるぐると思考を巡らせてると「どうしたんだい?」と何も喋らない緋透を気にし始めた類。
「あ、いや……うん……なんでもない」
「急に歯切れが悪くなったね、何かまだ言いたいことがあるんだったら言っても構わないよ」
「えーけどなぁ……」
 明らかに何かを伝えたいのは明確だ。言いたいことがあるのに言葉にできない、その癖はわかっていた。だから類は優しい声で「聞きたいから言って」と言ってくるから、うっとなりながら緋透は白状するようにポツリと呟くように口を動いた。
「電話越しじゃ物足りないって思って…やっぱり直接言いたいな…ってまた欲が出た」
「だから散歩がてら外に出たら類の家の近くまで来ちゃった」と言うとガタンッと何かを落とす音が聞こえたと思ったらシン、と静寂が走った。何が起きたんだろうと思って彼の名前を呼ぶが反応はない。どうしたんだろうと不思議そうにしていた。
「緋透くんっ!」
 突然名前を呼ばれた。聞き覚えのある声、聞き間違いなんてしない声、類だ。反応に遅れ、勢いよく抱きつかれた。危うくスマホを落としかけたが、なんとか落とさずに済んだと少し安心した。
 ぎゅっと強く抱きしめられる。類、類と名前を呼び続けるが反応はない。夜遅いし人気がないがこれは少し恥ずかしいと何度か名前を呼んだらやっと離れた。
「嬉しいけど……流石にこんな夜遅くに出歩くのは感心しないね」
「うっ…それはごめん」
 息切れをしながら「本当に心配したんだから」と言われてなんだか類には申し訳ないけど少しだけ嬉しいと思う自分がいた。これは口に出していったらさらに呆れるか怒られるだろうと思い黙っておこう。
「まー改めてお誕生日おめでとう、類。電話でも直接でも一番は貰ったからな」
「うん、ありがとう、まさかこんな短期間で二回も言ってくれるなんて思いもしなかったよ」
「プレゼントはまた、皆で祝う時に渡すよ。流石に持ってきてなかったわ」
 と落ち込むと「まだ楽しみが残ってる」と嬉しそうに言われた。一人で返すのも不安だったため類は緋透の家まで送りに行った。

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