一応の労り


「お前って何着ても似合うよな」
「ありがとう、褒めてくれてすっっごく嬉しいよ」
 純粋に褒めたつもりが逆に彼をイラつかせてしまった。にこりと微笑む笑顔は目だけが笑ってなく、背筋を凍らせ、心臓を握り潰されるような感覚に陥る。別にイラつかせてるつもりはなかった、ただ思ったことを素直に伝えただけなのに。まあ、彼がそんな言葉を素直に受け取るなんて思ってもいないから別にいいやと緋透は気にしていなかった。
「で、これいつまで着てればいいの?早く終わらせたいんだけど」
「えー俺はもう少し見てたいんだけど」
「寝言は寝てから言ってくれないかなぁ…」
 グシャリ、左手に握られた青い薔薇を躊躇なく握り潰された。指の隙間からはらりと零れ落ちるのをただそれを見ていた。もったいなぁ…綺麗だったのにと思っていたら気にすることもなくオベロンはそれをなかったかのように踏みつけながら緋透の前に立つ。
「その花、君の瞳と同じ色だから同情しちゃった?無機物に」
「んなわけねぇだろ、普通にもったいねぇなって思っただけだよ」
「そっか」
 にこりと口を歪ませ弧を描くように笑った。緋透の瞳を覗くように立つ彼の顔を彼女の瞳が捉えて映る。瞳に映る自分の姿に嫌悪を感じて目を逸らした。
『根はどうしようもなく真面目……というか、マメですからね。公平なんです』
 そういえばそんな事を誰かが言ってた気がするのを思い出した。根は真面目だからちゃんと着替えてはくれたんだと、それだけで充分だからもうそろそろお開きにしてもいいかなと考えるとそれをオベロンはわかったかのような顔をして、やっと解放されると安堵の溜め息をついた。
「ほら、行くよ」
「は?どこに?夢に?とりあえず寝かす?」
 拳を作りブォンと弧を描きながら殴る素振りをする。「なんでいつもそう物理で解決しようとするんだよ」と呆れた顔しながらも緋透の腕を思いっきり掴み引きずるように連れ去る。
 どこに行くかも告げづにただ捕まれるまま、連れていかれる。掴まれてる場所が痛い。力を込められ手首から血がうまく通らないのかどんどん冷たくなっていた。
 痛い、だけど振り払う事はしなかった。そうすればもう少しだけ一緒にいれるから。その代償だと思えばそれでもいいと思った。
「気持ち悪い事考えないでよね。本当に頭の中おかしいんじゃないの?」
「あ、やべ、筒抜けだった?」
「無自覚かよ…」
 大きな溜め息をつかれた。顔が見れない、どんな表情をしているかなんてわからないから想像を膨らませるしかなかった。だが本当に嫌ならとっくの昔に目の前から消えてるか、と前向きに考える事にした。
 オベロンに連れてかれたのは緋透の自室だった。扉を開け無理やり部屋に入れる。
 さらに力を加え彼女を思いっきり引っ張りそのままベッドに投げ込んだ。
 ボフンとマットレスに弾む。体制を崩し仰向けになっていると、その上から被さるようにオベロンが緋透を潰すように乗りかかった。
 彼の頭はちょうど緋透の鳩尾を狙うように頭から突っ込んできた。
 綺麗に入った鳩尾にぐえっとつぶれた声を出すと。笑いながら「女捨てた声すぎて面白すぎでしょ」と声が聞こえた。
「…とりあえずしんどいから体制変えさせて…」
「はぁ…仕方ないな、うつ伏せになって背中を枕にさせてよ」
「そこ普通腕か膝では?」
 と言いつつ彼の要望に応えるように体制を変える。それに満足したかのように「つかれた…」とかぼそい声が聞こえた。
「はいはい、今日は頑張りましたね〜」
「馬鹿にするような慰めはいらないんだけど」
「じゃあ後でメロンをあげるから機嫌なおせって」
「二人分な」
 それは緋透の分もよこせと言う意味だ。そのぐらいなら別にいいかと思いつつこの体制はいつまで続くんだろうと考えながら目を閉じた。

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