
献身的友情
突然だけれど、風間さんと私の関係をさらりと説明したい。簡単に説明するのならば、きくっちーについて軽くお話するくらいの仲である。それ以上でもそれ以下でもない。その関係はこれから先も変わらないと思っていたし、変わる必要もないと思っていた。その日、嵐山隊に急遽仕事がはいった関係で、ボーダーは急遽防衛任務に入れる隊員を探した。本当であれば、今日は行われるはずのない防衛任務。対応としては迅速に本部にいる暇そうな人間をかき集めての防衛任務となる筈だったーーーのだが、この日は何故が太刀川さんはレポート。他部隊はスカウトのため不在と中々暇な隊員が見つからなかったらしい。そこで、一番隊員の揃っている風間隊がまず選ばれた。しかし、揃っているといっても風間さんと みかみか、きくっちーの3人で歌川くんが不在だった。あの風間隊のことだ。1人分の穴くらい余裕で埋められるだろう。私は今でもそう思っているけれど、現場の判断としては、信仰の後ということもあり、念のためにもう1人は用意しようと言う話になったらしい。もう一度いうが、私としてはA級隊員。それも正真正銘の精鋭部隊のうちの2人が揃っているのならば、人数としては全然問題ないと思っていたのだけれど、心配になったらしい。まあ、みかみかはオペレーターで、実際の戦闘員が2人となると上も不安になるのかもしれない。
そこで名前が挙がったのが私である。因みに名前を挙げたのは風間さんらしい。それに対して、きくっちーも反対するかと思えば「苗字なら家も近いし、いつでも暇なので大丈夫ですよ」と口を挟んだらしい。全て、みかみか情報である。なんて事だ。大切な土曜日……。確かに私は「日曜日は絶対に入れるな」と冬島さんに念を押したけれど、土曜日に関しては何も言わずに今日まで来た。だからだろう。冬島さんときくっちーから(主にきくっちーから)、目を見開いてしまう程の着信があった。その記念すべき、28回目の着信音に恐る恐る通話ボタンを押した時の私の気持ちがわかるだろうか。正直、今度は何をしでかしたのかとヒヤヒヤした。電話を取ってみれば、きくっちーは大きな溜息をついて「十時にボーダーね」と一言言って電話を切った。切電された後、私は時計を確認した。その時の時刻は九時三十分。私は勢いよく体を起こしてパタパタと洗面所に走ってそれなりに可愛らしい服を手に取って、ほんの少しだけ化粧をして家を飛び出したーーーーといっても、ボーダーは家から歩いて10分程なので5分前には本部の入り口に辿り着いていた。私は、てっきり きくっちーにデートに誘われたものかと思っていた。しかし、現実は酷く残酷である。きくっちーは私の姿を見つけると首を傾げて私にトリガーを渡して言ぅた。「早く換装してくれない?」と。思わず、表情が消え失せた。少なくとも、私はてっきりデートだと思って……。なんて、そんな愉快な発言を あの菊地原士郎を前にして言える筈なく換装して連れて来られたのは、風間隊作戦室だった。そこで私は事の経緯を聞き、そして自分の勘違いに顔を覆った。冗談ではなくて、顔から火が出るかと思った。因みにきくっちーが私のトリガーを持っていたのは数分前まで本部にいたと言う冬島隊長から「苗字が来たら渡してくれ」と言われて、受け取ったかららしい。よく考えてみればそうだ。冬島さんから連絡があったのにデートだと勘違いしたのが愚かだった。きくっちーは私の事を好きな訳がないし、デートの誘いごときで20回以上も着信を入れたりはしない。恐らくは、風間さんへの愛の賜物だ。私はその愛を28回と言う間に見える形で思い知らされたのだろう。因みに、私が起きる20分も前からずっと連続で鳴り続けていた事実を着信履歴を見て知った。愛が重すぎるよ、きくっちー……。是非私にも、そのうちの1%くらいの愛情と優しさが欲しかった。
「急に呼び出してすまないが、来てもらった以上仕事はしてもらうぞ。苗字」
「それは全然大丈夫ですけれど、私が来る意味って……や、なんでもないです。ごめんなさい、菊地原くん」
風間さんの意見に反対をするんだ。へえ、本当にいいご身分だよね。という あまりにも久しぶりすぎる強烈な絶対零度を視界に入れた私は大きく左右に手を振って冷や汗を滝のように流して姿勢を正した。
しかし、私の質問を風間さんは最後まで聞いているわけで 私の事を暫くジッと睨みつけた後(もしかしたら、ただ目付きが悪いのかもしれない)「そうだな」と、独り言のように呟いて、風間さんは特に表情も変えずに言う。
「苗字と仕事をしてみたかった」
その時の私といえば。はあ!!? 何いってんの この人!! 台詞が一々格好いい……。いや落ち着け。これは、こういう意味だ。
『苗字、お前黒トリガー回収の時は良くも敵(迅と嵐山隊)に情けない発言してくれたな?? 覚悟は出来ているんだろうな??』と言う意味だ。成る程、そうなると私は風間さんに現地に向かった瞬間に
「今日の嵐山隊の防衛任務って大体何時くらいまでの予定なんですか?」
『全ての時間任されているわけではないから、数分もすれば嵐山隊と交代だ。それまで気を引き締めろ』
「苗字、了解」
嵐山隊は本当によく働くなあと思っていた私からすれば、アイツ等まだ働くのか、と感心せざる得ない。でも、それなら土曜日にも佐鳥ちゃんという癒しが手に入るのか。先程までは憂鬱でしかなかった防衛任務も癒しが手に入るのなら、ギリギリ許せる。まあ昨日、佐鳥ちゃん達とハンバーガーを食べに行ったおかげで癒しの補充ができているからか来て良かったとまでは思わないけれど。それがなければ佐鳥ちゃんと会えるとか飛び跳ねて喜ぶ。私が喜んだところで、きくっちーとデートだなんていう烏滸がましい事を考えていた事実は変わらないのだけれど。
この際もう防衛任務終わったら佐鳥ちゃんかとっきーと猫カフェデートでもしようかな……。そういえば、当真先輩も猫が好きらしい。どうやら、あの人とは多方面で気があうらしい。まあ、当真先輩と猫カフェなんて死ぬか行くかという選択肢を出されない限りは行かないけれども。
『苗字、嵐山隊が現着した。三上にデータを送らせる。指定した場所に来てくれ』
「苗字、了解」
ていうか、今日の私さっきから苗字了解しか言ってなくない?? 凄くない? 頭の中では、お前仕事しろよって注意されちゃうくらいには馬鹿みたいな事ばかり考えている癖に口に出すのは、苗字了解だけとか凄くない??
けれど、仕事は一応した。2時間でトリオン兵を十三体。確かにゲート開閉が少ないとはいえ、以前よりは今は遥かにトリオン兵の数が多い。冬島さんがいうには侵攻してきたアフトクラトルという国は
「……すみません。遅れましたか?」
「問題ない。ここからは嵐山隊に任務を引き継ぐ。俺達は既に状況を報告を終えた。苗字も報告次第帰還しろ」
「風間さん、コイツに甘すぎません? 連絡してから到着までに何分かけてんのさ」
「菊地原」
「……わかりましたよ」
「大丈夫ですよ。菊地原くんを責めないであげて下さい。コミュニケーションの取り方が下手なだけなので」
「は? 苗字とコミュニケーションなんて一度も取ったことないんだけど」
「やだ。きくっちーったらツンデレ。これから苗字とデートの約束じゃん」
「は? こわ……。約束してないんだけど勝手に決めないでくれない?」
酷い、と泣き真似をしていると風間さんに「苗字まずは報告をしろ」と言われてしまったので、現在はゲートの開閉は少ない事。しかし以前とは違い、開閉時に送られてくるトリオン兵の量が少しだけ多い事を報告して私は報告を終わりますと会釈する。
そんな私のわかりづらい報告にも何時も笑顔で返してくれるのが嵐山さんだ。じゅんじゅんだ。本当に本物は滅茶苦茶カッコいい。テレビでも良く見ています、と前にボーダーでちょっとだけ話をしたら「俺も苗字の事は良く見ているから苗字に言ってもらえると嬉しいな!」と、キラキラの笑顔でカウンターを食らった。じゅんじゅん格好良すぎ……。そう思ったのが懐かしい。そして、かれこれもうあれから一年が経過しようとしている。時代の流れ早すぎる。
「報告は以上だ。俺達は帰還する」
「風間さん。苗字は、佐鳥ちゃんをデートに誘わないといけないので残っても良いですか?」
「私事で他部隊の邪魔をするのは感心出来ないな、苗字。簡潔にここで言え」
「佐鳥ちゃん、きくっちーに振られたので終わったら苗字とデートにーーー」
「ぼくといけば良いじゃん、風間さんに迷惑かけないでくれない? 行くよ」
「えっ、えっ!?」
腕を引っ張られた私は、きくっちーに引き摺られる様にしてボーダー本部に帰還した。しかし、会話はない。えー……。苗字どうしたらいいの、と目線を泳がせていると、きくっちーは換装を解いて作戦室の椅子に腰を下ろして私を見上げた。
「苗字が誘ったんだから提案してよね」
「え? 何を……」
「……ぼくに言わせるの? 怒るよ」
「デートしてくれるの!?」
「じゃあ行かない」
「うそ!! 行こう! じゃあ……まずは、ええっと、きくっちー好きなものは!?」
「トマト、ピーマン、煮魚、牡蠣が嫌い」
「あー……。私も煮魚と牡蠣は嫌い。なんなら焼き魚も嫌い。美味しくない…」
それならどこがいいだろう。カラオケ……は嫌がるだろうし、ハンバーガー屋さんはムードがない。いや、本当にデートとかではなくて!! いや、ちょっとだけ憧れてるけれど……。きくっちーは違うだろうし、お出かけ!! ただ、可愛い服を着てきてしまったのは事実以外の何物でもないから、だからちょっとだけ いつもとは違う所に行きたいというか。
「じゃあ、気になってたお店があるんだけれど、きくっちー行きたいお店とかある?」
「苗字が行きたい所にいけばいいじゃん、誘ったのは苗字なんだし」
「きくっちー……。やだもう何それすき」
「やめて、触らないで気持ち悪い」
ありがとう、きくっちー!!と満面の笑みを浮かべて換装を解いてパタパタと本部の廊下を突っ走る。途中で私ときくっちーを見つけた何人かに「デートか?」と茶化されたけれど「デートです!」とハッキリと肯定しておいた。きくっちーは心底嫌そうな顔をしたけれど、これは私を防衛任務に引っ張り出した せめてものお詫びと思って欲しい。迷惑なお詫びでごめん。これで、私は結果的には勘違い野郎ではなくなった。めでたしめでたし。
ボーダーから駅に向かって、駅前の新しく出来たカフェに滞在して、それから猫カフェに近くのクッキー屋さんの詰め放題をして、まあ兎に角満喫したんだな、と思ってくれればいい。満喫させて頂きました。ありがとうございます。私は、散々振り回して疲れているきくっちーが「ぼくは苗字と違って生身の方だとそこまで体力がある方ではないんだけど」と口を尖らせるのを見て笑った。一緒に詰め放題してる時は楽しそうだったじゃん、とデパートのフードコートでクッキー屋さんのクッキーを食べながらにこにこと笑う。しかし、グッタリとしているきくっちーの気持ちもわかる。カフェに猫カフェにクッキー屋さんに電気屋さんに、なんだか良く分からない距離を行ったり来たり。私は楽しかったけれど、きくっちーにしてみれば とんでもなく効率の悪い時間だっただろう。思いついた所に思いついた時に行く。私と佐鳥ちゃんは そういう性格だから良いけれど、きくっちーはどちらかと言えば、とっきーみたいな性格だから。とっきーなんて私達が色々な場所を巡り出した時点で近くのフードコート、まさに此処に、とりおを2人で待つ、という作戦に出ているので、もしかしたら、とっきーも私達にずっと付き合っていたら きくっちーみたいな顔をするのかもしれない。そうだったら面白いなあ。
「苗字ってさ」
「どうしたの?」
「なんで本部で ぼくのこと避けるの」
「え? それはきくっちーでしょ???」
「ぼくは避けてないし」
「私も避けてないよ」
絶対にお前が避けてるという私達のやり取りは結局どちらも引かないやり取りだった。私だって黒トリガー回収の時は本当に避けられていると思っていたし、今だって今日合わなければ、またあの正式入隊日から会っていないという事になる。ここまでボーダー本部にいるのに会わないなんてあるのか? 此処に断言しよう、ある。お互いに避けていないからこその確信である。私だって関わりがないようで、にのみーやカゲ先輩との方がきくっちーとよりは頻繁に出会っているし、私達は本当にすれ違いが多すぎた。
それを解決した きくっちーは「避けてないなら そういいなよ」と、そっぽ向いてしまった。なんて可愛いの。
「それなら きくっちーも私と古寺くんとの勉強会に参加すればいいよ。私達ナイショで勉強会してるんだ〜」
「勉強とかするんだね、どこ目指してるの」
「私は今の所は教員免許取れる大学かな〜。私達第一希望は東大なんだよね」
「苗字の頭のレベルで行けるわけないじゃん。素直に身の丈にあった大学にしなよ」
「え? きくっちーも第一希望は東大? きくっちーとの大学生活楽しみだな〜」
「ぼく東大なんて目指してないけど」
「勉強会にも参加したい? うんいいよ!! 月曜日と木曜日の夕方18時から何だけど……。きくっちー防衛任務いつ入ってる?」
「……その時間なら平気」
「じゃあ来週から頻繁に会えちゃうね〜」
「別に会いたくないし」
私の日本語通じないスキルをフルに使って勉強会に きくっちーも参加する事になった。そういえば、古寺くんには言っていないけれど大丈夫だろうか。まあ大丈夫だろう。古寺くんって何気にきくっちー達とも仲が良かった気がするし、確か同じ学校だ。まあ、そのあたりは実際2人が進学校という情報しか知らないので、別の学校に通っている可能性を考慮すると分からないけれど。
そんなことよりも、聞いて欲しい。古寺くん滅茶苦茶頭が良いんだ……。どうやら、進学校勢は復習も欠かさないらしい。私なんて普通校で滅茶苦茶頑張ってやっと順位表に名前を載せるくらいなのに古寺くんは毎回名前載せている。やばくない?? トップ10どころか。トップ5やトップ3の常連だよ。中学受験する時は同じ学校にしようよって言われたけれど、インフルエンザで受験出来ませんでした。というか、本当なら那須先輩と同じ学校に通うはずだったから、パンフレットとかも持ってきてもらっていたのに面目無い。今は合わせる顔がないので顔は全く合わせていない。那須先輩と同じ学校だったら制服も可愛かったのになあ。まあ今の学校でも、聖人とっきー様がいるから全く不便ではない。むしろ、スクールライフは十分に満喫しているし、当真先輩とかとも連絡が取りやすいので良かったという事にしている。佐鳥ちゃんもいるし……、本当同じ学校でよかった。佐鳥ちゃん好きすぎ。そろそろプロポーズしてくれないかなあ。
「そういえば、風間さんって何で今日の防衛任務に私の名前挙げてくれたんだろう……。まあ私は給料上がるから万々歳なんだけど」
「苗字が暇そうだからでしょ」
「苗字のイメージ……。そういえば私、風間さんと話した事全然ないんだよ。知ってた? ああ、でも きくっちーの話は良くするよ」
「なんで? やめて本当に」
「私がいつも きくっちーにお世話になってますって、よく言ってるんだよね」
「苗字に ぼくが世話になった事はないしね」
こんな事を言ってるけれど、私はきくっちーがツンデレであるという事をちゃんと知ってる。故に傷つくことはないのだ。無敵である。
クッキーを完食した私はボーダーに向かって歩いていた。風間さんは今日も太刀川さんのレポートと向き合っているのだろうか。そう思って出水先輩に『太刀川さんは?』と連絡すると、数分後に既読がついて、本のタイトルがズラリと送られてきた。そして、私ときくっちーは何故か図書館に行く羽目になった。きくっちーは大変迷惑そうな顔をしたけれど、風間さんが困ってるという声をスピーカー越しに聞いて、本当にあの人A級なんて辞めれば良いのにと太刀川さんに毒吐きながらも折れた。風間さん愛が凄すぎる。
「借りてきましたよー」
「すまない……苗字、菊地原」
「いいですよ、風間さんのせいじゃないですし。ぼくらがコレを借りてきたのは感謝される為でも謝られる為でもないですから」
「そうそう。でも、太刀川さんは前に私と出水先輩がレポートすればって声かけた時にやればよかったのに」
「馬鹿だなー。言ってやらないのが、この人なんだろ。だから風間さんが苦労する」
「出水、苗字。うるせー」
「へー、私 にのみーからレポートの要点とかヒントとか貰ってきたのになー」
「苗字、太刀川を甘やかすな」
私と出水先輩と風間さんときくっちーは太刀川さんの溜まりに溜まったレポート課題、欠席分の課題プリントなどをズラリと広げて固まった。参考文献とされる資料を読むのだけでも大変なのにこれは酷い。しかも、太刀川さんと同じ大学の同じ学部に通っている人なんているはずもなく、自分でやらざる得ないという訳だ。なんでこの人は月見さんを幼馴染に持っているのに こんな風になってしまったのだろう。私は不思議で仕方ない。
なんなら、二宮さんや風間さん、嵐山さんなど太刀川さんと同じくらいの年齢で真面目でちゃんとしているボーダー隊員は多い。一緒にやったら良いのにと思うけれど、確かに二宮さんは太刀川さんのようなチャランポランな人は戦闘面以外では信用しなさそうだし、嵐山さんと太刀川さんのセットなんて想像できない。そうなると、まあ風間さんくらいしか共にやってくれる人はいないのだけれど、風間さんが太刀川さんと一緒に課題を熟すなんていう姿は想像出来ない。だからこうなるのか。ああ、納得。
「折角きくっちーとデートしてたのに、3時間しか遊べなかったじゃないですかー」
「…………デート? いや、お前らセコムに引っかかんなかったん?」
「なんの話ですか?」
「いやだから、セコム」
「は?」
「苗字も滅茶苦茶ウゼーけど菊地原も その顔やめろ。おれ一応先輩だからな」
きくっちーは出水先輩に絡まれるのが嫌だと帰ってしまい(出水先輩は滅茶苦茶失礼だと、きくっちーに怒っていた)、この場には結局、私と出水先輩、風間さんが残った。もちろん、太刀川さんは当然いる。太刀川さんは課題プリントを熟し、私と出水先輩は太刀川さんがサボらないように見張り、風間さんが一番最悪な参考文献を読み漁る役目だった。しかもその要点をまとめるのも風間さんの役目だった。それはあんまりだろうと思った私も反対側にあった3冊の分厚すぎる参考文献を手にとってまとめる。かつて二宮さんがやっていたのはコレだったのか、と目を細めた。ていうか、なんでこんなに課題溜めるの、太刀川さん。
風間さんと私が参考文献を纏め終えたのは、深夜3時を回った頃だった。始めたのが午後5時くらいだから、それはもう滅茶苦茶な時間を割いた。9時を回った時点で「風間さんがコイツのレポートだ。そんなに真面目に読む事はない」と折れてくれたから終わったが、まともに読んでいたら1週間はかかるだろう。私も風間さんも23時を過ぎた時点でトリオン体になった。普通は怒られるのだけれど、忍田本部長がやむ終えないと判断した。どうやらレポートの期限は月曜日らしい。そして今日は日曜日。どうやら太刀川さんの欠席分の課題は終わったようで出水先輩もゲッソリとしていた。半分やらされたらしい。
「苗字、助かった。ありがとう」
「いいえ。風間さんのお役に立てて良かったです!! きくっちー……菊地原くんのこと以外ではあまり話した事がなかったから」
「そうか。そうだったな」
私達はお互いとても疲れていて、換装を解いてからは直ぐに目を閉じてしまった。朝目を覚ましたら、風間さんは既に起きていて「私に昨日はご苦労だった」と冷めたい麦茶を用意してくれた。まだ冷たいから先程買ってきたのかもしれない。風間さんも眠った筈なのに、果たしていつ目を覚まして、いつ太刀川さんを叩き起こしレポートを手伝っているのか。本当に大変な人だ。A級の仕事だってある筈なのに、太刀川さんの大学課題まで……。A級は嵐山隊に引き続き、風間隊もこんな闇労働に追われていたのか。A級はブラック企業並みに働くっていうルールでもあるのかな。その役目が回らないことを願うばかりだ。いずれ米屋先輩あたりがそうなりそうで怖い。三輪先輩には頑張って欲しい……。
「昨日はキツく当たってすまなかった、苗字。俺はA級とはボーダーの手本であるべきだと思っている。それにしても、プライベートな話をあの場で切り出させるのは不味かったと反省している」
「嵐山隊の交代の時の話ですか?」
「ああ」
「あれなら平気です。ああいう誘いってコソコソやってる方が本気っぽくて恥ずかしいので かえって良かったです」
「……気を遣わせてすまない」
「全然使ってないですよ。本当に」
そんな小さな事を気にしていたのか。風間さんは真面目な人だ。二宮さんも昔そんなような事を言っていたから相当真面目な人なのだと思う。それなら確かにこんな小さな事でも気にしてしまうのかもしれない。
私と風間さんはきくっちーについて話す仲でしかないーーーそんな仲でしかなかった筈なのに、この日を境に私達はきくっちーを挟んで良く食堂に行く仲になり、更には太刀川さんにレポートを急かす仲となった。あの苦労を目の当たりにしては、そうなっても仕方ないと思う。私は その日から良く風間さんと話すようになったし、出水先輩といる時に太刀川さんを見かけると、良く課題を隠しているかいないかを吐かせるように試みた。もし、溜め込んでいるようなら忍田本部長にチクったし、風間さんにもシッカリと連絡をした。そう、私と風間さんはメル友になった。さあて、それでは今日も一日頑張るとしようか。