
きたる未来へ贈り物
ボーダーの記者会見があるという火曜日の今日、私は何時ものように黒板を眺めながら板書をノートに書き写していた。しかし、正直気が気じゃなかった。最近仲良くなった私の隣の席の女の子が私に信じられない情報を教えてくれたのがキッカケである。なんと、とりおが男の子が好きだという話だった。最初は嘘だろ……ーーーと目を丸くしたけれど、話を聞いていると納得できる点もいくつかあった。例えば、とりおは私が学年で1番可愛いと思っている水無月愛子ちゃんに告白されても付き合わなかった事。更に、学校で1番可愛いと評判のマドンナ松原杏奈先輩に告白されても平気な顔をして断ったらしい。なにより、あの木虎ちゃんや香取ちゃん、亜季先輩にも靡かない。もうこれは間違いない。疑う余地もない。とりおは男の子が好きなのだ。そう思った私は、とっきーに相談した。『とりおって男の子が好きなの?』と。とっきーは私の言葉に沈黙して暫く「言われてみれば そうかもしれないね」と言った。はい、確定。確定しました。烏丸京介男好き説。
だからこの私がちょっと迫ってみても顔色を全く変えないのだ。そうでないとするのならば、私に女としての魅力がないということになるから、そうでなくては困る。しかし、それを熱弁してみると、とっきーは「苗字は可愛いよ」とサラリと口にする。だからモテるんだよ。もう本当に反則だと思う。困ってると直ぐに助けてくれるし、なんなの……。
「あ、烏丸と佐鳥」
「佐鳥ちゃんと、とりお!!!?」
とっきーの何気無い一言に物凄い勢いで廊下に出た私は佐鳥ちゃんを引っ張って私の後ろに隠した。そんな私の行動に廊下にいる人は注目して私達を見た。私に引っ張られた佐鳥ちゃんは「え? なに?? 苗字?」と後ろで混乱していて、とりおはというと私を見て、今度はなんだよお前、という顔をした。
「佐鳥ちゃんは私のだからダメ!!!」
「「は?」」
佐鳥ちゃんと とりおは殆ど同時に首を傾げた。佐鳥ちゃんは背後にいるから表情は分からなかったけれど烏丸京介の表情は解る。ジトリ、とした冷たい視線を私に注いでくる。
しかし、私も引けなかった。知ってしまったからだ。烏丸京介が男の子が好きであると。そんなイケメン烏丸京介に私の大好きな佐鳥ちゃんをあげるわけにはいかない。佐鳥ちゃんは私の大切な親友なのだ。ちょっとしたことで落ち込むところも、私の全く効率の良くない行動に付き合ってくれるところも、全部大好きなのだ。その佐鳥ちゃんを、とりおなんかに渡すなんて冗談じゃあない。そんな事になる位なら既成事実を作ってでも私と結婚してもらう。
「苗字、目立ってるよ」
「だってとっきー……」
「昼休みに話せば良いじゃない」
「……まあ、」
佐鳥ちゃんに気を付けてね!!? 物凄く深刻な表情で伝えると、佐鳥ちゃんは縦に首を何度も振ってくれた。私はとっきーを信じ、教室に戻る。「烏丸は佐鳥のことは狙っていないよ」と、とっきーが授業直前に私に言う。なんで断言できるの? という事で頭が一杯になったあと、すぐに良からぬ可能性が浮上した。烏丸京介が既にとっきーを落としてたよ説。それを思い浮かべた時は、先生に心配された。きっと物凄く深刻な顔をしていたのだろう。「女なのにゴリラみたいな顔をしているぞ」と言われた。待って、先生。やっぱり私にアタリが強いんじゃないの??? まあ、いまはそんな事はどうだっていい。問題なのは、とっきーが烏丸京介に既に心をーーー……考えたくもない!!! なにしてんの!? 私のとっきーにも手を出したの!!? 佐鳥ちゃんにも手を出そうとしたのに!? とっきーがいるのに二股とかそんな事があってもいいの!!? 良くないよね!? とっきーだって良くないよね!!! なんなの!? どこまでも聖人なの!? どうしてそんなに広い心が持てるのかな!!!!
授業終了して昼休みに突入しても私はとっきーが話しかけてくるまで動かなかった。否、動けなかった。ついでにいうと、話しかけられた瞬間にとっきーのことを抱きしめていた。流石のとっきーも暫く思考が追いつかなかったのか、烏丸京介からの視線が痛かったのか、それともそれ以外なのか。暫くして「おれは佐鳥じゃないんだけど」と私に言った。知ってるけど、今日はそう言う気分だったの!!!
「とりおなんて嫌い」
「安心しろ、俺も好きではない」
「そうでしょうね。男の子が好きなら納得だよ、今まで勘違いしててごめんね」
「その勘違いが一番不愉快だけどな」
「私のとっきーと佐鳥ちゃんに手を出した罪は重いからな、とりお絶対に許さん」
「俺も同じ位 お前が許せないんだが」
「とりお うるさい……」
「お前にそんな事吹き込んだの誰?」
あくまでも自分はノーマルだとシラを切る烏丸京介に「とっきーも、とりおが男の子が好きだって言ってたもん」と返すと、とりおは とっきーに咎めるような視線を向けた。教室の視線は私、とりお、そしてとっきーに自然と集まった。主にとりおに。
え?? 烏丸くんって男の子が……と言う視線だ。その視線は流石に堪えるものがあったのか、とりおは私の頭に手刀を食らわせて私を黙らせ「俺はちゃんと女が好きだから」と堂々と口にした。それを聞いたクラスは、普段通りの賑やかな雰囲気を取り戻し、とりおは私の手を引っ張って いつもの空き教室に向かう。少しだけ腕が痛いから、もしかしたら怒っているのかもしれないーーーというか、間違いなく怒っている。私だって女の子が好きなわけではないのに「コイツの恋愛対象女なんだってよ〜」と言われたらキレるかもしれない。とりおもそうなのかも……。いや、でも……。あれはその場凌ぎの嘘で本当は男の子が好きだってこともあり得る。現段階では判断が出来ない。
「時枝……」
「おれも苗字の想像力に驚いてる。まさか おれが烏丸に手を出された挙句 好きだなんて勘違いが生まれるとは思わないでしょ」
「最初に否定してくれれば良かっただろ」
「それじゃあ面白くないよ。おれが」
「お前の楽しみよりも教室中に男好きのレッテルが貼られる俺の人生を考えてくれ」
「うん、だから おれもああなるなんて思ってなかったんだよ。ただ、苗字に男好きって思われる烏丸が見たかっただけ」
2人の会話に何が何だか解らないという顔をしていると、佐鳥ちゃんが「何で佐鳥を置いていくの!!?」と涙目で教室に到着した。可愛い。兎に角癒しである佐鳥ちゃんと仲良くお弁当交換をしていると、とりおと とっきーも混ざってきた。どうやら先程の会話は終了したようだーーーと、思っていたのだけれど、佐鳥ちゃんが私に「さっきはどうしたの?」と聞いてきた事によりリスタートした。
事の経緯をやむ終えず説明すると、佐鳥ちゃんは「とりまるが男好きでも友達でいるからね」と笑った。なんて良い子なんだろうと感動した私もそれに乗っかると今度は手刀ではなく思い切り弁当の包みで叩かれた。佐鳥ちゃんに関しては拳骨を食らっていて、かなり痛そうだ。とりおは本当に容赦ない。確かに私は本気だったけれど、佐鳥ちゃんは冗談だったかもしれないじゃないか。冗談が通じない奴め。
「俺は恋愛対象として男を見た事はない」
「苗字……とりまるは冗談通じない…」
「身を以て知ったよね」
「うん……」
「苗字は冗談じゃなかっただろ」
「そうだけどー」
だって とりお、女の子に見向きもしないんだもん。私の発言に とりおは瞬きを数回させてから「普通に女に興味はある」と言う。
嘘だ。それは絶対嘘。学校のマドンナまで振っておいて今更何をいうのだ、この男は。全く納得のいかないという表情を見せて頬杖をついた私にとりおは言う。
「苗字の胸は何カップなのかとか、苗字の胸はどれくらい柔らかいのかとか苗字が履いている黒タイツの下はどうなっているのかとかは普通に気になる。これで満足か?」
私と佐鳥ちゃんととっきーは静止した。
まず、1番最初に動き出したのは、とっきーで何事もなかったように御飯を食べ始めた。次に私が両手で顔を覆い、佐鳥ちゃんもまた同様に顔を覆った。そんなピュアっピュアの私達に、とっきーは「ご飯食べないの?」と聞くけれど、それどころではなかった。
「この、ど、どすけべやろう……」
「苗字が聞いたんだろ。それで、その黒タイツは脱いでくれるのか?」
「ふざけんな、しね」
「ああ、俺もまさか苗字にこんな冗談まで本気にされるとは思わなかった」
「…………嫌い!!」
ガタンと椅子を引いて立ち上がり、そのまま教室を出た私が泣きついたのは当真先輩ーーーではなく、三輪先輩だった。理由としては一番マトモに相談に乗ってくれそうだからである。当真に関しては理由は言うまでもない。出水も米屋も言うまでもないよね。消去法以前にどう考えても三輪先輩一択だったーーーのだが、付属品として付いてくるのが出水と米屋という男である。
2年の教室をひとつずつ回って、三輪先輩を見つけた瞬間に三輪先輩に飛び付くと、普通に支えられた。意外と逞しい筋肉を持っているのは昔から知っていたけれど、いつも支えてくれるこの男前っぷりは本当に凄い。「二年の教室に来るなんてどうした?忘れ物か?」と首を傾げた先輩に先程の出来事を語ると、出水先輩と米屋先輩はゲラゲラと笑って「苗字ってそういう耐性は全くねーのな!!」と言ってきた。コイツ等もそろそろ苗字の殿堂入りノートに名前を刻む時が来たのかな??? そんなに刻まれたいなら いつでも刻んでさしあげるけれど。ついでに言うと、お前等は最初からお呼びじゃあない。
「でも、ぶっちゃけお互い様じゃね? 苗字も教室で京介がホモって言ったんだろ? まだ空き教室でソレ言われる方がマシじゃん」
「お、おおおとめにですか!!?」
「乙女って柄じゃねーだろ」
「…………は?」
「そういうところが乙女じゃねーんだよ」
「そもそも、私は三輪先輩に聞いているのであって先輩達にそんな事言われに来たわけじゃないです」
「何だコイツうぜー」
「煽りスキルだけはマックスの黒タイツ」
あーあーうぜーうぜー、という出水先輩達の言葉に目に涙を溜めていると三輪先輩が出水先輩と米屋先輩に物凄い鉄拳を食らわせた。凄く鈍い音がした。痛そうだけれども、三輪先輩の行動に周りの二年生も私の味方をしてくれた。出水先輩達と言えば居心地の悪そうな顔をして「それでもお互い様だろ」と口を尖らせた。
「……お互い様なのは解るけど、そういう冗談は言って欲しくなかったの!!」
「ああ。烏丸が悪い」
「お前秀次……。苗字にデレデレだな」
「どう考えても言葉を選ばなかった烏丸が悪い。二宮さんでもそうやっていう筈だ」
「お前と二宮さんは苗字セコムの仲間に入れてもらったの? 個人としてもセコム始める奴いんの? 苗字泣かしたら色んな奴の地雷じゃねーか、最悪だな」
そんな時、授業がまもなく開始されることを告げる予鈴がなって出水先輩と米屋先輩が教室を出るついでに送ってくれると言うから、後ろから後を追い階段を降りるけれど、途中で教室には向かっていない事がわかった。先輩達は「秘密な?」と笑って職員用の裏口から出て学校を背に「さーて何処に行くかなー」と頭の後ろで手を組んだ。
「授業サボって良いんですか?」
「魔法の言葉で全て解決ー」
「「すいません、ボーダーっす」」
「うわあ、先輩達中々サボってる人の言葉ですよそれ。よくバレていませんね」
「おれは仕事多いし。遠征あるし」
「でも米屋先輩は三輪先輩と同じ部隊なのに先生達からなにも言われないんですか?」
「オレ? 出水と同じ隊の設定だから」
「勝手に設定変えすぎじゃないですか? こんなんが地域守ってるとか最悪……。私もうボーダー辞めたくなってきた」
結局2人について歩いている時点で人の事は言えないのだけれど。私達は特に行くアテもなく歩いて、何となく見つけたカラオケボックスに入って、ちょっと色々確認されたけれど慣れている(のか実際のところは不明だけれど口が上手く回るのは確かな)2人がボーダーで云々と説明するとすんなり入れた。逆に、すんなり入れすぎて怖い。
「ただ、まあ……苗字が京介よりマシなのは他人の入れ知恵で言ったってことくらいであって本来なら確かにお前はあまり悪くない。教室で言ったのがマズかったよなー。お前発言力ありそうだし」
「だってとりおってば、学校のマドンナも振ったんですよ!? 杏奈先輩!!!」
「松原杏奈よりお前のが可愛くね?」
「ウチの学校のマドンナお前じゃね?」
「か、からかうな!!!」
「「あー……これは仕方ない」」
かわいいなー、苗字この野郎、と頭を撫で回す先輩達に「五月蝿い」やら「しね」やら暴言を吐き散らしていると2人はのほほんとした顔で私を眺めて言った。「お前って、実家にいるペットみたい」と。因みに先輩達の家にペットがいるかは定かではない。
「うわ、苛めたくなる可愛さ」
「犬みてーだな、撫で回してみていい?」
「散々撫で回したじゃん!! 緑川にやってよ! 緑川の方がペットっぽいじゃん!!!」
「アイツは苗字と迅さん限定ペット」
「苗字と迅さんには滅茶苦茶懐いてるよな。ほら、髪切ったくらいから」
「いや元々結構懐いてたくね? おれらがなんか言う度に割と庇ってたし」
「あー、そういや確かに前に苗字の事パッとしない美少女とか言ってたわ」
「それじゃねーよ、槍バカ」
そんな事はおいておいて、帰ったら謝れよなー、という2人に「解りました」と唇を尖らせると「素直じゃねーなー」と笑われた。そんな事はないと思う。そうではないと思うのなら、それは先輩達が相手だからだと思う。少なくとも、私は三輪先輩や風間さんや嵐山さん二宮さんには滅茶苦茶正直に生きていると思う。間違いなく。まあ、迅さんやら烏丸京介やら先輩達やらには少し生意気かもしれないけれど。
それにしても出水先輩と米屋先輩は相変わらず、プライベートでも仲が良い。カラオケで曲を入れると「またそれかよー」と言うし歌っている時のノリも音楽にピッタリだから多分相当この二人は一緒に遊んでいると思う。その中に三輪先輩もいるのかとかは解らないけれど、少なくともこの2人は仲が良いらしい。
「いいなあ、先輩達仲が良くて」
「お前の人脈でそれを言うか? 流石にオレらも二宮さんと仲良くは喋れねーよ」
「にのみーは良い人だし」
「にのみーとか親しすぎん? イメージが二宮さんと対極すぎるだろ」
「それ言ったら、出水先輩だって いずみん先輩とかいう可愛い呼び方されてるじゃん」
「おれにピッタリじゃねーか」
「「どこが?」」
「お前はせめて おれの味方をしろ、槍バカ」
お昼にあまり昼食を食べずに来たこともあって料理を頼んで3人でポテトをつまみ、折角ドリンクバーなのだからと飲み物もドンドン注文してフリータイムを歌い切ると「げっ」と出水先輩が声をあげた。どうやら、滅茶苦茶な量のSNSメッセージが飛ばされて来ていたらしい。
私にも当真さんやら冬島さんやら、とっきーに佐鳥ちゃん、とりおから沢山のメッセージが送られて来ていた。学校を抜け出して来てしまった為に心配をかけてしまったらしい。
「こりゃあー、アレだな。3人して本部長から呼び出されるな。間違いなく」
「真面目な苗字は呼び出されないように なんとかするとして、今日お前らボーダー行く?」
「2人が行くなら行きます!! それに、先輩達が怒られるっていうのなら私だって一緒に怒られますよ。私が付き合わせたんだし」
「いやオレらじゃね?」
「気を遣わないでくれませんか」
「やっぱ可愛くねーな、お前。大人しく後輩らしく守られてりゃーいいのに」
そんなの卑怯じゃないですかと笑う私に先輩達は「オレらなら普通にバックレるよな?」と言って頷きあっている。それで良いのか、先輩達は。しかし、確かにウチの当真もチャランポランなところはある。だから後輩がキチンとしてしまうのでは? いやしかし、出水先輩には太刀川さんがいる。なのに何でこんな……。いや、でも確か出水先輩は結構成績はいいし、ボーダーでも天才なんて言われているから、別にチャランポランではないのか。どちらかというと、米屋先輩の方が酷い。やはり、隊長に真面目な三輪先輩みたいな真面目でキチンとしている人が付いているとこうなってしまうのかもしれない。
きっとそうだ。特に、犬飼先輩なんて酷い奴に育ったものだと思う。あの人は本当にヤバい。私の敵ノートの殿堂入りの次くらいには犬飼先輩が当たり前のようにランクインしている。本当に犬飼先輩は酷いのだ。今度会ってみてほしい。表情が無い。もしくは滅茶苦茶見下して来る。もしかして、あの人は私と二宮さんが仲良しだからって嫉妬しているのだろうか。どれだけ隊長愛が凄かったらそうなるのだろう。きくっちーかよ、とツッコミをいれたいものだけれど、きくっちーに失礼だから黙っておいている。
「苗字って変なとこ真面目だよなー」
「だってこんな先輩になりたいって思って欲しいじゃないですか。新しく入る子にも、今いる後輩の子にも。私は鳩原先輩の戦闘スタイルが大好きだったから、ちょっとだけやり方は違うけど、私みたいになりたいって言ってくれる人がいたらって思うんですよね……最近はクズやってますけど」
「おー……台無し感すげーわ」
「ラストに全てを持っていかれた」
二宮隊の鳩原先輩。私や当真先輩が思うに人は撃てないようだったけれど、人を撃つだけが狙撃手としての役割ではないと私に教えてくれた人でもある。別に本人が教えてくれた訳ではない。どちらかと言えば、鳩原先輩とは会話をしない方だったし……。というか、私は二宮隊の隊員とは基本的に話をした事がない。偶に亜季先輩が会話に参加するくらいで、基本的に話はない。辻先輩は女の子が嫌いなようだし、犬飼先輩は言うまでもなく無理だし、今は兎も角、半年くらい前までは私は亜季先輩にも嫌われていた。二宮さんと話す為だけに足を運んでいたようなものだ。
二宮さんといえば、出水先輩に弟子入りした事で一時期話題になったけれど、アレは本当に驚いた。この出水先輩に二宮さん!!? と一瞬思考も身体の機能も停止したのではないかと思うくらいのインパクトがあった。
「……苗字」
「と、とりお……教室ではごめん!! 私が最悪な事言ってごめんなさい!!!」
何となく今とりおの顔を見ると気まずいような何とも言えない空気になる事を悟った私は滅茶苦茶早口で謝罪して頭を下げる。
私の行動を見て「よく言った!!」と出水先輩と米屋先輩に滅茶苦茶撫で回されて、その後に何故か勝手に盛り上がっている2人にハイタッチさせられた。この二人のノリがわからない。
「俺も悪かった」
「気にしないで!? こ、今度は全然黒タイツも脱ぐし、苗字もそういうネタに強くなれるように頑張ってみるから!!!」
「いや、頑張らなくていい。出水先輩、米屋先輩。苗字を此処まで連れて来てくれてありがとうございます。借りていきます」
「青春だなー、京介ー」
「オレ達のマドンナいじめんなよー」
玉狛に私の鞄があるとか、弁当は遊真達が食べてしまったので洗っているとかいう謎の情報を得た私は玉狛に辿り着く前に「外で待っているから荷物を持って来て」と、とりおに提案するのだけれど、迅さんが小南先輩が云々で却下された。小南先輩は良いとして、迅さんは私に何の用事があるというのだろう。あれかな。 ご自慢のサイドエフェクトを駆使して、テメエの人生をどん底に落としてやるよ、みたいな……。やめてよ、迅さん。そんな事のためにサイドエフェクトを使わないで。いくら私という人間が嫌いだからってやっていい事と悪い事があると思うんだ。
「小南先輩、お客さんです」
「待って!! そこで待ってて! 今直ぐに用意するから絶対に近付けないで!」
「連絡したら直ぐに用意できるんじゃなかったんすか? ていうか迅さんは……」
「迅は上!!!」
「……し、死んだの?」
「馬鹿なのか?」
喧嘩を勃発させた私と とりおを止めたのは遊真で、私達の喧嘩は遊真の「2人とも何してるの?」という言葉でアッサリ鎮火した。
遊真はというと私を小南先輩のいる部屋に引っ張ると「おれ達B級に上がったんだよ」と言った。確かに、この間の大規模な侵攻で遊真と三雲隊員は戦功を勝ちとっていたはずだ。私は出水先輩達と一緒に戦功を貰っている人の名前をジックリと眺めていたからよく覚えている。空閑遊真。私より上の特級戦功。三雲修、私と同じ一級戦功。新人がそれもC級隊員が戦功を取るなんてとあの時の私は下に当真先輩がいたと勝手に喜んでいたけれど、上にある空閑遊真の名前に衝撃を受けたのを覚えている。それはもう、自分が一級で喜んでいたのが恥ずかしくなったし、上には上がいるのだと痛感した。
「三雲くん、退院したんだね。良かった」
「こちらこそ……苗字先輩も暫く目を覚まさなかったと聞いたので、今はお元気そうで本当に良かったです。あの時は千佳を助けてくれてありがとうございました」
「こちらこそ。最後まで守ってくれてありがとう。貴方のお陰で私が黒トリガーにならずに済んだって聞いたよ」
その私の何気ない発言に この場の空気が凍り「私、聞いてないわよ」。小南先輩はぽつりと呟くようにして そういうと、部屋を飛び出した。どこに行ったのだろうかと出て行く小南先輩を目で追ってから遊真達に視線を動かすと「もう終わった事だから、名前は気にしなくていいよ」と遊真が言うーーーので、お言葉に甘えて気にしない事にした。
暫く 遊真と携帯のゲームを二人でプレイしながら遊んでいると、ガタンガタンと物凄い音を立てて小南先輩が戻って来た。その後ろに、背中を抑えながら歩く迅さんの姿がある。一体何があったのだろう。きっと一悶着何かあったことだけはわかるけれど、触れない事にしよう。私が2人からゲームに視線を戻すと小南先輩が私達の後ろから顔を出した。
「ね、ねえ! そういえば名前は近々此処に泊りに来るんでしょう? いつ来るのっ!?」
「いつにしようか、どうする? 遊真」
「おれはいつでもいいけど、とりまる先輩は いつなら玉狛にいるの?」
「今週の土曜日は開いているな」
「それ丁度B級ランク戦の初日じゃない」
「でもおれ達が勝つから問題ない。名前が空いているならドヨウビにしようよ」
「いいよ! 終わったらラーメン行こう!!」
「うん。名前の連れて言ってくれる店のモノは美味しいからな」
「遊真、アンタ名前とそんなに頻繁にご飯に行ってんの!? そんなのズルイ!! あたしだって名前とご飯に行きたいのに!」
「なんで?」
「なんで!!? 理由が無いとダメなの!?」
自分で言うのもなんだけれど、何故か私は小南先輩に好かれていた。あくまで私が勝手に思い込んでいるだけだから定かではないけれど、多分好かれていると思う。なんだろう。何かの魔法でこうなったの? それとも迅さんが何か刷り込んだのだろうか。詳細は分からないけれど、結局土曜日はランク戦が終わった後に木崎さんのご飯を皆で食べる事になった。本当は外出する予定で盛り上がっていたのだけれど、迅さんが上手く丸め込んだ。
そんな迅さんは私に「会って欲しい奴がいる」と行って玉狛の迷路のような廊下を歩かせた。
「……迅さんついに闇ルートですか? 実は私のこと監禁しちゃうくらい好きとか」
「おれは それでもいいんだけど、是非お前の料理の実験体になりたいって奴がいてさ」
「物好きな奴もいるんですね、偏食ですか? ていうか遠回しに滅茶苦茶失礼ですよね」
「偏食ではないな。仲良くなって欲しいんだ。料理は上達するし一石二鳥だろ?」
「それを食べる人の気持ちになると私は精神修行させられるのかな? と思います」
「あながち間違ってないかな」
迅さんは玉狛口元に弧を描いて、目の前の扉をゆっくりと開いた。中には人がいて、視線を交えた私達はお互いに説明を求めるべく迅さんの事を見上げた。
「よう、ヒュース。これがお前の世話係の苗字名前。実力はあるんだけど、性格に難ありでさ、お前といる事で良い影響を及ぼすみたいなんだよね。仲良くしてあげてよ」
「待って。勝手すぎる 見てあの顔。世話係なんていらねえんだよって言ってる!!」
「言ってるな〜〜〜」
「言ってるよね!!? やっぱり!!」
「こういう性格なんだけど、愛嬌あって可愛いだろー、名前は。でも、好きになったらダメだぞ、ヒュース」
「なるわけがない。失せろ」