彼を未来と呼ぶ男






 こんにちは。こんなヤツ好きになる筈がないだろうと告白もしていないのに振られた私です。

 そもそも玉狛支部の地下に こんなにイケメンがいるなんて聞いていないし、まさかそのイケメンと2人っきりで置いていかれるとも思っていなかった私としても冷や汗が止まらないといった状況である。汚い表現かもしれないけれど、冗談抜きでダラッダラだ。そもそもなに?? 何を話せばいいの? 世話係なんて言われたけれど、私玉狛の人間じゃないんだけどな〜〜。料理?? ちょっと待ってよ、迅さん。私は玉狛じゃないから、毎日此処に来る予定はないんだよ? それはあんまりじゃあないですか。




「苗字名前です」
「お前達と仲良くするつもりはない」
「そんな事言わないでよ。私がシンドイじゃん。そんな事より何でこんな所にいるの?」
「話すことは何もない」
「ちょっと待ってね。いま、迅さんに電話しないと私が玉狛支部を破壊しかねないから」




 あれ、ちょっと待って。私のアドレス帳に最近まともに話し始めた迅さんの番号が入っているわけがない。迅さんはドSのメーターをカンストだけでは留まらず、メーターも振り切ってしまったのだろうか。そうじゃないのであれば、私を こんな地獄に放り投げたりしないよね。

 大体このイケメンさっきから話をしようとか、広げようとか、そういう努力が1ミリも感じられないのだけれど。コミュ障だとしたら、そういう次元突破しているからね。私だってコミュ障なのだから、一番掛け合わせたらいけない組み合わせなんじゃあないの? なにもう。その大きなフードにはなにか意味でもあるの? なんなの。私がこのイケメンについて知っている情報なんて、迅さんが呼んでた名前ーーーヒュースーーーくらいだよ。情報少なすぎるでしょう。




「そうだ ヒュースくん、先に言っておく」
「……」
「私、実は暗黒物質ダークマターを生み出せる特殊なサイドエフェクトを持っているの」
「なに……?」
「当然その反応になるよね。サイドエフェクトっていうのは人間の持てる能力の延長線上にあるもの、火を出したりとかはできない」




 ヒュースくんは先程とは打って変わって興味のなさそうな表情から、私を警戒するかのような深刻な表情を浮かべて眉間に皺を寄せた。もちろん、そんなサイドエフェクトを私は持っていない。私のサイドエフェクトはあくまでも人間の延長線上にあるとされるサイドエフェクトだ。まあ、本当にそれ人間の延長線上なのかと聞かれたら、なんとも言えないけれど、それは私だけじゃあなくて、迅さんの未来予知なども該当すると思う。

 ロリコン好きの鬼怒田さんを滅茶苦茶ノせて聞き出した雨取隊員のサイドエフェクトだって相当チートじみていると思う。近界民ネイバーの居場所感知、ゲートの出現の感知。なにそれ? そんなのあったら給料滅茶苦茶貰えるじゃん。私は当然キレそうになったし、実際実戦で使うとなれば他に追随を許さない最強のサイドエフェクトの一角だと思う。しかも、それだけでも充分にチートだというのにも関わらず、雨取隊員は自分のトリオンを隠蔽し気配を隠せるらしい。は? 最強の狙撃手にでもなるの?? なんなの? 本当に無理。そんな最強のサイドエフェクト存在していいの? 敵じゃあなくて本当に良かった。玉狛ヤバいサイドエフェクトのひとが多すぎる。




「いまここで生み出せるわけじゃない。私はその暗黒物質ダークマターを料理に反映させられるの」
「どんな拷問でもすればいい。何をしようと、オレがお前に何かを話すことはない」
「えー……じゃあ、情報交換をしよう。私が滅茶苦茶重要な私についての情報を話すからヒュースくんも教えるみたいな」
「そんな話を聞いたところで、オレがお前に話せることは何もないし、お前の先程の話が嘘だという証拠もどこにもない」
「頭が堅すぎる……」




 確かに証拠は何もない上に私は そんなサイドエフェクトがあろうがなかろうが料理の完成形は しっかりと暗黒物質ダークマターなので、なにを言おうと これから先、彼の中での私は暗黒物質ダークマターを作り上げるやばい女である。

 もっとも、彼は私に現時点で全く興味がないように見えるから直ぐに忘れてくれるだろう。私はその結論に既に辿り着いていた。




「でも世話係の私としてはキミについて少しでも情報が欲しいわけなのだけれど、やっぱり無理だよねー」




 まるでひとり言だとツッコまれるような会話が長い時間続く。例えば、私のいる冬島隊は強いけど私は雑魚の極みで困っているだとか、何気にボーダーのシフトがキツくて困っているだとか、大体こんな感じの内容をひたすら初対面のイケメンにぶつけるという最悪な女。まさに私である。ああ、でもやっぱりちょっと愚痴りすぎたかなー。そうおもって顔を上げるとヒュースくんと目があった。

 彼は私を一度だけ見ると「そんなに身内の情報を与えてもいいのか」と言った。




「……どういう事?」
「オレはお前の敵だという事だ」
「ああ、玉狛支部だし形式上はそうだよね」
「何も聞かされていないのか、只の馬鹿なのかは知らないが、オレは近界民ネイバーだぞ」




 顔を引攣らせてから、私は自分が目の前の近界民ネイバーにどんな情報を話してしまったのかと思考し、「私、きみに何を言っていた?」と尋ねてはみるけれど、案の定。彼が私に答えを教えてくれることはない。けれど、思い出してみれば大した事も言っていないと思う。例えば、当真先輩が殿堂入りでとか、そんなような内容の筈だ。私は終始愚痴を喋っていた筈だ。例えば他の部隊の情報(主に太刀川さんの強さについて)を喋ってしまっていたかもしれないとしても、それは私の部隊には何も問題無いわけで、大丈夫だと信じている。信じたい。

 百面相をしている私にヒュースくんは「愉快な女だな」と(間違いなく褒め言葉ではないを)口にしてベッドに寄りかかった。ここまでツマラナイ上にどうしようもない会話を繰り広げた私に対して、未だに心を開いてくれないのは当然と言えるけれど、ヒュースくんが全く興味がない。さあ、寝よう。というような行動に出ないのは正直意外だったし、どちらかと言えばありがたかったーーーので、私はヒュースくんに対し親しみを込めて、きくっちーだと思って接する事にしようと思う。彼の行動は全部ツンデレからくるものだと思い込むことが出来ればダメージは最小限どころかゼロに抑えられる。なんて良い作戦なのだろう。敵に情報をつらつらと話してきたなんて知られたら私は城戸さんに滅茶苦茶絞られる。それに、目の前の近界民ネイバーをきくっちーであると心の底から思えたのならばーーー。




「知っているとは思うけれど、迅さんには気を付けた方がいいよ。性格も悪いし、顔がいやらしいし、女の子のお尻触るのが好きらしいし、兎に角最悪な人間だから!!」
「……」
「自分で『実力派エリート』とか言ってて、本当なに言ってんのって思うし、お前は差し詰め変態お尻怪人だろって思うもん」
「うっわ、変態お尻怪人ってなに? おれそんな風に思われてたの? マジで?」
「…………いつからいたんですか」




 苦虫を噛み潰したような顔を浮かべて迅さんを見上げると「変態お尻怪人は流石に嫌われすぎじゃない?」と上機嫌に笑った。なんでそんなに上機嫌なのだろう。ドMなの? ドSもドMもどっちもいけるって事? なにそれ才能じゃあないですか。本当にヤバいじゃあないですか。一周回って冷静になってしまうくらいにはヤバいと思う。そろそろ、そのおれのサイドエフェクトがそう言ってるみたいな格好いい台詞を真顔で言うのをやめた方がいいよって言えてしまうくらいには冷静だ。いやこれは、かえって冷静ではないのかもしれないけれど。

 ーーーと、まあ冗談はここまでにして。私は携帯を開く。そして携帯を開いてなんとビックリ。結構、いや。かなり良い時間だった。どうやら、私は2時間近くここにいたらしい。しかも私だけが1人で話していた。2時間も愚痴を言えるとか私のストレス……。




「私、いま気付いたんですけど。迅さんよりはヒュースくんの方が好きです」
「それは絶対嘘でしょ」
「いや自分を神格化しすぎ。迅さん、私の中のヒエラルキーの最底辺じゃないですか」
「嘘だろ……。昔あんなに仲良かったのに おれお前の中でいま最下層にいるの?」
「最近までは上にいたんですけれどね」
「うわあ、普通に傷付いた」




 悲しんだフリをする迅さんは「そろそろ夕飯だから頼むな」と言って私をキッチンに連行した。迅さんに引っ張られて、台所の前に立つと「名前が料理するの!?」と、小南先輩だけが目をキランキランと光らせていた。眩しい……。因みに、小南先輩達の分は木崎さんが作ってくれるそうで、私はあくまで自分とヒュースくんの分だけを作るらしい。木崎さんが横で材料を眺めて「苗字は肉じゃがだな」と頷いていた。……肉じゃが?? ハードル高くないですか? 最初はもっとこう……。カレーライスとかなんじゃあないの?

 ーーーと思って、迅さんを見たけれど「レイジさんが手伝ってくれるんだから大丈夫だよ」と右手でVサインを作っている。なんでなにしていてもあんなにムカつくんだろう。私は自分の中で生まれてしまった小さな疑問を抱えながらも、木崎さんの説明に耳を傾けて野菜を切り、材料を入れた筈だった。




「…………うわ、これが肉じゃが……。いや、これも見えてはいたけど、レイジさんがいてもこうなるのか……」
「でも味は悪くないよ」
「見た目が頗る悪いだけで、結構美味しいじゃない!! 流石、苗字名前ねっ!」




 いやそれ、嬉しくな〜〜〜い。

 ギリギリフォローにもないです。確かに味は木崎さんが横で手伝ってくれただけあって食べれない程ではなかったけれど、この見た目……。正直もう胃がキリキリする。本当にどうなんだろう。見た目は完全に暗黒物質ダークマターのソレだ。とんでもないな。私なら初対面の人間にコレを出されたら捨てるかもしれない。いくら捕虜とはいえ、もう少しまともな料理を提供するべきなのではないだろうか。というか、なんで私が料理係を担当しているのだろう。その役割は、もう料理の天才の木崎さんでいいじゃん……。




「うーん、やっぱり木崎さんのがいいと思います。これ食べるとか可哀想すぎる……」
「それなら あたしが食べてあげる。本人もこう言ってるんだし、いいでしょ?」
「いやダメ。小南のはコッチだから。それは名前とヒュースの分です〜〜〜」
「なによっ! 別に良いじゃない!!」
「ダメダメ、未来に必要な事だし。それに名前はヒュースの世話係 兼 料理係だからな」
「ちょっと待って。あの捕虜の世話係に名前をつけたの? 贅沢すぎない?」
「どういう流れでそうなったんすか?」
「まあ、色々な」




 とりお達の前では はぐらかした迅さんも地下に向かう少しだけ温度の低くなった道で「変なこと任せてごめんな」と言う。そんな事を言うくらいならば、最初からやらなければ良いのにと思うけれど、迅さんは言っていた。『未来の為に必要な事』だと。その未来は、誰を中心に見た誰の為の未来なのだろう。迅さんの事だから大切な誰かかもしれないし、遊真や三雲隊員、玉狛支部の未来かもしれない。はたまたボーダーという大きな組織かもしれない。ただ言える事があるとすれば、ヒュースくんは間違いなくアフトクラトルの捕虜だという事。そして迅さんの様子を見る限り、彼と仲良くする事で生まれる利点があるという事だ。

 けれど、どうしてその役に私を据えたのだろう。迅さんは私が城戸派だと知っているのに。




「料理作る必要ってあるんですか」
「ない」
「ないの!? どれだけ嫌いだったら そんな面倒な事をホイホイ任せられるんですか……。迅さん 私のこと嫌いでしょ…死んで……」
「おれが死んだら この先の未来が大変な事になるよ。遺言を残すにしたって未来が確定していない上に、知り合いでもない奴の未来は見えないからなー」
「死ぬなら戦場の中で死んでくださいね」




 ヒュースくんの部屋にご飯を持って行ってガタガタガタと手首を震わせながら差し出すと、彼は この世の物とは思えない一応食べ物だとされる私の持ってきた暗黒物質ダークマターを見て口を手で覆う。

 なんだこれは、本当に食べ物か? という意見を求める目に迅さんが「一応味はイケる」と親指を立てる。一応は余計でしょうと思いながらもヒュースくんの方にご飯とおかず(肉じゃがだったもの)を渡して、私もソレを食し始めるとヒュースくんは本当に食べ物なのかと私の様子を見て顔を青くしていた。気持ちは分かる。理解もできる。私なら当然ゴミ箱に葬り去る品である。ヒュースくんがいる手前食べているーーーいや、作り出した責任として食べていると言った方がいいのか。兎に角、この見た目は普通の人間なら口に入れるのを躊躇する品だ。ただ、恨むなら迅悠一を恨んで欲しい。言い逃れする訳ではないけれど、私は一応木崎さんの料理の方が良いのではないかと提案した。提案はしたのだ。だから あくまでも、私の料理でいこうと言ったのは迅悠一である。恨むのならば、迅悠一を。そしてあわよくば私の代わりに滅してくれないだろうか。ボーダー内での闘争は規定違反となるけれど、ヒュースくんとなれば話は別だ。相打ちでも大健闘だと思うし。




「ヒュース。いくら見た目が悪いとは言え、名前も食べてるし毒は入ってないよ」
「私はコレを誕生させた責任で食べているのであって彼が食べる必要はないと思います」
「じゃあ断食?」
「極論すぎるでしょ。木崎さんのやつ」
「じゃあコレ誰が食べるの? おれ?」
「捨てればいいじゃん。なんで絶対に誰かが食べるっていう選択肢しかないんですか」




 迅さんと言い争いをしていると、とりおが私を呼びにきて結局私は その日ヒュースくんがご飯を食べたのかも分からないまま、当真先輩のお迎えで防衛任務に向かう事となった。夜の防衛任務は基本的に一度自宅に帰ってから向かう為、今日の様なケースはとても珍しくって当真先輩には「お前が玉狛に行くなんて珍しいな」と言われた。私もそう思う。大体今日はそもそもそういう予定ではなかったのだから当然だ。当真先輩は知らないかもしれないけれど、珍しいとかいうレベルではない。大体、皆は私と とりおが仲が良いと信じているから直ぐに疑うけれど、私が玉狛支部を訪れるのは記念すべきこれが二度目である。この間の遊真との初対面が初訪問だ。だから意外とアットホームな雰囲気に少しだけ驚いたりもした。

 戦闘時にアレだけ恐ろしく見える木崎さんや小南先輩があれだけ親しみやすく見えるのも、あの玉狛支部の雰囲気が原因だと思う。間違いない。……木崎さんに関しては防衛任務の時に偶々一緒に担当する事になった時は滅茶苦茶強者感出して前衛に立っていて物凄く逞しい……と、いうよりもむしろ怖すぎて話しかけられないという印象だった。完璧万能手とか神すぎ。世界が違うと思ったから間違いない。そう考えると、玉狛支部の雰囲気って凄い。入りたいとは死んでも思わないけれど。




「なんで玉狛支部ってあんなにアットホームな感じなんですかね。あの木崎さんがママに見えるって凄くないですか?」
「そりゃあすげーや。お前の頭が」
「本当なんですって。当真先輩って私の話を全然真面目に聞いてくれないですよね」
「失礼な女だな」




 暫く進むと当真先輩がトリガーを起動させたので、私もトリガーを起動させる。そうすると真木さんが「やっと 連絡繋がったよ」とちょっとだけ怒った感じで言っていた。可愛い。因みに、最近知ったのだけれど真木さんと私は同い年らしい。えー、嘘じゃん、という表情を浮かべる私に真木さんと冬島さんが真顔で、いやこれは本当だから、と正したので間違いない。そうか、同い年……。シッカリしすぎて分からなかった。でも同い年とは言え、学年は違うし、年が同じだけ。私だって学年相応にしっかりしている筈だ。きっと。

 話は戻すけれど、私達は太刀川隊と入れ替わりに防衛任務を担当する事になっているので太刀川隊の人から引き継ぎの報告をして貰う。去り際に出水先輩が「今日はお疲れなー」と手を振ってくれた。やっぱり出水先輩は偶に良い人だ。アレだけの事をやられていながら まだあの人を良い人であると錯覚出来る私も相当凄いと思うけれど、あの人や米屋先輩は基本的に面倒見が良い人だから許してしまう、というところはある。ここが当真勇との大きな差である。




「冬島さ〜〜ん。私、最近頻繁に防衛任務に駆り出されいるような気がします」
『その分、給料が貰えるからいいじゃねーか。今度のラーメン屋はお前の奢りな』
「うわあ、一度も奢った事ない癖によく後輩にたかれますね。真木さん、冬島さ〜ん。今度一緒にラーメン博物館行きましょうよー」
『苗字が仕事を真面目にやったらな』
『名前が仕事したらね』
「当真先輩のが仕事してないし!!!」
『俺はちゃんと当てるからいいんだよ』
「理不尽!!!」




 冬島さんも真木さんも私に厳しいんですよ!!と反論するけれど、2人は通信越しに笑い声を響かせて「愛情の裏返し」と声を揃えて言っていた。




「当真先輩に愛情はないって事ですね」
『撃ち抜くぞ、ひよっこ』
「私を撃ち抜いたら冬島さんに当真先輩が緊急脱出ベイルアウトさせられる挙句に鬼怒田さんに怒られますよ」
『部隊で仲良く怒られようぜ』
『任務放棄はマズイだろ、頼むからやめろ』
「任務放棄じゃなきゃ良いんですか」
『仲が良いって事で』
「真木さんえぐいです……」




 常識人の真木さんと冬島さんも最近は作戦室で仲良くお話をする仲にまでなったせいか最近では私達の割と本気の防衛任務バックレようぜ、みたいな会話に冗談のノリで入ってくるから恐ろしい。

 因みに割とこの2人ヤバイわ、と私が確信した話をするとするのならば……そうあれは、遠征前の防衛任務。真木さんと冬島さんが報告面倒臭くね? と会話していた私達の会話に乗っかってきて(その時は本気でびっくりした)、引き継ぎ報告無視して緊急脱出ベイルアウトをするという作戦に出たのだ。いや、思ってもしねーよ、と流石の私と当真先輩も思考を停止させた。勿論、私達は2人の(というか冬島さんが勝手に緊急脱出ベイルアウトしたとかいう信じられない)行動に、かえって冷静になって淡々と報告をして本部に帰った。いま思えば、私達にちゃんとしなさいというお告げだったのかなとも思っているけれど、やり方が汚い。お茶目では済まない事をするのが、この2人である。恐ろしい。




「そういえば、知ってます? 玉狛の空閑遊真って子、あの小南桐絵の弟子らしいですよ」
『へえ、小南の』
「遊真ってば滅茶苦茶可愛くて、今度の土曜日玉狛支部にゲームやりに行く事になったんですけど防衛任務入ってませんよね?」
『ああ、それは平気だが……玉狛の奴等からはちゃんと許可は取ったのか?』
「はい!! 今日もその話もしてきたんですよ! 肉じゃがも木崎さんから学びました! 花嫁修行ってヤツですかね!!」




 その言葉を口にした瞬間、私と皆との通信は切れた。私の通信だけ真木さんによって切断されたらしい。え?? なんで? まさかの部隊内でのハブリ発生したの? そんなに苗字の話が聞くに耐えないって事?? はいはい、仕事しますよ。

 しかし、妙なのはトリオン兵は沢山出ていたのにも関わらず、暫く当真先輩も冬島さんも誰も仕事をしなかった事だ。私だけがアイビスでトリオン兵を撃ち抜いていた。まあ、私は給料が上がるから良いけれど、仕事しろって言った皆が苗字をハブって仕事しないってどうなの……。これだから冬島隊はダメなのだ。最近ちょっとマシになったかもと思っていたのだけれど、どうやら違うらしい。改めて言おう。私にとって、冬島隊とは同じエンブレムを背負っているだけの敵であると。











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Espoir