すれ違い革命






 今日はなんと! 占い最下位!! 前日にあんなに頑張って防衛任務頑張ったり、肉じゃが作りを頑張ったりしたのに占いが最下位なんて こんな事があって本当にいいのだろうか。

 苗字知ってるんだよ。占いってちゃんと専門家が占ってるんでしょう? わりと真面目なやつなんでしょう??? そんなの無理じゃん、今日乗り越えられないじゃ〜〜ん。しかし、私には内申点という大切な点数が必要で……、こんな事してる場合じゃあない。だってほら、もう授業始まってるし……。おわかりいただけただろうか。そう、遅刻しました〜〜。 なんなの、もうインフルエンザにでもかかりたい。朝から、とっきーと佐鳥ちゃんに昨日の事を滅茶苦茶心配されるし、無理。合わせる顔がない。




「おい、こら苗字。お前なにやってん……あー、そういや出水が今日お前が昨日の夜防衛任務って言ってたわ、寝坊か」
「Hey ! teacher !! I'm sorry I'm late. I overslept !! ……って言えば、許してもらえますかね。今日授業エリザベスなんですよ」
「いや誰だよ」
「現代文のメガネで厳しめの」
「松永先生じゃねーか。エリザベスの要素どっから来たんだよ、笑かすな」
「どんだけ表情筋なかったら笑かすなとか言っておきながら滅茶苦茶真顔なんですか」
「そういやお前あの後烏丸とどうなった?」
「付き合いました」
「マジか!!?」
「超嘘だよ、察しろよ。ていうか米屋先輩滅茶苦茶表情筋動いてるじゃないですか。笑顔が無表情とか逆に怖いんですけど」




 ていうか何でいるの? この質問に米屋先輩は「あー、オレは普通に防衛任務に行くところ」と答えた。いやもう行ってください。早急に行け。三輪先輩に迷惑かけるんじゃない。私の鬱陶しい視線に米屋先輩は一年の教室をガラガラと勢い良く開けて「先生、一年の苗字名前が超サボってまーす」と、最悪の言葉を並べて走っていってしまった。

 ーーーえ? なにこの公開処刑。昨日の言葉訂正しようかな?? 米屋先輩は絶対面倒見良くないよね? 酷くない?? ていうか、エリザベス……。本当に顔怖いよ……。




「苗字は授業の後、集合」
「エリー……そんなに苗字が好きなのね」
「誰ですか、それは。いい加減にしようか、苗字。取り敢えず、席に付け」




 現代文の授業を終えて、先生からの愛の鞭をくらいながら、米屋先輩を恨む。しかし、米屋先輩が背中を押してくれなければ、教室に入らなかったかもしれないのも事実なので何とも言えない。しかし、どれだけ不器用だったら あんな半強制的な感じで私を教室に放り込む事が出来るのか。やはりボーダーの先輩達は性格に難ありな人達が揃っているのだと思う。間違いない。迅さんとか、犬飼先輩とかね。あとは、当真先輩とか。挙げ出したらきりがない。

 エリザベスこと、松永先生が教室を出るとマブダチのとっきーが「昨日は、おれもちょっと悪ふざけがすぎた。ごめん」と申し訳なさそうな表情で頭を下げた。しかし私は、良くも悪くも、相当な事がない限り 綺麗さっぱり水に流す事が出来る性格をしていた。だからぶっちゃけ昨日の事なんて 最早一ヶ月くらい前の事のような変な感覚になる。私にしてみれば昨日の出来事なんて……ああ、昨日そんな事あったな、くらいの感覚なのだ。だから、そんなに深刻そうに謝られても私が気まずいだけである。故に、とっきーには「昨日の事とか全然気にしてないよ〜〜!!」と、笑い飛ばしておいた。




「それで、おれ……っていうか、おれ達、苗字にお願いしたい事があるんだけど」
「とっきーと、とりお?」
「どちらかと言うと、嵐山隊」
「凄い嫌な予感」
「うん、多分当たってる」




 とっきーからのお願いというよりは『とっきーと佐鳥ちゃんのお願い』2人のお願いというよりは『嵐山隊のお願い』嵐山隊のお願いというよりは『本部の命令』とも言えるそれは、まさに唯我家の唯我尊くんと仲良しの私に訪れた人生最大に緊張せざる得ないイベントのお誘いである。正確にいうのなら、ボーダー嵐山隊の特別イベントの付き添いである。別名唯我尊のお相手役ともいう。

 唯我くんは私と同じA級弱い組の一員である。そんな彼と私はまあ意見が合うわけで廊下で会えば最低でも20分に及ぶ爆弾トークが始まる程だった。そんな唯我家のお父さんが企画してくれたという大規模侵攻後のボーダーの信用を取り戻す大切なイベントには当然、唯我くんも付いてくるらしい。彼は元々キラキラしたイメージの強い嵐山隊への入隊を希望していたらしいから、そうなんだなーという感じだ。しかし、唯我くんの事をどうやら私以外のA級隊員はあまりよく思っていないらしい。弱いからだろうか。ああ、だから私もイジメられているのかな、納得。実際に唯我くんと仲良くしている(イジメているともいう)のなんて出水先輩とか太刀川隊の皆さんくらいだ。




「イベントの空き時間に唯我に突っかかって来られたら おれ達のイメージが下がるし、苗字が平気ならって佐鳥が……おれも思ってる」
「ていうかそれ本部からの命令みたいなものなんだから断れなくない?」
「一応苗字の了解を得た上で一緒に早退してくるようにって嵐山さんから言われてる」
「じゅんじゅんに会えるのは嬉しいけど、私内申点今学期最悪なんだよなー」
「うん。でも拒否しても連れてきてくださいって木虎に言われてるから昨日の内に先生達には苗字が早退するのは伝えてあるよ」
「木虎ちゃん……本当にあの子は…」




 しかし、昼休みに とりおと2人でご飯を食べたら何を言われるかわかったもんじゃない。しかし、そんなちょっと自由すぎる嵐山隊を許していいのか。いい訳がない。冬島隊はタダでさえ私の大好きな嵐山隊の任務を受け持つ事が多い。その為に太刀川隊に次いで忙しい部隊だと言われているのだ。そりゃあもう、城戸司令か忍田本部長、どちらが私に唯我くんの相手をするという任務を背負わせたのかは知らないけれど、いくら弱くて、上司に対しての対応が酷すぎることで有名な私だとしても、毎日毎日 クソ雑魚だのブスだの可愛くないだの言われるという 物凄く大きなリターンがあるのだ。弱い事くらい多めに見てくれてもいいじゃないか。《備考、私は自分で言うのもなんだけど結構可愛い。なんでブスって言われているのか、ちょっと良く解らない。》

 しかし、嵐山隊には本部のエンジニアをはじめとして、広報局、事務局、どこにでも沢山の味方がいる。やはりイケメンと美少女には見方が多いようだった。つまり私が断ったところで結局意味はない。けれども、偶にはちょっとくらい文句を言っても許されるのではないだろうか。




「苗字〜〜!!」
「佐鳥ちゃん……!! 好き!」
「エッ!!!? 待って苗字!! ヤメテ!! 佐鳥の心を弄ぶのはやめて!」
「私の心を疑うのやめて!!」




 しかし、こんなに可愛い佐鳥ちゃんを前にして文句なんて言えると思うか??? 聖人とっきーなら その広い心で許してくれるかもしれないが、聖人とっきーの前でも私はそんなふざけた発言は出来ない。大切な友達を失いたくない。

 私は佐鳥ちゃんと、とっきーと早退届を提出して学校に背を向けた。ああ……、私の内申点。これは唯我くんの人脈のなさを恨むべきか、私の実力のなさを恨むべきなのか、嵐山隊と本部の身勝手さを恨むべきなのか。……いずれにしても、古寺くんには今まで以上に勉強に付き合ってもらおう。明日は勉強会の木曜日。そうだ、きくっちーも来るだろうか。きくっちーはきっと来るよね。なんたってきくっちーはツンデレだから。 取り敢えず、迅さんにはヒュースくんの食事係を降りる事を連絡しておいた。




「苗字は どうしてボーダーに入ったの?」
「誰かにとっての良い人になりたかったんだよね。うわ、偽善精神丸出しで恥ずかしい」
「そうなんだ」




 じゃあもうそれは達成できてるねと、とっきーが言う。まさか。私なんかが達成出来ているなんて有り得ない。恐れ多い。そんなような事を言うと、とっきーは「じゃあ苗字にとって『良い人』ってなに?」と首を傾げる。

 それは考えた事がなかった。漠然と良い人になりたいとしか思わなかったからだ。こんな事を言ったら木虎ちゃんあたりに「先輩のそういうところが周りに馬鹿にされる理由の一つなんじゃないですか? 」と、真顔で指摘されるから絶対に言えない。木虎ちゃん、怖い。烏丸京介には あんなに可愛い顔をして猫かぶってるのに、どうして私の前だと猫がライオンに進化するのだろう。そして、なんでそんなバチバチに火花を散らすの?? 日々考える疑問である。




「苗字にとっての『良い人』の定義がボーダーに入って達成される良い事に関連された何かだとするのなら、少なくともおれ達嵐山隊は苗字の事を『良い人』だって思ってるよ」
「確かに……という事は、苗字もう目標達成してるじゃん!!」
「うーん、でも私今日まで その良い人っていう目標を漠然としか思い浮かべてなかったなーってとっきーの話聞いて思ったかも」
「おれ達位の年齢で そんな事をちゃんと考えている人の方が少ないと思う。実際にスカウトで入ってきた人なんかは、じゃあやってみようかなって気持ちの人が多いんじゃない?」
「ああ……スカウトで入って来る人って仮入隊で終わるか滅茶苦茶のし上がるかだもんね」




 現場に到着後、テレビ局のカメラの台数を数えるのをやめた頃に嵐山隊の木虎ちゃん、綾辻先輩、嵐山さんが到着した。嵐山さんは私を見つけると「苗字!!来てくれたんだな!」と、まるで悪意のない笑みを浮かべて私の頭を撫でた。なんなの この憎めないイケメンは……。じゅんじゅんイケメンすぎるシンドイ、世界が違う……。




「嵐山隊長、苗字先輩には仕事があるので」
「仕事……? ああ、午後の撮影か!!」
「撮影? 私って唯我くんのお話し相手として呼ばれたんですよね?」
「そうなのか?」
「その筈です。というか、なんで嵐山隊長が把握していないんですか」
「木虎ちゃん!! じゅんじゅんをいじめないで! 美少女が怒ると怖いよ!」
「は? 別にイジメていませんが?」
「…………ご、ごめんね……」
「ああほら、木虎が苗字をイジメるから苗字が怖がってるじゃん。よしよーし」
「別にイジメてなんか……!!」




 嵐山隊のイベントをテレビが大々的に取り上げてボーダーが今回の大規模侵攻に対して対策した事、これからはもっと戦力が必要になるかもしれない事などを話している。

 確かに、今回の侵攻で狙われたC級隊員は かなりの数がボーダーを辞めたし、B級隊員でも辞めてしまう隊員が出ようとしている このタイミングでボーダー入隊を希望してくれる強者がいるのなら是非入って欲しいだろう。あー……こんな事があったから、A級スカウト組は大変なんだろうなあ。




「尊っちは、なんで嵐山隊に入りたいの?」
「ボクに相応しいだろう」
「なにゆえ そう思ったの。でも尊っちって頭良いもんね。今度 苗字にフランス語教えてくれない?」
「そんな事より聞いてくれ、苗字!!」
「エッ、苗字の発言はスルーなの?」




 唯我くんは出水先輩の非道の数々を私に語った。この間は防衛任務中に通常弾アステロイドで撃ち抜かれて強制的に緊急脱出ベイルアウトさせられた、とか個人ランク戦ブースでエゲツない戦いを繰り広げられて恥をかいたとか、訓練室で蜂の巣にされたとか。まあ出水先輩ならやるだろうなーという内容がいくつかあった。まあ、出水先輩だし……。私の中では このように完結する内容も唯我くんの中では完結してくれないようで「人権侵害だ!!! 」と怒鳴り散らしていた。気持ちはわかる。私と君は大体ボーダーでの扱い似てるもんね。




「……私が慰めてあげよっか?」
「苗字の慰めなど……!!? ひっ、顔を近づけるな!! 不純異性交遊だ! 冗談も大概にしないと……や、やめ…」
「私も、その気になれば唯我くんをイジメることだって出来るんだからね〜」
「〜〜〜〜ッ、このアバズレめ…!!」
「…………そんな事言ってると本当にキスするよ! 唯我くんのファーストキス奪うからね! それが嫌なら私の女としての価値を否定しないこと!」




 収録中だと言うのにも関わらず、声量を考えなかった私と唯我くんはカメラマンさんに注意されて部屋の隅っこに移動した。

 しかし、ある意味セーフかもしれない。よく考えたら苗字もファーストキスじゃん。ファーストキス唯我くん? いや、別に私は乙女じゃないからファーストキスは好きな人と! なんて思ってはいないけれど、ああいう捨て方は如何なものかとも思う。ていうか、唯我くん顔真っ赤じゃん。大丈夫かなこの子。初心なのかな……。私も自分より初心な子とかレアだからいじめたくなる。唯我くん本当可愛いな〜〜。



「残念、キスできなかったね〜」
「……五月蝿い、アバズレ」
「苗字とキス出来なくて残念な癖に〜」
「あ、有り得ない! 断じてだ!!」




 いや、そんなに否定しないでよ……。
 流石に苗字も傷付くからね。

 ていうかね、さっきから嵐山隊の視線が凄まじいから そろそろ静かにしようかな。そうしよう。木虎ちゃんとか『テメェを連れてきた理由解ってんのか? アアン!!?』みたいな顔しているからね。カメラ向いてない時だけ その顔するのは卑怯だよ、木虎ちゃん……。どれだけ 器用な人間なの。わかってるよ、静かにするって。




「この収録見てるだけって飽きない?」
「飽きたとして、他に出来る事を苗字が思い付くとは思えない。故に黙秘権を行使する」
「……と、言いながら滅茶苦茶会話してくれる唯我くんの事を私は結構大好きだよ」
「苗字の好きは誠実さに欠ける」
「尊っちが女の子に迫られるなんて超レアじゃん、キスくらいならしてあげる」
「なっ……なぜ目を瞑るんだ!!」
「あはは!! 根性なしめ〜! 可愛いな、この野郎〜〜!! 大好きだぞ〜!!」




 唯我くんと何だかんだで話をしたり、戯れあっていたりしていると、どうやら一旦収録が終わったらしく休憩の時間になった。

 唯我くんはお父さんに呼ばれて席を外し、私の所に撮影終わりと同時に歩いてきた とっきーと佐鳥ちゃんからなぜか私は突き刺さるような視線を浴びていた。理由に関しては不明だけれど、2人がそんな反応を見せるのは、恐ろしかったので、極力目が合わないように視線を泳がせていた。




「苗字は女の子なんだよね?」




 とっきーの言葉に、私は自分の耳を疑い。

 聞き間違えたのかな? と。首を傾げると、とっきーが再度同じセリフを口にした。やはり聞き間違いではなかった。聞き捨てならない とっきーの発言に私は勢いよく顔を上げる。




「とっきーには私が男に見えるの!?」
「じゃあ なんで唯我に迫ってるの、苗字は女子としての恥じらいを学ぶべきだと思う」
「だって唯我くん 反応が可愛いんだもん」
「……じゃあ苗字は、もし おれの反応が唯我くらい可愛かったら おれにも迫るの?」
「とっきーが可愛い? 迫るかも……」
「迫るんかーい!!」
「でもごめんね、苗字には佐鳥ちゃんがいるから、とっきーと浮気できない……」
「それなら唯我とも浮気しないであげて。苗字が浮気したら佐鳥が嫉妬するよ」
「エッ、なに? 苗字ととっきーは今どういう設定なの?佐鳥にもわかるように教えて」




 私ととっきーを交互に見る可愛い佐鳥ちゃんに癒されていると、木虎ちゃんが佐鳥ちゃんを押し退けて私の前に立つ。そして嵐山さんと綾辻さんが微妙な顔をしている中で木虎ちゃんは私にハッキリと言うのだ。




「なんの為に貴方を呼んだと思っているんですか? 与えられた仕事を熟さないようなら いてもらわない方がマシなんですけれど」




 その場の空気が凍り付いた後に嵐山さんと綾辻さんがフォローをする。しかし、木虎ちゃんは引かない。……それに、今回の件は絶対に木虎ちゃんが正しいので反論も出てこない。大変申し訳ない。大きな声は出すし、迷惑行為をするし、全く申し訳ない。もうどちらが年上かわからない。情けない先輩でごめんね、木虎ちゃん。反省して肩を落としていると、嵐山さんが私と木虎ちゃんの間に入って苗字がいる事によって賢と充が云々と言っていたが私は全く聞いていなかった。木虎ちゃん、本当に私にアタリが強い……。友達になりたいだけなのに、日々あたりが強くなっていく。今回はそれ関係ないけど、私が唯我くんと戯れてたのが悪いのだけれど!!

 そう思って顔を上げると、佐鳥ちゃんととっきー、そして木虎ちゃんが仄かに顔を赤くして嵐山さんに「現場に関係のないことは言わなくていい!!」と言って嵐山さんを囲んでいた。




「苗字がいてくれるだけで俺達の士気が上がるんだ。いてくれるだけで助かっているよ」
「じゅんじゅん〜〜!!!」
「ただ、女性として その品を落とすような真似をするのは感心できないぞ、苗字」
「はあい」
「よし。それじゃあ、そろそろ俺達も次の撮影の準備に取り掛かろうか」




 木虎ちゃんと嵐山さんと綾辻先輩が次の撮影の台本を取りに向かう中で佐鳥ちゃんととっきーは私に「帰りに何処かに寄って帰ろうよ!」と提案した。もちろん私は何度も頷いて笑う。「どこに行くかは苗字が決めていいよ!」と言って前の3人の元へと駆け出した2人を眺め、そして携帯で時間を確認した。もう3時を回っていた。おやつの時間だ。足を揺ら揺らと揺すって唯我くんが戻るのを待っていると、撮影が再開してから数分後に飲み物を持ってきた唯我くんが隣に座った。

 お茶を差し出した唯我くんは本当にイケメンスキルを備えていると思う。頭も良いし、気遣いも出来る。運動さえ出来れば絶対にモテていたと思う。だってほら、お金持ちだし。私なんてカゲ先輩の所でバイトしないと携帯ゲームにお金を回せないくらい困っているのに羨ましい限りである。まあ、漫画とゲームを止めることさえ出来れば 金銭面に困ると言うことはないのだけれど、そう簡単に止めることができないからバイトをしているのである。




「唯我くんって告白とかされた事あるの?」
「別にボクが告白されていようが いまいが苗字には全く関係ないだろう。第一、そう言う話は まず自分がどうなのかを話した上でする話であってボクからする話ではない!!」
「私は高校では殆どもないよ。中学も三年生の時は暗いだなんだって言われていたしね」
「苗字に暗い時期なんてあったのか……?何か悩みを抱えているのなら話くらいは…聞いてやっても、いい」
「それ中3の話だよ? 今の私に悩みがある様に見えるなら尊っち病院に行きなよ」
「人の好意を……!!」
「でも、ありがとう。私やっぱり、唯我くんの そういう優しいところ 好きだ」




 目を細めて、はにかむと唯我くんは顔を真っ赤にして 私から目を逸らした。そんな唯我くんはチラチラと私を盗み見ながら「そういうところが」とか節操がない「アバズレ、ビッチ」と後半に滅茶苦茶酷い単語を並べだしたので 取り敢えず手刀を頭に一発おみまいしてあげた。私は間違っていない。

 そして、時刻は午後5時。ようやく本日の仕事を終えた嵐山隊は最後に雑誌の取材を行うからと、1人ずつ部屋に呼ばれて入って行く。その間、木虎ちゃんは唯我くんの事を滅茶苦茶鋭い目をして睨み付けていた。まるで蛇に睨まれた蛙だな、と考えていると、嵐山さんと綾辻さんと交代で木虎ちゃんが席を立った。




「雑誌の取材までやるなんて本当に嵐山隊は仕事が盛り沢山ですね、凄い」
「冬島隊や太刀川隊には負けるさ。大規模侵攻以降 緊急の仕事が入ってしまって最近は今まで以上に任務を任せてしまってすまない」
「いえ、私よりも当真先輩達の方が仕事しているのでお礼は他の3人に言ってください」
「そういえば……同じ事を言われたよ。お礼を言うならウチのエースに言ってやってくれって。冬島隊は本当に仲が良いんだな」
「当真以外とは基本的に上手くやってます」




 そして私は何故だかソワソワしだした唯我くんを見て首を傾げる。恐らくだけれど、木虎ちゃんが帰って来て睨み付けられるのが恐ろしくなったのだろう。唯我くんは私の手を引いて「もうそろそろ帰ろう」と提案した。しかし、佐鳥ちゃんととっきーが許さなかった。ご飯の約束をしていたから仕方がないけれど、まさか引き止められるとは思わなかった。

 私が手を引かれ部屋を出ようとしたところ、先に戻って来た佐鳥ちゃんが「苗字、どこ行くの!!」と反対の手を掴み、とっきー登場で論破された唯我くんが退いたのだ。少し可哀想だった。唯我くんは私みたいに佐鳥ちゃんやら とっきーという友達が私しかいないんだから私も唯我くんを優先してあげるべきだったかもしれない。ごめん、今度どっか連れて行ってあげるね。




「あ、嵐山さん! これから苗字と、とっきーとご飯に行くんですけど、この辺りで いいお店知りませんか?」
「この辺り……この辺りなら、駅に行く道で 美味しいレストランがあるって聞いたな」
「それなら私この間行きましたよ。名前ちゃんが とりまるくんとの関係を詳しく教えてくれるなら教えてあげようかな」
「先輩まで とりおが好きなんですか?」
「ううん、好きじゃないよ。藍ちゃんとの話のネタにしようと思って」
「これ以上 木虎ちゃんに嫌われたら、私もうボーダーを続ける自信がありません」
「ん? 木虎が苗字を嫌いなんて話は聞いた事がないが……どちらかといえばーーー…」




 有り得ない言葉が聞こえてくるのではないだろうかと瞬きを数回繰り返していると 木虎ちゃんが「嵐山隊長!!」と、目の色を変えて 嵐山さんの腕を掴んでいた。それはもう凄い表情だった。木虎ちゃんの私を見る目は殺気立っていたし、私は後輩に恐怖して とっきーと佐鳥ちゃんの後ろに隠れました。本当に怖かったです。




「丁度良かった、木虎。苗字が木虎に嫌われていると勘違いしているらしいぞ」




 ……じゅんじゅ〜〜〜ん!!!?

 木虎ちゃんの顔を見て分からないの!?
  間接的に私を殺す気なの!? 見て! この殺気立った目、逆になんで佐鳥ちゃんと とっきーは平気そうな顔して私の前に立っているの!? 慣れているの!? この顔に!!? 怖い!!!




「き、木虎ちゃん……三門市の広報、嵐山隊らしからぬ顔をしてるよ…?」
「……は? どう言う意味ですか?」
「私が悪いの……!? ごめんね……」
「うん、木虎が悪いね。嵐山さん、綾辻先輩ありがとうございます。それじゃあ、おれ達そろそろ行きますね」
「ああ!! 3人とも気を付けて!」




 とっきーは少し離れた場所まで来て 私の顔を覗き込むと「木虎は苗字のこと嫌いじゃないから誤解しないであげて」と言う。しかし、それは無理があるだろう。口には出さないけれど私は思った。実際にちょっと……。いや、だいぶ無理があると思う。ついさっき、あの殺気向けられた私にそれを言える とっきーが仲間思いすぎてつらい。でも私は騙されないよ。

 なんなら断言したっていい。あんな表情を向けられたら、多分私でなくとも嫌われていると確信を持って言えると思う。唯我くんに向けていた目より凄かったもんね、ああ、怖かった。なに、そんなに とりおは木虎ちゃんに愛されているの?? なんなの、烏丸京介。無理しんどい。嫌い。しかし、改めて木虎ちゃんの思いを再確認させられた。全く最悪な日だ。今日は本当に占い最下位なだけあるな。










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Espoir