非言語コミュニケーション






 とっきー達と散々遊んだ後、皆で家を出て、途中の分かれ道を別れた。あれから結局、ヒュースくんの料理担当は誰になったのだろう。玉狛の料理は当番制だと前にとりおが話していたから、そちらも当番制なのかも解らない。私は右手に三門市名物の『みかどみかん』を持って、ちょっとだけ頬を緩める。これは私の愚痴に2時間も付き合ってくれたヒュースくんに先日のお詫びということでプレゼントをしよう。

 久しぶりだから緊張するなあ。私のことは覚えているだろうか。忘れられていそう……。いや、物凄い悪い印象が付いているせいで忘れていないということも……。まあ、どちらでも私は構わないけれど。




「かなり持って来たな」
「私、ゲームが出る度に機械を買っていたから同じものが沢山あるんだよね。だからついでに私専用として玉狛に寄付しようかと」
「図々しいな、おまえ」




 未来が心配になる、とか。おれおれ詐欺に引っかかりそう、だとか、いき遅れそうとか滅茶苦茶ダメージのある言葉を私に突き刺してくる とりおに私はちょっと待ってくれとジェスチャーを送るが、私のジェスチャーの動きを見て笑うだけで話を止める事はなかった。ああ、こいつ。人の不幸を笑うタイプだ。なんて奴だ、許せない。

 私は とりおを見上げて、なんとか皮肉を言ってやろうと「とりおは誰とでもやっていけそう」と伝えたのだが、もしかしたらこれは、褒め言葉なのではないだろうかと、目を細めて肩を落とした。けれど、その一方で言われた本人は「好きな奴以外と上手くいっても仕方がないだろう」と想定していなかった方向の返事をよこした。この返し方だけで考えるのならば、何かしらのダメージは与えられたのかもしれないけれど、どういうことだろう。




「好きな子でもいるの? 小南先輩?」
「なんでそうなるんだ」
「いまの言い方はいるでしょう」
「さあ、どうだろうな。そもそも、苗字の勘なんて大してあてにもならないだろ」
「10回に1回は当たるもん」
「概ね、ハズレだろ」
「……間違いない。あ、そうだ。苗字が嫁に行き遅れたら、とりおがもらってよ」
「ああ、そうする」
「酔ってる……?」
「苗字が俺の飲み物に苗字が酒を入れた記憶があるなら そうなんじゃないか」
「飲み物担当とっきーだよ!! とっきー!」




 けれど、その反応は本当に想定外だ。意外すぎて、歩きながら何度も とりおに視線を送ってしまう程である。その奇妙な私の様子を視界に捉えて、とりおは「お前を貰ってくれる物好きがいると良いな」と間も無く見えてくるだろう玉狛支部の方を見つめて言った。いやいやいや。ここは とりおが「お前なんていらねえよ」という場面なのかと思ったのだけれど、なに? これはもしかして、衝撃のラブコメ展開に向かうの?? そんなの苗字が行き遅れたら、いよいよ亜季先輩と木虎ちゃんに顔向け出来なくなってしまう。もしかしてこれは、とりお お得意の新手の嫌がらせだろうか。苗字はアレかな。この際、当真先輩でも良いからハートキャッチしとけという事かな?

 そうなのだとしたら、チョロそうな人に揺さぶりをかけるーーーもしくは、佐鳥ちゃんしか苗字にはいない。いや、きくっちーも滅茶苦茶押しまくればワンチャンーーー……。




「そんなことよりも、遊真達の明日のランク戦大丈夫かな……。ちょっと心配だなあ」
「遊真は お前が思っているよりは強いだろ。実際小南先輩に7-3。3本取ってる」
「嘘でしょう? 私より強いじゃん……」
「攻撃手と狙撃手を比べるところから可笑しいことには気付いているんだよな?」
「気付いてるけれど、小南先輩ってちょっと前まで攻撃手1位だったじゃん。ああでも、この間の侵攻で特級戦功取ってる時点で強いのか大前提なのか」




 そんな事よりも。この間、テスト範囲が変更になって、だとか、このゲームに行き詰まっているとかを2人で話している間に玉狛支部に到着したので、入り口で靴を脱ごうとすると、迅さんが不気味なくらい穏やかな顔で私の目の前まで やって来た。そして、壁際に追い詰められた。所謂壁ドンである。えっ、全く嬉しくないのだけれど……。そもそも、なんで私は迅さんに壁ドンをされているのだろう。

 表情から全てを悟った迅さんは私の頬を摘んで引っ張ると「食事係がサボったらダメだろー」と、私の荷物を預かって先に扉の向こうに消えた。急に何事なの。そもそも、私って迅さんが思っているよりもハードスケジュールなんだよ。ああ、でも多分この人見えている。じゃあ、冗談かと思うけれど、見えていて言っているのか。うわあ、性格があまりにも鬼すぎる。




「このアットホーム感、本当凄い」
「名前はヒュースの料理担当な」
「それ、私が断ったやつじゃあないですか」
「ダメダメ。仲良くなってもらわないと」
「……そういえば、迅さんの言い方的にワケありっぽい感じはありましたよね。でも私が作れるのって暗黒物質ダークマターだけですよ? それでも良いなら作りますけれど」
「おお、流石。おれの分もよろしく〜」
「ずるい!! あたしも!」
「お2人は物好きなんですか?」




 信じられねえ、コイツ等……。若干2人の味覚音痴説を浮上させながら 木崎さんのいるキッチンに向かうと、木崎さんは冷蔵庫から いくつかの材料を取り出して眺め「今日は親子丼だな」と笑う。なるほど。親子丼ならば、そこまで難しい作業はないから私にも作れるはずだ。頑張ろう。私は木崎さんの隣で意気込む。

 そして並べてある鶏肉を一口サイズに刻んで、卵をかき混ぜてーーーとまあ、大まかな作業を終了させ、後はフライパンで 温めて御飯の上に乗せるだけ。我ながら結構良い出来だ。美味しそう!! これは初めての成功作ではないだろうか。感動で涙が出そう……。家に帰ったら、お母さんに報告しないと。




「木崎さん見て! 美味しそう!!」
「ああ、美味しそうだな。名前」
「……喜んでくれるかな」
「喜ぶんじゃないか? この間の肉じゃがもヒュースはシッカリと食べていた」
「!……そっか」




 木崎さんの前でニヤけながら 親子丼を眺めて自分でも解るくらいキラキラと目を輝かせていると「仲良しだなー」と少し離れたところから迅さんが声をかけてくる。 は? 木崎さんと仲良しとか恐れ多いんだよ、とそこまで心の中で反論してから、自らの行いを振り返った。

 この玉狛第一の隊長、木崎さんに向かって私はなんて言ってた? 敬語使ってた?




「……数々の無礼をお許しください!!」
「それを言うなら、俺も苗字の事を下の名前で呼んでいたからお互い様だろう」
「ヒェッ……。ゴット木崎、好き」
「そうか、ありがとう」
「抱きついて良いですか」




 無言で手を広げる木崎さんに抱き付こうとすると襟を思い切り掴まれて木崎さんの胸に飛び込むのを阻止した。止め方がころしにかかってきてるじゃん!! 誰なの!? 半分くらいキレ気味に振り返ると、(マジで)無表情の烏丸京介くんがいた。なんて恐ろしい子なの。なにその顔。

 とりおの(マジで)無表情が怖すぎて、大人しく 小南先輩と迅さんの分の食事をテーブルに置く事にした。ああ、怖かった。




「見てください、迅さん。この私史上、歴代最高最高傑作ですよ。この親子丼は!!」
「うん、見えてた」
「……こ、こことか見て!! 綺麗に光ってるでしょ! 実物のが美味しそうって言って!」
「実物のが美味しそう」
「そ、そっか!! うん! ヒュースくんにも持ってく! 早くしないと冷めちゃう!」




 皆のいる部屋を出て『みかどみかん』の入った袋を片手にぶらさげ、地下への道を進む。箸も、水も、お土産も持ったし、なにも問題はない。問題ない。でも、ちょっと待って。ちょっと、今思ったこと言ってもいいだろうか。今まで全く気にしたことなかったのだけれど、私の携帯のアドレスをなんで迅さんが知ってるのだろう。

 え?? 怖くない? 迅さん怖い。
 無理しんどい。
 これだから玉狛支部は……。




「ヒュースくん、苗字です!」
「…………」
「こういう時、『入れ』だとか優しい言葉をかけてあげると日本人は喜びますが」
「なんだそれは」




 視線はお盆の上の丼に向いていた。

 ヒュースくんの顔はまさに、またあのゲテモノか、という顔だったけれど今日は安心してほしい。会話を全て無視されたのは滅茶苦茶傷付いたし、普通に滅茶苦茶ムカついたけれど、大丈夫!! 今の苗字は、それを上回るハッピーを手にしているのだ!




「見て、親子丼です! 今日は なんと!失敗しなかったの! 絶対美味しから食べよう!」




 箸とスプーンと飲み物をヒュースくんの目の前に並べて、手を合わせてから「いただきます」と、自分の親子丼を食べ始める。

 暫くの間、全く動かないヒュースくんを見て「箸は こうやって使うのだけれど、スプーンでも美味しく食べれます!」と言ってみた。そうすると、普通に図星だったのか、ムッとした表情を浮かべたヒュースくんが箸を持って御飯を食べようとしたところ二つの箸は地面に転がった。まあ、箸って私達は慣れているから問題ないけれど、普通に使うのが難しいからなあ。




「今日はスプーンで食べようかな。ヒュースくんは? 一口で沢山食べる事ができるし、ご飯と一緒にスープもすくえるよ」
「……余計なお世話だ」
「じゃあ、食べさせてあげようか?」
「……貴様」
「はい、私はスプーンにしました!」




 スプーンで食べ始めた私を見て、ようやくスプーンに持ち替えたヒュースくんは私の事を、それはもう もの言いたげな目をして見つめてきたけれど、私はそんな事よりも、私の目の前で私の作った食べ物が少しずつ減っていく事が嬉しかった。正直、多分ニヤけていたと思う。

 何故ならば、私の料理を好んで食べてくれる人があまりにも少ないからである。まあ、ヒュースくんが好んで食べているかと聞かれると答えられないけれどもーーー。




「そしてこれは、三門市名物! みかどみかん!! ヒュースくんの口に合うかは分からないけれど、甘くて美味しいって有名だよ〜」
「よこせ」




 箱から取り出した 蜜柑をヒュースくんに渡すと、これまた食べ方がわからないようだったので、私が蜜柑の皮を剥いてあげると、またあの物申したそうな視線が私に突き刺さった。

 仕方がないじゃあないか。いまのは、私が全面的に悪いということはなくない?




「ヒュースくんって此処の出入り自由なんでしょ? 上とかで皆と話さないの?」
「仲良くする必要がない。あくまでも奴等とオレの関係は捕虜と敵だ。お前のいうジンという奴にはトリガーを盗まれた。上に行ったところで対抗手段はない」
「確かに対抗手段がないのなら安易に移動してしまうのは危険だもんね。賢明だと思うよ」




 ーーーとか言いながら、私と話してくれるようになったヒュースくん本当に素直な子だなあと思う。本当に、きくっちーそっくり。なんかというか、例えば、「でもヒュースくんなんだかんだで、苗字と話してくれてるじゃ〜ん」とか言ったら、多分金輪際口を聞いてくれなそうなところとか本当に似ていると思う。

 けれど、ヒュースくんは頭が良さそうだから対抗手段である武器をこちらが預かるというのは賢明かなあ。玉狛支部の人って近界民とも仲良くしようみたいなよく分からない考えだからと思って気をつけていたけれど、その必要はないかもしれない。私はテッキリ玉狛第二が単体でいる時の対策として私をおいたのかと思っていたけれど、思い過ごしーーー思い上がっていたなあ。滅茶苦茶恥ずかしい。




「美味しかったでしょう?」
「この果実は悪くない」
「嘘じゃん。丼の方が美味しそうに……はい、ごめんなさい。もう言いません」




 ヒュースくんがお水を飲んでいる間に、そういえば ここの支部の烏丸京介って奴が私に対してだけ すごく辛辣、だとか。迅さんが胡散臭くてウザくてどうしようもない、だとかを話していると本人である迅さんが「そんな事思ってたの? おれ悲しい」と、いつもの調子で現れる。噂をすれば影がさすとはこの事か。もう二度と迅さんの話はしないと心に誓った。

 迅さんはヒュースくんの部屋に散らばった みかんを見て「うわ、みかどみかんじゃん。小南が好きだよ」と言って私に「上にも持って行ってあげてよ」と、さりげなく私を部屋から追い出した。ヒュースくんと話がしたいからって、これは酷い。




「名前に恋しちゃったら前途多難だぞ」
「なんのことだ」
「特にお前は ただでさえ近界民ネイバーってだけでハンデがあるんだから正直鉄壁の部隊が殺す勢いで来るぞ」
「生憎、そんな感情は持ち合わせていない」
「そうだといいな、お互いに」






 皆の集まっている部屋に上がってすぐに、キラキラと目を輝かせた小南先輩が顔を上げて駆け寄ってきた。ああ、これは……。嫌な予感がする。残念な事に大正解なのではないかと勝手に思う。これは初対面の日に小南先輩が見せてくれた期待に満ち溢れた目の輝きに相当すると思われる。今度は誰だと視線を動かすけれど、私にこんな悪質なイジメをする奴なんて烏丸京介か迅悠一以外に考えられないので、まず間違いなく この二人のどちらかだろう。

 因みに私の予想は烏丸京介一択である。




「名前も あたしと同じ星輪女学院って本当なの!? えっ、何組? 今度遊びに行く!! ねえねえ、なんで教えてくれなかったの?」
「何故そういう お話に……?」
「とりまるが玲と名前が制服で写ってる写真を見せてくれたの!!」




 ……おいおい。何でそれをお前が持っているんですか。 その写真は私がしっかりと本の間に挟んだ筈じゃあないか。マジでコイツ、どうしてやろうかな。殺した方がいいのかな。

 いやでも、苗字もうボーダー規定違反もしたくないし、前科者にもなりたくないんだよね。だから烏丸くんは、そろそろ小南先輩に嘘を吹き込むのは止めた方がいいんじゃないかなって苗字は思うんだよね。烏丸くんは、その辺どういう風に考えているのかな。




「小南先輩。残念ながら私は三門市立第一高等学校で烏丸京介くんと同じクラスです」
「えっ? でも名前って頭良かったわよね? 何で普通校の第一高校なの!?」
「インフルエンザで受ける事が出来た学校が第一高校しかありませんでした」
「それなら、ウチの学校の編入試験受けてみたら? 名前なら絶対に受かるわよ!」
「編入試験とかあるんですか?」
「2枠だけだけど、あるにはあるわよ」
「えっ、受けたい!!」




 それに受かったら、二宮さんも褒めてくれるし、嵐山さんや那須先輩にも、ちゃんと顔向けができる。今度は私が目を輝かせる番だった「ちょっと待ってて!」と部屋を飛び出した小南先輩は、どこから取ってきたのか星輪女学院のパンフレットを取り出してページを捲ると、「ほらここ!」と、パンフレットに小さく書かれている編入試験の枠を指差した。

 うわ、本当にあるんだ……。もういっそ涙が溢れるのではないかというくらい興奮した私は「本当だ! すごーい!!」と小南先輩に抱き着いた。「初めて知った!!ありがとうございます!」と、ギュウギュウと小南先輩に抱き着いた私がハッとして顔を上げた時には小南先輩は余程苦しかったのか、顔を真っ赤にしていた。




「苗字」
「どうしたの?とりお」
「六頴館にも編入試験はあるらしいぞ」
「どんだけ私を他所に飛ばしたいんだよ」
「いや、どちらかと言うと卒業まで同じ学校にいたいと言う気持ちはあるな」
「えっ」
「えっ、」
「なんすか、小南先輩まで」




 いやだって、とりおってそういうこと言うキャラじゃないじゃん……みたいな顔をした私に対して、とりおは目を細めて少しだけ不機嫌そうな表情を浮かべると「八つ当たりする相手がいなくなるだろ」と言った。お前の八つ当たりする相手は私なのかよと心の中で直ぐにツッコんでしまった私は間違いなく悪くない。というか、あんな八つ当たりを毎日してくる烏丸京介は家か玉狛支部なのかは不明だけれど、どれだけのストレスを溜め込んでいるんだろう。

 今度ちゃんと話し聞いてあげよう。大丈夫、苗字が癒してあげるよ。だからお前は私のとっきーと佐鳥ちゃんには近づかないでね。




「でもボーダー提携してないと防衛任務とかで抜け出せなかったりするんですよね」
「まあ、そうね。そこが問題よね。あたしは知らないけど、嵐山隊の木虎ちゃんなんかは広報活動って事で ちょっと融通効くみたいだけど あたし達みたいな普通のボーダー隊員には ちょっとやりくりが難しいかも」
「そうなると星輪よりは六頴館の方がいいなあ、きくっちーに今度聞いてみようかな」
「ええ!!? なんで!? 名前なら絶ッツ対にやりこなせるのに!!」
「でもウチの部隊は仕事が多いので……」
「……そう、なんだ」




 あからさまに肩を落とされると私も居心地が悪いのだけれど、実際ウチの部隊は嵐山隊が全国放送の出演決めちゃった週は朝から晩まで冬島さんと真木さんと私とで大忙しだし、ちょっと多分ボーダー提携校じゃないとなると流石にやりきれないと思う。嵐山隊の手伝いとかも結構恒例行事みたいになってきているし。

 いつからという具体的な日付や月は覚えていないけれど、今年からだ。とっきーと私が交流を深め始めたくらいからじゃあないだろうか。とっきー達があまりにも忙しそうだったから、私が冬島さんに話を持ちかけたのだ。唯一、勉学的な意味で当真先輩が心配だったのだけれど、荒船さんと犬飼先輩という強い味方がいるので平気だろうとなった。しかも当真先輩のクラスには結花先輩という成績救済支援者がいるから大丈夫。毎回赤点スレスレでくるから、偶に私より頭悪いんじゃないかと思うけれど、間違いだと思いたい。




「そういえば、さっき一緒に写っている写真を見たけど名前と玲って仲良いの?」
「最近会ってませんけど、それなりに」
「なんで!?」
「那須先輩は星輪女学院だって伺っていたので、パンフレット貰ってもらったり、学校の話聞いたり、勉強見てもらったりしてて……」
「な、なんで あたしじゃなくて玲なの!?」
「小南先輩が怖いからじゃないすか」
「そうなの!!!?」




 否定はしない。

 一理あるどころか間違いなく模範解答である。今は可愛い先輩だと思っているけれど、あの時の私の小南先輩に対する印象といえば……美人だけど、ゴリゴリ攻撃手だし、話聞くのに小南先輩はないわ。怖いし、とこれである。実際に加古さんと、にのみーに、その学校には小南先輩と月見さんと那須先輩が通っている、と聞いて真っ先に質問に行く選択肢として私の中で小南先輩が消えたくらいには怖い。当時は本当に怖かった。




「な……なんで否定しないの!? もしかして あたしって怖い!? 怖いの!?」
「怖いので静かにしてもらえますか」
「がーん!!!」




 仲良しかよ……。やっぱり 小南先輩と とりおは付き合っているんだろうなあ。そのくらいの仲の良さはある。隠してても苗字には分かる。とりおの好きな子以外と上手くいってもしょうがない、みたいなのは小南先輩に対する言葉だ。とりおも可愛いところがあるじゃないか。あれかな? 好きな子はイジメたいみたいな。モテすぎてから回るやつね。小学生かよ。でも、小南先輩と とりお。うん。顔だけ見ればお似合いだよ!! おめでとう! 付き合っていないなら苗字は全力で応援するからね!! だから、とりおは苗字にも優しい人間になってね!!

 とりおが優しいなんて、苗字には全く想像も出来ないけど、いつだってウェルカムなんだからね!!!




「そういえば 遊真を見かけないですけれど、遊真達は作戦でも練ってるんですか?」
「ああ。修が明日のランク戦に出られない代わりを作戦で補わなきゃならないからな」
「初戦なんて派手にデビュー以外に作戦なんてないのに 遊真達は何話してんのかしらね」
「その派手さをどう活かすかとかじゃあないですか? デビュー戦って結構大事だし……」
「ミス緊急脱出ベイルアウトが言うと説得力が違うな」
「そのネタやめて!!」




 まさか自分が墓穴を掘るとは思わなかった。最近この話題を皆が言わないから安心していたのに……。あんなデビュー戦恥ずかしくて顔があっつい。皆知ってる!? 私、あのデビュー戦で開始して5分以内に退場したからね!!! まさに瞬殺だよ!! 瞬殺というか、逃げたよね。真顔の太刀川さんと風間さんが私に向かってきたんだよ。怖くないですか?? その時も無我夢中で10発は乱射したよ。なんでもいいから当たれ頼むみたいな。実際に当たったのかは知らないし、もう終わった瞬間に真木さんの顔も見ずに作戦室の隅っこで丸くなったよね。

 それなのに冬島さんと当真先輩は余裕で最後まで生き残ってるし、顔合わせるの気まずすぎて その日は帰りまで話し掛けないでくださいオーラを飛ばしまくったよね。未だに私は あの日のログを見てないよ、凄いでしょ。




「三雲隊員が出れないって聞くと、滅茶苦茶責任を感じる……本当に申し訳ない……」
「責任なんて感じる必要ないじゃない。アイツはアイツで一級戦功でポイントもお金も入ってるんだし、ね?とりまる」
「そうですね」
「小南先輩って滅茶苦茶優しいですよね」
「……えっ、え!? そ、そんな事ないわよ〜〜!! ねえ!? とりまる!!」
「はい。全然そんなことないと思います」
「……あんたってお世辞とか言えないの?」
「俺、嘘とか付けないので」




 それが今この場で出た最大の嘘じゃねえのか? と思う私に対して、小南先輩は素で凹んでいた。因みに木崎パパは椅子に座りながら情報番組を眺めている。ていうか、迅さんはどれだけ長い時間使ってヒュースくんと話をしているのだろうか。いつ戻ってくるの? やばない?? なんかヤバイ話してたりするの? こっっわ。




「とりおもここに泊まるの?」
「今ここにいる時点で察せないのか?」
「じゃあ、私はどこで寝るの?」
「逆に俺の部屋で寝る気だったのか」
「とりおと私の仲じゃん。ああでも、小南先輩。勘違いしないでください。友達です」
「?? そうなんだ?」
「なんで小南先輩に弁解するんだよ」
「だって とりおって小南先輩のこと好きなんでしょ? 好きな子はイジメたいんでしょう?」




 ブーッと何かを吹き出した様な音が聞こえて振り返ると「あはははは!!!」と滅茶苦茶笑いながら迅さんが私を指差して「普通本人の前で言わないだろ〜〜!!」と珍しく大きな声で笑っている。迅さんの言葉を聞いて、私はハッとした。そうだ、ここには小南先輩が……。本人の前ってそういうーーー




「ごめん! とりお!! バラシちゃっーーったぁああ!!? 痛い!! なんで!?」
「自業自得だろ。それから小南先輩の事は別に嫌いじゃないけど好きでもない」
「一度に物理と精神という攻撃で二人を沈める京介って本当に罪な男だよなー」
「それと、迅さんは分かってて今来ましたよね。俺も流石にいい加減に怒りますよ」
「悪い悪い。つい出来心で」




 なんで主語も述語もないのに会話が成り立つの!? 悪属性は脳内テレパシーでも飛ばしあえるの!? だからこの間の当真先輩と太刀川さんも会話してないのにコミュニケーションが成立してたって事!? なんなの!? 悪属性強すぎるでしょ!!!!

 高次元のやり取りをへて、本日の私の寝床は小南先輩の部屋に決定した。どういう流れでなったのかは定かではないとだけ伝えておこう。後半は何故か高次元のやり取りに小南先輩も参加していたので、もしかしたら、玉狛支部には玉狛支部のコミュニケーションがあるのかもしれない。それか、この人達は皆いまトリオン体で、通信を飛ばし合っているに違いない。とりあえず、玉狛支部の皆さんは一般人に理解できない事をするのは控えて欲しい。











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Espoir