常識は欠席中






 カゲ先輩に持ってきてもらった お好み焼き生地をかき混ぜながら、私は鉄板の上で いつまでも放置されている お好み焼きに視線を向けていた。十分に火が通っているだろうというのは、つい先程ここに座った私にも分かる程だったのだけれど、それでも私がその事実を口に出すことが出来ないのは、それが、そう。紛れもなく、犬飼先輩の焼いていると思われる お好み焼きだからだったからである。

 つい先程、私の横で当真先輩が自分のお皿に綺麗に焼けた お好み焼きをとってソースをかけているのを確認している私としては 目の前で ひっくり返される事なく鉄板の上に 置かれているソレがとても心配で 先程から視線が滅茶苦茶 当真先輩と荒船先輩に向いてしまうわけなのだけれど、2人とも気付いているくせに あえて無視を決め込んでいるようだった。友達じゃなかったのか、この人達。




「そのお好み焼き、なんですけど……えっと、ひっくり返さないんですか?」




 心を決めて、今ある ありったけの勇気と根性で なんとか その言葉を紡ぐけれど、いざ犬飼先輩に話しかけるとなると私の そんなちっぽけな勇気は本当にちっぽけで、本人に聞こえるか、聞こえないか、程度の声量しか絞り出すことができなかった。加えて、私は たった今、現在進行形で私的に良い行いをしたはずだというのにもかかわらず、滝のような冷や汗が止まらなくなった。発言してから たった1秒程度の時間しか経過していないけれど、私は私の良心から行った行動を悔いていた。やはり人間、慣れない事はするべきじゃあないらしい。

 けれども その一方で、私の言葉をどうやら聞き取ることができたらしい(地獄耳な)犬飼先輩は無表情のまま 暫くお好み焼きを見つめると、ようやく顔を上げて「おれ、焼くの苦手なんだよね」と頬杖をついた。それは意外だ。犬飼先輩なんでもできそうなのにと素直に受け止める私に対して、それを聞いた当真勇は相変わらず 空気を読まない酷い男、略してKYのようで、どうしたあ? 犬飼〜〜。お前いつもは滅茶苦茶綺麗に焼いてんじゃ〜ん(私訳)と口にしてけらけらと笑っている。この時の私の気持ちはというと。犬飼先輩の機嫌が悪くなったら どうしてくれるんだよ てめえは!! やめろ!!! これである。心の底からやめてほしいと思った。だって、怖いし。なんで当真先輩は私が嫌がることを率先してやるのかな。なんなの……。私が先輩を眺めながら 自分のお好み焼き生地をかき混ぜていると当真先輩がカゲ先輩を呼んで もう1つ お好み焼きを注文した。おそらく、犬飼先輩の分だろう。注文した後に当真先輩は私に視線をぶつける。私にはわかる。というか こういうタイミングの当真先輩は私の経験上、碌な話をしないに違いなかった。




「おい、苗字。お前、料理は暗黒物質ダークマターだけど、お好み焼き焼くのは得意なんだろ?」
「まあそりゃあ、私一応ここで働いてますし……こ、これでも お爺ちゃん お婆ちゃんには よく焼いてって頼まれるんですよ」
「ほーう、ほうほう」
「……なんですか、気持ち悪い」
「犬飼くん、喜びたまえ。うちの苗字が お前のお好み焼きも焼いてくれるらしいぜ」
「はあ!!? 無理無理!! 絶対に無理ですよ!? それは圧力プレッシャーが凄すぎますって!」




 それに今日は仕事じゃないし!! 絶対に嫌だ! 抗議はするのだけれど、この男は「お前そんなに否定して大丈夫かあ〜〜?」と楽しそうに視線を犬飼先輩に向けると酷い顔をして笑ってくれていた。こいつ、本当にクソだ……。殿堂入りを発揮しすぎて、ムカつくとかすっ飛ばして もう帰ってほしい。真木さんとか冬島さんとか呼び出したら 帰ってくれるだろうか。ああもう、にのみーとか呼び出して 当真先輩に一回喝を入れてもらおうか。

 けれど、人様にそんなに迷惑はかけられない上、にのみーといえば 二宮隊の隊長……。つまり犬飼先輩の隊長にあたる。そんな人に迷惑なんてかけてみろ。例え、にのみーが私を1ミリも迷惑だと思っていなかったとしても、犬飼先輩は私を とてつもなく冷たい目で見るに違いなかった。この人、多分 二宮さん大好きだもん。だから私のこと目の敵にする。そうでなかったとしても、昔みたいに犬飼先輩に「人に迷惑かけないで生きたらどうなの?」みたいな事を言われたくないので、仕方なく、本当に仕方なく 自分の お好み焼きを焼くついでに承諾しておいた。途中、お好み焼きの生地を持ってきてくれたカゲ先輩に「お前よくそいつらの相手をしてやれるな」みたいな顔をされたけれど、私だってしたくてしているわけではない。というか、事の発端が誰なのかわからないけれど、私的に事の発端はカゲ先輩であるということを、彼はわかっているのだろうか。いや、わかっているだろう。たったいま、カゲ先輩に私のそういう感情が送られたに違いない。カゲ先輩大好きだけど、今日はマジしんどいな。




「そういえば、結局犬飼先輩って好きな人とかいるんですか? さっき、犬飼先輩が一途だとかなんとかって言っていましたけれど」
「それを蒸し返す お前は勇者だ」
「苗字、その話は終わりにしてやってくれ」
「え? えっ? もしかして、失恋したばっかり、とか……すみません!!」
「ねえ きみ達のせいで、おれに対しての最悪な勘違いが生まれているんだけど」
「どんまい、犬飼。全部荒船のせいな」
「確かに 俺に非があるというのは否定しないが、お前の所為でもあるだろ」




 荒船先輩。当真先輩の気が確かなわけないので もう無視してあげて下さいと遠回しにつげると荒船先輩も「まあそれもそうか」と納得して まだ暖かいお好み焼きを食しはじめる。その一方で、私達のやり取りを見ていた当真先輩はというと怒る3秒前みたいな顔をして 私達に「犬飼のマジで面倒くさい攻撃をいますぐにでも食らわせてやろうか」と意味不明なことを宣っている。は? 犬飼先輩のマジで面倒臭い攻撃とは? いやそもそもまず、私に対して犬飼先輩が そんな親しい奴にしかしないような攻撃をしてくるわけが。なんなら 現在進行形で行われているプレッシャー攻撃の方がよっぽど嫌だ。荒船先輩だって私と同じ意見な筈だろう。

 そのように考えた私が、荒船先輩に視線を向けると先輩は私の予想に反して 食事を中断して 両手で顔面を覆ってしまっていた。いやいやいやいや。気になりすぎて お好み焼きも焼けないよ。荒船先輩に そこまでさせる犬飼先輩のマジで面倒臭い攻撃って一体なんなの。いっそ今ここで本当に披露してほしいよ、私は。そういう意味も込めて、犬飼先輩に視線を向けると なんていうか お互い見つめ合っているみたいで滅茶苦茶気まずくなった。なんだこの状況。




「おいおい、苗字……犬飼が可哀想じゃねーか。そんなにガン見してやるなよ」
「待って、犬飼先輩も私の事ガン見していたから この場合はお互い様じゃないの!?」
「馬鹿言うな、ひよっこ。犬飼と お前じゃあ 見つめ……ガン見の価値の重さが違う」
「苗字のガン見の価値 どんだけ安いんですか。いい加減に張っ倒しますよ」
「いや、どちらかといえば……なあ?」
「このタイミングで俺に振るな」




 満足のいくまで会話が済んだのか、それとも空腹が限界突破をしたのか、当真先輩は荒船先輩への言葉の攻撃を切り上げて 自分の目の前のお皿に乗っかっている お好み焼きを再度つつきはじめた。いいなあ。隣でこんな美味しそうに食べるとか、新手のイジメだよね。食テロだよ。一切れ分けてくれるとかいう優しさは当真先輩にはないのだろうか。ないなあ。当真先輩だもんなあ。

 それになにより、カゲ先輩のおうちのお好み焼きって、働いているからわかるけれど、滅茶苦茶美味しそうに焼けるんだよなあ。しかも、実際に見た目通りの味になるという期待を裏切らない系の美味しさね。まだ働き始めてから1年経つか経たないかだけれど、私、ここのお好み焼き食べるの2回目だよ。感動だよね。もうよだれ出てきそうだもんね。




「あっ、そういえば 当真先輩。この間 貸した漫画の映画やるんですけど、一緒に行きませんか? カゲ先輩が行ってくれなくて」
「マジか。おまえ カゲ、行かねーの? 俺的には結構面白かったぜ? あの漫画」
「最初がダルすぎて読む気しねェンだよ」
「1巻後半から滅茶苦茶胸熱な展開なんですよ!? 本当にオススメなのに」
「そーだぞ、カゲ。ちなみにオレは5巻から出てくる黒髪がアツい」
「わかります……!」




 当真先輩と私がハイタッチをして盛り上がっている間に、犬飼先輩が私の目の前に置かれていたお好み焼き生地を、カゲ先輩が自分の持ってきた生地を鉄板に落とした。

 私は それに気が付いて会話を一度切り上げたのだけれど、カゲ先輩も犬飼先輩もどちらも鉄板に落とした生地を私に任せてくれるつもりはないようだった。その様子に当真先輩は「任せておけよ、こいつらが勝手にやっているんだし」と笑う。それはそうなのだけれど、その言葉を聞いた私は中々首を縦に振ることができなくて、でも同時に犬飼先輩とカゲ先輩を前に首を横に振る事も出来ない自分にガッカリした。昔の私ならば、どちらかの持っている おこし金を奪って無理矢理にでも自分でお好み焼きを作ったに違いない。けれど、それはもう既に私ではない私だ。




「ど、どうしよう先輩。私先輩にお好み焼きを焼かせてしまっているんですけれど……」
「はー、お前よく考えてみろ。起爆弾犬飼と ここが家のカゲが焼いてんだぜ? 別に恩を感じる事はねーだろ」
「いやいや。あ、じゃあ2人に私の家の猫の写真送りますよ。癒されますよ、本当に」
「……死ぬほどいらねェ」
「カゲ先輩、なんとこれ。私が にゃんこを抱っこしている写真です。激レアですよ」
「ファントムばばあにでもやっとけ」
「あっ、じゃあ駅前のラーメン屋さんに行くついでに近くの美味しい焼き鳥の奢りでどうですか!? 明日!!!」
「あ? ふざけんな、マメ女。3年は いまの時期お前と違って早帰りなんだよ」
「そうなの!? いいなー!!」




 そうか、3年生は もうすぐ自由登校の時期に差し掛かってしまうのか。そうなると、もうすぐ国近先輩にも当真先輩にもカゲ先輩にも鋼先輩にも会えなくなっちゃうのか。そう考えると少し寂しい。特に、カゲ先輩と鋼先輩は私にとてもよくしてくれたし……。それに国近先輩や当真先輩だって私のこと見つけると声をかけてくれていた。振り返ってみれば、今の2年生の皆も3年生の皆も私にとっては自分の学校生活を送る上で、とても大切な人達だった。それに気付くことが出来たのは、年が明けて直ぐに行われたラーメン同盟の集会なのだけれど、その時は当真先輩が卒業しちゃうね、みたいに みかみか達と話してたら 凄く悲しくなった。当真先輩がいなくなるのもだけれど、何よりもカゲ先輩と鋼先輩がいなくなるという間近な未来が私にとって 凄くしんどい現実だった。それに、私が2年生になったら出水先輩達も卒業しちゃうし、さみしくなる。まあそれに関しては まだ少し先の話だけれど、佐鳥ちゃん達がいるとはいえ、やっぱり 嫌だなあ。うん。でも、そうやって考えてしまうと 私は、じゅんじゅんがいる時に学校通えていた人いいなあとか思っていたけれど、じゅんじゅんが卒業するとかいったら多分滅茶苦茶号泣するから考えようによっては在学期間がズレていたのは良かったのかもわからない。良かったということにしたいと思う。じゅんじゅん卒業とか多分3ヶ月くらい じゅんじゅん不足で学校やっていけないと思うし。

 ところで、話は全然変わるのだけれど 先輩達……当真先輩やカゲ先輩は進学するのだろうか。あの太刀川さんが進学できたのだから 進学するというならば、きっと出来るのだろうけれど、そういうのは結局本人の意志の問題だもんなあ。ああ、でも荒船先輩と犬飼先輩は進学校だから進学するのだろう。




「あ、そんな事より突然なんですけれど 私の凄い自慢話をしてもいいですか?」
「確認するくらいならすんな」
「カゲ先輩には聞いてませ〜〜ん」
「お好み焼き投げてやろうか」
「私の顔面大火傷ですよ、それ」
「いいじゃん、話してみなよ」
「…………」




 えっ、こっっっわ。

 なんか犬飼先輩から許可もらっちゃったんだけど。これはあれなの? ここでそんな話をするってことは最低でも皆を驚かせるくらいは出来るんだよね? どうぞ? って意味なの? 怖すぎる。それかあれだよね。いまみたいな意味じゃあなかったとしたのならば、そう。おれにお好み焼きを焼かせているなんていい度胸だよね? で? 今度はどんな自慢話を聞かせてくれるの? ほら、話してみなよ。出来るならだけどっていう意味でしょ? なにもうこの人怖すぎてむり。なんで皆と話してる時は普通なのに私の顔を見た瞬間、この世の全てを見てきたので何も驚かないし、お前ほどつまらない人間は見たことがないみたいな顔をするの酷い。




「当真先輩、わたし泣きそう……私っていま このメンバーに囲まれながら なんの精神訓練をさせられているんですか? もう帰りたい」
「おい、荒船。お前 犬飼の友達として この壮絶なすれ違いにピリオドをうってやれよ」
「世話係の お前がやれ」
「なあんで俺が犬飼こいつのアシストしねーといけねーのよ。アホなのか、お前は」
「お前友達いないだろ」
「残念だったな。例えば 俺に本当に友達がいなかったとしても味方は腐るほどいる」




 荒船先輩と当真先輩が向かい合って言い争いをはじめた すぐ隣でカゲ先輩は犬飼先輩の分のお好み焼きを おこし金をうまく使用してひっくり返していた。その腕前は私から見ても理想に近いもので『流石だなあ』と、うるさいくらいに視線を飛ばしているとカゲ先輩は私に視線をぶつけたついでに右手で近くにあったメニュー表を手にとって私の頭に振り下ろした。ジーザス。それは本当にフェイントすぎるでしょ。いくら席が当真先輩を挟んで隣だからってメニュー表を使ってまで攻撃することなくない!? 私いま そんなひどいこと考えていたっけ!? 私のどんな感情が気に食わなくて私に攻撃してきたの!? ひどい!!!

 私が両手で頭を抑えながら 顔を上げると カゲ先輩の急な攻撃に驚いたのか、口論に ひと段落ついたのか、当真先輩と荒船先輩も すっかり口喧嘩を終了させて私とカゲ先輩を見ていた。なにしてんの、お前ら。と、この表情である。なにしてんのじゃあねえよ。その顔やめろ。私だって好きで大好きなカゲ先輩から攻撃を受けたわけじゃないんだからね。なんで攻撃されたのかも未だに分からないけれど、カゲ先輩の事だから私の好意的な感情を受けなれてないんだよね!!わかってる!!!苗字、ちゃんとわかってるよ!ただ、滅茶苦茶痛かったです!!!




「ーーー……で、話を戻すんですけれど」
「お前実は滅茶苦茶精神強いだろ」
「ちょっと 先輩聞いて。実は私、ラオウのオーラ持ってるって言われたんですよ。これって凄くないですか?」
「お前それ騙されてんぞ、訴えろ」
「ええっ!? 私、騙されたの!!?」
「ラオウって架空の人物じゃなかったか?」
「信じるとか馬鹿だろ」
「馬鹿だってよ、馬鹿」
「ひ、ひど……酷い!! 馬鹿じゃないもん! 少なくとも当真先輩よりは頭いいもん!!!」
「うっっわ、むり……」
「えっ!? うわっ、お好み焼き焦げてる!! 犬飼先輩!! そのお好み焼き2枚目!!」
「犬飼〜、このKY女の顔面にお好み焼きぶち込んでいいぞ〜。当真さんが許可するぞ〜」
「やめて!?なんなの 当真先輩!!?」




 騒がしくなった店内の方をカゲ先輩のお母さんが顔をのぞかせて、口元に手を当てて微笑ましそうな視線を私達の方に寄越すと「名前ちゃんがいてもいなくても元気なのね」と言って、奥で作ってくれたお好み焼きを持ってきて、鉄板の上の犬飼先輩の焼いていた 真っ黒になってしまったものと取り替えてくれた。優しいお母さんである。そのカゲ先輩のお母さんが今のような言葉を私を除く他の人に向けて言ったのだから、きっとこのメンバーは いつもこうやって私のいない時に集まって騒がしくやっているのだろう。もしくは、私が来るまでの何十分という時間、とても騒がしかったのだろう。

 けれど、もしも前者だとしたら……いつも私は基本土日はいるから、平日に訪れていたのだろうか。今週に限っては休日である土日に来ているから、きっと犬飼先輩は 相当私が嫌いで私のシフトと外してきているのだろう。これはもう間違いない。聞かなくても、察せるくらいには嫌われているのだから きっと私のことが相当嫌いなのだろう。今日改めて理解した。今更なんて思うかもしれないけれど、犬飼先輩は100回に1回くらいの頻度で滅茶苦茶優しい日があったし、ちゃんとホワイトデーにもお返しをしっかりと私に渡すために会いに来てくれるところがあるから 私もつい、もしかしたら、と考えてしまったのだ。仕方ないと思わないだろうか。




「でも羨ましいな。ほら 私こんなんだから同学年の友達とかいないですし」
「こいつラオウの下りをなかったことにしようとしてるぞ、カゲ。つか、おまえ同学年の友達って染井と照屋と……真木がいるだろ」
「真木さん誕生日が限りなく近い他学年なんですけど、当真先輩大丈夫? それに染井ちゃん達は向こうが友達って思ってなさそう……」
「連絡先持ってたら皆友達でいいだろ」
「じゃあ荒船先輩は私の友達なの?」
「は? 荒船きみ持ってんの? 連絡先」
「……逆に、犬飼おまえくらい苗字と長く付き合いがあって持ってない方が凄くないか?」
「まじか、犬飼こいつ。カゲも持ってんぞ」
「俺を比較対象に出してんじゃねーよ」
「そうですよ。私とカゲ先輩は親友ですよ」
「お前は一旦黙れ」




 カゲ先輩は鉄板の上のお好み焼きを私と犬飼先輩に半分ずつ分けた後に、先輩のお母さんの焼いてくれた お好み焼きも また、半分ずつ取り分けてくれた。私はカゲ先輩の取り分け作業の終わりを確認してから、犬飼先輩に「はんぶんこですね」と、お皿を指差していうと、犬飼先輩は まるで時間が止まってしまったかのようにピタリと動きを止めてしまった。あまりにもピタリと綺麗に動きを止めたものだから 私も一瞬、私が無意識のうちに副作用サイドエフェクトを使用してしまったのかと勘違いをしてしまう程だったのだけれど、荒船先輩を含める先輩達が普通に動いているから やっぱり犬飼先輩が固まってしまったという答えが正解なのだろうと思う。本当に大丈夫だろうか。なにかの病気だったりとかしないだろうか。だとしたら心配だけれど、当真先輩が物凄く気味の悪い笑顔を浮かべているから それもないのだろう。

 そういえば、私。犬飼先輩とこんなに長時間同じ空間にいるってわかるような近距離に滞在し続けた事ってないから分からないけれど、もしかしたら こういう人なのかもしれない。わからないけれど。




「きみさあ。あんまり気味の悪いこと、言わないでくれないかな」
「えっ……、大変申し訳ありませんでした」
「あと、連絡先」
「えっ、と……?」
「……なにその顔。おれがきみの連絡先教えて欲しいって言ってるんだけど」
「言ってませんでしたよね!!!?」
「いや、犬飼は頑張った」
「滅茶苦茶言ってただろ。察してやれよ」
「いや、言葉では言ってなかっただろ」
「ですよね!!? 言ってなかったですよね! もうカゲ先輩だけが私の味方!!!」




 ポケットから携帯電話を取り出して一体私の連絡先を この人は何に使うのだろうと携帯を差し出すのを渋っていると当真先輩が自分の携帯電話の私の連絡先を犬飼先輩に勝手にSNSアプリで送信した。挙句、私のアカウント情報も送信していた。こいつ本当に……。いや別に、この状況で私に連絡先を交換する事に対しての拒否権とか絶対になかったのだろうし、どうせ先輩から連絡が送られてくることもないから全然いいのだけれど、個人情報!!!! 個人情報保護法っていう素敵な法律が日本にあるの知ってるのかな!? この人!!! いいんだけど!!

 私が そのように考えていると当真先輩が私の肩を抱いて「どうせ友達いねーからいいじゃねーか」と笑う。たしかに、私のSNSアプリには家族を含めて友達が40人くらいしかいないのだけれど、それは今関係ないよね!!? ていうか、友達40人は多い方だから!!!! 滅茶苦茶多いんだからね!! ていうか、全然関係ないけれど 迅さんさ、私の連絡先をじゅんじゅんから聞いたのなら じゅんじゅんの連絡先教えてよ!! 本人に聞くのって滅茶苦茶勇気がいるんだよ!!! もうなんのための未来予知なの……。私は お前からの毎日の連絡を見るよりも、じゅんじゅんとの連絡のやりとりを楽しみたかった!!!




「ああ!!! お好み焼き冷めちゃったじゃんバカ!! 自分だけ美味しい時に食べてズルイですよ、先輩!!」
「いいか、苗字。冷めても美味い!!……が この店のキャッチコピーだ」
「いつからそうなったの!!! 出来立てを食べて欲しいに決まってるでしょ!」
「仕方ねーな、俺のと変えてやるよ」
「お前のやつのほうが冷めてんだろうが!! なに自分だけあったかいの食べようとしてんの!? 先輩の頭は正気ですか!?」
「うるせーうるせー。冷めたのは お互い様だろ。寧ろ全面的に お前のせいじゃねーか」
「どこがですか。寧ろ私が一番大人しく座っていたじゃあないですか!!」
「うそつけ。どの口が言ってんだ」
「滅茶苦茶ブーメラン!!!」















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Espoir