
ねえ、ダーリン。
こんにちは、苗字名前です。今日は学校で当真先輩と語り合った後に午後の授業を平和に受けて、それから帰る前に ちょこっと呼び出されたので向かったら なんだか知らない先輩達(男)に囲まれてしまいました。苗字大ピーンチ!! どうする、わたし。トリオン体になるか? いやでも、それで当真先輩達に迷惑をかけてしまったりしたら 申し訳なくて もう二度と冬島隊に顔を出せなくなってしまう。百歩譲って それはいいとしても、だ。 もう二度とボーダーに行けなくなってしまうのは にのみー達に会えなくなるからしんどいし、どうしようかな……。
こんなところ、同じように呼び出しをされない限り 来ないだろうし……。選択肢1、トリオン体になる。選択肢2、とりあえず大声を出してみる。選択肢3、連絡先を持っている全ての人にヘルプメッセージを送ってみる。……うーん。ろくな選択肢がないな。流石わたし。
「なにしてんの、名前」
……救世主? えっ、なにもう好きすぎるのだけれど。なんて素晴らしいタイミングで登場してくれるの? 救世主すぎる……。私の王子様すぎる……。このタイミングで私に逃げ道を用意してくれるなんて。
顔を上げて声の聞こえた方向に顔を向け その人物の顔を確認すると、わかりやすく表情を明るくして、私はその人の後ろに隠れた。背中に隠れたついでに、やっぱりちょっと怖かったから 少しだけ震える手で背中の布を掴んでいると何を悟ったのか 背中に隠れた私の様子を一度だけ確認したのがわかった。
「……こいつら 知り合い?」
知らない人。私が一言で簡潔に答えると興味なさそうに相槌を打つ。私達は2人とも1年生だけれど、良くも悪くも有名な2人だった。そもそも大前提として、ボーダー隊員は誰しも比較的噂のスポットの当たりやすい
派手といっても髪型以外は優等生の鏡のような私が何故そんな酷いことを言われているのかというのは未だに理由がわからない。そもそも、多分だけれど 言ってる人達の方が派手だと思う。大体、中学生の時の私ならば まだしも、今は当真先輩と真木さんに言われて、スカートは膝が見えるくらいまでしかあげていないし、なんなら黒タイツで素足は出していない。カーディガンは寒いからという理由から赤とかピンクのものを着用していたりもするけれど、他の子は もっと凄い色を着ている子もいるし、私に派手な要素あるだろうか。まあ、それらしい要素があるから言われているのだろうけれど。それに多分、こんなにチャラそうな人に囲まれているのだ。今日こそは厳重注意ではなくて実力行使でという意味に違いない。でもひとつだけ言わせてほしい。私は厳重注意もされたことないです。
「聞いてよ、ダーリンっ!! この人が名前を呼び出していかがわしい事をしようとしたのっ! 本当に怖かったんだから〜〜!!!」
「……じゃあ、やっていいの?」
「……なにをやるの?」
「…………」
「無言が怖い!! わかった! もうなにもしなくていいから帰ろう!? 私を教室に送ってってくれるだけでいいから!!!」
「わかった」
後ろで先輩達がなにか言っていたけれど、私は助けてあげたのだ。この人は本当に何をするかわからないところがあるから。実際に前にも助けてダーリン攻撃をしたら目の前の先輩をボコボコにした事とかあったし、実際に結構ヤバイ。もうなんていうのかな、天羽くんの悪い噂の半分は私が作り出してしまったのではないかと私が思うほどだ。まあ、その時は「私が囲まれていたところを天羽くんが助けてくれた」という話を先生達にした お陰で 停学2日くらいで済んだのだけれど、なかなか凄かった。久しぶりに思い出したけれど、凄かったなあ、あれは。ほら、私って入学したての頃は頻繁に呼び出しを受けていたりしたから……。うわー、なつかしいなー。嫌な思い出の塊である。
そういえば、真木さんに相談した週にピタリと収まったけれど 何かしたのだろうか。いやまさか。そんな凄い抑止力があるわけないよね。ま、まさかまさかね〜〜!!
「でも、天羽くん 久しぶりだね。私達が まともに話すのって お互い忙しかったから体育祭以来? 文化祭かな?」
「体育祭。名前がブラックトリガーになったら おれが使ってあげるって話した」
「話してません!!! なんて縁起でもない事を言うのかな!? この子は!! 赤組で羨ましいって話をしたの!!!」
「会話なんていちいち覚えてないよ」
「ダーリンが私に優しくない……」
「名前は相変わらず きれいな色してるよね」
「このカーディガンでしょ!? ピンクなんだ〜〜! お気に入りなの! 今度ダーリンにもプレゼントするね〜!!! 一緒に着よう!」
「うん。いらない」
「いらないの!!? じゃあ何に対しての『うん』って言う返事なの!?」
それにしても、そんなことは まあいいとして。天羽くんは こんなところに何をするために足を運んだのだろうか。いや聞くという行為がすでに怖いし、結果的に私が助かる形になったから私は何も聞かないけれど。
でも、本当に助かった。何も問題を起こす事なく 解決できたのは いい事だよね。平和が一番。私なんかは本当に平和主義を1番に掲げて生きているようなやつだから出来ることならば 高校生活を平和に特に問題なく 終わりにしたい。その為にも味方は多いにこしたことはないよね。来年は是非、佐鳥ちゃんか天羽くんと同じクラスになりますように!!!
「んあ? 苗字と天羽じゃん。お前らこんなとこでなにしてんの?」
「出水先輩だ〜〜!!!」
「……は? なんだそのテンション。おれお前にそんな笑顔で対応されたの初めてじゃね」
「そんなことないですよ〜。だって 私、これでも最近は結構先輩のこと好きですよ?」
「えっ!? ま、まじか〜〜……あー、つか お前らマジで仲よかったんだな。おれは てっきりボーダー都市伝説てきなのかと思ってた」
「都市伝説もなにも、私のダーリンです」
「まじで!!? 絶対京介だと思った!!」
「いや確かに私は今嘘をついたけれど、それにしたって烏丸京介はないでしょ」
「名前は出水が信じると思わなかったんだよ。おれでも信じない」
「お前が信じてたら それはそれで問題だろ」
それにしても、最近どんどん寒くなってきたよな。ぼんやりと上の方を眺めた 出水先輩の吐き出した白い息が私達のいる裏庭の寒さを物語っていた。今朝 今年何度目かの『今年いちばんの冷え込みになる』と言う言葉を聞いて、もうそんな季節になったのだなと感じながら家を出たのを思い出す。あと何回この言葉を聞くことになるだろうか。
そんなことを考えて視線を下に落とすと、出水先輩の手に大きなゴミ袋が握られているのが目に入った。なるほど、今週出水先輩は掃除当番なのか。そしてゴミ捨ての担当になったから こんなところに足を運んだわけだ。なるほどなるほど。出水先輩については、わかった。納得のいく理由である。しかし、再び あげてしまって申し訳ないのだけれど 天羽くんは何故こんなところに来たのだろうか。喧嘩とか そう言う理由でなければいいのだけれど。
「あっ。ついでだし、私先輩のゴミ捨て付き合いますよ〜。どうせ帰りも1人だし」
「まじ? 京介達は?」
「私が呼び出しかかっていたから もう帰っていると思いますよ。結構経っちゃったし」
「あー、天羽は?」
「どうせ暇だし、おれもいく。……それで、出水と名前は いつから仲良くなったの」
「……なんだよ。急に」
「べつに。前に仲良くなりたいっていってたから なれてよかったね」
「〜〜〜〜ッ、お、おまえ これ以上おれの恥ずかしい話を暴露したらころす!!」
知っているだろうか、皆さん。
出水先輩と天羽くんは あれで結構仲がいい。入隊も同時期だっただとか言われているから やはり、ボーダーでいう同期の縁というのは結構深い繋がりを産むのかもしれない。同期といえば、同期の縁が深いとか言ったばかりですぐに否定的な言葉を並べるのは どうなのだろうと私も思うけれど、これでも私と とっきーが仲良くなったのって今年からだった。今でこそ「苗字と佐鳥と時枝って同期なんだってよー。だから仲良いんだなー」と、言われるけれど(言われているかは不明)、昔は東さんに滅茶苦茶「同期とも仲良くしろよー」みたいに言われてたし、諏訪さんになんて「は、お前らが同期とか嘘だろ」と、言われていた。びっくりだよね。因みに私、この話を佐鳥ちゃんと とっきーに30回はしてる。
「あ、そういえば もうすぐテストですね」
「いやお前、テストは今月の終わりからだろ。それは、もうすぐとは言わない」
「そうなの? 私達は もうテスト対策始めたけどなあ……古寺くんとか凄いですよ」
「あの辺は勉強オタクだから仕方ない。あー……そういやお前も成績優秀者か」
そういえば、今年度の成績優秀者だとかなんとかいうので 毎回表彰されてたよな、という出水先輩の言葉に天羽くんが特別興味なさそうに相槌を打った。普通校である 私達の学校でも進学校である きくっちー達の学校の頻度には敵わないにしても模試というイベントは存在していて、金曜の午後。土曜の午前中。という最低最悪のタイミングで、それなりに頻繁に開催されていた。『成績優秀者』として名前を呼ばれる人達の条件というのは、そこで偏差値60以上を叩き出す(よくいえば努力家、悪くいえば頭のおかしい)人達で、私もその1人らしい。けれど、ひとつ言わせていただきたい。うちのクラスの1位。西原夏菜子という女は私の何十倍も頭がおかしい。この間とか、とりおが男が好きとか言って私のこと騙した後に「うっそ〜〜、信じたの?」とか言って笑ってきた。あの子、本当に……。
その話は また今度にするとして。私なんかはテストや模試は人生に役に立つ大切なものという認識で取り組んでいるし、将来行きたい大学も決まっているから頑張ろうと思えるけれど、誰しもが自分と同じような考えではないことは周りの人をみていたら なんとなくわかる。私の場合は教えを乞う人間が殆ど私の考えに賛同してくれる素晴らしい人格者だったから 他の人が本心、勉強に対して どのような印象を抱いているのかは わからないけれど。……人は人、自分は自分。私は これからも色々な人から多くの事を学んでいきたいと思います。
「でもほら、私には東さんに二宮さん、鬼怒田さんに月見さんっていう強い味方がいますもん。これくらいは当たり前っていうか」
「勉強四天王かよ。お前は学ぶよりも佐鳥と別役の赤点回避に貢献してやれよ」
「ここだけの話、別役くんと関わると酷い目に合うって当真先輩に言われていて 私は会話もしたことがありません」
「あの人、対策がギャグみたいに早いな。つかそれいったら天羽だって中々じゃね?」
「おれはテスト前に名前のノート借りてるから テストは問題ないよ」
「捉えられ方がちげーけど、それを佐鳥と別役に貸してやる優しさを発揮しろよ、苗字」
「とっきーには貸してます」
「話聞け。佐鳥と別役っつってんだろ」
佐鳥と別役って先程から出水先輩は私に口うるさくいうけれど、あの二人っていうほど成績悪いの? そんな話聞いた事ないけれど。
それに佐鳥ちゃんは嵐山隊の仕事があるのだから多少点数が低かったとしても留年とかにはならないのではないだろうか。そんなに成績が大変ならば、とっきーや木虎ちゃんが黙っていないと思うし、嵐山さんという最高の助っ人(しかも滅茶苦茶優しい)がいるのだから私が手を差し伸べなくても平気なのでは。いや、助けてあげたくないとか そういう事ではなくて、私より適任な人がいるのでは……という意味なのだけれど。そこのところ出水先輩は どのように考えているのだろうか。私ならば、同学年に教えてもらうよりも じゅんじゅんに教えてもらいたいなあ。
「あー……。ゴミ捨て場すぐだし、向こうまで来てもらうのは流石に悪いから おれ走ってゴミ出してくるわ。この辺いてくんね?」
「苗字、了解〜〜」
「わかった。出水の話して 待ってる」
「おいこら!! なにがわかった!? お前全然わかってねーよな!!? な!?」
「別に思いついた事しか言わないよ」
「お前の場合 それが一番問題なんだよ!」
「出水先輩、寒いから早く行って〜〜」
「
「…………それ、ふり?」
「フリじゃねーよ!! 前後の会話ちゃんと聞いてた上で言ってんのか!!?」
出水先輩が言われたくないような事を知っている天羽くんって凄いなあ、なんて考えながら、あれこの人全力疾走してないかと、ツッコミを入れるべきか そうするべきではないのかを迷うような速度で地面を蹴って進む出水先輩を眺める。
これはやっぱり一度、天羽くんに「あの人 全力疾走してな〜〜い?」とかって笑って言っておくべきだろうか。どうするのが正解なのかは、最早私には わからない。これはあれかな。あえて、今日 当真先輩と話した漫画の最新刊の話をするべきなのか。でも天羽くんって漫画とか そういう類のものに興味がなさそうだからなあ。あえてもう一度言わせていただくと、なにが正解なのか、私には もうすでにわかりません。もうすぐ、ランク戦だね! とか話したらいいのかな。それだ。正解を確信した私は天羽くんの方に顔を向けて「そういえば」と言葉を発した。発したのだけれど、途中で天羽くんに遮られた。それも、天羽くんの口から発せられた言葉は私のよく知る人物の名前だった……のだけれど、私は その人物の名前が天羽くんの口から発せられた事に目を丸くした。『緑川』。天羽くんは たしかに 今、緑川と言った。どうして天羽くんの口から その名前が出てきたのかということはわからなかった。だからこそ、私は自分の言葉をやめて 天羽くんの言葉に耳を傾けるのだった。
「迅さんと緑川は、なんて言っているの」
「迅さんと緑川……? ああー、聞いてよ ダーリン!! 緑川ってば、私の事を雑魚だと思ってたとかいうんだよ!! 酷くない!? 迅さんなんて もっと酷くて 私の事パシリか なにかだと思ってんの! 酷くない!?」
「ふーん……。 じゃあ、二人は今のところ 特に何も言ってないんだ」
「ちょっと、ダーリン!!? 人の話聞いてた!酷いこと言われているんだよ!? 苗字が!!! いいの!?」
天羽くんの両肩を両手で強く掴んで前後に ゆさゆさと揺すっていると天羽くんは「思い出さないの」と言う。別に言われてもいないのに、その言葉の後ろに付く言葉が理解できた。思い出さないの、出水達と仲良くしていて。きっと、天羽くんが私に言いたい言葉はコレだった。何故その言葉が続くのだと理解できたのかと聞かれれば、その答えは簡単だ。天羽くんが、
それは多分、私の中で重要ではない記憶だったから。 だって、あの時の私は自分よりも後にボーダーに入ってきた人間を自分よりも下であると判断して 無関心を貫いてきたから。自分の意識の中で無意識に無関心というジャンルへ分類された人を記憶の中に留めておくだろうか。それも『今後関わるかもわからない人』を、だ。 少なくとも、当時の私は出水先輩や米屋先輩に興味なんてなかったし、私が出水先輩達を認識し始めたのも その罵声が日常化し始めた頃からだったと思う。
「思い出さないって言ってしまったら、それは嘘なんだけれどね。私は もう
「……出水達に恩? 名前が?」
「恩というよりは、とても大きな借りがあるって言った方がいいのかもしれないね」
私達の間を強烈な一陣の風が出水先輩の走って行ったゴミ捨て場めがけて 吹いて行った。それはまるで、それ以上言及するなと私の代わりに誰かさんが代弁してくれているかのような強烈な一吹きだった。それにも関わらず、天羽くんは私に物申したそうな表情を浮かべて唇を動かそうとする。別に、話したくないわけでない。話すなと 口止めをされているわけでもない。けれど、その思い出は いつの日か私の中で 二宮さんにさえも口に出すことを戸惑うような そんな思い出になってしまった。理由は、そう。出水先輩達が誰にも話さなかったからという事と、もうひとつ。前後の内容も伝えなければ伝わる事がない話だからだった。私には、この話を天羽くんに伝えるにあたって どこからどこまで話したらいいのかという事が解らない。特に、天羽くんは かつての私達の関係を知っている人だからこそ、前後の誤魔化しがきかないという点に問題がある。
それに この話は多分、私のプライドと、先輩達の名誉を傷つける話なのだ。そうなると 先程の私の、話したくないわけではない、という発言は違うのではないか、と言われるかもしれないし、私も否定はしきれない。ただひとつ言える事があるとするのならば、この話は 面と向かって問われない限り 私が誰かに口にするということは絶対にないという事だった。
「待たせたなー。あー、疲れた。体育でもねーのに滅茶苦茶走ったわ。それよりも お前……
「ついさっきまで、この間の記者会見から入隊希望者が異常に増えているらしいって話をしてたところですよー」
「あー、暫くは毎月受け入れるらしいぜ」
「ヤバくないですか? そんなに
「意味不明だけど、夢はあるよな」
「聞いて極楽 見て地獄ってやつですね」
入隊希望者が増えるのは、この先を考えれば とても有益な事なのかもしれない。その入隊希望者の中から、もしかしたら緑川くんや遊真のような素晴らしい逸材が誕生するかもしれないのも事実だし、実際に私は いつだったかは忘れてしまったけれど 一時期のルーキーは凄かったと誰かが言っていた事を覚えている。そうなるのか、そうならないのかというのは入ってくる本人達次第なのだけれど。
聞いて極楽、見て地獄。皆が そう思うのか、そう思わないのか、というのは分からない。太刀川さんなんて遠征前は何故だか とても楽しそうにしているし。けれど、私なんかは死の恐怖なんていうのは昔から感じない方だったけれど『死の実感』というのだろうか。そういうものは遠征前に常々感じていた。原因は当然、あの同意書だろう。あれを見る度に 私は、これから凄く危険な事をするのだなあ、と感じる。当真先輩や出水先輩はなんか逆光は燃えるみたいに言っていたけれど、正直いつも意味不明だと私は感じている。口にしたら怒られるから言わないけれど。
「そういや お前、前のランク戦 うちの唯我と とっきーで観戦したらしいじゃん。あの2人って仲良かったん?」
「どうだろう。でも唯我くんと嵐山隊って結構頻繁に行動を共にしてる説が私にはあるので、やっぱり仲良いんじゃないですか?」
「まー、唯我の
私達が、ようやく校内の地図でいうところの一番隅っこにある下駄箱に辿り着いて、さあ 教室に向かって帰る支度をしなければ、と私と出水先輩が それぞれ自分のクラスの下駄箱の方向に向かって進んで行こうとした その時、天羽くんは言う。「ボーダーに唯我なんて奴いた?」と。
固まる私と出水先輩が ようやく天羽くんの口にした言葉を理解した時、天羽くんは既に上履きに履き替えたところだった。しかし、信じられない。この、最近になって 香取ちゃんが香取隊を作っていたという事を知った私でさえも知っていた唯我くんという人間を天羽くんは全く知らないと??? え?? 何それ凄くない?? S級隊員って一般隊員の情報を全然手に入れることができないレベルで毎日忙しいって事??? え、ブラックすぎない?? 大丈夫? ちゃんと労働時間分くらいは お金貰っているんだよね??? 心配になるのだけれど……。
「唯我くん 太刀川隊だよ!!?」
「……じゃあ、強いの?」
「強いよ!!!?」
「なに本気の顔で嘘ついてんだ お前。アイツ そこら辺のB級にも見劣りするだろ」
「やめてよ! 私も傷付くじゃん!!!」
「なんで お前が傷付いてんの?」
「唯我くんと私が同じレベルだから!」
「名前と同じ
「このバカの言葉は真に受けんでよし」
いやいやいや、本気だから!! 本当のことだから!! だって唯我くんと苗字は同盟組んでるしね!!? 出会ってすぐに意気投合したんだからね!!? それくらい お互いに波長があって、話も会うんだからね!!!
伝えるだけ伝えて、顔を上げると出水先輩は妙に居心地悪そうに視線を逸らして、天羽くんは そんな先輩を責めるような顔をしていた。なんなの……。この二人に この手の話はしちゃダメなの??? 恐ろしく微妙な空気になった私達のいる下駄箱にパタパタと階段を下ってくる音だけが響き渡る。今なら こんな なんでもないような音でもとてもありがたい……。そう思って視線を出水先輩達から階段の方へと向けると階段を下ってきた人物と視線が交わる。
「あ!!! いた!! 苗字!!!」
「えっ、佐鳥ちゃん……? まだ学校にいたの? どうしたの? なにしていたの?」
「苗字の事を待ってたんじゃん!! 今日 苗字、お昼も当真先輩といたし 帰りぐらい一緒に帰ろうと思って……と、とっきー達も待ってるし 一緒に帰ろうよ!!」
「えっ、ありがとう? でも私、出水先輩と一緒に帰る約束しちゃった」
「えっ、佐鳥より出水先輩なの!?」
「佐鳥ちゃんと出水先輩なら比べるまでもなく佐鳥ちゃんだけど 約束しちゃったし……あっ、それなら、一緒に帰る?」
「…………苗字のバカ!!!」
「お前等って会う度に恋人みたいな話してるよなー。前もコイツが可愛いだのなんだの言ってたし、学校でも毎日抱き合ってるらしいしなー」
「え? それ有名なの?」
「まー、有名にもなるだろ。お前のクラスって何かと目立つクラスだし」
出水先輩は その言葉の後に「体育祭での得点王もそうだけど、京介と時枝がいるもんなー」と続けた。 確かに、広報部隊である嵐山隊の とっきーと、とりお。この二人は うちの学校では有名人だ。それは私だって知っている。とりおや とっきーは頻繁に呼び出しを受けていたりするし、それは同学年だけにとどまらず他学年の人だってくる。流石の私も とりおが学校のマドンナと学年のマドンナに呼び出しを食らった時は固まった。何故 烏丸京介なの??? 素で思った。実際に真顔になった記憶もある。それなのに、それを断るとかあり得ないよね。なんなの?? 贅沢すぎないか、烏丸京介くん。私なら秒でOKサインだすけどね!!!
まあ、私は付き合うのなら大学生からって決めているから 今告白されても受ける気は更々ないのだけれど。先に言っておくのだけれど、これは本当に言い訳とかじゃあない。本ッッ当に、言い訳とかじゃないから!! ああ、でもそうか。とりおも私みたいにお付き合いするのならば大学生から!! みたいな自分の中の決め事があるのかな。今は勉強しないと!! みたいな事かな。わかる〜〜。勉強もだけれど、青春もしないとだよね〜〜。折角の高校生活だもんね〜。あ〜〜、もう私は双葉ちゃんが高校生になって名前先輩って呼んでくれるのが楽しみで仕方がないよ。でも、双葉ちゃんが入学する年に私は大学生なんだよね〜〜。なにこれしんどいわ〜。現実を受け止められないよね!! で、でも来年は遊真が入学してくるはずだし……。うん、頑張ろ……。
「苗字、オレが解説の仕事した日に嵐山隊の仕事終わってないって言ったら手伝ってくれるって言ったじゃん!!!!」
「えっ!!? 嘘でしょ!? あの日は私割と気を使って 佐鳥ちゃんを避けてたのに!?」
「やっぱり オレのこと避けてたの!?」
「え〜〜……なんなの、佐鳥ちゃん」
「もういい!! 苗字と、とりまるが真剣に付き合ってるって噂流してやる!!!」
「どうしたの!? 虫の居所でも悪いの!? 救急車呼んでおこうか!!!?」
「佐鳥も苗字も やめなよ。 大きな声で話すような話でもないじゃない。 結構上まで聞こえてきていたよ」
これまだ続くの? おれ先に帰るね、と自分の教室へ鞄を取りに向かう天羽くんを目で追いかけながら、いやそこは私の事を助けると思って連れて行ってよと思うけれど、私の鞄は何故か時枝充くんとかいう聖人が持っているし、逃げ場がない。それにしてもさ、私の唯一の逃げ道の天羽くんが私を連れて行ってくれなかったというのは本当にね、傷付いたけれどね。でもね、よく考えたらね ボーダーS級隊員とかいうスーパーブラック労働をボーダーにさせられているのだろうから目を瞑ろうと思う。あの唯我くんの入隊も耳に入らないくらいの多忙だというのならば、それはもう仕方のない事なのだと思う。いまや 天羽くんは私なんかが引き止めていいような相手ではないのだろう。
もうこれはあれなのかもわからない。私の事を1人のボーダー隊員として覚えておいてくれているということに感謝すべきなのかもしれない。天羽くんヤバくない……??? そんなに忙しいのにテスト前に私のノート借りに来ているの?? 尊敬すべき要素しかなくない???
「あー……さて、気を取り直して……佐鳥ちゃん。なんと 遂に 苗字と佐鳥ちゃんが暖をとる季節がやってきました〜〜!!!!」
「えっ……は、なに!!?」
身構える佐鳥ちゃんを御構いなしに私が両手を広げると全てを悟ったのだろう とっきーと とりおが すぐそこで溜息を零した。出水先輩に関しては、何が何だか、という顔をしているけれど 特別何かをするというわけでもない。私達にしてみたら 最早見慣れた日常のサイクルのようなものになってしまっているような その程度のものだ。
「きゃーーー!!!」
「きゃ〜だって〜〜、可愛い〜〜!!」
飼い主に向かって ちぎれんばかりに尻尾を振り回して飛びかかる 犬のような姿で佐鳥ちゃんの腕の中に身を預ける私と佐鳥ちゃんは きっと出水先輩から見ても全く恋人同士なんかには見えないに違いない。別に恋人同士ではないのだけれども。しかしまあ、こんなノリで抱きつきあっているからか、最近ではクラスの女の子達からも佐鳥ちゃんのクラスの子からも微笑ましく見守られるという不思議な扱いを受けているほどだ。逆に凄いよね。なんなんだろう、この扱い。
佐鳥ちゃんとかさ、ボーダー嵐山隊の広報だし、とっきー同様絶対モテているだろう筈なのに 私は色んな人に「佐鳥くんと苗字さんお似合いだね!」って言われるんだよ。あれかな。その言葉の後ろには、だから時枝くんと烏丸くんはとるんじゃねえぞ、って続くのかな。……そんな気がする。そんな気しかしないけれど、大丈夫だよ、皆。烏丸京介くんは皆のものだからね!!
「あー……なんつーか、おまえらって引くほど仲良いんだなー。相手が苗字じゃなければ 完全にリア充ってからかってた」
「ですよね〜〜。相手が私じゃなかったら 私も女の子の方を見に行ってやりますよ。あ、出水先輩も一緒に暖とります?」
「…………いや、普通に恥ずい」
「先輩、苗字相手に照れるんすか」
「おーおー。口の聞き方には気をつけろよ、京介。さもないと お前マジでハロウィンの件を