先輩、あのね






 いよいよB級ランク戦の第二戦の行われる。ちなみに私は今、なにがあったのか、どうしてこうなったのか。何故か観戦席で双葉ちゃんと一緒に米屋先輩と古寺くんと隣の席に腰を下ろしている。何があったのか、どうしてこうなったのかーーーと、いうのは言い過ぎだとは思うけれど、本当なら こんなところに来て観戦するつもりなんてさらさらなかったのだ。

 それならば、何故此処にいるのか。当真先輩に「解説の仕事やりたいんなら見てきたらいいんじゃねーの?」みたいに言われたというのがひとつ。そして諏訪さんが東さんに「苗字のやつ二宮隊で観戦するのやめたらしいぜ〜〜」と、あの紙切れよりも軽い口がペラペラと東さんに喋ってしまったおかげで、私が東さんに「こういうのを見て学ぶのもいいんじゃないか?」と素敵な笑顔で言われて「はい、行きます!」と言ってしまった私のせいというのがふたつ目の理由である。




「うーん、いやだなあ……。 東さんが解説だと此処滅茶苦茶混むんですよねー」
「お前どこ見て言ってんの?」
「えっ、嵐山さん格好いいなって……」
「最早此処が混もうが混まなかろうが 関係ねーじゃん。もうおまえ とっきーの隣に座ってきたらいいんじゃね?」
「とっきーの隣に座ったら木虎ちゃん怖いし、佐鳥ちゃんを放置してきた自分が嫌になりそうなんで ちょっと無理です」
「あ、本当だ。 佐鳥がいない」




 今日佐鳥ちゃんは前回のランク戦解説の時にやるはずだった仕事やってるらしいですよ。苦い顔をして呟いた私に米屋先輩は不思議そうな顔をして「いやそれ嵐山隊の仕事だから放置しようがなんだろうが苗字関係なくね?」と、首を傾げる。たしかに米屋先輩のいう通りなのだけれど、なんていうかその、うん。 ほら、私達にある距離感的なものが気まずさを増大させたといいますか、なんというか……。言葉で説明するのは難しいアレですよ、アレ。そうアレアレ〜〜。




「さて 東さん。 一試合で8点というのは あまりお目にかかれませんが……」
「いや すごいですね。それだけ玉狛第二が新人離れしてるってことでしょう」
「遊真先輩は強いよ。あっという間にB級に上がってたし」
「緑川くんは玉狛の空閑隊員と個人ソロで戦ったというウワサが……」
「うわ その話ここでする? 8-2で負けました! ボッコボコでした! でも今度また10本勝負する約束したから 次は勝つよ!」




 駿が負けたんですか? 8-2で? 改めて私に確認する双葉ちゃんに「そうだったみたいだね」と、言葉を返すと私の隣に座る米屋先輩が「こいつは あんまし見てなかったけど かなりいい勝負だったぜ」と口を挟んだ。

 この男……。あの日、遊真と緑川くんの戦いの終わりに 私が「お前のムカつく事を思い出してたんだよ」みたく返したのを意外と根に持っているのかもしれない。私の私を慕う数少ない後輩の一人である双葉ちゃんに敢えて「こいつは あんまし見てなかったけど」と言う言葉を強調して言っていた。




「……あらあら〜? 米屋先輩ってば〜〜、見たまんま 根に持つタイプなんですかあ?」
「喜べ、美少女。おまえ限定だ」
「こんの、野郎……!!!」
「ほ、ほら、はじまりますよ! 名前ちゃんも米屋先輩も抑えて抑えて……」
「いいか、章平。この女は ここら辺で一回シメておいた方がボーダーの為だ」
「いいんですか、米屋先輩。此処には私の強い味方、双葉ちゃんに緑川くん。そして何よりも……あの・・、東さんがいるんですよ」
「………………さ〜てと、静かにするか〜」




 勝った!!! そう思ってガッツポーズを決めていると私の横に座っていた双葉ちゃんが「先輩達は最近本当に仲良くなりましたよね」と、口にして首を傾げていた。 言われてみれば、双葉ちゃんが入隊してすぐの頃は先輩とは 今ほど仲良くなかったような……。そんなこともなかったような……。 そのように思考していると、マップ選択権のある玉狛第二がマップを決定したようだった。そして、選択されたのは『市街地C』。正直言って、これは意外だった。 市街地Cといえば、完全に狙撃手有利のマップ。 つまり、今回で言うならば荒船隊有利のマップである。

 けれどまあ、玉狛第二のオペレーターは宇佐美先輩。 宇佐美先輩も三雲くん達がなんの作戦もなしに このマップを選んでいるのだとしたら 多少の助言はするだろうし、やっぱりこれは意味のあるマップなのだろう。




「『市街地C』! 坂道と高低差のある住宅地ですね! しかしこれは 狙撃手有利のマップに見えますが?」
「狙撃手有利……ですね。道路を間に挟んで階段状の宅地が斜面に沿って続く地形です。 登るには どこかで道路を横切る必要があるので狙撃手が高い位置を取ると かなり有利です」




 逆に下からは建物が邪魔で身を隠しながら相手を狙うのが難しい。射程がなければ、なおの事難しい。 そのように語る東さんに桜子ちゃんは、雨取隊員が上をとれればいい、と言うような作戦なのではないかと、言ってはいるけれど雨取隊員がランダムで転送されて そこで上を取れる確率よりも荒船隊の隊員が上を取る確率の方が遥かに上。 なによりも。例えば、高台を運良く陣取る事が出来たとしても、あれだけの威力のある砲撃が繰り出されれば、いくらバッグワームを付けていたとしてもすぐに場所は割れてしまうし、一撃必殺感が凄いからなんとも言えないなあ。

 けれど、あれだけの高火力。そういう作戦があったとしても、おかしくはないといえば、おかしくはないような気もしなくはない。




「いやあ、すげー バイオレンスなマップ選択してきたなー。こりゃあドSかドMが部隊に潜伏しているに違いねー」
「…………単純に、自分の狙撃の腕に相当な自信があるんじゃないですか」
「いつになく不機嫌だな、苗字。 あー、おまえ アレか。出水に聞いたぜ?玉狛のトリオンモンスターっぷりに嫉妬してるとか」
「してないし!! 私のが凄いもん!!!」
「わかるぜー、ムカつくよなー」
「……今一番先輩にムカついてるんですが」




 ……けれど、実際に戦闘というのは単体の戦力だけでは どうしたってどうにもならない場面が出てくる。それはつまり、1人がずば抜けて強かろうと 総合力で勝利している部隊の方が やはり強いという事を表している。 特に、ボーダーのランク戦のように それぞれがランダムに転送されるのならば、余計にその要素は強くなるだろうことは間違いない。 だからこそ、ランク戦では戦力で敵を上回る為に基本的には多くの部隊が合流して敵を倒す、というのが一般的に各部隊に見られる傾向だと思う。特に、上位グループになれば尚のこと その傾向は強くなる。

 どうしたって単体での戦闘よりも人数の多いチームとしての戦闘の方が戦闘力は上がるし、敵とも有利に戦える。 そういう意味では ある意味味方との合流が特別必要ではない荒船隊や私達冬島隊は他部隊よりも有利に戦えるに違いないのだから やはりこの市街地Cのマップを選んだのは失策なのではないだろうか。私にはわからないけれど玉狛第二には玉狛第二なりの作戦を持って ここに挑んでいるのだろうから、やはりこのマップ選択にも意味があるのかもわからないけれど。




「あーあ、いいなあ……トリオン多くて」
「あーー……お前にはお前の良いとこがあるんだから 周りなんか羨まなくったって別にいーじゃん。この消極的女にガツンと言ってやってくれよ、章平」
「そうですね。玉狛の狙撃手の子も脅威だと思うけど、名前ちゃんだって おれたち狙撃手から見たらそこ知れぬ深淵を覗いているかのように底なしの技術力だよ……」
「サイドエフェクトがでしょう? 私の需要はソレだけだし、もっと頑張らないと…」
「? あたしは 名前先輩の需要はソレだけじゃあないと思いますけれど」
「そうだったら、良かったんだけれどねー……あっ、転送が開始されたみたい!」




 桜子ちゃんの『転送完了!』の声で一気に私達のいる観戦席の緊張感もグッと上がる。なんていうか、実は このハラハラドキドキする感じが私はあまり得意じゃあないのだ。

 ……とはいえ、東さん直々のお誘い。断るわけにはいかないだろう。それもこれも諏訪さんのせいである。前回は唯我くんと とっきーがいたし、殆ど開始直後に試合が終了したから よかったけれど、私はこういう大きい画面で繰り広げられる戦いに のめり込み過ぎてしまう傾向があるから こういうドキドキの空間はあんまり好きじゃあない。だからこそ、今までは にのみーと安心して二宮隊で観戦していたというのに 諏訪さん(と、自分自身)のせいで 気がついたら二宮隊での観戦は卒業みたいになっていた。これからは 大人しく自分の部隊で観戦しようと思う。あーあー。自分の作戦室で観戦すると当真先輩がうるさいから嫌だったんだけどなあ。




「そういえば、今日は出水先輩じゃあなくて古寺くんなんですね。意外だ」
「オレと弾バカは お前の中でセットか」
「だって昔から いっつもくっついてるし」
「否定はしねーけどなー。あいつ今日 防衛任務なんだと。 折角解説が東さんなのに」
「あーあ、どんまいですねー」




 ちょっとした会話を済ませて再度画面に視線を戻す。どうやら各自、高台を目指す中で遊真達 玉狛の皆は合流を優先したらしい。

 東さんや桜子ちゃんは最早解説席のプロといっても過言ではないから、こういう戦法の意味が理解できるのかもわからないし、私も私で『部隊は合流した方が強い!!』みたいに言ったけれど、それは距離が まあまあ近くて、今みたいに明らかな役割有利がない時に限る。特に こういう狙撃手有利系のマップは どうやっても不利有利がハッキリしちゃうから こういう場面で合流優先しても お得な事って防御ガードが固くなることくらいじゃあないの? 実際、東さんも荒船隊完全有利とか言ってるし……。うーん、わからない。




「東隊長の解説通り玉狛第二が一方的にダメージを受けていく! 本職相手に狙撃手勝負は無謀だったか!?」
「……いや、端から勝つ気はないようです」
「……え!?」




 どうやら先程あった雨取隊員の砲撃は諏訪隊を高台に向かわせる援護みたいなものだったらしい。しかも、長期戦で荒船隊に勝てないのは織り込み済みでステージを敢えて荒船隊有利に偏らせる事により『二部隊 対 一部隊』という怖すぎる戦闘に誘導したらしい。

 ちょっと待って、この作戦考えた人 怖すぎる……。いや、というか 凄すぎる。どうやったら そんな恐ろしく自然な流れで こうも作戦通りの展開に持ち込めるのだろう。是非教えて頂きたい。そして私の今後の役に立てたい。でも、今回のマップと作戦は参考になりそうにないなあ……。今回みたく、狙撃手有利マップにすると出水先輩とか米屋先輩とかに組まれて厄介な戦いになりそうだし……。 あーあ、個人戦も もうちょっと融通が利いてくれたらよかったのに。 例えば、個人戦ブロック機能! みたいなものとか。 具体的には……、こっちからの申し込みしかできないとか。




「そういえば、双葉は……双葉ちゃんは緑川くんと仲が良いんだっけ?」
「……昔みたいに呼び捨てで大丈夫です」
「でも、ちゃん付けの方が可愛い双葉ちゃんの可愛さがより引き立つ気がするんだよね」
「いや、つか苗字に呼び捨てされるレアな隊員がいたという事実に驚きだわ」
「え? 遊真は呼び捨てにしているけど……」
「お、おお……よく緑川がスルーしてるな」
「いや普通に騒がれましたよ、昨日」
「最近すぎてうけるわ」




 荒船隊有利から一転! 玉狛の砲撃を隠れ蓑にして 諏訪隊が獲物に食らいついた! という 桜子ちゃんの声を聞きながら 「緑川は期待を裏切らねーよなー」と足を揺らす米屋先輩を眺めて、先輩の緑川くんのイメージがわからない、と、普通に思った。

 画面の向こう側では半崎くんの素晴らしすぎる狙撃を奇跡のガードで交わしてくれている諏訪洸太郎大先生の姿があった。なんて恐ろしい人なのだろう。私よりもボーダー歴が長いだけのことはあると評価すべきなのだろうか。それとも、この素敵な技に因んで『Mr.狙撃手砕き』という あだ名をプレゼントした方がいいだろうか。 半崎くんは どうだかわからないけれど、私は今の狙撃を読まれたら普通に自信が砕ける。 ただでさえ、あってないようなものなのに。 別に諏訪さんが頭が悪そうだからとか、そういう理由ではない。 自分が今ココでココに撃つべきだと判断した『その判断』を見抜かれた不甲斐なさで心が折れるのだ。




「ヘッドショットをピンポイントで防御!」
「半崎の狙撃の正確さが仇となりましたね」
「なるほど!」
「通常よほどのトリオン差がない限りシールド単品で狙撃は防げませんが狙いを読んで盾を集中すれば防御が可能です!」




 故に『Mr.狙撃手砕き』である。

 半崎くんの狙撃手としての腕は情報が全く通って来ない私も知っているほどだ(佐鳥ちゃん経由で)。 だからこそ、諏訪さんが半崎くんの腕を信用するところまではわかる。 けれど、普通実践するか? いいや、しない。 普通ならしない。




「……しかし一点読みが外れれば死んでいた! 諏訪隊長なんという胆力!」




 さらに一発! 今度は防げなかった!足を撃ち抜かれた諏訪さんの様子を桜子ちゃんが そのように解説すると東さんは「諏訪ならこのくらい必要経費だと思ってるよ」と、言う。 いやなにもうこの戦い怖い。 私って、 B級ランク戦 上位部隊の戦いしか見たことないじゃん? ほら、にのみーとかカゲ先輩が出てくるやつね。 だけどなに、これ。 いやエグさとか容赦のなさなら上位部隊が勝つかもしれないけれど、普通に心にくる……。

 どうしてだろう。 苗字、B級にも勝てない説がジワジワと濃厚度を上げてきている……。やっぱり、最近のB級って 1人1人は緑川くんに全勝するくらいのトンデモナイ人間が集まっているのかな? 鋼くんや遊真を含めて。 やばくない?? B級やばいよね。 これはあれかな、苗字は心のリハビリが必要なのでは……。




「いや普通に荒船隊完全有利って感じだったんだけど すげー展開だなー」
「普通に心にきますよね」
「ランク戦において 狙撃手は厄介極まりねーからなー。 ズカズカよいしょよいしょ」
「……よいしょよいしょとか、こっっっわ」




 そういっている間にも、諏訪さんの撃破に失敗した半崎くんの場所が割れて遊真と堤さんに挟まれて緊急脱出ベイルアウト。 しかも、それに続いて 堤さんも遊真のグラスホッパーを使用しての攻撃に敗れてしまった。

 この一瞬で2人も緊急脱出ベイルアウトしましたけれど、信じられますか??




「今の動きはグラスホッパー……!? 空中機動を可能にするジャンプ台トリガー! 前回は使っていなかった気がしますが……!?」
「オレが教えました。 昨日」
「昨日!? なんと普通に覚えたてだった!」




 私も本気で教えるとは思っていなかったのだけれど、緑川くんって本当に凄い人だよね。 私なら新人に「お願いします!! 狙撃のコツを教えてください!!!」と、言われても「は? 練習しろよ」としか言えない気がする。

 でもさあ、わかるでしょ!!! あれだよアレ!! 自分を超えられたらイヤだなあ、みたいな。 だから師匠とかお願いされてOKする人って本当に凄いなって思うよね。尊敬しかないよね。 ゴッド東とか、ゴッド木崎とか。 素敵すぎてスタンディングオベーションなんだけれど?




「緑川くんって恐ろしい子だよね……」
「そうじゃあなくて、単純に 強い人と戦いたいだけだと思いますけど。あのバカ……、ライバル強くしてどうするの……」
「オレは ああいうの好きだぜ」
「先輩は同類だからですよ。 私は絶対にイヤですね。ライバルを強くするなんて」
「たしかに、お前って下手したら緑川の倍くらい負けず嫌いだもんなー」
「だってムカつくじゃあないですか。 自分より有能な同じ役割の人って」
「だからお前 最初の頃 うちの大事な奈良坂を滅茶苦茶敵視してたのか〜〜」
「私は私よりも後にボーダーに入ってきた狙撃手は誰彼構わず大嫌いですので」
「今は仲良い癖に怖い女だな」
「古寺くんも奈良坂先輩も三輪隊なので」
「オレは今 秀次の絶対性を疑った」
「三輪くんは親友なので」




 そのような発言を受けて、古寺くんは「だから おれ、最初の頃に名前ちゃんに嫌われていたんだ……」と小言を漏らしている。

 普通に気づかれていたようで 私も それなりに申し訳のない気持ちで一杯になる。 私ってば、そんなにわかりやすかっただろうか。 ……ま、まあ確かに、古寺くんや奈良坂先輩が三輪先輩の作り上げた三輪隊に入った その日からわかりやすく態度を変えた記憶はあるけれども。




「玉狛第二も1点取り返して次の相手へ! 狙うは穂刈隊員! 徹底して 荒船隊狙いだ!」
「狙撃手が残ってると めんどくさいからね。 名前ちゃん先輩なんか めんどくさい狙撃手代表でしょ。 良い意味で」
「そういえば、最近解説席で苗字先輩の話題が色んな隊員から出てきますが……?」
「あ〜……結構皆やってくれてるんだ?」
「と、いうと?」




 どんな悪口が飛び出してくるのかとヒヤヒヤしながら次の情報を待っていると米屋先輩が私の肩を思い切り掴んで「そーだ。 秀次がお前に用事があるんだったわ」と米屋先輩が私の手を掴んで席を立ち上がり グイグイと私の手を引っ張った。ちょっと待ってよ、緑川くんがなんていうのかを私は確かめないといけないんだけれど……。 そうは思うけれど、正直 今日のランク戦は結構心に突き刺さるものがあったし、苗字のメンタルケアとして三輪先輩に会ってお話しするのも良いかもしれない。そう思って 三輪先輩のところへと訪れると、珍しい組み合わせで集まっている先輩達の姿を見つける。

 私と同じようなタイミングで先輩を見つけた米屋先輩は「秀次!!」と大きな声で三輪先輩の名前を呼ぶと「苗字が話があるんだと!!」と言って私の背中を押し、先輩は来た道を急いで引き返していった。東さんの解説が聴きたいからかな??? なんて無責任な男なのだろう。そもそも、私が話がある、とは??? 先輩が私に用事があるのではなく? 私が??? あの男は正気か??




「どうした、苗字」
「こんにちは、三輪先輩。 なんだか 随分と愉快な……珍しい組み合わせですね」




 私の言葉を受けて、三輪先輩は後ろの2人……光ちゃんと三浦先輩をなんとも物言いたげな目で暫く見つめてから 私に視線を戻した。




「……別に好きで一緒にいる訳じゃあない。この馬鹿が自分のクラスの課題も把握をしていないだとかいって押しかけてきただけだ」
「仕方ないだろー、アタシ達だって色々忙しかったんだからさー。 なあ?」
「ははは……」
「光ちゃんは分かるけれど、先輩も?」
「隣の奴と話してたら聞き逃しててさ……」
「いやいや、ちょっと待て。アタシは分かるけどって どういう意味だ!?」
「光ちゃんは可愛いって意味〜〜」
「……上手く誤魔化してもダメだからな!?」




 三浦は兎も角としても仁礼を甘やかすなと 私に言う三輪先輩は、たった今の発言に対して光ちゃんに滅茶苦茶絡まれていて、大変疲れた顔をしている。あーー、でも たしかに光ちゃんと言えば、出水先輩曰く、『米屋先輩と共に赤点講習に出ているボーダーと学校を両立できない系隊員』という大変不名誉な枠に収まっているらしい隊員なのだという。

 前回のテストも、あらゆる隊員の協力あって2人とも何教科かは赤点を回避したらしい。『何教科かは』という意味深な言葉を踏まえるのならば、赤点もあったのかもしれない。その発言について深く考えたことは今日までなかったけれど、三輪先輩も苦労しているのかもしれない。 その点、私のクラスは別に奥寺くんも、とりおも、とっきーも赤点の危険なんて全然ないらしいから 私も平和に学校生活を送らせていただいている。




「……ん? あれでも、先輩って香取隊でしたよね? そんなんじゃあ 香取ちゃんに嫌われちゃうんじゃあないですか〜〜?」
「……こ、今回はホントに偶々だよ」
「でも大丈夫! 私より嫌われる事は きっとどんな事があってもありませんよ!」
「ありがとう? でも、名前ちゃんって華とは結構仲が良かったよね。 葉子ちゃんとは そんな事ないんだ? 意外だなあ」
「私も同じ城戸派だし仲良くできるって信じていたんですけれどねー。無理でした」
「そうなんだ? オレがみていた限りでは葉子ちゃんは名前ちゃんの事が嫌いなようには見えなかったけどな……」




 女の子って難しいよね……。何かあったのか心配になるくらい消えそうな声で呟いた三浦先輩に光ちゃんが「名前の事を嫌いになる奴なんているんだなー」と三輪先輩に同意を求めている。

 同意を求められた先輩は、何故俺に聞くんだという表情で光ちゃんを見ているけれど、そんなことは全然御構い無しな光ちゃんは「うちのカゲともだけど、三輪とも仲良くなれるくらいなのにな!」と誰に失礼になるのかもわからないセリフを口にしていた。 しかも、三輪先輩に向かって。光ちゃん、本当に凄いな。 私の横で見ていた三浦先輩さえも この表情である。




「そろそろ行くぞ、苗字」
「あっ、先輩待って!! 光ちゃん、また今度遊ぼうね〜〜! 三浦先輩も、また!」




 三輪先輩の後ろを付いて歩いている際に何人かのボーダー隊員とすれ違ったけれど、相変わらず 私達の組み合わせというのは珍しいのか 指を指されたり、小声で何か話している何人かの隊員達の姿を目撃した。けれど、三輪先輩は そういう事柄に対して 特別興味を持っていないのか、全く気にとめる様子もなかったので私も そういう風に振舞うことにした。

 三輪先輩はラウンジまで来ると、しばらく辺りを見渡してから、あまり隊員の密集していない席に腰を下ろした。




「今日は どんな用件だ」
「聞いて驚いてください。 騙されました」
「だろうな。 俺もお前に対して特別話しておくような内容はないが……、強いていうのなら、お前が無事なようで安心した」
「ああ、侵攻……そうだ。遅くなりましたが、戦功おめでとうございます。本当は もっと早く言わないといけなかったのに」
「いや、ありがとう」




 三輪先輩からの「ありがとう」という言葉さえもなんだか照れ臭かったというのに「お前も戦功をとっていたな、おめでとう」なんて言われてしまったから だいぶ居心地が悪い。

 私の周りにいる人たちは戦功の高さ云々で戦功の話をしたりはするものの、ここまで直接的に「おめでとう」とストレートに言ってくれる人はいなかったから あれから結構経っているとはいえ、嬉しいし、恥ずかしいし、頭の中がだいぶ大騒ぎしてしまっている。




「せ、先輩がSNSの連絡先交換してくれないせいなんですからね。 見て、ほら。 風間さんですら交換してくれましたよ!!」
「……必要なら結束に聞く予定だった」
「昔から偶に そういうとこあるよね」
「お前も昔から上手く自分を使い分けるところがあるのだから お互い様だ」
「…………そんなにわかりやすいですか?」
「そうだな」













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Espoir