冗談でしょう










「そういえば、今度また久しぶりに東さんや夏凛ちゃん達とお出かけしたいなーって思ってから、気づいたら一年が経っていたんですよ。時の流れって怖いですよね」
「?……意外だな。結束に関していうのなら、お前から提案すれば予定があろうがなかろうが飛んでくるだろう」
「いやいやいや、ないない。実際に夏凛ちゃんとは何だかんだで遠征前ちょっと話したっきりなんですよ。一年ちょっと前までベッタリだったのに信じられない」
「全くだな」



 やっぱり、私がA級になって、しかも休みなんて全くないのでは?というレベルでボーダーとカゲ先輩のところのバイトをしているせいなのだろうか。この間その件で当真先輩に滅茶苦茶言われたもんなあ。だって、大規模な侵攻があったからといって、B級が暫く防衛任務に参加出来なくなるだなんて一体誰が想像します???しませんよね??

 実際、今日だって太刀川隊が防衛任務なのって突然交代宣告されたからなんじゃあないの?いや、元々今日入っていたのかもしれないし、実際のところは本当にわからないけれど。ああ、ということは今日は唯我くんはいないのか。唯我くんってなんだかんだで苗字とのお喋りに無限に付き合ってくれる数少ないソウルメイトの一人だからいないとさみしいな〜〜。う〜ん。



「……あれ? 先輩はランク戦観戦しなくていいんですか? もしかして私のせいで見てない、とか……。せ、折角の東さんの解説なのに、ごめんなさい……解散しますか!?」
「俺の代わりに陽介達が見に行っているから何も問題はない。それに俺が好きでお前と話をしているのだから、お前がこの件について何か責任を感じる必要はないだろう」
「えっ……、あ、うん」
「……相変わらず、人からの好意に恐ろしく耐性がないらしいな。付け入られるぞ」
「つ、付け入られないもん」



 どうだかなー。そんな表情を三輪先輩は浮かべるけれど、そこは本当に大丈夫だと思う。ボーダーには綾辻先輩や那須先輩さらには小南先輩みたいな超絶可愛い先輩がいるし、木虎ちゃんや夏凛ちゃんみたいな格好良い系女子もいるし、なんなら、みかみんみたいに滅茶苦茶面倒見のいい奥さんにしたい系女子だっているのだ。可愛い女の子が沢山いるものだから、男子ボーダー隊員は、さぞかし眼福なのではないだろうか。

 実際、みかみんとか絢辻先輩とか滅茶苦茶人気らしいし、その気持ちは私も滅茶苦茶わかる。けれど、私はどうだろうか。顔は当真先輩曰く普通以上絢辻先輩以下。性格は比較的最悪だし、とりおを筆頭に結婚出来るのかどうかを心配される程である。モテる要素がない。そもそも、普通以上絢辻先輩以下っていう顔のレベルの範囲が広すぎて自分がどこに位置しているのかというのが全く理解出来ない。顔は、そこそこかなと思っていた自分が恥ずかしいのだけれど。



「結束や東さんが、苗字おまえを気にかける理由が最近漸く少しだけ分かるようになった」
「?」
「あんまりにも警戒心がないものから、変な輩に付け入られないか心配なんだろう」
「えっと、どういう……」
「そうだな。苗字名前は、俺達からみれば、綾辻よりも魅力的という話だ」
「〜〜〜〜〜〜っ!!!?」



 特に結束や東さんは お前の事を目にかけているからなと話をする三輪先輩を見ていると今の言葉にはまっっっったく深い意味はないのだと思い知らされるけれど、それにしたって……。

 平気な顔して、そんな爆弾発言をしていくなんてなんて恐ろしいひとなのだろう。昔から 恐ろしく恥ずかしい台詞をふとした瞬間に投下していくスタイルを極めている人だったけれど今だに健在だとは思わなかった。


「……わ、たし、そろそろ解説席に戻らないと! 誘ってくれた東さんに悪いですし!」
「そうか。近くまで送ろう」
「いや、本ッッッ当に大丈夫です!!! また今度、皆でご飯に行きましょう!! さようなら!!!!」
「?……あ、ああ」


 三輪先輩の前から逃走して、先輩が見えなくなったところで一息。

 あのまま、あの場所にいたのならば、私の心臓が爆発してしまうところだった。先輩は本当に心臓に悪い。もういっそワザとなんじゃあないのかと考えて恐ろしくなる。



「待って、あかん。マメちゃんおる」
「…………マメ? 悪口か?」
「は……は!!? 何言うとんの!? これ ほんまに美少女以上の褒め言葉なんやけど!」
「あれ、隠岐先輩と奈良坂先輩だ。 珍しい組み合わせですね! 一緒に狙撃訓練ですか? さっすが、敏腕狙撃手!!」
「ああ、苗字か」
「いや、なんでそんな普通の顔しとんの?? マメちゃん目の前にして、それって、ちょっと待って。強者すぎへん?」
「逆に聞くが、その態度は……正気か?」
「えっ、嘘やろ。演技にみえとんの?」



 見るからにイラッとした表情で隠岐先輩を見る奈良坂先輩に私は少なからず驚いた。先輩のそんな表情を見るのはいつ以来だろう。前回行った狙撃訓練以来だろうか。当真先輩がああいう感じだから奈良坂先輩は大体いつもこういう面倒くさそうな顔をしている。本当に、うちの部隊の当真勇がいつも先輩に迷惑をかけていて申し訳ない。

 でも奈良坂先輩って、私がこういうことをいうと必ず「うちの古寺と陽介がお前に世話になっているから、お互い様だ」と、いって素敵な笑顔というとんでもないカウンター食らわせてくるからなあ。確かに、米屋先輩には毎度毎度迷惑しかかけられていないけれど。前だって遅刻した時先生に突き出して、そのまま防衛任務に行くし、今日だって謎のタイミングで解説席から追い出されたし。あの人なんなのかな。



「隠岐先輩は最近ぶりですね」
「は〜〜、今日もほんまに輝いとる……あ、そうや。いつ生駒隊の作戦室に来てくれるん? イコさんずっと花用意して待ってんで」
「私、先輩としか話した事ないからなあって思って。それに生駒隊長って昔凄い顔して私の事見てきたから怖くて……私って嫌われているんですか?」
「それはないわ。ないない。イコさんがマメちゃん嫌いなわけないや〜〜ん。あの人が強面やから そう思うんちゃう?」
「そうなのかなあ……。でもあれ初対面だったと思うんですけれど、滅茶苦茶目を見開いて、私の事ガン見していたんですよ? これ、本当に嫌われてないですか??」
「大丈夫大丈夫。それ多分、恋に落ちただけやわ。イコさんめっちゃ初心なだけやから堪忍してあげてな」
「あの人からは全く想像が出来ないな」
「そりゃあそうやろ。マメちゃん限定やねんから。なんでああなんやろ」



 恋……??? 生駒隊長が? 私に?? それこそ、ないな〜〜いと、言いたかった。けれど、隠岐先輩のような格好良くて友好関係が広そうな人に、そんな事を言ってしまったら後が怖い。

 目の前にいるのが出水先輩や米屋先輩だったのなら、私だって そういう言葉を返したかもしれないけれど、隠岐先輩には そういう返しは安易には出来ない。隠岐先輩にも隠れファンとか普通にいそうだし、モテる人と関わるとどういう目に遭うのかなんていうのは、私は既にとりおで学習しているのだ。恋する乙女は本当に怖い。



「でも、隠岐先輩がそこまでいうのなら 生駒隊長とも お話をしてみたいですね」
「ほんまに? 今日来る?」
「それは心の準備的な問題で無理です!! まず、迅さんで予行練習しないと!」
「嵐山さんじゃ なくていいのか?」
「じゅんじゅん!!!? 余計に無理!! 奈良坂先輩は私にどんだけ高いハードルを乗り越えさせるつもりですか!?」
「……遭遇率だけでいうのなら、迅さんよりも確実に遭遇しやすいと思ったんだが」
「ほんなら、弓場さんとかは どうなん?」
「…………いや、無理でしょ……」
「うわ、それマジの時のやつやん」
「だって、王子が怖いっていってるもん」
「なんで急に呼び捨てなん??」
「あっ、そうやって呼べって言われたので」
「はあ?? ずっるいわ〜〜!!! あの人エグいぐらい自分の苗字フル活用するやん。小南大先生にチクったろ」



 私と奈良坂先輩は顔を見合わせて『何を言っているのだろう』という表情を浮かべるけれど、そんな様子の私達の様子なんて御構い無しに隠岐先輩は「王子はズルい」だとか「王子が最高のニックネームだから自分も何か欲しい」だとか言って、滅茶苦茶な指の動きで携帯をタップしながら文句を言っている。なんだろう、あの地味に凄い指の動きは。技かな? やっぱり、狙撃手としてグラスホッパーを取り入れてきたのは伊達じゃなくて、色々と器用なのかもしれない。なんて羨ましいのだろう。

 私なんて不器用すぎて、前回の調理実習で奥寺くんに遠目からでもわかるくらいのドン引きされていたよ。 いやもしかしたらアレは、料理の工程にドン引きしたのではなくて、完成形にドン引きしていたのかもわからない。一応、とりおととっきーもいたはずなんだけどな。



「先輩達は観戦はしなくてもいいんですか? 今日の実況、東さんですよ!」
「古寺と陽介が観ているからな」
「俺はマメちゃんが解説の時以外は別段需要ないわ〜〜〜。今度いつやるん?」
「私の解説は酷いって評判だからなあ……」
「嘘やん!! めっちゃ可愛いやん!」
「えっ、えっ……!!?」
「なに照れてんの、お世辞でしょ」
「お世話なの!?」



 すまない、少し騒がしかったなという奈良坂先輩の視線の先には、風間隊作戦室の方から姿を現した菊地原くん達がいて、「主に こっちがですけど」と、隠岐先輩と私に交互に視線を動かした。ええ〜〜〜……。私は兎も角としても隠岐先輩は先輩なのだけれど……。

 そのように視線で訴えていると、菊地原くんは私の視線を煩わしく思ったのか、面倒くさそうな顔をして私の方へと今一度視線を投げる。



「ていうか、苗字がランク戦の観戦に行くなんて聞いてないんだけど」
「ああーーー……、急遽なったんだよね」
「なんだ、狙撃訓練の方かと思っていたのに お前の方が当たっちゃったな」
「えっ? なに? 歌川くんと菊地原くんで賭けでもしていたの?」
「すまんすまん。いやでも、まあ……賭けっていうほどの内容ではないな」
「そうなんだ? 私は今から、もう一回観戦のほうに行こうと思うのだけれど、二人も一緒にどうかな?」
「……観戦は行かないけど、方向は一緒だから途中までなら一緒に行ってもいいけど」
「ありがとう! 隠岐先輩達に送ってもらうのは悪いと思っていたところなの!」
「そうやって言えばいいじゃん」
「苗字だよ? 無理無理〜〜」


 
 それじゃあ、菊地原達に任せよう、という風にいって隠岐先輩と共に方向転換しようとする奈良坂先輩の隣で隠岐先輩は「そんなこと気にしなくてもいいのに」と、優しい言葉をくれながらも奈良坂先輩との方向転換を滅茶苦茶体幹を使って拒んでいた。

 最終的には隠岐先輩の粘り負け(後輩に見せる姿じゃあないなという言葉)によって折れていた。もしかしたら、菊地原くんの「うわ、カッコ悪い」という言葉のせいかもわからない。



「ねえ、明日は来るの?」
「行くよ。進学校組と勉強出来る時間は貴重だからね! そういえば、みた? 明日からは華ちゃんも来るって」
「B級ランク戦があるのに よく勉強しに行こうとか思えるよね」
「華ちゃんは文武両道がモットーだから」
「最近菊地原が作戦室にいる時間が減ったのは苗字さん達の勉強会にいるからか?」
「そうなの! 歌川くんもどう?」
「すまん、オレは家でやる派なんだ」
「なるほど、家でやってるなんて凄いなあ。私は家じゃあやらないから、基本は作戦室で真木さんとやるか月木の勉強会だよ」
「いや、苗字さんの方が凄いよ。こういうのを企画して実際に人が集まっているわけだし……」



 歌川くんってば、滅茶苦茶褒めてくれる……。この後もそれなりに会話をしてみたのだけれど、引き続き滅茶苦茶褒めてくれた。なるほど。この会話展開能力の高さ故に、きくっちーが懐くんだなあ。理由は滅茶苦茶理解できる。本当に歌川くんは同い年かな??? いや、別に年齢詐称を疑っているわけではないけれど、これは多分、人生2周目くらいだと思う。なんていうことでしょう。

 いいよなあ〜〜。だって風間隊って、(私の中で)冷静沈着滅茶苦茶真面目の風間さんに、(私の中で)奥さんにしたいボーダー隊員ダントツ1位の三上先輩に、(私の中で)滅茶苦茶懐の深い男の歌川くんに、ツンでもデレでもバッチコイの菊地原くんでしょ?? いいメンバー勢揃いだよね。私のところなんて、3人が仲良し故に謎のハブりが発生する悲しすぎる部隊だよ。ビックリだよね。



「うわ、玉狛だ」
「宇佐美先輩」



 急に歩くスピードが格段に落ちた菊地原くんの背中に衝突した後に「ごめんなさい」と小声で謝って、前を向くと、宇佐美先輩と米屋先輩、古寺くんと三雲隊員。そして雨取隊員がいた。

 えっ……。あれ??? ちょっと待って。もしかして、ランク戦終わってしまったのでは?? その場にいた米屋陽介に視線を投げると私の視線に気がついた米屋先輩に死ぬほど殺意が湧くようなウィンクと飛ばしてきた。見事に、こいつの思惑通りにランク戦が終了してしまったのが辛い。東さんには米屋先輩に説明してもらおうと思う。



「うってぃー&きくっちー! 久しぶり〜〜!!名前ちゃんも この間ぶりだね〜!」
「今、作戦室で見てましたよ」
「玉狛に寝返った裏切り者がいるぞー」
「えっ、待って!? 終わっていたのを知っていたの!? 教えておいてくれても良くないですか!? 歌川くん!!?」
「あ、あーーー……はは」
「やーい、苗字。 裏切られてやーんの」
「違うし!!裏切られてないし!米屋先輩、本当にアイビスぶっ放しますよ!?」
「みろ、章平。 こんなところに、隊務規定違反を起こそうとしている奴がいるぞ〜」
「米屋先輩……」
「いや、悪かったって! 終わるまで戻って来なかったのはマジで予想外だった」



 頭の前で手を合わせて謝罪する米屋先輩からは、お世辞にも誠意がこもっていますね! と、いう言葉は出てこなかったけれど、すぐ目の前で、きくっちーが宇佐美先輩とジャレ合っているのを見て、ここでは自重しようと取り敢えずは怒りを沈めた。

 そして、古寺くんが珍しく滅茶苦茶羨ましそうに、きくっちー達を見ているものだから、側に寄って「私達もやっとく?」と、一応尋ねてはみたものの、滅茶苦茶動揺した後、顔を真っ青にして首を滅茶苦茶横に振っていた。そんなに全力で否定しなくても……。


「今日の試合風間さんも一緒に見てたの?」
「見てたよ。 なかなかいい諏訪の使い方だ……って言ってた。『でも、次は こうはいかない』とも言ってたよ」
「流石に厳しいね〜〜」
「単品でマトモに使える駒がクガしかいないんじゃ、結局B級止まりでしょ。 クガがやられたら終わりなんだから」
「あーー……すまん。口が悪いんだ、こいつ。オレは歌川。よろしく」


 一連の流れを見守った後に、単品で戦えるのって遊真しかいないの?という当然の疑問が浮上する。雨取隊員は? 私が第一戦をパッと見た感じでは滅茶苦茶強い狙撃手だったはずなのだけれど。いや、そもそも三雲隊員は??

 玉狛第二は三雲隊員が部隊長なのだから、遊真よりも三雲隊員の方が強いのでは……。



「三雲隊員って、そんなに戦力にならないの? 風間さんと相討ったんでしょ?」
「あーーー……えっと、すみません。風間先輩とは、24敗1引き分けなんです」
「えっ、全然すごくない??」



 同意を取ろうとして米屋先輩の方を見る前に米屋先輩に凄い勢いで頭を叩かれた。スパーンって感じの叩き方だった。非常に痛い。なんでですか!? と、勢いよく 顔を上げると、米屋先輩だけではなくて、きくっちーにも滅茶苦茶ドン引きしましたという顔をされていた。なんで!!?

 だって、三雲隊員って、ついこの間部隊結成したばっかりなわけだから、最近までC級でしょう?……と、いうことは、C級が25戦目に風間さんに引き分けだということ。滅茶苦茶凄くない???え?凄くないの?嘘でしょ??



「苗字が部隊に入ってあげようか!?」
「苗字、B級ランク戦には二宮さんと弓場さんがいるぞ。影浦先輩も」
「……ごめんね。 今の話はナシ!!」
「うっわ、ダサ」
「きくっちー、酷い!」
「そもそも、玉狛って柄じゃないじゃん」
「ズバリ言うじゃん」



 私達のやり取りを聞いていた 三雲隊員と雨取隊員の顔には最早困惑しかなく、米屋先輩の「こいつ、ゴリゴリの城戸さん派」という言葉に滅茶苦茶驚いていた。

 その表情は、まあまず間違いなく、いやお前、ヒュースと空閑と仲良しやんみたいな顔だった。ごもっとも。



「意外だろ? 昔は凄かったんだぜ」
「正直、苗字先輩は玉狛支部の考えに近い人なのかと思っていました」
「全然意外じゃないよ。まあないとは思うけど、A級に上がってきたらすぐに分かるよ。こいつ、防衛任務の時とか目がおかしいし」
「嘘でしょ!?」
「それ、何についてのツッコミなの?」
「今の流れでわかって!!?」



 いまのでわかるよね!? 私の言い方が可笑しかった!? 可笑しくなかったよね!? 三雲隊員達の方へと顔を向けると雨取隊員も三雲隊員も何とも言えない表情をしてから私の事を慰めてくれた。

 二人が優しいのは凄く分かったのだけれど、後輩に慰められている私の立場がきっついんですけれど。一連の流れを勿論見ていた米屋先輩は私の表情に何かシンパシーのようなものを感じたのか、私の背中を強く叩いて「お前も個人ランク戦いこうな、憂さ晴らししような」といった後に、きくっちー達に「お前らも行く?」と確認をとっていた。そして普通に断られていた。



「ていうか、私も行きませんからね。個人ランク戦とかポイント削られに行くようなものじゃあないですか」
「はあ? お前こっちがポイント確約してやってもやらねーじゃん」
「相手が先輩達じゃあないなら結構真面目にやっていますけどね!!? 里見さんとか!」
「あれは謎の称号かけてるからじゃん。滅茶苦茶素面で嘘つくな、後輩の前だぞ」
「嘘ではないですけれどね!!!? 先輩こそなに嘘ついてくれてんの!? 玉狛支部とはいえ後輩の前ですよ!?」
「はいはい。じゃあ今日の帰りにでも味噌バターラーメン食いに行こうな。ついでに送っていってやるからなー」
「適当か!! 行きますけども!!!」



 ごめんね、うるさくて。そう言って後ろを振り返ると雨取隊員と宇佐美先輩がすでにいなかった。えーーー……。普通に、嘘でしょ……。私が見ていなかった間に帰ってしまったのだろうか。聞くと、木崎さんがお迎えにいらっしゃったらしく、雨取隊員を連れて帰ったらしい。古寺くんが教えてくれた。

 確かに、もう冬だから日が落ちるのも早くなってきたし、迎えにきてくれるというのならば、その時に帰っておくのが正解なのだろうと思う。私もバイトの日はカゲ先輩が送ってくれるし、防衛任務ならば泊まって帰るし、それ以外もなんだかんだ何故かなんとかなっている。うーん、よく考えたら結構運が強いなあ。



「……そういえば、三輪先輩ってS級隊員になったんですか? 大規模侵攻の最後、風迅でぼくたちを助けてくれたって迅さんに聞いたんですけど……」



 ……三輪先輩が玉狛支部を助けた。

 それは素直に意外だなあ。先程、話をした感じでは そういう感じの雰囲気は感じなかったし、全て順調に……。



「……えっ、先輩ってS級になっちゃったの!? それは流石に冗談ですよね!? 頼れるA級が減っちゃうじゃん!!!」
「お前は滅茶苦茶失礼だけど、あいつはA級のままだぜ? オレら まだ『三輪隊』だし」
「『風迅は たしかに強力な武器だが』『性能が攻撃に特化しすぎていて対応力にかける』『だから基本は今まで通り部隊で戦って』『戦況に応じて風迅を投入した方がいい』……三輪先輩は上層部にそう進言したんだよ」



 三輪先輩の発言にも驚いたけれど、一番凄いのは、迅さんの発言。そのうち行われるという風迅の訓練を迅さんが指導の元行うと志願したらしい。それは本部的には凄く有難い話ではあるけれど、迅さん的にはどうなのだろう。

 私だったら、嫌だけれどなあ。でもそれは、私じゃあなくて迅さんの話だし、私は迅さんじゃあないから結局のところ、本人がどのように考えているのかとか、そういう事は全くわからないし、理解も出来ない。



「自分のトリガー渡したうえに、レクチャーまでしますとか太っ腹すぎんな」
「私には本当に理解が出来ませんね」
「お前は基本心が狭いから仕方ない」
「は、はああ!!?」
「2人共も、後輩の前ですよ……」
「あ、ああ……大丈夫ですよ。慣れているので。でも迅さんには何か考えがあるんだと思います」



 慣れてるってお前そんなに後輩の前で色々やらかしてんの? 普通にやばくない? という視線を私に突き刺してくる米屋先輩に「ほら、玉狛には小南先輩と烏丸京介くんがいるでしょ」と小声で答えると先輩は「ああ、なるほど」と思っていたよりもアッサリと納得してくれた。

 それから顔を見合わせて、三雲隊員の言葉を思い出す。そうして、米屋先輩が「迅さんだもんな」と言葉を溢した。私もそう思った。別に深い意味があるのかと言われたら、そういう訳でもなくて、なんというか迅さんの積み重ねてきた長年の信頼が私や米屋先輩を納得させたのだ。本当に恐ろしい人だと思う。一体どれだけ積み重ねてきたら、1人の他人をこうもアッサリと納得させられるほどの信頼を築けるのだろう。



「個人ランク戦って誰がいるかわからない感じが滅茶苦茶怖いですよね。今日は出水先輩がいないだけマシだけど」
「でも結構いい勝負してんじゃん。お前と出水の撃ち合いは割りと観てて楽しいぜ」
「いやどこが。9割私の負けですよ」
「そりゃ、間違いなくプライドと心構えの差だろ。旧東隊が観てたら、どうなるかわからねえってのが出水の意見らしいし」
「…………」
「お前それ近界民前にした時の顔じゃん。こっっわ。さて、そろそろ行くか……緑川と白チビは、どっちが勝ってるかな?」

















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Espoir