
恩人よ、須く幸運を祈る。
「あれ、苗字じゃん。こっちにはうちの作戦室しかねーけど、なんか用事?」
「唯我くんとお勉強する約束をしていて、もうずっと待っててもらってるから狙撃訓練終わってから直行しました〜」
「真面目か! ほら、太刀川さんもこいつのこういうとこを見習った方がいいですよ!」
「りょーかいりょーかい。そんな事よりも、苗字。今度うちの作戦室で2月14日にチョコレートパーティーをするんだが」
「はいはい。もうすぐバレンタインだからって、今思いついたイベントで苗字を誘うのやめてくださいねー」
誘うよりも前に出水先輩によって今思いついたばかりのイベントである事を暴露された太刀川さんは「おまえまで俺に厳しくしたら、苗字と俺は一生交流できないだろ」と結構真剣な目で先輩に迫っているけれど、先輩はそういう太刀川さんの扱いにはもう慣れっこなのか「どうせ目的地同じだし、一緒にいこーぜ」と私の方を向いて笑う。
目的地は同じだし、私としては願ってもない提案なので「ありがとうございます」と素直に頭を下げると「なんでお礼言われてるのかわかんねーけど、どういたしまして」という返事が返ってきた。
「参考までに聞きたいのですけれど、バレンタインといえば、先輩や太刀川さんは何処のチョコレートをもらったら嬉しいですか?」
「苗字って買う派だっけ?」
「去年までは一応頑張って作っていたんですけれど、見た目が酷すぎるっていうクレームが何件か来たので、今年からは値段は張るけど買おうと思って!」
私の言葉に出水先輩と太刀川さんは顔を見合わせてから数秒間無言の時を過ごした後に「クレームを言ってきたやつにだけ買って、他は手作りだな」「手作りのが安上がりだし、そうすれば?」と2人して私に手作りチョコレートの方を提案してくる。
まあ確かに、その選択をする方が全てのチョコレートを購入するよりは遥かにお買い求めやすいお値段とはなるのだけれど、それにしてもなあ……。出水先輩は私のチョコレートの完成品の見た目を覚えていないのだろうか。あれに関しては、弓場さんや諏訪さん、そして当真先輩あたりからとんでもないクレームを受けていた。なんなら、口には出さなかったけれど、辻先輩や二宮さん(に関しては、毎年食べてくれるけれど)も普通に引いているレベルのものである。表情が口ほどにものを言っていた。ああ、でも。そういう点に関して言えば、犬飼先輩は、あのチョコレートに関して、そういう否定的な表情はしなかったなあ。多分、見えないところで捨てているからだと思うけれど……。あの人、私のこと好きじゃないみたいだし。
「よけいにゆるせん!
今すぐ立ち去りたまえ! 」
太刀川隊作戦室に続く長い通路の道に出たところで、唯我くんの声が聞こえる。珍しく誰かとお話をしているみたいだった。その様子に、ついに唯我くんも人とコミュニケーションを取るようになったんだなあ、と嬉しく思いながら、唯我くんとその隣にいる滅茶苦茶見覚えのある男の子を眺める。
彼はあの子だ。玉狛の三雲修くん。とりおの弟子らしいから、きっと凄腕の隊員に違いない。唯我くんってば、いつの間に三雲くんと親しくなったのだろう。そう思っていると、突然「あいつは……」と、唯我くんを確認して目を細めた出水先輩がから目掛けて走り出し、そして、持ち前の運動能力を活かして、そのまま飛び蹴りを食らわせていた。
「ふ、普段からこんな扱いを…………?」
「いつもはもっとマシだな」
その回答に安心をすればいいのか、どうすればいいのかはわからないけれど、話を聞く限りでは、出水先輩のお客様だった三雲修くんを唯我くんが追い返そうとしていたという事らしい。いや、しかし、それにしたって、あの仕打ちは中々だったような気がする。
そのように考えて、トリオン体だから大丈夫だろうけれど、念のために地面に転がっている彼のすぐ横にしゃがんで、彼の様子を確認する。
「唯我くん、大丈夫……?」
「苗字、ボクをどれだけ待たせればーーーヒィッ!! 苗字! 助けてくれ!! ボクの本能が警報を鳴らしている!」
「出水先輩、流石に蹴りは……」
「生身かトリオン体かは見てやってるし、トリオン体ならギリセーフってことで……わりーな、メガネくん。遅くなった」
生身かトリオン体かを確認してやっているのはある意味、滅茶苦茶悪質なのではないだろうかと思うのだけれど……。
「あんまりです、出水先輩! ボクは純粋に使命感から不審者を排除しようと……」
「やかましい。こいつが迷惑かけたらいってくれ。おれが責任持ってケリを入れる」
「物理行使は根本的な解決にはならないのだから、具体的にどこがどういう風に悪かったのかっていうのを、もっと丁寧に教えてあげたらいいのに……ね? 太刀川さん」
「そうだぞ〜〜、出水〜」
「
ゆっくりと立ち上がり、私の後ろに隠れるようにして立つ 唯我くんの様子を見ていると、どうしていつも私と遊んだ後に部隊に帰りたくないですという態度を示すのかという事がなんとなくわかってしまって、なんとも言えない気持ちになる。普段どういう待遇を受けているのかは分からないけれど、普段からこういう待遇をされているのだとしたら、確かに部隊にいるのは居心地が良い方ではないのかもわからない。
そういえば、この間メールでも出水先輩が太刀川さんがという内容のメールを読んだ気がする。うーーーん、胃が痛い……。
「どしたどした〜〜?
何をもめとるのかね〜?」
「柚宇さん、あのね このバカが……」
「国近先輩! ボクは悪くない!」
「ほうほう、ふーん。それではここは、苗字名前ちゃんに免じて……太刀川さん、なんか隊長っぽいこと言って」
「よーし、お前らケンカすんな」
名前ちゃん、久しぶり〜。私に向けて手を振ってくれる国近先輩に、ぺこり、と頭を下げて「うちの当真と唯我くんがお世話になっています」というと、唯我くんからは「ボクの所有権はボクにあるのであって苗字にあるわけじゃあない!」という声が聞こえるけれど、唯我くんは唯我くんで太刀川さんから大切そうなお話をされていそうな会話内容が聞こえたので、一旦置いておく。
一方で、国近先輩は「わたしも当真くんも今ちゃんにお世話されっぱなしだよ」と笑顔で返してくれた。
「そういえば 三雲くん、出水先輩のお客様として作戦室にきたって言ってたけど、とりおじゃあ教えられない内容でもあったの?」
「自分一人で点を獲れるようになりたくて」
「いい心がけだと思う。頑張れ、少年」
「ありがとうございます!」
まだ三雲くんのデータを滅茶苦茶しっかり、それこそ敵として認識した上で確認をした事がないからなんとも言えないところがあるけれど、射手は戦況が見えていれば見えている分だけ、相手よりも有利に動ける
あとはやっぱり、本人のトリオン量を含めて、技術力や頭の回転の速さなんかにもよるところがあるからなんともいえないけれど。
「苗字、三雲〜〜。二人とも
名前ちゃん達はうるさいと思うけど、そっちで勉強してていいよと国近先輩に指定された机に勉強道具を広げて、今どのあたりの勉強をしているのか等のやりとりを一通り行った後に各々の勉強を始める。
基本的には私達はお互いにわからないところを相談してやるスタイルを極めているので、集まったあとは古寺くん達との勉強会と同様にソロプレイで進めている。実際に見て貰えばわかると思うのだけれど、唯我くんの方は古典をやっているけれど、私の方は物理の勉強をしている。まあ、高校1年生でやるのなんて、物理基礎だから与えられた公式に当てはめて問題を解けば、応用問題であっても、そう難しくはない。それはまあ、生物や化学の基礎も同様なのだけれど。
「苗字、勉強中悪いんだけど、唯我ちょっと借りていい? こっちで使う用事ができた」
「それは私に聞くよりも唯我くんに聞いて」
「唯我、ちょっとこっち来い」
「はい?」
「こいつはA級の中で間違いなく最弱。B級と比べても けっこう見劣りするレベルの弱さだ。それでも単独の戦闘力ではメガネくんよりはまだ上。メガネくんが工夫すればなんとか勝てるくらいの相手だと思う」
「出水せんぱ〜〜い、それ私もビックリするくらいの心のダメージ負っているんですが」
「あ、こいつは無視していいよ。とりあえず、唯我の方に1対1で100勝。それが出来たら合成弾を教えてやる」
1対1で100勝。出水先輩から聞こえてきた言葉に目を丸めて、正気か、という視線を送ると「大丈夫大丈夫。未来ある隊員のプライドをある真似はしねーから」という言葉が送られる。それはいったい どちらに対する言葉だろう。是非2人まとめて『未来ある隊員』の、くくりであって欲しいと願うばかりである。
でも出水先輩は玉狛が嫌いとかそういう話は聞いたことがないし、とりおの後輩兼弟子である三雲くんを粗末に扱うとも思えない。いやだとしても、まがりなりにもA級隊員から100勝を獲れだなんて恐ろしい提案である。この人は正気だろうか。
「ーーー断固!! 断固お断りする!! 個人戦はボクの得意分野ではない! 部隊戦でフェアな戦いを所望する!」
「うるせー 唯我。さっさとスタンバイしろ」
「そもそも、太刀川隊と玉狛第二の部隊戦こそフェアじゃあないんじゃあないかな……」
「いや、苗字。こいつの相手しなくていいよ、ツッコミどころだらけで疲れるだろ」
「あはは……」
まあ、気持ちは滅茶苦茶わかるけどね!!! 唯我くん可哀想すぎて、巻き込まれ事故になったら最悪だから勉強に集中しよう。いやあ、私指名されなくてよかった〜〜!!
唯我くんは同じレベルの隊員というところもあるし、普通に可哀想だとも思うけれど、私が玉狛に負ける方がよっっぽど可哀想だから、絶対に適当に口を挟むことだけはやめておこう。三雲くんの実力もわからない今、適当なことを言って「じゃあ、おまえいく?」とか言われたら、もはや、そこにあるのは『死』である。しかも、太刀川隊は私の事を何故か滅茶苦茶評価しているから『苗字いく?』みたいな流れになったら全力で乗っかってくるはずだ。無理無理無理。頑張れ、唯我くん! 私はきみを、とても応援しているからね!
「彼がボクに100勝する!? 論理的に考えて それはボクが100敗するの間違えでは!? わかってる! わかってますよ 出水先輩のやり口は! B級にボクを叩かせて
「それがプライドある人間の動きか」
身体の全てを使って、この状況を打破しようと体を動かしている唯我くんとバチッと視線が交わる。うわあ、嫌な顔をしている。
折角、大人しくしていたのに 唯我くんの考えていることが、こんな時に限って、手に取るように、それはもう滅茶苦茶よくわかってしまう。悪い顔だ。物凄く。
「出水先輩!! 苗字がいるじゃないですか! ボクよりも苗字が適任だ!!」
「いやねーよ、実力的に。それこそお前、成長したいってやつの心をギッタギタにすることになるじゃん。なあ? 柚宇さん」
「意義なし」
「なんでですか!? 国近先輩!!!!?」
「ほらみろ」
「前途ある若者の心が今! 蹂躙されようとしている! 苗字!! 苗字! ボクを助けてくれ! 人権団体を呼んでくれ!!!!」
「……わ、私は変わってあげても良かったんだけど〜〜、先輩直々のご指名だし〜……」
「苗字ーーー!!!!!!」
ぴゅー、と音として成立しているのかもわからない口笛(正式には空気の音)を鳴らして、視線をあちらこちらに彷徨わせている中でも、少なからず、心が痛くなりはしている。まあでも、私は一瞬とはいえ、唯我くんの最高に嫌だと思う役割を押し付けられそうになったわけだし……。まーーー、足して二で割ったらイーブンだよね。
でも 三雲くんってば、凄いなあ。とりおが師匠とはいえ、B級にあがって間もない この段階で『あの出水先輩』から合成弾がならえるだなんて、とんでもなく贅沢なことだ。先輩ってこんなんだけど、射手としての腕前は間違いなく、そしてシンプルに天才だ。私とは違って。そんな人から教えてもらえる。きっとそれは、強くなりたい人ならば、多くの人が望んでいる展開だ。皆が皆、佐鳥ちゃんや緑川くんのようにコミュ力お化けではないのだから、本当はもっともっと上をめざしていたとしても、勇気云々の問題で上に上がれない人だって、少なくはないこの環境でーーー……彼、恵まれすぎてない?
「どした?」
「何かと玉狛ってだけで嫌いになるのを どうやったらやめられるかな〜って思って」
「へ〜〜、なおしたいと思ってんの?」
「…………まさか」
そういうのはさ、なおしていきたいって思った時に直していけばいいんだよ。そういう言葉を口にした出水先輩を、意外だ、という表情で見つめているのは、私だけではなくて、国近先輩も同様の気持ちらしく「名前ちゃんと出水くん、なんか変わったね」と首を傾げる。
その一方で、その言葉を聞いた太刀川さんは「昔からそんなだっただろ」と口を挟む。たしかに、変わったといえば変わったけれど、変わっていないといえば変わっていない。けれど、もしその変化が『あの日』の私が先輩ともっと仲良くしたいという言葉から来ているのならば、やはり、あれは伝えるべき言葉だったということで、少しだけ嬉しい。でもね、出水先輩。私は
「はっはっはっは。残念だったね、三雲くん。A級の実力を見せつけてしまったようだ。少々大人気なかったかな?」
「唯我くん、凄かったよ〜〜!」
「苗字はあまやかすな。唯我はおりろ」
訓練室で高笑いする唯我くんをみて、ぱちぱち、と軽く手を叩きながら、唯我くんと三雲くんを交互に見る。思っていたほどの実力があったとは お世話にもいえないけれど、三雲くんの部隊のメンバーは遊真と雨取隊員だ。自分から態々点数を獲りにいくよりも、もっと効率的に、部隊として点数を取れる方法の方を考える方が、次回の組み合わせを見る限りでは確実に有効手だと思うのだけれど……。もしかして、二宮さん達を相手にして自分で点が獲れるとでも思っているとか? 部隊としてA級を経験している部隊に部隊としての経験年数も単体としての戦力としても劣っているのに?
ーーーーとはいえ、本人が点数を獲れる駒になりたいと望むのならば、そういう方法を経験してみるというのもありではある。けれど、今回のこの選択を考えると シンプルに彼の選択は不自然だ。彼は話を聞いている限りでは、頭の悪いタイプではなかった。少なくとも、自分の身の程を理解してないようなタイプではなかったはずだ。それなのにも関わらず、この選択をしたという事は、急いで達成したい理由があると見るべきだ。その理由に関しては、部外者の私が干渉していい内容だとは思わないから聞かないけれど……。
「ーーー確認なのだけれど、三雲くんは自分のやろうとしている事が正しいと思う?」
言い終わってから、嫌な聞き方をしてしまったなと思う。今の言い方だと『私は きみの選択を正しいとは思わないけれど』という意味を含んでいるというのが丸わかりだ。
そう思ったから、少しだけ言葉を変えて聞き直そうと三雲くんの方に視線を向けると、彼は「ランク戦で他の部隊と戦っていく中で、自分の無力を思い知らされる場面が何度もありました」と真っ直ぐな目をして私にいう その言葉に私は物凄く心当たりがあって、彼の言葉がジクジクと心に突き刺さるのを感じる。
「これまでの戦いは空閑が点を獲ってくれた。でも この先、それだけでは限界が来ることを僕自身が一番わかっているんです」
「……要するにきみは、遊真に点を獲ってもらうだけじゃなく、自分でも点を獲れるようになりたいから合成弾を習いにって事か」
「はい……!」
自分の力不足を分かっていて、それでも点を獲りたいと本人が望んだから、嵐山さん達は彼のやりたいと望む
けれど、射手をかじっているだけの私にもわかる。射手で点を獲るのは簡単じゃあない。実際に点をとっている人は、やはりトリオンに自信のある人ばかりだ。けれど、三雲くんはログを確認した限りではトリオンに自信があるというわけでもなさそうだったし、やっぱり点数を獲りにいく方向でシフトしていくのはオススメできない。特に、次回の上位戦では。次回玉狛が当たることになる部隊は二宮隊、影浦隊、東隊。いずれも滅茶苦茶A級クラスの部隊。上手くいけば、彼の自信に繋がるのは間違いないけれど、逆に失敗すれば、出水先輩の言っていたように未来ある隊員の心を打ち砕く可能性もある。それでも、嵐山隊の誰も彼を止めなかったという事は、やらせてみるだけの価値があると判断したという事だろうか。
「……私は努力して上を目指そうっていう考え方自体は嫌いじゃあないし、正しいと思う。だから、あとは自分の努力が自分の部隊にとって正しいのかどうか。そういう判断をできるようになったらいいね」
「ありがとうございます!!」
「力になれなくてごめんね。でも、もしきみが本気で何かを決めた時。それが私にも納得のできる内容だったその時は、私が
ーーー約束するよーーー
三雲くんの手をとって、両手で強く握り、
誰かに誓うように言葉を紡ぐ。
私から出てきた言葉が意外だったのか、目を丸くして固まっている三雲くんに「一応、私、射手の経験もあるんだよ」と、三雲くんの手を離して、任せてと言わんばかりに、力瘤を作って見せていると、私が玉狛支部を好きではないことをきくっちーから聞いていたからという風な言葉が三雲くんの口から出る。わ〜〜お、まさか本人に伝わっているとは。まあ基本的に隠してもいないのだから、いずれはわかる事だっただろうし、少し伝わるのが早くなってしまった程度の誤差だけれどーーー
「ーーー……きみは特別。いくら私でも、命の恩人に対して適当な対応をするほど、マナーのない人間じゃあないよ」
三雲くんは、僕は隠しただけで、と否定をするけれど、隠しただけとはいえ、彼はあの時、私と雨取隊員の為に命をかけてくれたのだ。生身で、あんなに大きな怪我を負ってまで、私を守ってくれた。
それに私はきくっちーが言うほど、玉狛支部が嫌いというわけではない。もちろん、あそこの人達の考え方に関しては心底ドン引きするけれど、それでも人として嫌いであるとかそう言う事は一切ない。もしも、心の底から嫌いだと言うのならば、とりおのことだって普通に嫌いになっているはずだ。だから、私が嫌いなのは あくまでも
「だから本当に困った時は私に相談して」
ーーーーきっと、きみに
この恩を返すって約束するから。
それに多分、私は。
「私は、きっときみの力になれると思うよ」
だってきみのぶつかっている そのあまりにも高い壁は、私がかつてぶつかった事のある壁でもあるのだから。
「珍しいじゃん、玉狛支部に優しくすんの」
あの後、何戦か続いた三雲くんと唯我くんとの戦いをある程度見送った後に時間も遅くなってきたからと引き上げた三雲くんに続いて太刀川隊作戦室を出ると、太刀川さんと出水先輩が滅茶苦茶送っていくと立候補してくるので、ご丁寧にお断りを入れたのだけれど、話があるから云々と引き下がってくれる様子がなかったので、私の方が折れた。
そして出てきた言葉がそれである。まあ、ある程度の予想はしていたけれど。
「私は受けた恩は2倍にして返したいタイプなんです。だから三雲くんには沢山恩返しをしないと相殺できそうにないや」
「そういうとこ真面目だよなー。でも、射手として指導するって聞いた時マジで耳疑ったよ。お前そういうの嫌がるタイプだし」
「私は先輩の中でどんな人なんですか」
「強いていえばだけど、自分で得たあらゆる知識を他人に渡すのを心底嫌うタイプ」
「…………分析力えぐいですね」
大当たりですよ、おめでとうございます。なんなの、その無駄に高い分析力は。
そりゃあ、いやでしょ。だって、教えてくださいって言われたからって、自分で得た知識を良かれと思って、後輩に渡していくなんて、私には考えられない。それこそ、努力のひとつでもして、自分で掴んでいけよって話じゃん。そういう事をしないで、ただ、教えてくださいなんてそんなのは甘えだ。私には教えを乞うてくる人がひとり残らず、そう見える。だから教えたくないのだ。
「でも、私は彼に答えに限りなく近い言葉をあげる事はできるけれど、彼の問題を解決してあげる事はきっと出来ないだろうなあ」
「なんで? おれはお前は射手としての実力も相当高いと思ってるんだけど」
「だって私達はさ、結局わからないでしょ」
ーートリオンで困ったことないもんーー
出水先輩は「あーーー、たしかに」と言って、なんとも言えない表情を浮かべてから「でもお前の
「分割に力を入れているせいで 伝わりにくいけれど、私が射手で敵を討ち取ることが出来ているのは、シンプルに自分のトリオン量に依存しているからですよ」
「本人がいってるからそうなんだろうけど、シンプルに恐ろしい戦い方するよな」
「私は命中の確率を上げたいんです。本番に一生懸命やったけれど、命中しませんでした、なんてそんな言い訳したくないから」
射手の時も、狙撃手に転向してからも。
その考え方はずっと変わっていない。
私がボーダーにいる目的はいつだって、
「でも、三雲くんはきっと大丈夫だね。出水先輩以外にも、とりおや嵐山隊がいるし」
「嵐山隊は人に教えんのが上手い奴がゴロゴロいるからなー。おれいらないまである」
「とりおが必要って判断したんだから必要なんだよ。それでいくと、寧ろ指名されてない私の方がいらないよね〜〜」
「京介はおまえだけは指名しないだろ」
「そんなにキッパリと事実を繰り返さないでください。私でもそれなりに傷付きますよ」
いや別におまえが思うような悪い意味はないけど、と出水先輩はいうけれど、最近の先輩は私に少し優しくなったから、その言葉が真実なのかどうかというのは怪しい。
「……おれがさー、お前の弟子になりたいって言ってたらさ、弟子にしてくれてた?」
「逆に、昔の私がOKすると思います?」
「ですよねーーーー」
「なんですか、急に。何か私にして欲しいことでもあるんですか? 特別にひとつくらいなら何でも聞いてあげますけれど」
なんでも……。小さな声で呟いた出水先輩は結構真剣に何かを考えているようだった。何でもひとつだけ どんな事でもしてあげるという私の提案に先輩は何を求めるだろうか。
私は先輩の口からどんな卑猥で最低な言葉が飛び出してきたとしても、受け入れるつもりではいるけれど、流石にラウンジで全裸になってくださいとかだったら普通にお断りをしようとは思う。当事者は私と先輩の2人で完結するお願いと今からでも伝えるべきだろうか。いやでも、先輩からそんな最低な言葉が出てくるとは思えないけれど。
「じゃあさ、那須と仲直りしてくんねえ?」
「……はあ。それは私が将来的に行わないといけない事であって『お願い』じゃないじゃあないですか。先輩女の子に甘々ですね。もしかして、玲ちゃんのこと好きなの?」
「奈良坂と隠岐がさ、お前と那須に仲良くして欲しいって昔からうるせーし、それにおれもお前等が仲良い方がいいし」
そういう言葉を聞くと、改めて責任を感じていて、今もそれは少なからずあるのだろうことがわかる。少なくとも、私と玲ちゃんの関係がこうなってしまったことに、先輩達は全く関係ない。私の体調管理の問題なのに、そういうの関係なく当時の環境を元通りにする為の世話を焼こうとするなんて、本当に……。
「……言っとくけど、玲ちゃんと先輩は全ッツ然釣り合ってないからね」
「違うからな!? 人の話聞いてたか!? お前本当に昔から素直じゃねーよな!!!」
「否定するところも怪しいんですよね。綾辻先輩の次は玲ちゃんとか、面食いめ」
「綾辻が好きだった事もねーーーよ!!!」