
舞台の外はいつだって楽しい
いやコレマジな話しなんすよ。真剣な面持ちでマメちゃんこと苗字名前からダーリンと呼ばれるようになったうえに連絡先まで交換したと妄言を口にする南沢海に対して、生駒隊一同は「はいはい、そうですか」と。適当な相槌を打ちながら、ついに南沢も生駒達人と近しい領域まで到達したのかと滅茶苦茶失礼なことを考えていた。実際に南沢の発言は概ね全て事実なのであるが、それが受け入れられない理由としてはいくつかある。
まず、ひとつ目に『こいつがダーリンと呼ばれるはずがない』という生駒隊の以心伝心共通認識からくる絶対的否定。そしてふたつ目に『南沢海が苗字名前の連絡先の入った携帯電話を作戦室に忘れてきたから』である。まあそんなものは取りに行けば済む話しなのだけれど、南沢の頭の中には兎に角自慢したいという欲求が恐ろしいほどに広がっていた。連絡先の存在を証明すれば、少なからず4割方信用してもらえたのだろうが、取りに行かない南沢の行動が生駒隊一同の疑いをさらに強めていくことに彼は気付けてすらいない。
「それが事実ならイコさんは卒倒しちゃうね」
防衛任務でも終えてきたのか。それとも偶々ラウンジに寄ったのか。真偽は不明だけれど、大変愉快そうな表情を浮かべて輪の中に混ざった王子一彰という男に水上敏志は、どえらいやつ混ざってきてるやん、と頬杖をつく。
南沢海の言葉の真偽は不明だけれど、王子一彰の方は正真正銘。自らの苗字をフル活用して苗字名前に『王子』と呼ばせることに成功したとんでもない男である。それだけならばまだしも、自分達(というよりかは生駒)の流行らせていった『マメちゃん』を使う事なく、自分の苗字である王子とかけて姫ーーープリンセスーーーを『プリンちゃん』と形を変えて表すことによって王子と姫の図を遠回しに完成させ、コアなところでは、あの2人付き合っているんじゃないか?と噂させることにまで成功しているとんでもないクレイジーマンなのだ。まあそんな話は水上敏志含め、頭の回転がそこそこはやい人間にしか辿り着けない考察な上、プリンちゃん=プリンと考えている人間も多いことから、そんなことを知る人も数少ないのだが。
「王子先輩、ま〜〜た
「またオレのこと馬鹿にするじゃないすか〜。今回の話はちゃんとマジな話なんですって!」
南沢海の発言が本当だとすると、『ダーリン』と呼ぶことを苗字名前が了承したということ。かつての苗字名前であれば、考えられない発言だけれど、今このタイミングとなると話は変わってくる。王子一彰は口元に手をあてる。
今のプリンちゃんなら、ダーリン呼びもギャグとかネタとかいう解釈をして呼びそうだ。カイくんの方が『ハニー』と呼ぶという約束をしているようだから余計にそう。しかし、そうなると面倒なことになりそうだ。まあ一番面倒くさい話は一旦おいておくとして、まさかバレンタインの時期にそんな酔狂な呼び方をするようになるなんて予想外。まあプリンちゃんを知っている人であるならその分だけ彼女のふざけた呼び方が本命ではない事は承知済みだろうけれど、それ以外の人間はそうではない。
「……その話が本当なら、」
その呼び方は撤回してもらいに行かないといけないな、と。そんなとんでもなくクレイジーな発言をしようとした王子一彰の視線を奪っていったのは、まさにこれから二宮隊作戦室に向かうだろう苗字名前本人であった。ラウンジにいる人間の多くの視線を奪って歩いているのだから、相変わらずの存在感であると感心せざる得ないが今日に関して言えば、あの大きめの紙袋が原因だろう。
今年は手作りチョコレートはやめるという説も流れていたけれど、あの紙袋から除いているラッピングリボンの結び方はプリンちゃんならではのものだから今年も手作りかなと途端に笑顔になって先を立ち上がる王子一彰はとんでもなくわかりやすい男であったが、それを全て0にしてしまう喜び方をするのが生駒隊という部隊である。水上敏志に関しては、あまり表情には出さないものの。その他。その他がとんでもない喜び方をするのである。まあ今日は生駒達人というその界隈では太刀川慶の次に有名な男がいないだけマシではあるけれど。
「やっほ〜〜、プリンちゃん。
これからチョコレート配り? ぼくの分は?」
「…………いや、図々しすぎませんか?」
「ぼくだけなら後日でもよかったんだけど、
いついったんやろ。王子の出鱈目に冷静に対応できるのは最早この場所には水上敏志をおいて、他にはいなかった。いやまあ、欲しかったんは事実やけど。故に口に出すことはしないけれど、流石に王子一彰である。あのマウント合戦の中で、存在だけでマウントをとってきた上に、更に自分達よりも優位であることを証明してくるとは思いもしなかった。
それだけ苗字名前というボーダー隊員はレアなのだ。そもそも、圧倒的に遭遇率が低い。それはまあ苗字名前本人があらゆる面においてソロプレイを極めきっているが故に一度部屋に入ると中々出てこないことに起因しているのだが、同じ狙撃手の隠岐や同学年の海ですら接触率が低いのはどういうことなのか。それは最早、ガードが硬いからに他ならない。ボーダー内では冬島隊(主に真木理佐)の圧力ガードが存在しており、学校では烏丸京介と時枝充という壁が苗字名前という人間との接触を阻んだ。別にそんなとって食おうなんて考えていないのだけれど、それでも『生駒隊』というワードがガードを高めていくのである。最早扱いとしては、太刀川慶と似たところにあるのはどうにも納得がいかない。対応をあらためて欲しいとまで思うーーーが、しかし。何故王子一彰はスルーされるのか。
「私そんなにチョコレート用意した記憶ないし、これは諏訪さん達は市販チョコだなあ」
「そういえば、今年は市販って噂出てたよね」
「見た目が不評すぎて……。まあ、去年一昨年は凄かったですけれど、今年は普通ですよ」
「一昨年かあ。誰にあげたの?」
「迅さんと二宮さん達くらいじゃないですか? とりおともそんなに仲良くなかったし、一昨年ってなるとかなり限定的ですね」
苗字名前にもチョコレートを全くあげなかった時代があったのかという感想を抱くけれど、今日持っている袋もそんなに大きな袋というわけでもないように見えるから入っていたとしてもせいぜい15個とかそのあたりだろう。水上敏志は紙袋をじっと見つめる。苗字名前の発言から考えるに、自分達にあげるというのは想定外のことだったのだろう。あれは自分達がもらっていいものなのか。
そこまで考えたところで、
王子一彰が水上敏志の右肩に手を乗せる。
「全く、頭がいいって言うのは難儀だよね」
いやに挑戦的に笑う王子一彰をみて、こいつが尖っていたというのはただの噂かと思ったことは何度かあったけれど、こういういやな感じの煽り方をされると間違いなくそう言う時代もあったのだろうと納得出来るのがこの男の嫌なところである。
王子一彰という男はこういう自分が優位にいる時に人を煽るという点においてずば抜けている。それはもう本当に。自分というキャラクター、そしていまある立ち位置。相手との距離感。全てを計算に入れて、自分は上だと理解した上でとんでもない右ストレートを打ち込んでくる男というイメージが水上敏志にはあった。生駒達人の言葉の節々から王子一彰という男の明確な悪意ーーー否、あれは悪意と言うよりも恐ろしく人を弄んでいるというべきだろうーーーに気がついた。楽しむ為に自分が1番面白いと感じることができる立ち位置に座ることができるのが、この男の最も恐ろしいところであったが、それをあまりにも自然にやってみせるから誰も指摘しないし、そこに落ち着いているというのが王子一彰という男であった。
「……あのへんは兎も角」
「ん?」
水上敏志は苗字名前から嬉しそうにチョコレートを受け取っている隠岐孝ニと南沢海に視線を滑らせてから、王子一彰に視線を戻して頬杖をついた。雰囲気が変わった気がするのは王子一彰の気のせいではないのだろう。王子一彰は南沢海と隠岐孝ニに視線をやってから水上敏志に視線を戻す。
「イコさんは本気やから遊ばんといて」
「キミは『言葉選び』がすごく上手だよね」
だってそうだろうと言葉を続けようとした王子一彰と水上敏志の間に入り、会話を中断させたのは苗字名前であった。ズイッ、とチョコレートを2つ差し出した。敢えて、空気を読んできたな。王子一彰と水上敏志の心は互いにひとつであったが、その行動によって生じた感情は全く別のものである。
面倒な言葉遊びを半強制的に終了させた彼女に感謝する水上敏志とこれからが面白いところだったのにと「ケチだなあ〜〜」と唇を尖らせる王子一彰。全く、王子一彰のこういうところは治らないものか。被害者の1人である苗字名前は水上敏志に同情せざる得ない。
「面白いからって 人で遊ぶのはダメですよ。水上先輩もごめんなさい。うちの王子はこういう悪癖があって、私も被害者の1人です…」
「ぼくの方には、プリンちゃんにそんな凄まじい悪癖を披露した記憶がないわけだから記憶違いなんじゃないかな」
「…………もしかして、喧嘩売ってます?」
「いやいや、誤解だよ。流石のぼくもプリンちゃんの記憶力が底辺なんていう発言はキミの学力を踏まえるととても出来ないからね」
王子の発言を受けて、自分のバックグラウンドにとんでもなく薄暗い何かを視認できるのではないかというレベルのオーラを放つ苗字名前は最早圧巻であったが、誰ひとりとしてソレを言葉にしなかった。しかし、あの苗字名前との記念すべき初対面。初対話が王子一彰踏まえてのものとは……。水上敏志は、やれやれと手で顔を仰いだ。
去り際に「お礼はちゃんとこっちでもらっておくから」とオマケの爆弾のような言葉を残していくのも相変わらず、嫌な男であったが、彼のいうところの『お礼』にあたるものが今回に限っては予想できている点だけは、南沢海には悪いけれど、本当にマシだった。
「ーーーそれで。話は戻るけど、プリンちゃんは未だに現実の恋愛には興味ないの?」
「どの瞬間に私と先輩がそんな話をしたんですか。私、先輩の記憶が怖いのですけれど」
「いやその顔で生娘なのは中々そそられるなと、ぼく自身も色々と考えてみたんだよね」
「先輩はその点色々と経験ありそうですね」
「うん。だから、ぼくなんてどう?」
「…………いまのは皮肉なんですけれど」
苗字名前は王子一彰の知る限りでは、それはもうモテる。それは、同じ学校に通う中で嫌というほどよくわかった。扱い的には『女版嵐山准』というところだろうか。第一高校は決して女子のレベルが低いわけではない。ただ、近年。男子生徒のレベルが圧倒的に高い水準を維持していた。その代表例のひとつとして、嵐山准と烏丸京介がいる。嵐山に関して言えば、ボーダーで広報。テレビへの出演なんかも第一高校在学時から多々あったうえに学力ともに運動能力と、これもまた高かった。だから、それはもうドラマか漫画の世界のように人が湧いていた。故に嵐山准の卒業には多くの人が悲しんだーーーそして、そのタイミングに都合よくその枠を埋めるように現れたのが烏丸京介である。バッティングしていたのならば、ファンの二極化という大変面白い展開が見られたのにと悔やんだ時期も王子にはあったけれど、それに関していえばどうしようもない事なので考えるのは早々にやめた。
そして、そんなタイミングで烏丸京介とともに現れたのが苗字名前である。星輪女学院の入学のためにと伸びていた前髪を切り揃えて、それはもう何事かというほどに制服を着こなした彼女はそれはもう人の注目を面白いほど集めたし、面白いくらいモテた。まあ、この見た目ゆえにそれはある程度想像していたけれど、王子一彰もまさかそれが鬱陶しくて 再び前髪をだらしなく伸ばす事態に発展するとは流石に予想外であった。けれど何が彼女を変えたのか。彼女はその煩わしい前髪を再び排除する考えに至ったらしい。王子一彰はソレは『恋愛関係』だろうと踏んでいたのだけれど、苗字名前の反応を見る限りソレは限りなく低いだろう。
「うーん。深い意味はないんですけれど、王子先輩は本気で人を好きになったことある?」
その質問は中々に難しいものであった。ここまで完全に自分のペースで話を続けていた王子一彰は油断していた。だからこそ、その質問に直ぐに答えを返すことが出来なかった。
女の子と付き合ったことはある。形式上、手を繋いだり、2人きりで出かけたことだってある。それからそれ以上も。つまるところ、まあ人並みに経験したことはあるーーーが、本気で人を好きになったことがあるか。そう聞かれると、アレが本気であったのかは定かではない。何故ならば、一時期の王子の基本スタイルが『来るもの拒まず、去るものおわず』だったからである。ボーダーとしての活動が忙しくて、そして普通の生活と比べて遥かに面白かったからというのもあるけれど、恋愛に真剣になれるような時間はなかった。まあそれは今も変わらずで、皆のいいというものも然程魅力的だとは思わない。どうしても優先順位が下だから。そういう意味では、苗字名前と王子一彰は良く似ている。
「恋愛面での勉強がしたいのなら、ぼくじゃなくて もっと真面目に恋愛してる人に聞かなきゃダメだよ。プリンちゃんは本当、そういうところ性格悪いよね」
「王子ですら恋愛できるなら私でもって思うじゃないですか〜。まあでも、私が思うに米屋先輩は恋愛マスターだと思います」
「ぼくは意外と諏訪さんに1票」
「え〜〜、じゃあ私は冬島さんに1票!」
「それは意外すぎる」
このまあまあモテる組である王子一彰と苗字名前に意外であるという人間として名前が上げられる冬島慎次と諏訪洸太郎の不名誉の具合は最早計り知れないが、そんな会話でくすくすと笑う2人の失礼の具合も、まあ計り知れない。
いやしかし、あの周りからの干渉の一切を拒絶しますみたいな顔をしていた彼女がまさかバレンタインデーなんていう無縁そうなイベントを行うようになるなんて、これは最早一種の革命かなにかだろうか。まあ、ぼくは彼女の1から10までをみてきたわけじゃあないから 小南ちゃんやイコさんのように詳しく情報があるわけじゃあないけれど、それでもこれは人間として……いや、ボーダー隊員として良い成長なのだろう。いやはや、3年はやっぱり ぼくらの年代からすれば長い時間なのだろう。
「ーーーところで。プリンちゃんはどうしてカイくんをダーリンなんて呼んでいるのかな」
「なんて呼んだら良いのか わからなかったので、呼んでほしいっていう呼び方で呼んだほうがいいかなと」
「カイくんでいいよ」
「名前呼び!? 男の子の名前を呼ぶなんて、恥ずかしくて死んじゃいますよ!!!?」
「恥ずかしいポイントがわかんないんだけど」
普通『ダーリン』の方が余程恥ずかしいだろうと思うのだけれど。王子一彰は、ううん、と唸り声をあげてから困ったように腕を組む。さて、どうしようかな。そうして自分よりも背の低い苗字名前に視線を戻すーーーと、どこかで見たことのあるような、そういう表情を浮かべて、そうして自分なんて最初からいなかったみたいに駆け足で前を行くのだ。
ああ、はいはい。王子一彰は分かりやすく雰囲気を変えた苗字名前の姿を眺め、その後を追う。知っていたけれど。いやでも、そこまであからさまに変えるのは本当どうかと思う。そんなことを心中で悪態をついて、数メートル先の『二宮隊』作戦室を眺めるのだ。
「二宮さ〜〜〜ん!! こんにちは!」
「オマケの王子一彰もいま〜〜す」
「王子先輩が来るなんて 珍しいですね」
「辻先輩、苗字もいますけど……」
「………………ああ、うん」
「いやあ、お互い歓迎されてないね〜」
そうなんですよね。そういって肩を落とした苗字名前は王子一彰に「私のせいで先輩も歓迎されていないのなら申し訳ない」と口にするけれど、まあそれは望んでやっていることだしなあと王子一彰は微笑みだけ返す。
そもそも。苗字名前と2人だけでこの場所を訪れる事を二宮匡貴や犬飼澄晴が快く思うはずがないのだ。殆ど例外なく全ての人間が不愉快の枠にあてこめられて存在する条件である。まあ例外があるとすれば、嵐山隊の嵐山准くらいなものだろう。まあこれに関しては、お互いにみじんこ程の恋愛感情もないのだから当然だろう。まあ一部。頭の悪い人達は嵐山准のことを苗字名前が本気で好きだと吹聴しているけれど、それはない。まあこれはあくまでも、王子一彰の考える苗字名前という存在へのイメージでしかないけれど。それでも。"あの"苗字名前が。本命相手にあそこまであからさまに好きを前面には出さないだろう。少なくとも、王子一彰はそう思っている。
「なにシレッとそこに立ってんの?」
全く想像通りだけれど、愉快この上ないのが この犬飼澄晴という男である。空回り空回り空回り。一体彼の何が彼をそうさせたのか。全く理解の出来ない突然変異的変化である。
だって王子一彰が初めて二宮隊と苗字名前を見た時。彼らは全く通常通りであったからである。犬飼澄晴は苗字名前に対しても、他所の女の子とかわりなく対応していたし、辻新之助もまた、他所の女の子への対応と同じように苗字名前に対応していた。そしてそれは、二宮匡貴を除く、全ての二宮隊隊員が同様であった。二宮匡貴だけが驚くほど、苗字名前に対して
「やあ、
「当真もだけど、きみって本当嫌な奴だよね」
「だって、さっきラウンジで生駒隊と話していたら なんとプリンちゃんがーーー」
「ーーー王子先輩!!! それは2人だけの秘密って言ったでしょ!?」
苗字名前は王子一彰の言わんとすることを文脈から読み取り、思い切り王子の腕を掴んだ。彼女がそんな行動に出た理由はただひとつ。以前の太刀川慶と当真勇とのやりとりを思い出したからである。たかがキスをせがんだだけ。それだけだったのに、それがあろうことか。現在まで引き続き語られるほどの面倒事になったという経験があるからである。そしてその面倒事の筆頭にいるのが、加古望を含めた旧東隊の人間である。あの時、本当に比喩でもなんでもなく、耳にタコができるほど『女としての心得』だとかいう話を聞かされたのだ。これ以上、面倒な話を彼らの耳に入れたくなかった苗字名前は今。兎に角必死であった。この口の軽い男の口をここで止めなければ、まもなくスカウトから帰ってくる片桐隊にまでも、あの件含めた情報を拡散されかねない。
そんな彼女の都合を知らない王子一彰は彼女の行動が理解できなかった。あの話は別に誰かに聞かれて困る話だとは思えない。聞かれたくない人がいるとか。いや、この中に……? ないでしょ。そう思いながら「冗談冗談」と笑う王子一彰の横で大変安心した表情でチョコレートを飾り始める彼女は流石である。そしてボーダーの中でも希少にあたる辻ちゃんの反応も中々だ。あの顔。うちのカシオとどっちが凄いだろう。こっちかなあ。辻ちゃんの反応を深掘りしたことはなかったから今度時間があったら聞いてみよう。これはこれで、面白そうだし。
「それじゃあ、私今日は忙しいのでもう行きますね! 王子はーーー……王子も行きますよ」
「そんな顔しなくても、折角の秘密の話を話すなんて野暮な事はもうしないんだけどなあ〜」
「これは後で生駒隊の人達にも念を押しに行かないと……特に、南沢くんに…」
「それに関して言うなら、身内討ちは生駒隊の得意技だからもう心配ないと思うけど…ぼくも釘打っておいたしさあ」
「何の話をしているんですか…!? こわい!」
相変わらずの仲良しぶりを見せつけてくる王子一彰と苗字名前の後ろ姿を見つめた氷見亜季は自分の隊の人間の姿を見据える。
二宮さんは良いとして……。
そこまで考えて、ため息を溢す。
苗字名前は決して付き合いづらい人間というわけではない。まあ昔はアレなところもあったけれど、2人揃ってかつてのほうが良い関係を築けていたという過去があるのはどういうことなのか。
「辻くんも犬飼先輩もあんなに慕ってくれる後輩を無下に扱うのはどうかと思いますよ」
「苗字が慕っているのは二宮さんだから」
「そうそう。全く同意だよね」
「2人とも何が嫌なのかわからないですけど、もう少し大人になったらどうですか」