大胆に行こうぜ







 正式入隊日からまだそんなに時間も経っていないのにも関わらず、大規模侵攻が予想されていたりしているから、ボーダーはもしかして今結構大変な時期なのかもしれないと考えながら一人で本部の中を歩いていると、直ぐ目の前の道に三輪先輩の姿を見つける。




「三輪先輩、おはようございます」
「…………ああ、苗字か」
「えーーー……、苗字ですけれど、なんですか。今の間、私変なこと言った?」
「髪型が変わったから分からなかった。人は髪型で随分と印象が変わるんだな」
「そんなに? 自分では分からないなあ」
「狙撃手として視界が悪いのは致命的だ。そういう意味では今の髪型は以前のものよりも好ましいし、個人的にも嫌いじゃない」
「三輪先輩って真面目ですよね」
「……どういう意味だ」




 つい先程までは優しい顔をしていた三輪先輩も私の一言に顔にシワを作ったのを確認して、ああ……、三輪先輩の格好良い顔が、と苦笑いを浮かべる。

 折角格好良いのに勿体無いなあ。そのように思考した後に、三輪先輩といえば、と話そうと思っていた話題を思い出し、「そういえば、本当に来るらしいですよね。大規模な侵攻」と言う。三輪先輩は私の言葉を受けて「そうらしいな」とだけ答えた。相変わらず 素っ気ないな、とも、思ったけれど、三輪先輩の最大限のコミュニケーションだという事を知っているから、寧ろ、こんなにも穏やかな顔で会話をしてもらっている事を喜ぶべきなのだろう。




「私、この間迅さんに会った時に C級の誘導をするなって言われました」
「!」
「私は迅さんを凄いとは思うけれど、同時に凄く残酷な人だとも思います。私は幸せ者だから三輪先輩の気持ちも迅さんの気持ちも全然分からないんですけれど、これだけは解ります。人の命の重さは平等だって事です」




 これだけは、間違いないんですよね。

 私の言葉に三輪先輩は
 「そうだな」と、か細い声で返した。




「だから私はC級の誘導はしないことにしました。一応思い出したからには、三輪先輩には言っておかないとかなって思って」
「お前が正しいと判断した決断に俺が反対すると思ったのか、苗字」
「反対する程、先輩が子供じゃあないって事くらい知ってますよ。ただ、先輩の事を私は大切な仲間だと思っているから個人的に伝えておきたかったんだよね」
「……馬鹿だな、お前は」




 口元をほころばせた三輪先輩は「お前は同じ城戸派の仲間だったな」と言って、私の頭に手を置いて一撫でした。目を細めて笑った私の顔を見て、素早く頭から手を離した三輪先輩は競歩にも負けないくらいのスピードで自動販売機に向かっていき、飲み物を2本購入し、こちらへと引き返してくる。その際にホットのカフェオレを私に手渡して「こっちの方が良かったか?」と、ブラックコーヒーを差し出す。ブラックコーヒーは飲まないわけじゃあないけれど、好んで飲むほど好きでもないので、私は首を左右に振った。でも、三輪先輩。ブラックコーヒー飲むんだ。大人だなあ。

 ホットカフェオレを受け取った私は缶越しにも、勿論温かさを感じていたけれど、蓋を開けて口に流し込んだらもっと温かかった。寧ろ、アツイくらいだ。




「先輩は大人びていますね」
「お前が言うのならそうかもしれないな」
「絶対そうですよ。米屋先輩や出水先輩にも三輪先輩を見習って欲しいくらいです。とても同い年には見えません。憧れます」
「苗字は陽介に気に入られているみたいだな。最近良く会話で苗字の話を聞く」
「ああ、米屋先輩の話は大抵嘘なので気にしないであげてください。温かい目で見守ってあげるのがいいと思います」
「そうか」




 三輪先輩は信じやすいから騙されちゃうんですよ、本当に気をつけて下さいね。米屋先輩は ああ見えて、見たまんま悪い奴です。直ぐに私の事をいじめて来るんだから、三輪先輩もなんとか言っておいて下さい、というと三輪先輩は「注意しておく」と言った。あれ、もしかしたら三輪先輩って後輩には滅茶苦茶甘いのではないだろうか。なんか最近怖そうだったという理由で怖がって近付かなかったのが馬鹿みたいだ。黒トリガー回収事件の時に私の馬鹿な一言で一瞬睨み付けてきた三輪先輩が今では嘘の様な優しさを発揮している。昔も何度か話した事はあったけれど、今くらい長い時間二人で話す事はなかったからか、あまり優しくされると、私いま誰と話をしているんだっけ、と思う時がある。しかし、隣は何度見ても三輪先輩であり、きっと私はいま、三輪先輩の絆レベル今10段階中の7くらいあるんだろうな、と勝手に思っている。

 だって今やボーダー本部は、あの近界民ネイバーを入隊させてしまっているな闇組織である。三輪先輩がそんなタイミングで迅を嫌いだと言ってきた私に心を許してしまうのも仕方ないような気がしてきた。それに加えて、米屋先輩が私の話を三輪隊作戦室でしているとなればもう心理学の本にあった……なんとか反応的な効果で好感度が上がったのだろう。私もよくやった。よくそんなにも素敵なタイミングで迅さんを嫌いになってくれたね、ありがとう。正直、三輪先輩とは、どこかのタイミングで仲良くなりたいと思っていたから本当に良かった。




「お、三輪と……えーっと、誰? 整形?」
「秀次と……、苗字…っぽいやつ」
「落ち着け。ちゃんと苗字だ」
「マジ? なんか可愛くなったなー、苗字」
「やっと私の魅力に気付きました?」
「やっぱ可愛くねーーー」
「間違いない、コイツ苗字だわ。つか、どうした苗字。一昨日まで普通だったから……昨日イメチェンでもしたん?」
「気付いたらウェーブかかってました」
「ンなわけねーだろ。先輩を揶揄うな」




 出水先輩達に事情を話すと、絶対に揶揄われると思っていたのだけれど、意外にも「謎の業界用語なー。わかるわー」という反応を頂いた。まず私としては、出水先輩達も髪切ってもらいに行くところから意外だった。三輪先輩ならわかる。髪サラサラだし、ツヤツヤだし。けれど、口には出さなかった。その代わりと言ってはなんだけれど、大層微妙で分かり易い顔をしていたのだろう。気付けば個人戦ブースに立っていた。三輪先輩は私を引き摺り込もうとする出水先輩と米屋先輩に対して「狙撃手とお前達みたいな奴が戦闘するところが間違っている」みたいな事を言ってくれたのだけれど、先輩達は聞く耳を持たなかった。

 かくして個人戦ブースに放り込まれた私は 二人と戦闘をする事になったし、案の定ボコボコにされた。出水先輩に2−8で負け、米屋先輩にも2-8で負けた。こんな雑魚と戦った挙句にポイントだけは持って行くのだから、コイツ等はそろそろしっかりと死んだほうがいいと思う。今度二宮さんに会った時はボコボコにしてもらおう。かえって先輩達は喜ぶかもわからないけれど、良い。先輩のポイントが減るのなら、それでいい。




「苗字、大丈夫か」
「先輩が私を苛めてきます……!!!」




 ぎゃんぎゃんと個人戦ブースで涙を流す私に皆は優しかった。そのうちに集まってきたギャラリーは出水先輩と米屋先輩を責め立てたが二人は形だけ謝って何処かに行ってしまった。私のポイント……。折角貯めたのに。私の呟きを三輪先輩と偶々通りかかった風間さんが拾い、米屋先輩と出水先輩を捕まえてボコボコに刻み込んで私にポイントを流してくれた。

 風間さんと三輪先輩は出水先輩と米屋先輩に『後輩を泣かせるとかお前なにやってんの?死にたいの?(完全私訳)』と言って二人を黙らせた。だから私は二人に「これに懲りたら二度と私にランク戦挑まないで下さいね」と腕を組んだのだけれど、先輩達はケロリとした顔で「なんで?」と首を傾げた。コイツら……。鬼だ。コイツ等もドSカンストさせている。そのように考えていると、出水先輩が「お前と戦うと最終的に強い奴が本気で戦ってくれるから最高なんだよな」とカラカラと笑う。うわ、ひっっど。どうでもいいけれど、強者の私を餌に使うのは本当にやめて欲しい。大体、狙撃手と攻撃手が一対一で戦うなんて聞いた事がない。だからこそ、狙撃手は3週連続上位15%以上で正隊員とかいう決まりがあるのだ。もう本当に勘弁して欲しい。








「ーーーという事があった」
「そんな事より変わったな、苗字」
「髪の毛切ったんだ〜」
「そうだな、見ればわかる」
「なんで とりおっていつもそんなに酷いの……いいもん、苗字には佐鳥ちゃんいるもん。とっきーも」
「二人とも今日は仕事だけどな」
「とりおってなんでそんなに捻くれているの? 何かあったの? 話聞こうか?」
「苗字って何でそんなにウザイんだろうな」
「ウザくないし!!」
「そう思えるって幸せだな」




 ムカついた!!! と席を立ち上がって外を見ると様々な所で門が開いていた。

 待て待て待て。ちょっと待て。
 ちょっと何この地獄絵図。
 基地の方が真っ暗ーーー…………




「シッカリしろ、苗字」
「!」
「お互い、呼び出しだな」




 振動する携帯を指差して笑った とりおに「最悪なんだよなあ」と肩を落として言う。あれ、ていうか、なんで とりおはそんなに余裕そうなのだろうか。ポーカーフェイスにも程がある。

 良いなあ、強キャラは。私なんて最早行く意味ある? いやまあ冬島さんから滅茶苦茶連絡来てるし、某SNSにも当真さんから滅茶苦茶連絡来てるから『行かない』という選択肢は普通に存在していないのだけれどーーーと、思っていたら、出水先輩と米屋先輩が私のクラスに顔を出した。ちょっと待て。なにしにきたの。




「借りてくぜ、京介!! ぶっちゃけ、苗字の援護射撃は おれが欲しい!」
オレ達・・・の間違いだろうが、弾バカ」
「待って!! 待って! とりお!!! 此処は引き止めて!? 普通に考えたら私は当真先輩を待つのが正解であって、先輩達と行くべきではーーーちょっと!!!?」
「固いこと言うなよ。勝てば問題な〜し」
「楽観的すぎるでしょ!!!!」
「この戦闘で間違いなく勝ち星狙いに行く戦闘員なら まずお前に声掛けるぜ、苗字」
「はあ? いやですよ、怖いし」




 しかし、先輩達は優しくなかった。

 風間さんが緊急脱出ベイルアウトしてまさに今、私の脳内は大混乱が起きている訳なのだけれど、先輩達はいたって冷静で緑川くんと合流を終えた。そして、残念ながら、あくまでも戦闘態勢のまま、後退するという意思は持ち合わせていないようだった。そして、さらに残念なお知らせがひとつある。是非眼を疑ってほしいのだけれど、私達の前方には見るからにヤバそうな奴がいる……。本部長は玉狛の援護をしろって言っているし、私もそうした方がいいと思うのだけれど、どうだろう。無理だろうなあ。




「よねやん先輩どうすんの? 本部長は玉狛援護しろって言ってるよ」
「なら援護しましょうよ!! アイツ滅茶苦茶強そうだし、それに私、今日 瞬間移動テレポーターサブに入れたからバッグワーム入ってない!!」
「放っておいたら玉狛の方 行くかも知んねーし、此処でアイツ倒しとく方がいいだろ。苗字いるし行けるべ行けるべ」
「さんせーい」
「まあ名前ちゃん先輩いるしねー」
「どういう事!!?」




 出水先輩が国近先輩から人型近界民ネイバー(しかも角が生えてて強そう)の情報を貰った私は固まった。あんなに図体がデカいのに意外とーーーー。




「ゴツイのに意外と射撃系じゃん。いずみん先輩と同じタイプだ」
「いや、あれは出水先輩の肉弾戦マジ強すぎバージョンでしょ、どう考えても」
「弾バカ族兼ゴリラ族だな」
「ただの木崎さんじゃねーか」
「出水先輩。木崎さんに抹殺されますよ」
「お前等がチクらなきゃバレねーから」




 しかし、あの射撃スピードを考えると……。私のサイドエフェクトは1秒を5秒くらいにしておくのが最適解……。いやもしかしたら、ライトニングと同じ射速かもしれないーーーでも5秒は私が酔いに耐えられるギリギリライン。いつもは3秒の設定だし、そもそも3秒すら安定するというラインには到達していない。だとするのであれば、今日が本番と言うことも考慮して、ここは安全第一として3秒のまま戦るのが正解。

 本来なら、3秒が理想解……なのだけれど。あれはなーー、どうみても格上だ。多分普通に戦ったんじゃあ、勝ち筋は0っぽいなーーー。そうなると、やはりリスク覚悟の5秒が色んな意味で最適解だろう。




「冬島さん、当真先輩、今日は5秒に設定するので 共有時は気を付けてください」
『苗字、お前今どこ?』
「今は出水、米屋、緑川といます。これから東さんと一緒に このメンバーで人型近界民ネイバーと交戦します」
『当真、了解』




 それでは、そろそろ私のサイドエフェクトについて紹介しようと思う。今まで話す機会がなかったからいい機会だと思う。私のサイドエフェクトである通称『時間変換』とは1秒を1秒だと捉える現実を捻じ曲げる能力である。つまり、私が1秒を3秒にしたければ、そのようになるし、5秒に変換しようと思えば5秒にだって出来る。積もり積もれば、その能力は2秒間を10秒として行動できる訳なのだけれど、ここで出てくるデメリットこそ酔いだ。




「よし、行くか。苗字もスイッチ入ったみたいだし。苗字見ろ。アイツは雑魚だ。ゴリラ族の中の底辺だ。強いと思い込むと負けるぜ。よし、作戦はMAP見て考えよーぜ」
「作戦って……このメンバーじゃ突撃しかなくない? 名前ちゃん先輩をラストに持って来るように動くとか?」
「いや、そういう重い役割は苗字には出来ねーから どう突撃するか決めんだよ」
「ああ、なるほどね。でも相手が弾タイプってことは近づかなきゃジリ貧でしょ?」
「人数で勝ってるから挟み撃ちだな。動き回って裏取れた奴が当ててく感じで行くか」
「苗字は取り敢えず先に狙撃位置ポイントに向かえ。配置についたら連絡な。頼りにしてるぜ、最強の狙撃手ちゃん」
「苗字、了解」




 そうやって最強と持て囃される私のサイドエフェクトは実は万能ではない。慣れてしまえば、安定して動けるようにはなる3秒間の設定も、必要以上に動くとなればトリオン体は揺れ、酔いが生じる。私が攻撃手にならなかった理由の一つがコレである。私だって思った。こんなサイドエフェクトで攻撃手なら最強じゃあないか、と。しかし、現実は甘くない。

 あのグラスホッパーを使った瞬間の酔い。それから戦闘中に最初から最後まで突っ走らなければならないのが攻撃手である。これは無理だ。私は悟った。では、射手はどうか。合成弾を一瞬で完成させられる? それならば、最強だ。私もそう思った。けれど、それだけだった。射手として私のサイドエフェクトが活きる瞬間はその点だけだった。敵を追う。敵から逃げる。そんな事をすれば酔う。つまり、私はなるべくして狙撃手になったのだ。このサイドエフェクトはあるなら使うべきサイドエフェクトだったし、使わないのは愚かだと思った。因みに、私のサイドエフェクトの有効範囲は半径500m圏内など、まだまだ挙げきれないほどデメリットはあるのだが。それはまた違う機会に話そうと思う。




「出水先輩、狙撃位置ポイント着きました」
『よし。今さっき決まったんだけど、建物は気にせず壊してけ。そんじゃ、まあ一発ぶっ放すから あとは各自臨機応変に』
「苗字、了解」




 出水先輩の変化炸裂弾トマホークを開始の合図としてスコープを覗く。

 しかし、全く狙撃の事を考えてくれていないのは緑川くんと米屋先輩が中心だからだろうか。それとも敵にそもそも狙撃がある事を悟られない為か。なんにしても出水先輩の変化炸裂弾トマホークのお陰で視界が悪くなったのは確かである。




「出水先輩のせいで何も見えません」
『人のせいにすんな。自分の実力の無さを反省しろよ、苗字。東さんならこんなの余裕で撃てるぞ』
「ゴッド東と私を比べんな」
『じゃあ おれがもう一発いくから 隙が出来たら得意のアイビスで一発ドカンと頼むわ』
「頼みますよ、出水先輩」




 出水先輩は宣言通り流星の如く一撃を撃ち込む。私もサイドエフェクトをオンの状態にして狙撃のチャンスを待っていたーーーーその時。敵による圧倒的火力の攻撃が建物を粉砕した。それも私のサイドエフェクトでもギリギリ追える速度の攻撃。恐らく狙われたのならば、間違いなく即死。今のは避けられない射速だ。5秒で避けられないとか化け物じゃん!




『飛んだ!!』
『やべっ』
『ーーー苗字!!!!』




 引き金を引いた。アイビスの銃口から飛び出した弾に直前で気が付いた人型近界民ネイバーは本当にギリギリで避けた。避けたとは言っても擦り傷程度には傷を負わせてしまったようで、雨の弾丸を降らすのはやめて私の方に視線を向けるのだった。




『苗字!! 瞬間移動テレポーター!!!』




 私は、出水先輩の声にハッとして
ふと視線を向けた先に瞬間移動で飛んだ。




「うわ、緑川くん……」
「名前ちゃん先輩それは流石にーーー…」




 緑川くんは私の手を引いて背後に隠す。

 何事かと顔を上げると、
 人型近界民ネイバーが既に此処にいた。




「ーーー今度、そのサイドエフェクトがどうなっているのか教えてよ。常時解放してたら、今オレとも会話出来ないんでしょ?」
「いい、けど……」
「それと邪魔だから早く飛んでくれない?」




 緑川くんが消化器にスコーピオンで傷をつけて中の粉末に煙幕の役割をさせてくれたお陰で何とか建物内から逃れると改めて新しく狙撃の出来そうな位置ポイントを国近先輩に送ってもらい、瞬間移動で向かう。




『苗字、生きてるか?』
「緑川くんには感謝ですね……。後、さっきの狙撃で頭を狙ったのは完全に私の判断ミスでした。すみません。次は仕留めます」
『いや、良い一撃だった。首を狙う判断も戦いを長引かせない判断としては間違っていない。取れる時に確実に討て』
「東さん……!!」




 緑川くんが敵を上手く追い詰めてくれたのだろう。再び上に上昇した敵を見つけて私も再びサイドエフェクトをオンにする。タネも仕掛けもあるのだ。私のサイドエフェクトは万能ではない。だからずっと使ってしまえば酔いのせいで緊急脱出ベイルアウトせざる得ない状況にだって普通に追い込まれる。故に出来た冬島隊の決まり事。それが一度に使う秒数を決める事。一々切り替えるなんて面倒で難しい事をやらなければならないのが、私と真木さんの仕事。サイドエフェクトを共有している時のオンオフの判断は真木さんの仕事。私が1人で勝手にやっているときは私だけの仕事なのだ。

 さて、出水先輩は敵を誘導して仲間に点を取らせるのが得意な人だ。だから私も東さんも荒船さんも出水先輩の誘導弾ハウンドに目を光らせて、経験から狙撃位置を予想して引き金を引く。私達三人の狙撃手の弾は出水先輩の誘導のお陰でキッチリと当たる。荒船さんも東さんもちゃんと当てていた。私はというと、運悪く緑川くんの削った足をもっと削る位しか出来なかったが、健闘したと思う。




「東さん、苗字緊急脱出ベイルアウトしたいです……。あの近界民ネイバー滅茶苦茶私のこと狙ってきます」
『それだけ苗字が警戒されているという事だ。今が攻め時だ。ガンガン押すぞ。B級各員、人型を包囲しろ』
『ここで押すのか!?
 何が変わったってんだ、東さん!!!』




 まだ押すとか私が緊急脱出ベイルアウトしてしまう。そもそも5秒変換だって絶対に酔わない訳ではない。人型の攻撃を避ける二度に渡り瞬間移動で避ける事で何とかトリオン体の揺れを抑えているが、瞬間移動先に攻撃を仕掛けられては元も子もないし、運が悪ければ、振動の強さのせいで緊急脱出ベイルアウトなんて事も、ありえない話じゃあない。嫌な状況で、嫌な相手だ。なによりも強すぎる。そんな状況で私が今日学んだ事といえばボーダーが相手ではないのならバッグワームは そこまで重要ではない事くらいなものだ。

 いや、それだって戦闘する上では間違いなく重要な情報ではあるのだけれど、もう今はそんな事はどうだっていい。兎に角、此処まで来たら とことん東さんの作戦に乗って人型を撤退させ戦功を勝ち取るのが吉である。




『さっきまでの人型は俺達全員に意識を割いても冷静さを残していた。その余裕を使った正確な防御と火力を活かした大雑把な攻撃がやつのスタイル。自分の強みを知っている割り切った戦い方だ』
「でも東さん、あの人型そこまで大雑把な攻撃でしたか? 私は確実に私の場所に攻撃を返して来たから緑川くんの所へ退避した……と信じたいんですが」
『それは恐らくお前を含めるA級4人が奴の警戒レベルを引き上げたんだろうーーー……特にお前の攻撃の威力は当たらなくても擦り傷位は付けられる様だしな』
「……アイビス威力はありますもんね」
『数の優位が活きる場面だ。バラけて奴の注意を散らせ。まとまってると一発でもってかれるぞ』




 首筋が寒いこの状況でも重い腰を上げなければならないのがボーダーである。それも私はこんなんでもA級2位。B級の方々が頑張っているのに楽は出来ない。凄く嫌だけれど……、というか私は本当にサイドエフェクトがなければ何も出来ないのだから、これ以上戦場に駆り出すのは勘弁してほしい。まあ、そんな図々しい事は固定給もらっている手前言える訳がないし、固定給貰ったんだから命張れよ、と言われたらそれまでなのでなにも言えないのだけれど。それならば、今回はまあ真剣にやろうと思う。私ひとりが緊急脱出ベイルアウトしたところで大きく何かが変わるという事もないだろうし、思い切っていこう。




「東さん、私が囮をやります」
『エッ、苗字どうした!!?』
『わかった。確かに、苗字が囮なら食い付くだろうし、いざとなれば相打ちでも健闘だ。攻撃手の米屋と苗字の挟み撃ちで行こう。一応緑川達も反対に配置すれば何方かで確実に討てるだろう』
『まあいいよ。名前ちゃん先輩が久しぶりにやる気出してるんだし、乗った』
『任せろ、苗字。お前を緊急脱出ベイルアウトさせたら後が大変だし、偶には大胆に行かねーとな』
「いえ、いざとなれば瞬間移動で米屋先輩だけおきざるんで、私は平気です」
『最悪じゃねーか』




 攻撃手が配置完了して、私も囮として配置完了。出水先輩や東さん達の弾で方向を誘導して見えて来た人型近界民ネイバーに形だけでもアイビスの銃口を向ける。いや、今ならもしかしたら普通に撃てるのではーーー敵も近付いているし、私のサイドエフェクトもまだ全然使用限界値にきていない。そうとなれば、思い立ったらすぐ行動。顔怖いし、冷や汗止まらないけど、上から来た米屋先輩に敵の視線が向いた。




「なるほど。こうして敵を呼び込むわけだな、理解出来たよ」
「ーーーーと、思うじゃん?」




 敵の攻撃を米屋先輩が両防御フルガード。油断した敵に私がアイビスを撃ち込み、更に米屋先輩が地面に落ちる勢いのまま槍を使って敵を釘刺しにした。




「こっちは『部隊チーム』なんで。悪いな」







 米屋先輩達から離れた所に瞬間移動をして当真先輩に「人型を倒しました」と連絡する。何故だか凄く褒められたのだけれど、正確には倒したというよりは撤退させたというのが正しいし、なによりも撤退に貢献したのは私だけではないのだけれど……。というか、11対1で勝てなかったらやばいですよ、と話したけれど もう何でなのか、東さんにも滅茶苦茶褒められた。なんなんだ一体。

 それでも、東さんは私の意見を聞いた上で「撤退させただけ健闘だ」と頭を撫でてくれた。本当に東さん私に優しすぎる……。特に意味はないのに泣きそうだった。




「それで苗字はどうする?」
「私は帰って本部で寝ます」
「あ、東さん。コイツは おれらと逃げてるC級のサポート行きますよ。今フリーなの おれらだけみたいなんで」
「そうわかった。助かったよ。
 四人とも今度何か飯奢らせろ」
「ラッキー」
「「じゃあ、焼肉で」」
「えー!!!ラーメンが良い!」
「名前ちゃん先輩、それは個人的に来週行こうよ。この間ラーメンの話言いそびれちゃったし、お詫びに奢るよ」
「行く!!!!」
「うわー、名前ちゃん先輩って髪切ってから本当にパッとする美少女になったよねー」
「うわっ、緑川すき!!!」
「…………うん、オレも」
















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Espoir