
夢から醒めた世界
「いつまで寝てんだ、苗字」
「名前ちゃんせんぱーい」
「苗字、お前最後だぞー」
「いやでも名前ちゃんってキューブ発見されたのも最後だったから仕方なくない?」
「緑川、苗字の前でいい奴ぶりすぎ」
「だって可愛いんだもん」
「ちゃっかりラーメンの約束してるし」
「ソレは二人がオレ達の会話に入って来なかっただけじゃん。オレは悪くなくない?」
「「うわ、うぜー」」
「ごめん、三人とも。先に良いか?」
「あっ! 迅さん!!!」
相変わらず、目を覚ます事のない苗字は開発室から医務室に運ばれた。流石の鬼怒田さんも日々迷惑を掛けてくる苗字みたいな賑やかな隊員が目を覚まさないとなると心配なのだろう。苗字以外のボーダー隊員が全員目を覚ましたところで、早急に苗字を医務室へと運ばせていた。そして、現在。苗字のキューブ化が解除されてから丸1日が経過していた。昨日の段階で流石に換装は解けたらしいが、生身となれば余計に心配になる訳で心配は募るばかりだ。
苗字が目を覚まさない理由として、おれはサイドエフェクトの限界値を超える使用だと考える。粗方間違ってはいないだろう。苗字のサイドエフェクトは一般的に考えられている常識を遥かに超えるーーーいや、覆すサイドエフェクトだ。苗字のサイドエフェクトについての全てを知っているわけではないが、苗字について何か解るかもしれないと冬島さんに話して得た情報が正しいとすれば苗字のサイドエフェクトとは己の時間の流れを変動させるサイドエフェクトだ。つまり、かつての おれの予想は当たらずとも遠からずだったという事だーーーーであれば、そのサイドエフェクトを使用する際のその時間変換のエネルギーは どこから消費されるのか。まず間違いなく、トリオンだ。しかし、時間変換とは おれ達の常識を覆す
「でも苗字が無事で良かった」
「そういえば 苗字だけ見つからないってなった時、迅さん飛び出して行きましたもんね」
「最悪の未来だと苗字は敵に囚われて黒トリガーにされていたからな」
自分の発した言葉に出水達が目を丸くする。確かに、苗字が黒トリガーになれば絶対的な殺傷能力を持つのは間違いない。それが敵に回るのは厄介だが、何よりも厄介だったのは苗字が黒トリガーになった事により、ボーダーの人間が確実に城戸派に偏ってしまう事だ。
苗字はアレで本人が知らないところで絶対的なファンみたいなのが存在する上に、当真、冬島さんといった鉄壁の守りもいる。更に言えば、二宮さん、加古さん最近では秀次達とも仲が良いし、嵐山隊の佐鳥と時枝も京介も苗字の黒トリガーになったという知らせに確実に城戸派の考えに寄ってしまう。そして、おれ個人としても、出来れば苗字にはいなくなって欲しくない。アイツは精神こそ弱いが、今回のように後輩やB級がいれば、その絶対のプライドから途中で逃げ出したりはしない奴だ。
「…………名前ちゃん先輩が黒トリガーになるって、そんな未来があったのになんでオレ達に教えてくれなかったの?」
「苗字は おれのサイドエフェクトに
「いいよ。結果助かっているわけだし、迅さんはきっと正しかったんでしょ。あーあ、名前ちゃん先輩、早く起きないかなー」
「直ぐに起きる。おれのサイドエフェクトも そう言ってる」
「便利なサイドエフェクトっすね」
「いいよなー。
オレもサイドエフェクト欲しいわー」
良い事ばっかりじゃないよ。サイドエフェクトなんてあっても。そういう言葉を呑み込んでベッドから離れようと足を動かすと、途中で服を引っ張られているような妙な力を感じた。
そして、殆ど反射的に振り返ると、苗字が目を開いて、布団の隙間から伸ばした手で、おれの服の裾を掴んでいた。
「ごめんなさい、迅さん」
「いや、ちゃんと伝えられなかった おれが悪い。やっぱりC級の誘導なんて曖昧な言葉で伝えるべきじゃなかった。本当にごめん」
「あの2人は?」
「助かったよ。苗字のお陰もあって今回は最高から3番目くらいかな。助かったよ」
それは良かった。笑う苗字を見て出水達もなんとなく安心した顔をしていた。この三人と嵐山隊の二人は暇さえあれば此処に顔を出していたから その反応は頷けた。
さてと、おれは邪魔みたいだから……ここからは学生同士で仲良くやってもらおうかな。
「迅さん」
「ん?」
「私、三雲隊員が生きていて良かったよ」
「……ああ。ありがとな」
うわ、不覚にも泣きそうになった。
苗字って怖い。
ただ何となく気まずい空気が流れるのだけれど、私からしてみればキューブになってから現在までの記憶がゴッソリない。
だから、そんな微妙にどう反応したらいいのか解らないような葬式感を漂わせるのは本当にやめて欲しい。まだこれを二宮さんとか、きくっちーがしているというのなら「怪我しちゃいました〜。てへぺろ〜」で、乗り切れるのかも知れないけれど、いつも意味が解らないくらいテンション高めの この3人がこの反応だと私も反応に困る。
「あの、私としては あの後どうなったのかとか、戦功の話が聞きたいんですけれど」
「あー、苗字は一級戦功だって。当真さんが流石ウチのエースって褒めてたぜ」
「ふーーん」
「この野郎嘘だと思ってやがる……」
「新型撃破数が4で、おれ等と人型撃破に大きく貢献したのがデカいらしい。因みにお前の
私は出水先輩の言葉に一時停止して「勝った……」と呟いて、両手でガッツポーズを決め、勢いよく出水先輩を見上げる。
「〜〜ッ、とりおに勝った!! やった! やった〜!! 出水先輩ハイタッチ〜〜!!」
「ウェーイ」
「待って。このまさかの仲間外れ感なに?」
「よねやん先輩は兎も角。先輩を助けたオレにも その扱いなんだ……名前ちゃん先輩! オレもハイタッチ!!」
ベッドから起き上がって緑川くんと米屋先輩とハイタッチをして、何だかよく解らないが不思議な流れで出水先輩に無理やり負けず嫌い同盟を結成させられた。(しかもバッジももらった)何故?? 私は疑問だらけだったけれど、出水先輩も米屋先輩も緑川くんもソレについて何も言わないので私もここは軽く流す場所なのだろうと判断して軽く受け流しておいた。
さて。めでたく一級戦功を勝ち取った私達は二級戦功の人達の名前もジックリと確認して「結構勝ったなー」と、勝手に盛り上がっていた。因みに、あの当真先輩も二級戦功である。
「そんでさー、苗字が暇なら今日 東さんと焼肉行くんだけどお前どう?」
「超暇です!! 焼肉行きます!!!」
「名前ちゃん先輩、ラーメンはいつ行く?」
「私、明後日空いてるよ」
「じゃあ明後日 学校終わったらボーダーね」
「最高すぎる、緑川」
「名前ちゃん可愛いから特別」
「あれ、まさかの先輩呼び卒業なの?」
「名前ちゃんも敬称卒業じゃん」
呼び方や敬称に拘りはないから、私に対して敬称を付けるのをやめるのは全然いいのだけれど、緑川くんすごいな……。
私達は暫く医務室で話をしていたけれど、医務室の担当者に元気になったのなら連絡しておくからと追い出された。結構ボーダーはA級だとか関係なく厳しいようだ。医務室を追い出された私達はボーダーの食堂のボックス席を陣取って再びお喋りを再開する。その間にも出水先輩は東さんに「焼肉今日でお願いしまーす」と電話を入れていた。どうやら今日の夜の六時に車を出してくれるらしい。流石東さん! 今日もブレない優しさがある……。
「やっぱ肉はカルビだよねー」
「私も断然カルビ派」
「あの柔らかさがたまらないよね」
「何のタレをつけても美味しいところが一番革命的だよね……私、緑川と仲良くなれる気がしてきた!! 生意気とか性格悪いとか思っていてごめんね!」
「いいよ。オレも名前ちゃんの事、最初凄い弱そうだと思ってたから!」
「あ、無理……。仲良くできなそう」
「諦めるのが早すぎじゃね?」
なんで!? と、緑川くんは私の肩を滅茶苦茶揺らすけれど、雑魚って……。いや解ってたよ。解っていたのだけれども。
人に直接言われるとダメージが違うというかなんというか。うわあ、心に結構突き刺さってる……。年下に、雑魚って言われる私どうなの。なめられすぎじゃないですか……。昔A級を滅茶苦茶ナメていた私が言えた台詞じゃない事は重々承知しているけれども。
「苗字って何で同期と同じ部隊にしなかったん? あと、ずっと思ってたんだけど おれ もしかしたら お前と同期じゃね?」
「はあ? 出水先輩いつ入ったんですか?」
「約3年前」
「同じかも。4年いかない3年でしょ?」
「それそれ、とっきーと佐鳥と同じって絶対おれと同じくらいだって思ってたんだよ」
「あはは、先輩と同じとか最悪〜」
「マジ? 安心しろ、おれもだから」
「笑顔で毒吐くのやめろよ、お前ら」
やだ、先輩ったら先輩面しないでくださいよ〜。は? 冗談キツイわー、同期なら先輩のおれのが偉いに決まったんだろ、と言われてカチンとくるけれど、どちらにせよ、私と出水先輩の力の差は歴然な上に実際、佐鳥ちゃんやとっきーが先輩の事を敬称付けて呼んでいるわけだから私も一応は敬称を付けるべきだろうと思って取り敢えず会話を一度終了させた。
「暇ですね、18時まで」
「ランク戦行く? 2対2」
「出水先輩と組むなら良いですよ」
「はい、ダメ〜。苗字と出水がペア組んだら 、オレらツラれて終わるじゃん」
「名前ちゃん先輩といずみん先輩が別れて、オレとよねやん先輩がジャンケンして勝った方が名前ちゃん先輩で良くない?」
「なんで おれが負けた方とやるんだよ。もう おれと苗字でチームで良くね?」
「それ全然楽しくねーから」
2対2のチーム別けをしているところに、当真先輩と荒船さんがやってきて私を見つけるなりギョッとして『何でお前がここにいんの?』 みたいな顔をして、失礼な事になんの配慮もなく、私を指差してきた(当真先輩が)。それを見た 緑川くんが「さっき起きたんだよ」と、二人にいうと二人は「成る程」と納得していた。
因みに、緑川くんと私は敬称をお互い元に戻した。慣れた呼び方の方が良いよね。
「苗字」
「? はい」
「あの時は見事な狙撃だった」
あの時というのは、間違いなく対人型との戦闘の時だろう。荒船といえば東さんのサポートとして共に あの場所にいたはず。……というか、あの戦闘にいなかったとするのならば、本当に何を言われているのか サッパリ理解出来ないので、寧ろ あの戦闘の事であってほしい。
荒船さんと当真先輩は私達の腰掛けているボックス席の隣に腰を下ろして「何してんだ?」とジャンケンの手のまま停止してる緑川くんと米屋先輩を見た。
「あー、これからおれら2対2なんすよ」
「どっちが名前ちゃん先輩と同じチームになるのかをジャンケンで決めてるところ」
「大人気じゃねーか、ひよっこ」
「愉快なメンバーだな」
「待って。どういう意味ですか、荒船さん! 私もコイツ等と同じ括りですか!?」
「おいこら、苗字。オレ等先輩だからな」
「指差すな、蜂の巣にすんぞ」
「こんな奴等と!!?」
「……すまん」
なぜ謝られたのかは考えない事にしようと心に決めた私は2対2の部隊を決めるのをやめた緑川くんと米屋先輩が愉快に当真先輩と話し始めるのを見てホッとした。それを見た 出水先輩が「良かったなー。先輩がセコムで」と、訳のわからない言葉を口にしていたけれど、出水先輩といえば宇宙人の端くれなので日本語の使い方が下手なのだろうと勝手に自己完結させた。
そして出水先輩は荒船さんと突然会話を始めるという物凄いコミュニケーション能力を発揮していた。因みに、私は荒船さんとは狙撃訓練でも話をしない仲(というか、最近は当真先輩と一緒になって的にお絵かきをしているアホなので話どころか……というやつ)なので、先程は勢いでツッコミをいれてしまったが、正直気まずかった。
「さっき当真と犬飼と苗字が実は凄い奴だって話してたついでに様子を見に行く予定だったから会えたのは幸運だったな、当真」
「おー。そういや、苗字。コイツ滅茶苦茶お前の事褒めてたぜ、良かったな」
「は? お前の方が褒めてたじゃねえか」
「あ、もう結構です。ウチの当真は私の事ディスり倒すので有名なんで」
「……俺は別に他の部隊に口出すつもりはないが、どういう教育してたら、こういう事になるんだよ」
しかし、犬飼先輩の名前が上がるのは意外だった。犬飼先輩といえば、二宮さんの部隊の隊員だけれど、特別話す方ではない。私が二宮さんにジンジャーエールを買って来いとパシられた時も、ずっと辻先輩と話していたからテッキリ眼中にもないのかと思いきや、一応存在の認識はされていたらしい。それは意外だ。意外だというのも荒船さんが「アイツもお前の事は評価してたぜ」と言ってきたことが、だ。意外どころの騒ぎではない。絶対にない。あるとしたら槍が降るのではないだろうか。
私は二宮隊がA級にいた時から知っているのだけれど、犬飼先輩といえば、具体的に日付は忘れてしまったけれど、私が久しぶりに二宮隊に訪れた際「あ、冬島隊の
「犬飼先輩が私を評価するとかないです」
「は?」
「だって私の前で笑った事ないんですよ? 周りにアレだけ笑顔振りまいておきながら私には表情は無ですよ。怖くないですか?」
「マジ? 超嫌われてんじゃん、苗字」
「ですよね!!? やっぱり、出水先輩の前ではヘラヘラしてますもんね、あの人」
「いや おれ以外の前でも普通に」
「ほら嫌われてる」
「お前ら2人どうなってんだ、当真」
「愛情の裏返しじゃねーの? 俺より酷えじゃねーか、犬飼。とんでもねーな」
「だからアイツ、苗字の様子見に行くっつったら帰ったのか。馬鹿なのか?」
「別に良いじゃねーの。青春だなー、犬飼」
「今この瞬間に最先端で人の恋路じゃましようとしてる目してる奴が何心にもねー事言ってんだ」
話していて分かったけれど、荒船さんと当真先輩は仲が良いらしい。まあこのボーダーで滅茶苦茶仲の悪い組み合わせというのも私はあまり見たことがないけれど。とりあえず、荒船さんは今日。苦手な先輩から私を割と可愛がってくれる素敵な先輩という位置に昇格した。軽く出水先輩や当真先輩の30個程上の階級だ。
素晴らしい先輩だ。この間の狙撃はこうだったが瞬間移動は私のサイドエフェクトならこうした方が効率が良いんじゃないか、とか参考になる戦法をいくつか教えてくれた。神か。神だ、この人。それを聞いていた緑川くんにも「名前ちゃん先輩今度はグラスホッパー装備してみなよ」と言われたけれど、グラスホッパーは些かレベルが高い気がする。でも、考えておこうかな。サイドエフェクトを使用しながらのグラスホッパーは確実に死ぬけれど、使用して敵の動きを見てから解除してグラスホッパーなら中々使えそうだし。というか、恐らくそれを私のない脳味噌で思いつけていたのなら前回のA級ランク戦も私達が1位だったに違いない。次回こそは絶対に
「あ、電話だ」
「だれ?」
「佐鳥ちゃん。ていうか、電話の相手の確認とか出水先輩は私の彼氏なの? まあいいや。ちょっと出てきますね〜〜」
通話ボタンを押して電話に出ると、佐鳥ちゃんが「苗字今どこにいるの!!? なんで医務室にいないの!?」と、声を荒げた。
その近くで「やめなよ 苗字も病みあがりなんだから」と、とっきーの声が聞こえる。うわあ、あの汚れた空間(荒船さんを除く)にいたから心が洗われる……。この間の大規模侵攻の時も二人はボーダーの仕事をしていたから会えなかったし、かなり久しぶりなのではないだろうか。
「佐鳥ちゃん、会いたい」
『佐鳥も苗字に会いたい!! 苗字今どこ? 今から行ってもいい?』
「あー、でも出水達いる」
『エッ、苗字……ついに出水先輩達を敬うのをやめたの? 敬称やめたの?』
「やめてないよ!! 私いま食券機の前にいるんだけど、佐鳥ちゃん早くね」
『佐鳥了解〜』
「はーい、後でねー」
どれくらいで来るだろう。でも医務室そんなに遠くなかったから……と、考えてから なんとなく食堂のメニュー表を見るとーーー
ーーーなんと。なんと!!!
来週の木曜日に塩ラーメンの名前があった。そう、ここの塩ラーメンは以前お話しした通り滅茶苦茶美味しいのだ。私は早速SNSで当真先輩に食堂のメニュー表の写真を撮って送ると、当真先輩からは『この日は仕事なくてもボーダー集合』と返ってきた。流石、同盟仲間なだけある。私は先輩の その返事を期待していました!
「ごめん、苗字! 待った!?」
「佐鳥ちゃん!!!」
くるりと振り返って感動のあまり抱きついてやると佐鳥ちゃんは動きを停止させた。隣にいるとっきーも珍しく少しだけ驚いた顔をしてから「取り敢えず離してあげて」と、私に言った。一応形式上渋ってはおいたけれど、とっきーに免じて佐鳥ちゃんは、ちゃんと解放してあげた。
「苗字、髪型変えたんだね」
「そっか。とっきー達には会ってなかったもんね。この間の金曜日に切ったきたんだ〜」
「似合ってるよ」
とっきーの言葉に改めて言われると照れるね、という私の言葉にとっきーは数回瞬きさせてから「烏丸には言われなかったんだね」と当たり前すぎる言葉を口にした。とりおが私に似合ってるなんて言うはずがない。彼の一族は美形だろうから、私より可愛い兄弟がゴロゴロいるに違いないし、私の事なんて可愛いとも思っていないだろう。断言したっていい。なんといっても、とりおは あの木虎ちゃんに靡かない男であり、可愛いとも強いとも有名な小南先輩にも靡かない男だからだ。いや、もしかしたら小南先輩の事は好きなのかもわからないけれど、兎に角! 少なくとも私は烏丸京介に可愛いと思ってもらえる側の人間ではない。
大体反応でわかるんだよね。アイツが私のイメチェンを見て最初に言った言葉なんて、変わったな。はい、おしまい。こんな奴いる??? だから、もしかしてわかっていないのかなと思い「髪切ったんだよねー」と伝えてみれば、「……は?そんなの馬鹿でもわかるから、ああ、お前馬鹿だったな」みたいな言葉を返された。なんだアイツ許せねえ。多少言葉には違いがあるかもしれないが、大きく意味が違うと言うこともないだろう。
「佐鳥ちゃんは……おーい、佐鳥〜」
「待って!! 待って苗字!!!」
「なに?」
「可愛すぎて直視出来ない!!!!」
「待って! 待って佐鳥ちゃん!! 流石の苗字もソレは照れる! 待って!!」
「心臓が壊れる!!!!」
「2人とも。うるさい」
とっきーに言われてパタリと発言を止めた私と佐鳥ちゃんととっきーの間には妙な空気が流れて佐鳥ちゃんに関しては顔を真っ赤にしたまま視線を滅茶苦茶色々な所に凄いスピードで泳がせている。なにそれすごいな。佐鳥ちゃんそんな特技があったの? 凄いね。
とっきーは私と佐鳥ちゃんが落ち着いたのを確認して息を吐くと口元を綻ばせた。
「苗字が目を覚まして良かったよ。木虎も嵐山さんも心配してたから」
「じゅんじゅんが!? ほんとに!?」
「うん。おれ達も時間があれば苗字の所に行ってたけど、出水先輩達は割とずっといたし、烏丸も見に来てたよ」
「そうなんだ。心配かけてごめんね」
「大丈夫、苗字が見つかって良かった」
「? そっか」
それではまるで私が見つからなかったみたいな言い方だ。あ、もしかして あのラスボスみたいな人の近くでキューブ化されたからラスボスに奪われて……みたいな!?
ああ、それなら確かに皆心配するよね。本当に申し訳ない。出水先輩達も恐らく私を引きずり回した責任でずっといてくれていたのだろう、大変ご迷惑をおかけしました。特に出水先輩には迷惑をかけたなというのは流石の私も思う。今思えば、あの状況で雨取隊員を助けるよりかは 雨取隊員を持ち運びやすいキューブにするのは良い考えだったかもしれない。そんな気がしてきた。病人な手前怒らないでいてくれているだけかもしれない。うわあ、それはしんどいわ。またこの先の人生のネタにされるやつだ。ボーダーやめたい……。けれど、佐鳥ちゃん達を忘れるのは本当にしんどいから、まだ頑張って続けよう。
「なーに百面相してんだ、苗字。遅いから迎えに来ちまっただろーが」
「佐鳥ちゃんととっきーと会ってました」
「勝手に過去形にしてるけど現在進行形で滅茶苦茶目の前にいるじゃねーか。つか、佐鳥どうした? 顔赤すぎ」
「だって出水先輩!! 苗字、滅茶苦茶可愛くないですか? 佐鳥には直視出来ません!」
「お前の中で苗字の前の髪型どんだけ似合わない認定されてたんだよ、そんなに前と変わってねーじゃん」
「エッ、出水先輩って苗字の事、前から可愛いと思ってたんですか!?」
「……は? や、言ってねーよな!!?」
日本語に弱くなってしまった佐鳥と宇宙人の端くれの出水先輩はどうやら会話が上手く成立しないようで、このやり取りが暫く続きそうだったので、とっきーに「明日は学校で会える?」と尋ねた。とっきーは「久しぶりに4人でご飯が食べれるよ」と返した。そういえば余談だが、この間 とりおと2人きりでご飯食べている時は それはもう圧がすごかった。女子の圧が凄すぎて流石の私も萎縮した。
「そういえば、玉狛の三雲くん 生きてはいるって聞いたけど……目は覚ましたのかな」
「おれはまだだって嵐山さんから聞いたよ。苗字は一回お見舞い行ってあげたら?苗字が無事なのは三雲のお陰らしいし」
「そうなの?御礼しないとなあ……。とりお、毎日お見舞い行ってるかな?」
「どうだろう。でも苗字が誘えば一緒に行ってくれると思うよ、烏丸だし」
「それこそどうだかなあ〜〜」
とっきーは、とりおが私の事をそれなりに気に入っているとでもいうかのように会話をするけれど そんな事はないと思う。実際にすぐに憎まれ口を叩くし、まあ言い返してしまう私も悪いのかもしれないけれど、友達ならば、あそこまで頻繁に憎まれ口は叩かないだろう。実際とりおは とっきーには結構優しいし、佐鳥ちゃんともちゃんと友達って感じがする。
……もしかして、苗字だけアウェイ……? どうしてなの、とりお。
「ねえ、先輩達いつまで話してんの!!? 東さんもう車出せるって!! 早く行こうよ!」
「「マジか!!!」」
「出水先輩達どこか行くんですか?」
「おー、焼肉」
「いいなー、苗字今度佐鳥と駅前のハンバーガー屋さん行こうよ。あの本店海外にあるオシャレなとこ」
「なにそれ、そんなの出来たの?待って、明日はお見舞いで明後日がラーメンだから……金曜日なら空いてるよ!」
「じゃあ金曜日!!」
「きくっちーとかも呼ぼうよー」
「おっけー!」
おれもいい? と首をかしげる とっきーに私も佐鳥ちゃんも「とっきーは強制に決まってるじゃん」と返すと、とっきーは「別に決まってはいないでしょ」と素っ気なく返してはきたけれど顔はしっかりと笑っていた。
そんな仄々とした幸せオーラの満ちた この空間が気に入らなかったのか、そんなに焼肉が食べたいのか緑川くんは頬っぺたをパンパンに膨らませて私の背中を押した。去り際に手を振った私にちゃんと振り返してくれるところが本当に大好きです。とっきーと佐鳥ちゃん。どちらでも良いのだけど私の事を嫁に貰ってくれないかな。ああ、でもダメだ。二人とも嵐山隊だ。嵐山隊は市民にもボーダーにも人気だからなあ。私が殺されちゃう。だめだ。
「よねやん先輩!! 名前ちゃん先輩が直ぐに浮気するんだけど!!!!」
「安心しろ、お前のではない」
「そうだけど!! 改めて言わないでよ!」