※名前変換はございません
※ハガステ台詞ネタバレ注意


 第五研究所崩落の爆発音で、私の胸は春の暴風のように激しく踊りました。
 枷をはめられた手は不自由ではあれど、今の私は、この境遇すら忘れるほどに自由だったのです。
「静かにしろ、キンブリー」
 でっぷりと太った髭面の看守が、胸の高鳴りに水を差しました。だが、それすらも別段気になりはしません。
 この心震える振動音に、ありし日のイシュヴァールのハーモニーを重ねれば。
「……狂ってやがる」
「狂っていなければ、世界の美しさは分かりませんよ」
 そうです。狂っているからこそ、人々が忌み嫌う爆発音にまで、確かな『美』を感じる。異端であるからこそ、人々が到底理解できぬ『悦』に浸ることができる……。
 すべては、狂っているからこそ、私であるからこそ、叶う歓びなのですよ。
「……ですが、まあ」
 看守の過ぎ去る足音とともに、私の呟きが牢内にぽつりと落ちました。
「たとえ狂っていなくとも、美しいと感じるものもあるでしょうね」
 記憶の中の懐かしい笑みを、ふと思い出しました。
 私をとりこにした、あの声、あの姿、あの表情……。
 ……誰のことか、ですって? ああ、失敬。あまりに察しが悪いので笑ってしまいましてね。
 無論、貴女のことですよ。貴女の他に、いるとでも?
 ――私の愛しの花。
 また逢える日を、この鉄格子の楽園から、心待ちにしていますよ。


Afterword

ハガステ登場おめでとう記念andキンブリーの日(ホワイトデー)です! 「狂っていなければ、世界の美しさは分かりません」という舞台オリジナル台詞が好きすぎました。
(20230317)




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