2.(オリヴィエ)

 ブリッグズ要塞勤務になって、震え上がることが増えた。
「さっっっむ!!」
 山岳警備隊の連絡を受け、侵入者を取り押さえに行く途中で、寒さに震え上がったり……。
「こっっっわ!!」
 氷の女王こと、オリヴィエ・アームストロング少将の怒号を遠くで聞いて、恐怖で震え上がっている。
 うええ、あの少尉、私と同期でおんなじ時期に要塞勤務になったのに、派手に怒られてるし……。
 って、なんで私までぶるぶるしてるんだろう。早く仕事、仕事。間違ってもあの少将には怒られないようにしないと……。
 ……と思っていたのに、ずいぶん早い段階で雷に打たれることになった。
「貴様、ちゃんと撃つ気はあるのか!!」
「ひぃぃ!!」
 勤務時間終了後、私は射撃訓練場で、ソロ練習をしていた。
 何発も撃っているのに、人型の的の中心は空いたままだ。でも、そばに誰もいないから、冷やかされることも笑われることもないだろうと思っていたのに……。
 まさか、通りすがりの少将に喝を入れられるとは!
「弾薬を無駄にするな! やる気はあるのか!」
「はいぃ、ありますっ!」
 ああ、今までで最高に震え上がっている。外は冬景色なのに、汗という汗が止まらない。少将、こわい。
 私がかわいそうなほどに震え上がっているからなのか、少将は鋭い眼光を少しだけ緩めた。
「……見ない顔だな。新人か?」
「は、はぃい! 元南方司令部所属の、アヤ・ラシャード少尉であります! つい最近、要塞に配属されましタッ!」
 やば、声、裏返っちゃった!
「ということは、まったくの新米ではないのか。士官学校にはちゃんと通ったんだろうな」
「か、通いました……」
「それでこの射撃の腕か」
「は、はいぃ……」
 誰かタスケテ……。私のライフはもうゼロよ……。
 血の涙を流していると、少将は無表情のまま、私の銃を取り上げた。
「無駄だ」
「え……?」
「これ以上練習しても無駄だと言っているんだ」
 そう言うと、少将は勝手にてきぱきと後片付けをし始めた。
「ちょ、ちょっと待ってください少将! 私、まだ頑張りますから――」
「必要ない。時間の無駄だ」
「そ、そんな……」
 ボスに見限られてしまったショックが、鋭いナイフのように胸に突き刺さる。
 自分でもダメだと分かっている。才能がないと、ひとより劣っていると、日々感じている。
 でも、こうしていざ、ひとの言動で現実を突きつけられると――。
「なにを情けない顔をしている?」
 片付けを終えた少将が、片眉をくいと上げて私を見る。
「っ、すみません……」
 やば、泣きそう。私の豆腐メンタル、もうちょっと待って。
 絹ごしだけど、今だけ木綿になって。ちょっとでいいから、ちょっと強くなるだけでいいから……。
「……おまえは、どうしようもないな」
「……ッ」
「そんな精神力で、この天険の地・ブリッグズの要塞を護りきれるのか?」
「……が、頑張りま……」
「もういい。分かった」
 少将はコートひるがえして背を向け、歩きだす。
 ああ、見限られた――。
「来い」
「……え?」
 舌打ちが響き、少将は鬼の形相で振り返った。
「私の部屋に来い! 貴様の軟弱な精神と肉体をみっちり鍛えてやる!」
「ひっ……ひいぃぃ〜ッ!!」
 果たして、明日の朝陽を拝めるのか……。
 私は半べそをかきながら、足早に歩くボスの後をついて行った。


Afterword

親密度ゼロのときのやりとり。
ここから仲良くなって、最終的には夢主をめちゃくちゃ可愛がってほしい(願望)
(20230717)




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