※名前変換はございません。


11.
 開けてはいけませんよ、と常々聞かされていた銀時計がそこにある。何が隠されているのだろう。彼が机に伏して寝ている今がチャンス。好奇心に負けた私はついに時計を開けた。中に入っていたのは「お疲れ様です」と書かれた一枚の紙切れ。いつか私が書いたものだと気づいたとき、微笑む彼と目が合った。
(第7回キン曜日はキンブリーデー 20171110)

12.
 抗えば抗うほど拘束された手首が痛む。酷い仕打ちに悔しさが滲んだ。「何故逃げるんです?」彼は理解できないと小首を傾げる。そんな彼を憎めない、恨めない。顎を掬われ視線が交わる。「ずっと可愛がってあげますよ」その囁き声で胸が甘やかに疼く。ああ、私は体だけでなく心まで囚われていたのか。
(第8回キン曜日はキンブリーデー 20171117)

13.
 キンバリー、と女性名で呼んでみる。黒曜石色の艶やかな長髪を耳にかけ、女装した「友人」は振り返った。香水がほのかに香り、紅いルージュが塗られた薄い唇が弧を描く。その色香に女である私が射抜かれてしまった。「行きましょう」「…うん」触れたのは、男の手。美しい彼に翻弄される一日が始まる。
(第9回キン曜日はキンブリーデー 20171124)

14.
 紅蓮色のワインをこくりと味わう姿、さすが絵になる。「朝までここにいなさい」上官命令なのか、恋人命令なのか。おもむろに席を立つと手首を掴まれた。「…ここにいてください」「ふふ。お手洗いです、少佐」彼はバツの悪そうな顔でグラスに口をつける。酔っているのだろうか?素直な彼も、悪くない。
(第10回キン曜日はキンブリーデー 20171201)

15.
 勤務時は私が運転するが、休日は彼がハンドルを握る。彼の凛とした横顔がすぐ近くに見え、ときめいた。「何かついていますか?」「いえ何も」緩やかなカーブで運転席へと体が傾く。それに乗じて彼の手にそっと手を重ねた。車窓からの風が火照る頬を冷ます。前を見つめたままの私。彼はふっと笑った。
(第11回キン曜日はキンブリーデー 20171208)

16.
 中央自然公園の芝生にレジャーシートを広げる。そこに座り、追いかけっこする無邪気な子どもたちや手近な草花を彼と一緒に眺めた。バスケットから手作りのサンドウィッチを出すと、彼は早速一口かじる。悪戯少年の様に私の手から直接。「美味しいです」にやりと笑む。彼らしくない所作に私も微笑んだ。
(Twitterタグ消化 20171124)

17.
 中央の夜景をバックに、シャンパンのグラスとグラスがキスをする。メリークリスマスと告げる彼からほのかに香水の香りがして、くらり。聖なる夜、美しいブルーの瞳に私だけが映っているこの幸福。「幸せです、少佐」「私もです」ブッシュドノエルの上に座るサンタが、そんな私たちを見て微笑んでいた。
(第12回キン曜日はキンブリーデー 20171215)

13回目は後日別ページで掲載します。

18.
 一年間ご苦労様でした。上司に労われ笑顔になるが、内心では淋しい。来年の初仕事まで、あと何回会えるだろうか。「また来年…いえ明日にでもお会いしましょう?」欲しかった言葉をかけられ、はっとする。「良ければ一緒に初日の出を見に行く計画を立てませんか?」ああ、なんて私は幸せ者なんだろう!
(第14回キン曜日はキンブリーデー 20171229)

19.
今年の抱負は三つある。一つ目は中尉に昇進すること。二つ目は美味しいカフェを開拓すること。そして三つ目は…。「まだ決まってないんですね」彼が紙の空白部分を指す。微笑まれ、私もぎこちなく笑い返して茶を濁した。実はもう決定しているけど言えない。あなたと二人きりの時間を増やしたいなんて。
(第15回キン曜日はキンブリーデー 20180105)

16回目はSSページにあります。

20.
ああ、無性に腹が立つ。胸に巣食う緑色の蛇が這いずり回っているようだ。視線の先には、少尉と見知らぬ男。仲睦まじげに談笑する彼女は、私といる時よりも眩しい笑顔を見せている。気に入らない。いっそどこかに閉じ込めてしまおうか。「少佐」私に気づいた彼女が微笑む。完璧な笑みを、私は浮かべた。
(第17回キン曜日はキンブリーデー 20180119)

18回目はSSページにあります。




- 4 -

prev - top - next