飴の味

 たわむれのキスから情熱的なそれに変わるとき、私の心音は忙しく響く。舌先が触れ合うだけでうっとりとした心地になるし、絡めとられれば膝が笑う。
 だから最後はいつも、キンブリーさんを精一杯見上げるだけだ。対する彼は、涼しい表情で笑みを深くする。その滲み出る余裕が魅力的なのに、少し悔しい。私がもっと大人なら、バーで男性を誘う美女のようにセクシーであれたなら、女性として楽しませることができただろうから。

 今夜もたわむれのキスから、情熱的なそれへと変わる。
 舌先が触れ合ったそのとき、口内に硬いものが紛れ込む。硬くて鋭利なそれは、どうやら一度噛んだ飴玉のようだった。
 味わおうとしたけれど、キスに夢中になるあまりなんの味か分からない。
 彼とのキスが、甘すぎるせいで。
「……ふ」
 余裕ありげな彼のかすかな笑みと、私のいっぱいいっぱいの吐息が重なる。
 飴はふたりの舌の上を行ったり来たりして転がった。やっぱりなんの味かわからなくて、それぐらい自分が冷静じゃないんだと感じた。
 舌の動きが緩慢になる。飴はキンブリーさんに渡ってもう戻ってこなかった。静かなフェードアウトを惜しみながら、私たちは唇を離した。
 キンブリーさんは、私の腰を掴む手を緩め、優しい声で名前を呼んでくれる。
私は肩で呼吸をしながら、訊いてみる。
「さっきのは……なに味ですか?」
 彼は、詩的な表現を交えて、飴の味を耳元で教えてくれた。
「なんとも甘美な、魂の味ですよ」


Afterword

夢主となら、賢者の石を戯れに使うことも……あるかもしれない。
(20210313)