隙間を埋めるのは
仁王がいる時は、仁王が与えてくれるモノで何も考えずに済んでいるけれど、1人でいると部屋の静けさや広さに寂しさが募る。
携帯を手にしてロックを解除する。時間が経ってロックがかかる。その繰り返しを何回しただろう。ブンちゃんからのメールをどうすればいいか、悩んでいた。読みたい気持ちと読みたくない気持ちが半々で、溜息が漏れた。
「なんで、今更…」
あの日の事を思い出す。私への気持ちが恋愛の好意から、友情への好意に変わったと聞いた日。そこで、ふと気付く。
「友達としてのメールかな」
そう考えれば、さっきまでの迷いが無くなった。ロックを解除し、メールを開いた。
丸井ブン太
この間の朝、仁王がお前のマンションから出て来るの見かけたんだけど。
赤也はお前と付き合ってるって嬉しそうに言ってたし。どういう事?
読んだ瞬間、鈍器で頭を殴られたような衝撃が走った。まさか、ブンちゃんに見られてるとは…。ブンちゃんとは家の方向が逆だったから見られる訳ないと思っていた。
マンションから出て来たところって事は、私の部屋から出て来たかはわからないから知らないフリしようか。赤也の事で相談していた事にしようか。それとも、2人でDVD見てオールナイトしていた事にしようか。たくさん理由を考えた。
でも、返事をする気にはなれなかった。ブンちゃんとメールをすると考えただけでも、昔の初々しい思い出が押し寄せてきた。
『 ブンちゃん、毎日毎日メールで会いたいとか好きとか言い過ぎ。言い過ぎてそのうち飽きるよ。』
『365日24時間一緒にいたいくらい好きなんだよぃ。』
『ばか』
思い出が多すぎて、何をするにもブンちゃんが過ぎる。メールするのも、ご飯を食べるのも、シャワーするのも、起きた時も、寝る時も。毎日毎日、胸が締め付けられる。苦しくて、1人で居たくなくて、藁にもすがる思いで通話ボタンを押した。
「なんじゃ」
いつもいつも3コール以内に繋がる仁王は意外に律儀だな、なんて考えた。それに電話に出てくれる仁王の声はいつも優しかった。
「今日、」
そこまで言葉にして、口を噤んだ。彼氏でもない仁王にワガママは言えない。悲しくて勢いで通話ボタンを押した事を後悔した。
「今日がどうかしたか?」
「ううん!今日ね、仁王が面白いって言ってた芸人がテレビに出るって。それだけ」
「何じゃ、そんな事で電話したんか。」
「そう。ごめんごめん。じゃあね。」
「ほんまにそれだけなんか?」
優しい諭すような声に涙腺が弛む。会いたい、喉まで出かかった言葉を飲み込んで、できるだけ明るい声を意識した。少し震えたけれど。
「うん、じゃーねー!」
一方的に終了ボタンを押して切った。何だか気持ちがもやもやして、携帯をソファーに投げ付けた。だからと言って、落ち着く訳はなかった。もう何もしたくなくて、何も考えたくなくてベッドに倒れ込んだ。こういう時、普通は赤也に連絡するんだろうなと考えて、罪悪感が押し寄せた。