お酒のせいにしたくないと思った
「ええんか?昨日の事は、お酒のせいに出来るし、戻るんなら今じゃよ。」
彼の声は本当に優しかった。私を見る目も、頬に触れる手も。それは泣きそうになるくらいに。
私の身勝手な傷口を埋めるだけの、お酒で流されただけの、気持ちのない行為を仁王は無かった事にしてくれると言うのだから。
「戻る方がいいのかな?戻れるのかな?」
「それはなまえ次第じゃ。」
「私は、何もなかった事には出来ないよ…仁王が優しいから、出来ない。」
「なまえちゃんはバカじゃのう。こんな傷付けられて、優しいと思っとるんか。」
にやりと笑みを浮かべながら、昨日、仁王が付けた傷口にぐっと爪を立てられる。同時に頭から爪先までびりびりと痛みが体を突き抜ける。
「痛っ、」
「なまえちゃんは、痛くされて気持ちよくなっちゃう変態さんじゃもんな。」
先程とは違い、乱暴になった愛撫に女の部分が疼き始める。どうして、私はこんなに変態になってしまったのか。
「のう、ブンちゃんがなまえちゃんをドMにしたんか?」
「ちがう、ん、」
「じゃあ、ブンちゃんは優しくて物足りんかったんかのう。」
「雅治も優しいよ、ぁっ、」
「俺が優しいなんて、なまえちゃん本当バカじゃよ。好きでもない女とこんな事できるんじゃからな。」
仁王から与えられる刺激に頭が回らなくなっていたはずなのに、その言葉を聞いて何故か悲しくなった私はバカなんだと思った。
いくら仁王から優しさをもらっても、いくら仁王に傷を付けられても、そこに気持ちがないのだ。それを望んだのは自分なのに。仁王とは未来はないのだ。その事実に心が苦しくなった。
「でも、カラダの相性はバッチリじゃ。」
と嬉しそうに笑う仁王の顔が、私の1番嫌いな顔だった。