赤也と仁王
金曜日。いつもは華金だと騒ぎ、飲みに行く事が多かったが、そんな気分にはなれず1人家でテレビを見つめていた。内容は頭に入ってこなくて、震える携帯を横目に溜息をついた。そんな時、インターホンが鳴った。玄関を開けるとキレイな銀髪が風に靡いて見えた。
「お待たせ。」
「いや、待ってないよ。」
「何じゃ、つれないのぅ。せっかく来たって言うのに。」
「来てって言ってないもん。」
「イライラしおって、生理前か?」
骨張った手がぽんぽんと頭を撫でる。その心地よさになまえはいくらか落ち着きを取り戻した。
「ううん、ごめん。」
「急に来た方が悪いんじゃよ。すまん。」
「違うの。来てくれて嬉しいんだけど、イライラしててただの八つ当たり。ごめんね。」
謝るとくすりと頭の上から聞こえてきた。不思議に思い、視線を上げると仁王は口角を釣り上げ愉しそうにしていた。
「何、笑ってるの?」
「そんなに俺が来たことが嬉しいんじゃなーと思うて。」
先程、自分が口にした言葉を思い出し、顔に熱が集中するのがわかった。
「ばか。仁王のばか。そうじゃない。」
「はいはい。」
適当にあしらいながら、部屋に入っていく彼の広い背中を憎らしく睨み付けた。
仁王がコンビニで買って来たお酒とおつまみで乾杯し、ぼんやりとしていると仁王が口を開いた。
「のう、なまえちゃん。」
「ん?どしたの?」
「お前さん、赤也と付き合っとるんか?」
「あー…うん?そうなるんだと思う。」
「何じゃ、曖昧じゃのう。」
いつかは聞かれると思っていたが、こんなに早いとは。後輩の口の軽さを憎む。事の始まりから、そうなった経緯まで仁王に話すと特に興味なさそうに、ふうんと言うだけだった。
「赤也は可愛い後輩じゃからのう。」
「…うん。」
仁王が言わんとする事が、伝わってきた。私の事を怒っているのだ。自分がありながら、ではなく、赤也との関係を真剣に考えろと目が言っている。私も真剣に考えていない訳ではない。赤也に流されてしまったと言えば、そうなのだが、私だって私なりに悩んでいるのだ。
「赤也は知らんじゃろ?」
何が、と聞かなくてもそれは容易に想像出来た。私と仁王との関係だ。こくりと頷いて、仁王を見ると全く読めない表情で私を見ていた。
気付けば、仁王の顔が目の前にあった。目の前の仁王の背景は天井だった。あまりにも一瞬で、背中の痛みも無かった。冷静に仁王はやっぱり馴れているんだなと頭の隅で思った。
「赤也と付き合おうが、終わらせるつもりはなかよ。」
なんだ、さっきまで私に怒っていたのに。仁王の考えている事は全く理解出来ない。赤也と付き合っているにも関わらず、また体を重ねてしまう自分に自己嫌悪する。でも、仁王との関係が終わりじゃないんだとどこか嬉しい自分もいた。