第二章(8/11)


***

「陽、ちょっと待って!」

「え!?」

足を滑らせながら急停止する新と、それに倣う陽。小さな二匹のコラッタは、四辻に分かれた廊下の隅で立ち止まった。
なんだよ、と陽が視線を送る前に、新は行く先を見つめながら言った。

「誰か来る」

二匹は息を潜めた。恐らくこの姿であれば、人間なら簡単にやり過ごせる。
問題はポケモンだ。新の様に偵察能力の高いポケモンであれば、自分たちの存在なんて直ぐに分かってしまう。それは、陽のイリュージョンで目を眩ませたとしても同じである。
しかもここは廊下のど真ん中。隠れられる穴や通気口は、どこにも無い。
一先ずは隅に隠れてこの場をやり過ごすしか術がない。
もしばれたらイリュージョンを解き、臨戦態勢に入るのだ。
二匹は頷き、相手が目の前の廊下を通り過ぎるのを待とうとした。
すると。

「ふっかし〜芋〜! ふっかし〜芋〜!」

「ふっかふっかとろ〜り! ふんふふんふふ〜ん!」

廊下の先から聞こえてくる、声。
二匹は顔を見合せた。
そして相手の顔を伺うべく、二匹は廊下の角から顔をそろりと出した。
そこには。

「ええっ、黎明!?」

「智秋!?」

小声で悲鳴に似た声を上げた、新と陽。
二匹は再び顔を見合わせた。どうしてここに、彼等が。
いや。それは今、大した問題ではなかった。
問題は、彼等の身なりと、『一緒に居る人物』である。

彼等の服は、先刻まで彼等が身に付けていた服ではない。胸元に大きくRと赤い文字で書かれた、妙な黒い服装。頭にも丸い帽子を被っていた。二匹とも人間の姿に戻ってはいるものの、身体が小さい為サイズが全く合っておらず、とてもぶかぶかしていた。
そして問題は、二匹の間でふよふよと浮いている大人の人間と、大きめの鍋である。
人間は何故かぐったりとしていて、また二匹が着ているものと同じ服を着ている。ただし一つ、彼もは他の人間とは違うところがあった。それは……。

「おれ、聞いたことあるよ……。あれ、のっぺらぼうっていうんだ。顔の無いお化けだよ……」

顔がのっぺらぼうの様に、無くなっていることであった。

「でもどうして智秋たちが、その、のっぺらぼうって奴と一緒に居るんだよ」

「ううーん。分かんない……」

分からないが、やるべきことはただ一つ。彼等と合流しなければ。
もう遊んでいる場合ではないと、伝えなければ。
陽がイリュージョンを解いた。

「風起こし!」

元のフライゴンの姿となった新が廊下から飛び出し、旋風を巻き起こした。そして。

「ええええええ?」

「うわああーっ!」

身体の軽い二匹は直ぐに吹き飛ばされ、あっという間に床に転がった。
もちろん二匹の念力で浮いていたのっぺらぼうも、その場にくずれ落ちた。
がしゃーん!と盛大な音を立てて床に落ちた重そうな大鍋からは、二、三個のじゃがいもがころころと床にこぼれ落ちた。
新と陽は、慌てて彼等の元へ駆け寄る。

「黎明! 智秋!」

「新、やりすぎなんじゃねえのか!?」

「あんなに楽しそうな黎明は、こうでもしないと止まんないの!」

「へ、へぇー……」

中々にアグレッシブな生活スタイルが垣間見えたが、陽はそれ以上何も聞かなかった。
そして新は黎明に駆け寄ると、気絶している彼を起こそうとがくがくと揺さぶり、叫んだ。

「ねえ黎明、起きて! 大変! 大変なんだよー!」

揺さぶられる黎明は声も発さずに起きる気配も無いまま、頭をぐわんぐわんと揺らし続けている。
もうその辺にしておけよ……と、陽が止めようとした。その時である。

「んっふふふふふふふふふふ、あーーーーっはっはっはっはああああああああ!!」

ぐいん、と上体を自らの力で持ち上げ、新の顔面に自身の顔に近付ける黎明。
急に距離を詰めた黎明は目をぎょろりと見開き、やたら優しい手つきで新の頬に自らの両の手をそっと添え、およそ正気の沙汰ではない眼光と声色で、独り話し始めた。

「ねぇえ〜〜〜? 新クンもこのバカ人間とお揃いでぇ〜〜〜〜、のっぺらぼうにしちゃおっかなぁあああ〜〜〜〜?」

***


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