第二章(10/11)


先程とても楽しそうに部屋を飛び出して行った、黎明と智秋。二匹共この倉庫周辺の静けさを保とうとする努力は、一切見受けられなかった。
一瞬頭痛を覚えた兵太に更なる追い打ちを掛けたのは、二匹のその恰好であった。

「あ、あああああああ!? ロケット団っ!?」

リョウが絶叫する。
黒っぽい上下の服に、赤いRの文字。その二匹はロケット団の制服を身に纏っていたのだった。もちろん身長の低い二匹にはサイズが合わず、とてもぶかぶかしている。

「勘弁してくれ……」

そんな兵太の独り言は絆優にのみ聞こえ、その言葉は更に彼女の不安を煽ることになるのだが……それを気に掛ける者は誰一人、この場には居なかった。
そして。

「ただいま」

「陽。お前もか」

倉庫の入口に立っていたのは、同じく先程ここを飛び出して行った陽だった。

「今さっき智秋達と合流したんだけどな。ごめん、止められなかった」

そう言って、ごとんと何か大きな『もの』を床に投げた。それを見た絆優が、ひっ、と悲鳴を上げる。
そこに転がっていたのは、黒い服に身を包んだロケット団の……

「のののの、のっぺらぼう……!?」

顔の無い男だった。

「あ、ごめんな絆優。俺もこれ、騙されたんだけどさ……」

そう言って陽は男の目元……否、目が在ったであろう場所をつまみ上げた。すると。

「え……?」

つまみ上げたところから男の目元……だったところはぼろぼろと崩れ落ち、その下からはぐるぐると回す男の目が現れた。

「じゃがいもなんだよ、これ」

「じゃ、じゃがいも……」

そう。男の顔面は、全て蒸かしたじゃがいもに覆われていたのである。勿論、黎明と智秋の仕業である。
彼等は先刻、黎明の顔面にドアをぶつけた隊員を見つけ出し、その場から攫い出し催眠術を掛けた後、顔面に蒸かしたじゃがいもを練って塗りたくったのである。因みに粘着力を上げる為じゃがいもには大量のバターが加えられており、それはかなりべとついていた。
じゃがいも男をもう一度担ぎ直し、陽が尋ねる。

「なんか丁度、廊下にも似たような奴等居るし……一緒にしてていいかな」

「あっ、その人達は……」

「ああ、いいぞー。一緒に縛っとけー」

あたふたする絆優を他所に、兵太の間延びした声が飛んでくる。
兵太の指示に従い、何故か二人して伸び上がっているロケット団の二人の横に、担いで来たじゃがいも男を加える。横にはどこから持ってきたのか分からない大量の縄が乱雑に置かれており、陽はそれで男の腕と足を縛った。

「ちょっとー! 陽ってば待ってよー!」

「お、新もおかえり」

「あっ、新さんおかえ……ひいいいいぃぃぃ!!」

ひょっこりと顔を出した絆優が悲鳴を上げる。
そこには額から鼻先の顔を半分失ってしまった……否、顔半分がじゃがいもに覆われた新が立っていた。何故か目がある場所だけがくり抜かれており、さながらじゃがいもの仮面である。

「うはははっ、新、口の周りのじゃがいも食っちまったのかよ!」

「うん! ぺろぺろしてたら取れてきた! 結構おいしい!」

「まじか! うははははっ」

こちらも勿論、黎明の仕業である。第二の被害者になった新は催眠術は掛けられず、顔面に蒸かしたじゃがいもをぶつけられるだけで済んでいた。
ただし帰り道に顔を洗えるような水場も無く、目だけをくり抜いてここまで帰って来たのだ。……口周りだけは、食べてしまった様だが。

「ここに水があるよ。使いなよ」

「うわーん、ありがとー!」

リョウが倉庫の隅から取り出した水と桶で、顔をバシャバシャと洗う。
それを確認した陽は、兵太の方へ向き直すと、真剣な面持ちで彼に話し始めた。

「それより大変だ。ミツキ達が、でかいホールの中で倒れてる。中に居るトレーナー全員だ。……それに、黒い服を着た奴等がミツキ達の何かを持って行くのを見た。何かは分かんなかったけど、首から掛けてる物を全員分、片っ端から取っていってるみたいだった。……ミツキ達は多分、今は無事……だと、思う。……ゆのもだ。顔色が悪いようには見えなかったし、重症を負っている様にも、見えなかった」

一息に話し終えると、陽は呼吸を整えた。顔は若干、青ざめている様だった。

「え……? そんな……。ゆのちゃんが……?」

横で聞いていた絆優も、さぁっと顔色が悪くなる。
今し方初めて事態を聞いた黎明と智秋も、すっと表情を失った。
その様子を見た兵太は一人、頷いた。

「ようし、気張れよ皆」

ここに居る全員の顔を見回す。
陽、新、絆優、黎明、智秋、そして、リョウと昴。

「作戦会議だ」

***


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