第三章(4/7)


***

「さあーて智秋! 任務開始だよお!」

「かいしだー!」

「まずはあの、のっぺらぼうとその仲間達を…………燃やす!!」

「もやしたら、おふねがかじになっちゃうよ! それにいま、あいつらをそうこにとじこめたばっかりだよ!」

「そっかあ〜! あはははは、うっかりうっかりい〜!」

「れいめいくん、そんなにうっかりやさんだったの!?」

倉庫から少し離れた廊下で、きゃはきゃはと大きな声で笑うジュペッタ二匹。そんな彼等を咎める者は今、どこにも居ない。
倉庫内に居たメンバーのうち、作戦からあぶれてしまった二匹は、兵太から船内散策を命ぜられていた。……否、命じた、というのは建前だ。というのも、どうせこの二匹は何かしらの任務を与えてもすんなり遂行するとは思えない。かといってじっとしろと言っても、そんなことが出来る訳が無い。そんな二匹に与えた、兵太の苦肉の策だった。
兵太が二匹に与えた約束は、二つ。とにかく人間に見付からないこと。そしてもう一つは、時計を定期的に見て、一番長い針が上を向いた時、必ず引き返してあの倉庫へ戻ること。一番長い針が上を向いた時とは、二十一時丁度を指す。

「それじゃあ〜、探検その二、開始ぃ〜! 任務は、楽しいコトを見つけることお〜!」

「りょうかぁーい!」

「それじゃあ、出発う〜!」

「しゅっぱつ〜!」

自ら進んでじっとしていようなどと、考える二匹ではない。勢い良く広い廊下を突っ切っていく。
しかし。

「……」

「……」

数メートル飛んだところで、二匹はぴたりと停止した。

「れいめいくん、きこえる?」

「聞こえてるよお〜?」

話し声が、聞こえる。
黎明と智秋は、顔を見合わせた。
この廊下に、人の気配はしない。ポケモンもだ。
誰も居ないはずなのに、何故。どこから。
二匹は天井を見上げた。

「あそこから?」

「あそこからだねえ」

どうやら声は天井の通気口を伝って聞こえてくるらしい。
二匹はもう一度、顔を見合わせた。そして同時に、にやりと笑った。

「うふふふふ」

「えへへへへ」

そこからの二匹のスピードは速かった。
黙って通気口をすり抜け、ダクト内を声が聞こえる方へ向かって移動する。
入り組んだダクトは上の方へ伸びており、声の主はかなりの上層階に居るらしい。
上へ上がれば上がるほど、声は大きくなる。どうやら二人の人間が会話をしているらしい。一人の声は、大人の男の声。そしてもう一人は、少年の様な甲高い声だった。

「ここかな」

「ここだねえ」

いよいよその部屋の排気口まで辿り着き、二匹はきらきらと目を輝かせた。
さて、これからどんな悪戯を仕掛けてやろうか……。
二匹は同時に、舌なめずりをした。
しかし。

「……」

「……」

意気込んだは良いものの、この部屋の排気口の真下にあるクローゼットのせいで、部屋の全体が全く見えない。声の主がどこに居るのかも、さっぱり分からなかった。
これでは悪戯しようにも、凝った作戦を立てることが出来ない。今更、いきなり飛び出してばあ!なんてナンセンスな悪戯で、満足する二匹では無かった。
二匹は顔を見合わせ、分かりやすく口をへの字に曲げてみせた。
階下の声だけが響く。

「にーちゃ、早くしてよ!」

「はいはい、今行くから……」

「もー! ジャッロから連絡が来て、一体何分経ったと思ってるのさ!」

「うーん。美味しいリモンチェッロだったのに、勿体ない……」

「いいから!!」

「はいはい……」

そんな会話を残し、ばたん、と扉の閉まる音がした。
しん、と静まり返る部屋。
どうやらもう、誰も居ない様だ。
二匹はダクトをすり抜け、部屋に降り立つ。
そこは、広さ四畳ほどの小さな部屋だった。小窓からは、船のデッキが一望できる。

「ちぇーっ、つまんなあ〜いの!」

黎明は部屋に備えられたソファに、どかっと腰を下ろした。
智秋もそれに続く。

「ねー。ざーんねん!」

完全に悪戯のタイミングを失ってしまった二匹は、ぶーぶーと文句を言いながら高そうなソファに身体を沈めていった。

「楽しくなあーい」

「たのしくなーい!」

「なんかもっとお〜、派手にぃ、どかあーんと面白いこと起こんないかなあ〜!」

その時である。

どん。

そこまで大きくない衝撃音と、それに比例しないかなりの揺れ。
二匹のジュペッタはふかふかのソファから、ころころと床に転がった。


[back]

ALICE+