第三章(5/7)


「いったーいっ!」

「もぉおおおお! こんなどかあーんなんて、全っ然面白くないんですけどおおお!」

痛がるやら怒るやらで、ぎゃあぎゃあと大騒ぎする二匹。
ここが見ず知らずの他人の部屋だということを、全く気にしていない様子である。

「はぁー。なんだったんだろう、いまの……」

智秋がソファによじ登り、ひじ掛け部分に頭を置いた。すると。

「あれ?」

窓に面した机の上に、やけに光沢のある小箱が置いてあることに気が付いた。
智秋が近付いて見てみると、それは濃紺のベルベットで出来た、小さなジュエリーケースだった。
黎明も同じくそれを眺めるが、そんなものを見たことが無い二匹はそろって、首を傾げた。

「なんだろう、これ。すっごくきれいだけど……」

「開けてみたらぁ〜?」

「うん……」

黎明に促され、智秋はその蓋を開けた。

「うわあ……」

そこに入っていたのは、指輪だった。
大きさからして、女性のものだろう。淡いピンク色に輝く宝石がはめ込まれているが、石自体はそれほど大きくない。しかし、シルバーに輝く台座はかなり凝った造りになっており、また指輪本体にも複雑な紋様が描かれている。
それは不思議と心が引き寄せられるような、美しい指輪だった。

「すごく……すごく、きれいだね」

「ううーん……。そお?」

「えっ! れいめいくん、これをきれいだとおもわないの!?」

黎明の曖昧な返事に、信じられないといった風に振り返る智秋。
しかし、先程まで傍に居た黎明が居ない。
部屋を見渡すと、黎明は智秋の方とは全く真逆の方を向いて、何かを一心に眺めていた。
智秋の見ていた指輪には目もくれず、明後日の方を向いて返事をしていた様だ。

「れいめいくん、なにをみているの?」

智秋は黎明の横へ行き、尋ねた。
黎明が、壁を指差す。

「あの人間」

そこには壁にピンで固定された、一枚の写真があった。
普通のものより少し大き目の、大判写真である。
その写真には、三人の女性が写っていた。
一人は、美しいブロンドの髪を高い位置で結わえた一人の婦人、そしてその娘であろう、十二、三歳程の女の子。二人共、美しく品の良いドレスを身に纏っている。
そしてその二人に並ぶ、もう一人の女性。給仕服を身に付けているため、母娘の家に仕える使用人だろうか。白髪交じりの髪を綺麗に束ね、目尻の皺を伸ばして、にこやかに微笑んでいる。

この写真が、どうしたというのだろう……?
智秋はその写真を注意深く眺めようと、写真の目の前まで浮遊した。黎明もそれに続く。

「あっ……」

智秋は咄嗟に、手元の箱に収まっている小さな指輪と写真を見比べた。

「れいめいくん! このひとがゆびにつけているもの、これといっしょだね! よく、みつけたね!」

智秋が、婦人の手元を指差して言った。婦人の左手の薬指には、智秋が手元に持つそれと同じものが写っている。
しかし。

「えぇ〜? ああ〜。ほんとだねえ」

予想していた肯定の言葉は、返って来なかった。
すると黎明は、釈然としない面持ちで写真を指差し、言った。

「ボク、この人間を知ってる気がするんだあ〜」

黎明が指差したのは母娘の隣に居る、使用人の女性だった。

***


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